オウルさん
「そうか、それなら安心だね」
恐らくはキュッテの父なのだろう青年が立っている。
エルフは年齢に関しては見た目がまったくあてにならないという話は知っているので、ロンドの方に動揺もない。
「私の名は……君達風に言うのならオウルだね。気軽にオウルさんと呼んでくれたまえ。お義父さんなどと呼んだら、もちろん殺すから」
オウルはそれだけ言うと警戒態勢を解いた。
どうやら元より、それほど敵意を持っていたわけではないようだ。
それならこんなヒヤリとさせるようなことはしないでほしいとも思ったが、父が娘が見知らぬ異種族と共に里へやってきたのなら、黙ってはいられないのだろう。
アナスタジア公爵しかり、父親というのは基本的に娘には甘いものらしいから。
俺も娘に産まれたらまた違ったのかな……と思いながら、ロンドはキュッテとオウルの話を黙って聞いていた。
どうにも話を聞く感じ、落ちこぼれのキュッテを皆でイジめて……という感じではないようだ。
どうやら負い目を感じていたのはキュッテばかりだったらしい。
世の中というのは案外そういうものだ。
他人のことを気にする人はいても、その関心は仲の良い人間でもない限り長くは続かない。
キュッテが鎧熊を倒した話を、臨場感たっぷりに説明する。
身振り手振りと「どごおっ!」とか「ドオオオン!」とかいう擬音が非常に多い。
臨場感に振りすぎていて話がわかるのかは疑問だったが、そこはさすがに親子。
オウルはうんうんと喜ばしそうに娘の話を聞いていた。
自分の話を終え、ロンド達の事情を説明する。
どうやらロンド達のことは既には知っていたが、泳がせていたらしい。
マリーのことにも気付いているようで、既にオウルの腹心が彼女を護衛してくれているようだ。
その話を聞いて、ロンドは人質という言葉が頭をよぎる。
真剣そうな顔をしたロンドは、キュッテの方を見る。
「やめておきなさい。娘の恩人にそこまで恩知らずなことはしないよ」
ロンドが頭の中に思い浮かべたのは、いざという時にキュッテを人質にしてこの場を逃れられないかということだった。
けれどオウルは苦笑しながらそれを否定する。
「とりあえず、里の外れの方にある離れに行こう。ギリギリ結界に入ってはいるから基本的には安全だよ……たまに紛れ込んでくる魔物もいるけれど」
それは本当に安全なのだろうかと思ったけれど、口にはしないロンドであった。
「ふむふむ、なるほど……」
ロンドはマリーと合流し、エルフの里の中でも人目につかない、端の方にある小屋で自分達の身の上を話した。
そしてどうやらオウルの方は、キュッテとは違い色々と外の情報を知っているらしい。
オウルはアナスタジア公爵領と口にし出した時、明らかな反応を示したのだ。
どうやら彼が知ることができる距離ではあるのだろうと、少しだけ安堵しながら話を続ける。
話を聞き終えたオウルは、悩ましげな顔をしながら目を瞑る。
彼には里の長としての立場がある。そう簡単に答えを出すわけにもいかないのだろう。
その様子は、若々しい彼の見た目に反して非常に歳を感じさせた。
「無論私は色々と知っているし……簡単に言えば君達が行くべき場所も、行くべきでないであろう場所もわかっている、と思う。王国は一枚岩ではない。君達が望まぬ場所へ行ってしまえば、帰るまでにまた面倒も起こることだろう」
その上で提案なのだが……とオウルは続ける。
「実はここ最近、熊型魔物が森の生態系を壊していてね。森の守り手としては、放ってはおけない事態になりつつある。情報は教えるし別途追加で報酬も出すから、よければ討伐を手伝ってくれないかな? 君のその力があれば、大分楽になると思うんだよね。それ、系統外魔法だろう?」
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