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「ほう、君が噂の魔力紋持ちか。存外若いな」

「お初にお目に掛かります公爵閣下、ロンドと申します」

「私にも背を見せてくれ……ふむ、報告通りの龍型紋章だな」


 言われると思っていたのですぐに上着を脱いで確認してもらうと、向こうはちらと見て納得してくれた。

 アナスタジア公爵もまた、魔力紋持ちの一人である。

 彼の魔力紋は額にあるらしいが……豊かな前髪のせいで、その真偽まではたしかめることができなかった。


「なんでも君は、我が家の庇護を欲しているとか」

「その通りにございます、公爵閣下」


 彼は立ち上がり、ロンドの方へと歩いてくる。

 そして机の手前にあるソファーに腰掛け、対面に座るよう手で指し示した。


「君の系統外魔法はなんだ」

「毒魔法です。自分は一度服用した毒を扱うことができるようになります。解毒もまた、同様に」

「マリーを襲った男の刃に付着した毒は既に採取済みだ。それを服用すれば、君はマリーを治せるか?」

「恐らくは。ですが私は未だこの力に目覚めたばかりで、自分のできる限界を知らぬのです……」


 ロンドは今がそのタイミングだと、自分の詳しい来歴を話すことにした。

 辺境伯家の庶子として生まれたこと。

 魔法の才能がないとされ、親からも見離され自殺を命じられたこと。


 服毒をした段階で、己が毒魔法の才にあることに気付いたこと。

 脱出し、この地へ流れ、そしてこうしてここまでやってきたこと。

 その全てを、包み隠さずに話した。


「なるほどな……君は系統外魔法の使い手というだけではなく、エドゥアール辺境伯家の人間でもある。つまり我が家に辺境伯家と敵対するリスクを負えと言っているわけだ」

「いえ、ある程度の間私の身柄を隠してくれるだけで構いません。自力をつけたら、迷惑がかからぬよう国を出て行きます」

「ふむ……」


 それだけ言うと、エドゥアールは頭を下げロンドの足の方を見つめる。

 恐らく今、彼の脳内では今後のシミュレーションが高速で繰り広げられているはずだ。


 マリーを助けること、その後に自分が為すべきこと。

 ロンドを味方に引き込むかどうか。


 捕まえるか、引き渡すか、国外逃亡をされるまえに殺すか。

 恐らくはそういったことすら浮かんでいるはず。


 物騒な系統外魔法を使うロンドという存在は、上の立場の人間からすれば処理しておきたいだろう。

 ロンドが毒を生み出しそれをばらまくだけで、テロだろうが敵戦力の漸減だろうがやり放題なのだから。

 もしマリーが重篤でないのなら、恐らくロンドは即座に殺されていたに違いない。


 公爵はしばらくの間同じ姿勢を維持し、そして顔を上げた。

 その顔に、ロンドは虚をつかれる。


 彼が自分が考えたような冷徹な計算だけで動く人間だとばかり思っていたからこそ、想像がつかなかったのだ。

 まさか―――親の持つ子への愛が、全てを凌駕するなどとは。


「私が……ロンドの面倒を見よう。だから娘を……マリーを治してやってくれ。それができるのは、恐らく君だけなのだ」


 公爵は、ただの庶子でしかないロンドに頭を下げ、真摯に頼みこんだ。

 面子を何より大事にする貴族としては、考えられない行動だ。

 だがそれを見たロンドは……気付けば、笑っていた。


 愛されずに死ねと命じられた自分と、愛されあらゆる手を尽くされているマリー。

 そんな二人の運命がこうして交差している。

 これぞ、運命の皮肉というやつなのかもしれない。


「――微力ながら、奮闘致します」


 こうしてロンドは、公爵預かりの身の上となった。

 彼はそのまま、証拠の凶器がある保管室へ連れて行かれることになった。

 ロンドは一つ目の賭けに勝ったのである。







 ロンドが今後のことを考え、乗り越えなければならない壁は二つあった。

 まず一つ目は、先ほどクリアした公爵という後ろ盾の獲得。

 そして二つ目は――。


「これがマリー様襲撃の際に使われたナイフだ」


 マリーが昏睡し、誰に見せても治らなかった毒を自分が服用しても、問題はないかという点である。


 ロンドは衛兵に手渡された、短剣にしては刃渡りの長いそれを見下ろす。

 使われていたのが液体だったせいか、既にナイフに塗られている毒は乾燥し紫の模様になっていた。


 思わずごくり、と唾を飲み込む。

 もしかしたら自分も、これを服毒すればマリー同様昏睡してしまうのではないだろうか。

 そんな考えが、頭から離れなかった。


 しかし今後数年ビクつきながら、強力な毒もなく、周囲の人間にバレぬよう注意を払い冒険者生活をすることには、多大な困難が伴う。

 そのどこかで見られたり、恐れられたり、異端審問でもかけられようものなら、ロンドはそこで詰んでしまう。


 だがマリーを治すことさせできれば、全ての問題は解決する。

 自分は公爵の庇護下で、問題なく成長することができるのだ。


 リスクとリターンを天秤にかけ選んだ結果だ。

 今更悩む必要はない。


「最初は普通に毒を食らいますので、恐らく自分は倒れます。適当にベッドに寝かせてもらえると助かります」

「おう、わかった。ロンド用の客室があるから、そこに横たえとくよ」

「助かります」


 自分をここまで案内してくれたランドに礼を言い………そのままペロリと付着した毒を舐め取った。

 そしてロンドは――そのまま意識を失った。


『服毒した毒を中和中……中和中……中和中……』


 暗闇の中へ没入していく間、脳内にはそんな機械的なアナウンスが流れ続けていた――。








『――龍毒の中和完了。毒魔法ツリー(龍種)が解放されます。それに伴い、対象の状態が可視化されます』

『ポイズン系の攻撃・防御魔法を習得、各種毒耐性付与……完了』

『術者の意識不明……微毒による回復処置を施します……完了』

『微毒が使用可能になりました』


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