遭遇
「グラアアアアアアッ!!」
森の中で不自然なほどに拡がっている平地。
そこに一つの影がある。
全身を炎に包んだ熊型魔物であるファイヤーベアである。
時速六十キロ、国道で走っていればお縄に着くほどの速度で突っ込んでくる巨体は、見る者を怯えさせる。
けれどそれはあくまでも、非力な者達にとっての話だ。
「大地よ!」
「ガアアアァッッ!?」
地面が大きくたわんだ。
そしてまるで肉食獣がその顎を開くかのように、がばり大きな穴を覗かせる。
陥没した土を見て罠と察するも、既に全力疾走をしているファイヤーベアにそれを避ける術はない。
「ポイズンボール」
そしてファイヤーベアを更なる悲劇が襲う。
毒によって苦しむ熊は、己の持つ回復能力を以てしても減り続けるHPに焦りを募らせる。
けれど下に設置されていた蔦が成長し、もがけばもがくほどに身体に纏わり付く。
燃えた端から新たな蔦が伸びてくるために、非常に鬱陶しい。
「ウィンドショット!」
そして上から飛んでくるのは殺傷力の高い風魔法。
身体の外側と内側から攻め立てられた熊は――そのまま地上に上がってくることもなく息絶えた。
「やっぱり回復持ちだと時間がかかるな……」
オウルとの話し合いの結果、ロンド達が遊撃隊として熊を狩るようになってから早三日。
ロンド達は以前から訓練していた連携を、より高い次元で行うことができるようになっていた。
ロンド達が取る戦法は基本的に一つ。
いわゆるハメ技と呼ばれる、相手を嵌めてワンサイドゲームをするやり方だ。
まず最初にキュッテが土魔法を使うことで相手の自由を奪う。
そこにロンドの毒魔法を使い、相手を龍毒にかける。
そして上からはマリーが、下からはキュッテが圧力をかけることで時間とダメージを稼ぎ、相手のHPを削りきるという作戦だ。
この作戦はかなり上手いこと機能しており、既にロンド達は一日に五匹ほどのペースで熊を狩っている。
ペースは、他の部隊と比べても高く、討伐している魔物の数ではトップを誇っている。
けれどロンドとしてはまだまだ改善の余地があると思っていた。
ファイヤーベアのように肉体そのものに継続的な活力回復のような力が宿っている魔物や、以前戦ったオーガプリーストのように回復魔法が使える魔物の場合、一度の戦闘に時間が掛かりすぎるところをなんとかしておきたいというのが彼の考えだ。
現状、ロンドは一度毒をかけてから攻撃に参加していない。
余所から魔物が来た時に備えて、周囲の警戒も担当しているからだ。
けれど毒魔法は風魔法等と比べれば魔力の使用する効率がかなり高い。
ポイズンボールを始めとする攻撃魔法を使っても、魔力切れを気にする必要がないほどに。
なのでできれば、ロンドも攻撃に参加しておきたいところだった。
ロンドがマリーと共に攻撃に参加できれば、単純に考えて手数は二倍になるのだから。
もし不意の襲撃があった場合に対応ができる人は、助けがない状態でも単体で熊を屠れるロンドしかいない。
この問題点さえ解決できればなんとかなる。
解決できずとも、時間が稼げるようになれば問題はないというのもある。
まず改善するならここだろう。
既に安定して熊を狩れるようになっている今こそ、気を引き締め直さなければいけない。
余裕がある時に現状に慢心していてはいけない。
そんなことをしていては来たるべき兄弟達との戦いで勝利を掴むことはおろか。
オウルとの共闘を約束している熊の親玉との戦いすらも危うくなってしまうだろう。
「キュッテ、次は俺がポイズンウォールで熊を止めるから、その隙に周囲に壁を――」
「ぐあああああああっっ!!」
三人はバッと、音のした方へ顔を向ける。
それは明らかに、魔物の鳴き声ではなかった。
キュッテの同胞――未だロンド達に友好的とは言いがたいエルフ達の、討伐部隊の声だろう。
側で戦いを見させてもらい、その戦闘能力の高さを知っている彼らが、それほどまでに苦戦している相手。
もしかするとキュッテが言っていた、強力な魔物かもしれない。
勝てるだろうか、それとも手も足も出ないだろうか。
どんな結果になるにしろ、恐らく一筋縄ではいかないだろう。
けれどロンド達に逃げるなどという選択肢はない。
むしろこれは、エルフ達の信用を得るためのチャンスだ。
震えようとする身体にそう言い聞かせながら、ロンド達は戦闘準備を整える。
「救出に行く――向こうについたら、事前の想定通りに」
強敵との戦い方も、多数の魔物を相手取るやり方もあらかじめ話し合っている。
ロンド達は互いに頷き合い、声のした方へと駆けていく。
するとそこには……。
「「「オオオオオオオオオオオッッッ!!」」
視界を埋め尽くすほど大量の熊型魔物の群れと、それと戦うエルフ達の姿があった――。
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