裾
「あ、森が……」
「帰ってきたんですね、本当に……」
ロンド達が歩き続けることしばし。
昼飯時が来るよりも早く、森の終点がやってきた。
それほど長い時間居たわけではないはずなのだが、いざ森を抜けるとなると何故か寂しさのようなものが胸を打った。
短いなりに濃密な日々は、ロンドの胸の中にたしかに息づいていたのだ。
そして約束を交わしたその翌日、ロンド達はついにアナスタジア公爵領へ辿り着いたのだった――。
「私もついていきますからね!」
ロンドは知らされていなかったのだが、どうやらキュッテは迷いの森を抜けても同行するつもりらしいということが発覚した。
おまけにどうやら、マリーとキュッテの間では既に話も済んでいるらしい。
ロンドはまだ一緒に旅を続けられることが嬉しいと思う反面、なんだか自分だけが除け者にされているようで、ちょっとばかし納得がいかなかった。
初めてやってくる人里を物珍しげに見るキュッテを後ろに押しやり自身で先頭を進みながら、ロンドが振り返る。
「でも本当にいいのか? 間違いなく色んなことに巻き込まれることになると思うけど……」
少なくともロンドは道行く人達の中に、エルフを見たことはない。
基本的にユグディア王国にエルフや獣人達亜人が住んでいないのだ。
彼ら亜人達は基本的に、小国家群や国よりも規模の小さな里や村で単一種族で暮らしていることが多い。
キュッテのナルの里と似たような感じなのだ。
「はい、それで構いません。むしろ色々と起こった方が刺激的で面白いじゃないですか」
エルフは基本的に美男美女ばかり。かつてはエルフの奴隷を巡って争いが起きたなんて話も聞いたことがある。
滅多に人里に出てこないエルフが急にやってきたとなれば、色んな人間の悪意に晒されることになるだろう。人攫いや奴隷商人に目をつけられるのは間違いないはずだ。
それに人と比べると長い時を生き、若さを保つことのできるエルフは、羨望の目で見られることも多い。
それが転じて差別意識になることは、簡単に想像がつく。
そこまで亜人の事情に詳しくないロンドでさえそれくらいの予想ができるのだ、当の本人はなおのこと色々な不安に襲われたことだろう。
けれどもうそんなものは乗り越えたのか、キュッテは本当に気にしていないようだった。
であればロンドが何かを言うのは野暮というもの。
(キュッテも出会った時と比べると、大きく変わったよな。見た目は全然変わってないはずなんだけど……正直今のキュッテは、前よりもずっと綺麗に見える)
マリーと比べるとタイプが違うが、彼女もかなりの美人だ。
道中下手に絡まれないよう、気を遣わなければならないだろう。
そう思ったロンドは、初めて見る人里に興奮気味なキュッテのローブを引き、後ろに下がらされた
「キュッテ、基本的には俺が全部やるから。マリーと一緒に俺の後ろにいてくれ」
「……」
キュッテは長い耳を見られぬよう、フードを目深に被っている。
なので表情は見えないのだが……彼女はロンドの服の裾を、きゅっと掴んだ。
「……? キュッテ、どうかしたか?」
「――あ、いえ、なんでも……」
「……そうか?」
どこか煮え切らない様子のキュッテに首を傾げつつも、ロンドは歩き出す。
すると逆の服の裾を、マリーが掴んだ。
(なんなんだ……一体)
二人の様子に違和感は感じながらも、ロンドは急いで情報をアナスタジア公爵の耳に入れるべく、街を収める貴族とのアポを繋ぐべく、通用門へと向かっていくのだった――。
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