解析、完了
こんなことは、今まで一度もなかった。
公爵やマリーの状態を覗いた時も、魔物のHPを確認した時も、激闘の末に倒したグレッグベアの時でさえも。
何か、通常ではあり得ないことが起こっている。
ロンドの直感がそう言っていた。
『アルブレヒトの状態を解析中……解析中……解析中……』
告げられる無機質なアナウンス音。
毒を服用した時にも聞こえていたあの声が、ロンドの脳内に反響している。
異変はそれだけではない。
アルブレヒトの状態の欄に何か、黒い靄のようなものがかかっている。
(あれは一体何だ……?)
ロンドの脳内が疑問符で埋め尽くされている間にも、事態は進展していた。
「ふむ……?」
ピクッと、アルブレヒトが何かに反応する。
彼の視線の先に居るのは――なぜか激昂しブルブルと全身を震わせている、アマンダだった。
「貴様は――あの時の襲撃者ッ!?」
「はて、僕らに面識なんてあったかな?」
「戯れ言をッ! あの時の屈辱、一度たりとも忘れたことはない」
「悪いね……」
アマンダの言葉に、ロンドは記憶の中から手がかりを見つける。
彼女をあしらったという襲撃者。
それがこの、アルブレヒトということなのか。
であれば実力はアマンダより上ということになる。
アマンダはたしかに怒っていたが、完全に我を失ったわけではなかった。
彼女が指し示す符丁は――私が前に出る。
それを見て小さく頷くロンドとマリー。
襲撃者が新たにやってくる可能性を考えれば、ここでマリーだけを逃がすのは下策だ。
危険を承知で三人でアルブレヒトと戦った方がまだマシだろうという判断である。
「フレアボム!」
火魔法であるフレアボムは、弾着と同時に周囲に熱波と衝撃波を伝える炎の爆弾だ。
そんなものを、マリーの部屋の中でぶちかまそうとしている。
彼女もそれほどまでに、切羽詰まっているということだ。
つまりアマンダもまた、ロンドと同様アルブレヒトの異常性を理解しているということ。 一度干戈を交えた彼女の方が、自分よりも……。
躊躇なく放たれたフレアボムは、アルブレヒト手前の床目掛けて放たれていた。
直撃はせずとも攻撃を当てにいく……そんな安定した選択だ。
床が爆ぜ、衝撃波が広がる。
アルブレヒトの意識が、完全にフレアボムに向いた瞬間、ロンドも動き出した。
龍毒、形状は波、魔力を大量に。
「ポイズンウェイブ」
毒の波を生み出し、衝撃波に少し遅れるような形で放つ。
熱波が全方位に飛び散り、爆発が無作為に器物を傷つけていく。
窓は割れ、熱波がほうぼうに散るが、それを気に留めている余裕はない。
ロンドは窓からマリーを脱出させるべく動き出し、それを見ることもなくアマンダはアルブレヒトの方へと駆け出す。
アマンダが持つ得物は、ミスリル製のメイスだ。
魔力含有金属であるミスリル鉱石は非常に硬度が高く、また内側に魔力を溜める性質上、魔法の発動の補助の役割まで担ってくれる。
「フレアショット」
アマンダは続けて、炎の弾丸を放つ。
彼女の周囲のように浮かび上がるのは、大粒な五つの炎の銃弾だ。
合わせて五つある弾丸は、放たれると同時にいくつもの弾丸に分かれていく。
炎の散弾は一撃の威力こそ高くないものの、その全てを避けることは非常に難しい。
アマンダの場合、これを本命のメイスの一撃を当てるための隙潰し兼目潰しとして使っていた。
再度の爆発。
衝撃から守るため、ロンドはマリーの前に出た。
爆発によって生じた黒煙のせいで、視界は非常に悪い。
煙が消えた時……そこには身体に傷一つ追っていない、アルブレヒトの姿があった。
「――なっ!?」
「あいにくだけど……」
爆発に巻き込まれたからか、被っていたローブを脱いでおり、その姿が露わになっている。 先ほどまで隠されていたその頬には――稲妻の形をした、紋章が浮かび上がっていた。
「滾らせてくれない人間を覚えておくほど、僕は暇じゃなくてね」
『解析、完了』
やって来た襲撃者であるアルブレヒト、その正体は――。
アルブレヒト
稲妻型紋章(雷魔法)
健康状態 毒(龍毒)
HP 850/909
ロンドと同じ、系統外魔法の使い手だった――。
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