キュッテの魔法
「ロンドさん、マリーさん、おはようございます! 今日も一日、頑張っていきましょう!」
「キュッテは朝から元気だな……」
夜に気を張って警戒をするのは、ロンドの仕事だった。
そのためゆったりと眠れてはいたが睡眠自体は浅い。
――森での生活が長くなるにつれ、ロンドの感覚は冴えを増していた。
今では半分眠ったような状態からでも、足音や殺気に反応して目を覚ますことができるようになっているほどだ。
「ロンド、おはよう」
「おはようマリー。昨日採った毒桃があるよ、食べる?」
「ありがたく頂戴します」
マリーはロンドが渡した毒々しい色の桃を受け取り、躊躇無く口に含む。
ロンドはマリーが毒にかかった瞬間にそれを微毒で中和させる。
お互いもう慣れたもので、マリーは毒のせいか紫色の果実をしている毒桃を美味しそうにもぐもぐと頬張っている。
その様子を見て、キュッテはほぅと吐息のようなため息のような呼気を出す。
「なんだか二人って、夫婦みたいですよね」
「――ふ、夫婦ですかっ!?」
それを聞いて顔を赤くするのはマリーだった。
ゆでだこのように真っ赤になった彼女は、ぶんぶんと大きく手を振ってから、もげてしまいそうなほど激しく首を振る。
そんなに強く否定しなくても……と思うロンドは、自分が少しだけ残念そうな顔つきをしていることに気付いていなかった。
けれど少しして自分が考えようとしていたその先を改めて想像してしまい、マリー同様に顔を赤くする。
(あ、あれ、私何かマズいことしちゃったでしょうか……?)
キュッテの貞操観念はエルフのそれであり、付き合う=結婚=将来を約束するところまで当然という考えだ。
彼女はロンド達の様子を見て自然に口にしただけだったのだが、今の二人を見ればどうやら自分が何かマズいことをしてしまったと察せるくらいには、空気の読める子でもあった。
「さ、さぁてそれじゃあ今日も頑張って進んでいきましょう!」
キュッテの先導に従い、二人が後をついていく。
雑念を振り払い前に進む二人の頬は、少しだけ赤くなっていた――。
「私が使える魔法、ですか?」
「ああ、キュッテは自分の魔法に自信はないみたいだが、魔法で一番大切なのは使い方。実際にどんなものが使えるかを確認してから考えれば、何か名案が浮かぶ……かもしれない」
三人で話をした結果、一度ブリーフィングをしてから魔物に挑もうということになった。
現状の熊型魔物達であれば、ロンドの毒魔法だけでも十分に対処はできる。
キュッテを鍛えがてら、マリーも実戦に慣れるようにすることを当面の目標にすることにした。
「まずはこういう感じでしょうか」
キュッテが精神を集中させると、ボコッと地面が陥没する。
瞬きをすると大地が元に戻り、次の瞬間にはドカッと盛り上がって段差ができる。
どうやらある程度地面を自在に操ることができるようだった。
「攻撃というと、こういう感じとか」
ズズッというお腹に響くような音が鳴ると、地面が揺れてから土の槍がせり上がってくる。 その発動までの速度も、槍それ自体の速度もお世辞にも速いとは言えなかった。
ロンドやマリーなら、見てからでも避けることができそうなほどの勢いだ。
「こんなのもできます」
キュッテが目を瞑って精神集中をさせてから右手を勢いよく振ると、まるで指先から飛び出すかのようにどこからともなく土が現れる。
石つぶての混じった土は、腕が通る軌道をなぞりながら、放射状に飛んでいく。
扇形に飛んでいく土塊の速度はなかなかに速い。
中に混じっている石つぶては、結構な速度が出ており、威力にも期待ができそうだった。
トレビュシェットのように、広範囲の投石のような形の使い方はできるだろう。
ただこれは土の槍とは違い、速度はあるのだが、出すまでに槍よりも長い精神集中が必要だった。
「土魔法は発動までに時間がかかる魔法ってことなのかな?」
「うぐっ……で、でも実際にあるものを使える分燃費がすこぶるいいんですよ! 私魔力だけはあるので、魔法を何十回使っても魔力切れにはなりません」
「それはすごいですね」
ロンドは頭の中で考えをこねくり回し結論を出す。
「うん、キュッテって……かなり強くないか?」
そして驚いた様子のキュッテに、ハンモック同様他の種も一気に成長させることができないのかを聞き、ロンドはうんと嬉しそうに頷くのだった――。
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