ボス
ロンドからすれば、エルフ達の方へと気を向けるだけの余裕はない。
彼はただ今も自分達目掛けてやってくる魔物達をひたすらに毒魔法を使って処理し続けていた。
「ポイズンウェーブ! ポイズンウェーブ! ポイズンウェーブ!」
バタバタバタッ!
龍毒にかかった魔物達は、数秒もしないうちにバタバタと倒れ、絶命していく。
けれど熊達の猛攻は止まらない。
先ほどまでは隣を駆けていた仲間の死骸を踏み砕きながらも、四足歩行でロンド達目掛けて駆けてくるのだ。
魔物達の目は、らんらんと赤く輝いていた。
通常、魔物は人間に敵対的な目を向けてくることが多い。
また、得物を見つけた時は明らかに舌なめずりをしたような様子を見せることもある。
けれど熊達の目は、今までロンドが見てきた魔物達の様子とは一線を画していた。
彼らはまるで理性を失い狂ってしまったかのように、全てをかなぐり捨ててでも駆けてくる。
その様子はあまりにも狂気的で、敵を難なく屠っているロンドですら寒気を覚えるほどだ。
何かに操られている、という様子でもない。
であればあの魔物達は――そう考えた時に、以前キュッテや彼女の父が言っていた言葉が、現状と繋がる。
目の前の熊達は――エルフを何人も殺したという強力な魔物に付き従っているという可能性が高い。
(このまま魔物が途切れることなく襲いかかってくることで、俺達は削られる。そこにそいつが来れば……)
今はまだしのぎ切れている。
ただ十、二十と熊を処理しても途切れない津波のような魔物の襲来にはさすがに息が詰まる。
ロンド達の魔力は有限だ。
毒魔法は魔力の使用効率が高いとはいえ、さすがに無制限でバカスカ打てる類のものではない。
時折マリーやキュッテ達の援護のためにも魔法を使っているために、魔力はジリジリと減り続けている。
まだまだ残ってはいるが、今後のことを考えればどこかで勝負に出る必要がありそうだった。
そして勝ちの目が出る確率は、ロンド達に余裕があればあるだけ高くなる。
ロンドは龍毒で敵の魔物達を処理しながら後退。
キュッテが作ったトーチカの中にいるエルフ達に声をかける。
「すみません、このままだと持ちこたえられそうにありません。逃げられますか?」
「……俺達を誰だと思っている。回復魔法を使い傷も癒やしている。熊に遅れは取らない」
「俺達はこのまま前進します」
「なんだと?」
「この群れには、恐らく統率するボスがいます。そいつを倒せなければ、俺達はジリ貧ですから」
エルフの結界は信頼しているが、もし魔物達が結界の周囲に取り付いて外へ出られないような事態になってしまえば、エルフ達は外へ出て食肉を得ることすらできなくなる。
ロンドの覚悟を見て取ったのだろう、エルフ達は黙ったままロンドのことをジッと見つめている。
「危険すぎる。お前は人間だろう。いったいなぜ、我らエルフのために……」
「俺は……人だとかエルフだとか、よくわかりません。俺もキュッテもあなた達も、皆ジガがあって、自分の意志で生きている。キュッテが助けてほしいと言った。だから俺はあなた達を助ける――これは俺の意志だ! ――マリー! キュッテ! 前進するぞ!」
ロンドはマリーとキュッテを引き連れて、熊の魔物を倒しながら、その死体を避けて前へと進む。
魔物達を毒で溶かし、突進は毒の壁で防ぎ、龍毒が飛ばせぬほど遠くにいる魔物にはポイズンボールを使って仕留めていく。
エルフ達の戦いの音が聞こえなくなるほどに進んでいってからしばらく。
ロンド達が探していた魔物は見つかった。
「……こいつ、か?」
ロンドが困惑を浮かべるのも無理はない。
何故なら周囲の熊達を侍らせている熊は……。
「きゅうううっっ!」
周りの熊よりも一回りは小さく、ファンシーな見た目をしていたからだ。
「……おいおい、嘘だろ」
魔物の頭上に浮かぶ文字を見て、絶句するロンド。
その理由は――。
グレッグベア
健康状態 良好
HP 3034/3034
明らかに今までの魔物とは桁の違う、圧倒的なまでのHP量にあった。
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