帰還
「マリーッ!!」
「お父様ッ!!」
アナスタジア公爵とマリーが、ひしっと強く抱き合う。
二人の姿を見たロンドは、ふぅと大きな息を吐いた。
(これで……とりあえずは肩の荷が下りたかな)
迷いの森を抜け、アナスタジア公爵領に入ってから半月ほど。
馬車を乗り継ぎ、ようやくクライノートへと戻ることができた。
ここまで来れば、護衛としての役目は全うしたと言っていいだろう。
至らない部分も多々あったが、自分にできることはやったはずだ。
そう、色々とあったが……自分はマリーを守ることができたのだ。
「ご苦労だったな」
「アマンダさん……」
二人がおいおいと泣きながら感動の再会を果たしているのを見つめていたロンドの隣に、アマンダが立っていた。
見れば以前より、鎧についた傷の数が増えている。
恐らく……というかまず間違いなく、色々と無理をしたのだろう。
護衛の任を負っていたにもかかわらず、マリーを守ることができなかった。
自責の念から自棄になる彼女ではない。恐らくは相当無理をして、マリーのことを探していたのではないだろうか。
「良い顔になったな」
「そう……でしょうか」
「ああ。むしろ至らなかったのは私の方だ。色々と偉そうな口を利きながら、この体たらく……まっこと、自分が情けない」
アマンダが下唇を噛みしめる。
彼女は加減というものができないのか、強く噛みすぎたせいで唇から血がダラダラと流れていた。
「微毒」
流石に見ていられなかったので、ロンドは毒魔法を発動させてアマンダの傷を癒やした。
それを見て、彼女は驚きから目を大きく見開いている。
「魔法の発動がかなり滑らかになっているな……」
「そうでしょうか?」
「ああ、以前と比べると見違えたぞ。魔力量もかなり増えているように思える」
自分ではわからないが、どうやら森でのサバイバルを抜けたことで、ロンドはかなり強くなっているらしい。
たしかに言われてみれば、魔法の使用までにかかる時間は前よりも短くなっているように思える。
新たな毒である『死に至る病』を手に入れただけではなく、基礎的な部分も成長しているようだ。
「……俺の魔力量が、わかるんですか?」
「一流の魔法使いは、相手の残りの魔力量を正確に把握し、そこから作業のように相手を詰ませるための戦術を組み立てる。ある程度魔法使いとの戦いに慣れてくると、相手の魔力量を察知することくらいはできるようになるぞ」
「それならHP……体力はわかりますか?」
「体力……?」
ロンドは龍毒を体内に取り込んでから、相手の状態を可視化できるようになった。
今の彼は相手があとどれくらい時間が経てば毒で死ぬのか、何発魔法を当てれば相手が死ぬのかを正確に把握することができる。
今までは自分で戦うことしかなかったので、毒でいかにHPを削るかという点しか考えたことはなかった。
けれどマリーやキュッテと共闘をするようになったことで、相手にどれだけ攻撃を加えればいいかというのが理解できる本当のアドバンテージを知ることができるようになった。
このHPという概念は、この世界ではメジャーなものではない。
これを皆に周知させることができるようになれば、魔物討伐の際に、一つの目安として役立つはずだ。
(とりあえずアマンダさんには教えておこう。彼女がその重要性を理解すれば、いずれ騎士団の皆様方にも伝わるだろうし……)
こうしてロンドは自分が去る前にできることは可能な限りしておこうと、アマンダに一つの情報を与えるのだった。
この体力という概念が周知されるようになることで、アナスタジア公爵領の魔物被害は大きく減少することになるのだが……それはまた、別の話。
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