戦士
「よく頑張ったね、キュッテ。前と比べると、別人のように見違えたよ」
「お父さん……」
吹き荒れる風の中で、親子は見つめ合う。
風一つ挟んだ先にグレッグベアがいるとは思えぬほどに、穏やかでゆっくりとした時間が流れていた。
「さて……そろそろ魔法が解ける頃合いだ。準備はいいかい、戦士キュッテ?」
「――は、はいっ!」
名前の前に、戦士をつけられる。
それは族長がそのエルフを一人前の戦士として認めた時にだけ送られる、勲章であった。
今までほしいと思っていても、手に入らなかった戦士としての認知。
キュッテは大人のエルフ達に一人前と認めてほしくて、エルフの里を抜け出してまで戦っていた。
そして一人ではやられていたであろうタイミングでロンドに助けてもらった。
彼らと出会い、自分のことを認めてもらい、自分に少しだけ自信が持てた。
そしてロンド達と共に戦い、自分の持つ力についての理解を深めた。
熊を相手にしても問題なく戦えるようになり、複数の魔物を相手にしても動じずにいることができるようになり、そして……今ここに立っている。
グレッグベアという里の戦士を何人も屠ってきた強敵を前にしても、キュッテは臆することなく戦い続けていた。
彼女は自分でも気付かぬうちに、一人前の戦士へと成長を遂げていたのだ。
それを改めて自分が最も憧れていた父に認められたキュッテは、感慨を感じ、思わずといった感じで俯いた。
けれど彼女は既に、一人の戦士だ。
ゴシゴシと拳の甲で顔を拭ったかと思うと、すぐに顔を上げる。
そして少し充血して赤くなった目を、風へと向けた。
「私が時間を稼ぎます」
「ふむ、それなら私もそうさせてもらおう。今回ばかりは、時間は私達の味方だ」
それだけ言うと、オウルはロンドの方を向く。
ロンドはその視線の意図をしっかりとくみ取り、コクリと小さく頷く。
それを見たオウルがニヤリと笑った。
「キュウウウウアアアアアッッ!!」
渦を巻いていた嵐が掻き消される。そしてグレッグベアが風を飛び越えてこちらへと向かってくる。
キュッテもオウルも、既に魔法発動の準備は終えていた。
「大地よ!」
「風よ!」
エルフの魔法は、己のMPだけではなく大気に満ちている魔力を用いて発動させることができる。
故に効率が良く、規模も大きくなる。
それが自分達に力を貸してくれる森の中であれば、その効力は最大限にまで高められるの。
オウルの風がグレッグベアの小さな身体を的確に捉える。
暴風がグレッグベアの毛皮を削り、その内側にある肉を抉った。
「キュアアッッ!?」
方向転換をして攻撃を避けようとするグレッグベアの足下は、キュッテが使う土魔法によって絶えず乱されており、思い通りに動くことができない。
グレッグベアは業を煮やし、一度地面を踏みしめることができるようになった時点で跳躍した。
向かう先は、魔法を使い続け一番疲弊しているキュッテ。
けれどその接近を、オウルが許さない。
「風よ!」
突風が吹き付け、グレッグベアを弾き飛ばす。
既に満身創痍のグレッグベアに、それを防ぐ術はない。
そしてそれだけでは終わらない。
「ウィンド――バースト!」
そこへ襲いかかるのは、マリーが発動した、彼女が使える最大威力の風魔法ウィンドバーストだ。
風の刃を伴う暴風が、その身体をきりもみにしながら削っていく。
グレッグベアとキュッテ達との間には、オウルとマリーが風魔法を使って飛ばしてくれたことで、距離が開いている。
おかげでロンドは周囲への被害を気にすることなく、一撃をぶち込むことができる。
「ポイズン――――ドラゴンッ!!!」
BAOOOOOOOOOO!!
咆哮を上げながら顕現するは、毒の紫龍。
龍は周囲の木々を枯らし、打ち散らしながら進んでいき、そして……グレッグベアへとその牙を突き立てる。
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