死に至る
「ギュウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!」
ロンドの最大の一撃を食らったグレッグベア。
その身体が毒に侵され、変色していく。
「きゅうん……」
グレッグベアの声が、次第に小さくなっていく。
そしてそのまま……ドスンと地面に倒れ込んだ。
「やった……のか?」
ロンドの言葉に答える者はいない。
一秒、二秒、そして三秒……時間が経過していく。
グレッグベアはそのまま起き上がることなく、地面に倒れ伏したままだ。
そしてわずかに上下していた胸の動きも次第に弱くなっていき、その動きを止めた。
「ポイズンボール!」
魔物の中には死んだふりをする者もいる。
ロンドはポイズンボールを使って死んでいるかどうかを確かめようとしたが……魔法は出なかった。
「これは……あぐっっ!?」
そして魔法を行使しようと構文を完成させた段階で、耐えがたいほどの猛烈な痛みが全身を走り抜けた。
今まで感じたことのない激痛に思わず地面に膝をつく。
倒れぬよう片膝を立てるだけで、今のロンドには精一杯だった。
「完全に魔力枯渇の症状だ、ゆっくり休んでいるといい」
オウルはそれだけ言うと、風魔法を用いてグレッグベアの足裏や目玉へと攻撃を行い始める。後から参戦した分、オウルの方が魔力に余裕があるのだ。
(なるほど、これが魔力枯渇か……思ってたより、しんどいな)
当たり前だが、魔力は無尽蔵なものではない。
魔力とは人間の生命力と密接な関わりを持つものであるため、魔力枯渇は飢餓や脱水症などにも匹敵する危険な状態である。
魔力が足りていない状態で魔法を使うと、肉体は不足分の魔力を生命力を代価に無理矢理捻出しようとする。
無理な魔法をすればそれだけ命を縮めることにもなる。
魔力不足での魔法の行使は、己の命を削ってでも魔法を使わなければならない危急の時を除いて、使うべきではないのである。
(しかし、綺麗に魔法を使うもんだな……)
ロンドはぼうっとしながら、オウルがグレッグベアが死んでいるかの確認をする様子を眺めていた。
足の裏や目玉、肉球や既にある傷口など、オウルは器用に攻撃する箇所を狙って魔法をコントロールしていた。
恐らく毛皮の価値を落とさぬよう、傷ついても問題がない場所にだけ攻撃を当てているのだ。
ロンドも毒魔法を飛ばして攻撃をすることはできるが、オウルのように精密に狙いをつけることはできない。
そのせいで熊型魔物にしては比較的小柄なグレッグベアに攻撃を外してしまう場面も何度かあった。
まだまだ向上の余地はありそうだ。
(フィリックスも……たしかこんな感じで攻撃をコントロールしていたよな)
仮死状態であっても、自分の肉体の感覚は最低限は残っていた。
フィリックスは自分が起きていれば確実に声を上げるよう、相手が感じる痛みを勘定に入れて魔法を使っていた。
それも部屋の調度品に傷がつかぬよう、下に水の絨毯を使いながらだ。
魔力枯渇の症状が収まり、少し精気が戻ってきた。
冷静に物事を考えるするだけの余裕ができてきたロンドは、今度はしっかりとオウルの風魔法を観察することにした。
オウルの攻撃を見ていると、彼もフィリックス同様複数の魔法を同時に使いこなしていることがわかった。
パッと見ただけで風の刃と風の弾丸、そして風のハンマーの三つを同時に使っている。
(魔法の多重起動……そのあたりが次の課題になりそうか)
そうこうしているうちに、オウルの確認が終わった。
どうやらグレッグベアは仮死ではなく、完全に死んでいるらしい。
この段階でロンドはようやく自分がグレッグベアの状態を確認すれば良かったということに気付き、どれだけ頭が回ってなかったんだ……と自分の頭を軽く小突く。
(あれ、なんだか、頭が……ぼうっと…………)
それがきっかけになったのだろうか、自分の瞼が重くなっていくのがわかった。
意識がなくなる直前、ロンドの網膜に、戦う前にも見た紋章の輝きが見えた……気がした。
『龍毒による強敵の毒殺を確認。毒魔法ツリー(龍毒)の一部が解放されます。龍毒×衰弱毒――『死に至る病』が使用可能となります』
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