祭り
「ん、ここは……」
ロンドが意識を取り戻すと、彼を出迎えたのは見知らぬ部屋の天井だった。
「おお、起きたかい」
「オウル、さん……」
どうやらここは、オウルが使っている里長の館らしい。
代々受け継がれているこの家は、何百年経っても劣化することもなくこの場に立ち続けているらしい。
木製なら耐用年数とか色々あるんじゃないだろうか……とも思ったが、わりとファンタジー世界に生きるエルフなので、そこまで驚きはしなかった。
「でも里の中に……」
「ああ、ラリーグ達のたっての希望でね」
聞いたことがない名前だと思ったが、どうやら自分達が助けたあのエルフ達のリーダーがそういう名前だったようだ。
ロンドに助けられたことに恩義を感じたからだろうか、彼らは周囲の反対を押し切ってロンド達を部屋に入れたという。
達、という言葉を聞いて思わず立ち上がる。
「マリー様はっ!?」
「安心していい、彼女には賓客用の来客室でゆっくり眠ってもらっている」
「……そう、ですか……」
ホッと安堵の息を吐くロンド。
もし彼女の身に何かがあったらと思うと、居ても立ってもいられない。
けれど彼が安心できたのも一瞬のことだった。
「やはり彼女は、マリー・フォン・アナスタジア……アナスタジア公爵の娘御なのだね」
「……」
「ああ、安心してくれていい。キュッテをあそこまで成長させて、更にはあの熊まで倒してくれた君達には返しきれない恩がある。決して不義理はしないと、世界樹に誓おう」
一瞬にして顔を引き締めたロンドを見て、オウルは笑う。
エルフ達が使う決まり文句のようなものだろうか、なんにせよマリーを害そうという様子は見受けられない。
(彼女を狙うのなら、チャンスはいくらでもあった。それでも手出しされていないわけだから、そこは心配しなくてもいいだろう)
ロンドは気を取り直して、身体を起こす。
グッと背筋を伸ばして落ち着くと、そういえば……と以前オウルとしていた約束を思い出した。
「それならオウルさんは、俺達が帰るまでの道を知ってるんですか?」
「ああ、知っているとも」
どうやらこの森とアナスタジア公爵領は繋がっているらしい。
そして聞いているうちに、驚きの事実が発覚した。
この迷いの森は、どうやらユグディア王国におけるガナル森林らしいということがわかったのだ。
その西部は大星洋に、そして東部をエドゥアール辺境伯領に、そして南部をアナスタジア公爵領に接しているという領域だ。
(思っていたより遠くに飛んでいなくて安心したが……もしエドゥアール辺境伯領に飛んでいたらと思うとゾッとするな)
ガナル森林だとしたら少し問題かもしれない。
以前マリーがそんなことを言っていたのを思い出しながら、ロンドはここからどう動けばいいのかを考えることにした。
「ここはエドゥアール辺境伯領とアナスタジア公爵領のどちらに属しているんでしょうか?」
「天領――つまりは国王直轄の領地という形になっているね。ここらには魔物も多く、実際に開拓して街を維持するのはあまり現実的ではない。下手をすれば大貴族同士の領土紛争にもなりかねないというのも大きいんだろう」
我らエルフは魔物を狩ってくれるからと、半ば見逃されているような形だよ。
オウルはそう言って、自嘲気味に笑った。
一瞬見せた疲れ気味な表情に、普段は飄々としているオウルの弱さが見えた気がした。
どうやら彼も色々と気苦労が絶えないようだ。
「それなら早速本題なんですが……俺達がアナスタジア公爵領へ帰る道案内を頼みたいのですが」
ロンドの言葉に、オウルは特に気負った様子もなく、軽く頷いた。
「うん、いいよ。道はキュッテに教えるから、一緒に行くといい」
快諾されて今度こそ安堵できたロンド。
肩肘張っていたロンドが年相応の態度をしたことに笑うオウルは、やはり人の親なのだなと感じさせる優しい笑みを浮かべながら……。
「ただ今日はもう日も落ちる。熊討伐記念のお祭りをすることになっているから、君達にも是非参加して欲しいんだよね。出発は明日の朝でも問題ないだろう?」
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