死に至る病
次の日、早朝からロンド達は森を歩き出すことにした。
皆酒で酔い潰れていたため、出迎えはない。
(里に入ってきた時みたく総出で出迎えられても戸惑うし、正直こっちの方が気楽だ)
元来人とあまり関わってこず、そこまでコミュニケーションも高くないロンドからすると、なんならこっちの方がありがたい。
同行者としてついてきてくれるらしいキュッテに従いながら、ロンド達は出発することになった。
エルフの里と人間の領地というのは、実はそこまで距離が離れているわけではないらしい。
オウルとマリーの情報を合わせると、どうやら結界を抜けて迷いの森に出て東に行けばエドゥアール辺境伯領へ、そして南に行けばアナスタジア公爵領へ辿り着くようだ。
森の中でも方位を見失わないエルフのキュッテに先導してもらいながら、ロンド達は無理のないペースで進んでいく。
「次に魔物が出てきたら、俺に任せてくれませんか?」
「え、ええ、私は問題ありませんけど」
「もちろん私も大丈夫です!」
ロンドは二人の許可を取ってから、これまで試せなかった新たな毒魔法を試すことにした。
グレッグベアを倒したことで手に入れたあの魔法である。
行く手に現れたのは、何の変哲もない普通のオークだ。
新技を試すには少し勿体ない気もしたが、とりあえず使ってみることにする。
「死に至る病」
「プギイイイイッ!?」
接近しオークに触れ、毒魔法をかける。
そしてすぐに相手の健康状態を確認する。
オーク
健康状態 毒(衰弱毒×龍毒・混合毒『死に至る病』)
HP 4/18
確認しているとみるみるHPが減っていき、オークは既に瀕死状態になっていた。
そしてバタリと倒れ、そのまま立ち上がることなく事切れる。
どうやらこの死に至る病は分類的には衰弱毒になるらしい。
だが普段の衰弱毒とは、HPの減り幅が随分と違う。
「混合毒、か……」
健康状態から察するに、この毒は龍毒と衰弱毒が混合されたことで生み出された新たな毒だ。
グレッグベアとの戦闘時の龍の紋章の発光、そして倒したことで手に入れた新たな力。
龍種の毒魔法ツリーは、強敵を倒すことで解放されていく。
そう考えて良さそうだった。
この新たな毒の効力を試すために、とりあえず目についた魔物達に片っ端から毒魔法を使っていく。
試していった結果、この毒の真価がわかってきた。
この混合毒『死に至る病』は普通の衰弱毒と異なり、レジストされることがない。
あいてに龍毒をかける時同様、接触すれば100%、非接触であっても三割近い確率で相手に『死に至る病』をかけることができた。
この毒で削れるHPは、接触して放つ最大威力で秒間60ほど。
そして龍毒との重ねがけも可能。
龍毒と『死に至る病』を同時にかけることで、以前の1.5倍以上の速度でHPを削ることができるようになった。
そしてこの毒は龍毒としてHPを削るだけではなく、相手を弱らせる衰弱毒としての効果も併せ持っている。
この毒を食らったゴブリンはまともに走ることも難しくなり、オーガの一撃はへろへろとした力ないものへ変わっていた。
近付けばレジストされる心配なく使える衰弱毒。
その分使用する魔力は少し多かったが、十分許容できる範囲で済んでいる。
これでただ相手の体力を削るだけではなく、身体能力を削ぐこともできるようになった。
今までは強敵を相手にしてもただHPを奪うことしかできなかったので、これはかなり大きな進歩と言えそうだ。
(同様に行くんなら、麻痺毒や猛毒、微毒も龍毒と掛け合わせて強力なものに変わることになる……強敵との戦いは別に望んではいないけど、強くなれる可能性が見えてくるのは素直に助かるな。にしても……)
ロンドは自身前に立ち魔物と戦っているうちに、一つ感じたことがある。
迷いの森において生態系の頂点に君臨していたグレッグベアが死んだことで、森の生態系は大きく変わっているのだ。
明らかに熊型魔物の姿が減り、昆虫型の魔物やオークやゴブリンといった人型の魔物達が勢いを盛り返してきている。
「たくましいな……」
「森も生きてますからね。生きている以上、変わらないものはありません。変わらぬように見えていても、何かはきっと変わっているんです」
「そう、ですよね……」
「変わらないものはない、か……」
ロンドにはキュッテの言葉が、この森のことだけではなく、自分達のことも指しているように思えてしまった。
なんだか気まずくなったので、ロンドは口を噤んだまま、毒魔法で魔物を倒すことに没頭した。
数日も進んでいくと、森を抜けるまであと少しというところまで来てしまった。
ロンドとマリーの二人の関係は変わったのか、変わっていないのか。
どのような答えが出るにせよ、残された時間はあとわずか――。
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