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【コミカライズ】毒殺された世界無双の毒魔法使い  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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苦み


 グレッグベア討伐を祝うための祭り。

 あの熊にやられたという他のエルフ達の供養も兼ねていると聞いては、ロンドとしても出ないわけにはいかない。


 少し時間を空けてから、エルフの里へ入ったロンド。

 以前のように白い目で見られるかと思い警戒していたが、里の中へと入ったロンドは、皆からの拍手で出迎えられた。


 そしてその先頭にいたのは、戦士達から少し離れたところで熊を狩っていたロンド達のことを冷ややかな目で見つめていたラリーグであった。


 その心変わりにびっくりして、きょとんとしているロンドの背を、ラリーグはバシンと強く叩く。


「あいつを仕留めたお前を無碍にできるほど、俺は厚顔じゃない。安心しろ、胸を張れ。お前はそれだけのことをしたんだ」


 どこかぶっきらぼうな言い方をするラリーグは、それだけ言うとそっぽを向いてしまう。

 そのツンデレっぷりに、ロンドは思わず噴き出してしまった。


「なんだ、何がおかしい?」

「いや……そういうわけじゃないけど……ぷっ」


 笑いが堪えられなかったロンドを見て、ぷりぷりと怒り出すラリーグ。

 キュッテやオウルだけが例外なのかと思っていたが、どうやらエルフは世間でイメージされているほどに排他的な種族ではないのかもしれない。


 もしかしたら他のエルフ達も、一緒に何かをしているうちに新たな一面が見えたかもしれない。

 話をしてみれば、案外気が合う者がいた可能性もあったかもしれない。


 ロンドは自分から積極的に関わろうとしなかったことを、少しだけ後悔した。


(……いや、まだ遅くはないか)


 ロンドはラリーグの肩を軽く叩く。

 力を手に入れてからずっと戦い続けてきたおかげで、自分で思っていたよりもずっと力が出た。


「ラリーグ、案内してくれないか。エルフの里には不慣れなんだ」

「それは……ああ、わかった」


 少しだけ嫌そうな顔をしたものの、ラリーグはこっちへ来いとだけ言って歩き出した。

 もしかしたらこいつは、そんな悪い奴じゃないかもしれない。

 そんな風に思いながら、ロンドはその背中についていくのだった……。





 祭りの会場へと向かうと、エルフ達が出店を出していた。

 その中にはロンドが今まであまり飲んでこなかった酒を提供する店もあった。

 どうやら木の実を使って作った酒らしい。


 そもそも貨幣などほとんど使わずに助け合いの精神で生きているエルフなだけはあり、値段すらついていない。

 聞いてみれば自由に持っていっていいということだった。


(酒、か……)


 お酒というものに、ロンドはあまりいいイメージを持っていない。

 成人したから飲むこと自体はなんら問題ないのだが……やはり初めて酒を飲んだタイミングがマズかったのだろう。

 ロンドにとっては酒と言われると、どうしても実の父に服毒自殺を命じられ煽ったあの毒杯が頭に浮かんでしまうのだ。


 だがそのおかげで力が手に入ったのもまた事実。

 折角の祭りの場だし、たまには普段はしないことをしてみるのも面白いだろう。


 ロンドは酒を三つもらい、指と指の間に挟む。


「それだと落ちちゃうんじゃない? ほら、お盆を貸してあげるから使いなさい」


 出店をやっている美人のエルフが盆を差し出してくれる。


 エルフは誰も彼も、容姿が整っている者達ばかりだ。

 ロンドが受け取る時に若干キョドってしまったのも、無理もないことだろう。


 今のエルフの実年齢は一体何歳くらいなんだろう……と考えながら歩いていると、道行くエルフ達から声がかけられる。


 どうやらオウルがしっかりと通達をしてくれたようで、エルフ達は皆好意的な態度で接してくれた。

 中には泣きながら感謝する者もいたことには流石にびっくりしたが、嫌われていないのならと好意的に捉えることにした。


 マリー達の居る場所へと辿り着くと、彼女達は彼女達で既に色々と楽しんでいるようだった。

 彼女達の前にあるテーブルには飲み物や果物、木の実に魔物の肉と実に色々な食品や料理が並んでいる。


「あらロンド、それは……お酒? 珍しいのね」

「そうなんですか?」

「ええ、ロンドは一切お酒には手をつけないもの。甘いものは好きみたいだけど」


 よく見られているんだな……と苦笑しながらも、ロンドは盆から取り出した酒を二人に配る。

 そういえばキュッテは酒が飲める年齢なのだろうか。

 だが年齢のことを聞くとやぶ蛇になる気がしたので、湧き出してきた好奇心はそっとしまっておく。


「俺だって、たまにはそういう気分になるんだよ」

「あら、ロンドも大人になったのね」


 そう言って微笑むマリーを見ると、胸がキュウッと苦しくなるのがわかった。

 その理由に、ロンドはすぐに思い至った。


(ああ、そうか……マリー様とこうやって過ごせる時間は、もうほとんど残されてない。俺はそれが……嫌なんだな)


 残された時間は少ない。

 公爵領に戻ってしまえば、以前のような時間を合わせなければ会うことも難しいような状態に戻ってしまうだろう。


 ロンドは嫌なことから目を背けるために、酒を呷った。

 こういう時に飲むために、酒はあるのかもしれない。

 酒精の苦みに顔をしかめながら、ロンドはそんな風に思うのだった――。

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