遭遇
森の中を進んでいると、ロンドは途中で生態ががらりと変わったことに気付いた。
ソルジャービーを始めとする昆虫系の魔物が消え、ガラッと獣系の魔物が増え始めたのだ。
現れるようになったのは、熊型の魔物だった。
全身に鎧を身に纏う鎧熊、全身から火を噴き出すファイヤーベア、他の熊達とは違い爪と牙に毒を持っているポイズンベア等、その種類は様々だ。
これはロンド達にとって、正直ありがたい変化だった。
果物だけで採ることのできる栄養には偏りがある。
動物の肉やその脂から得ることのできる栄養は、偏った食生活でやつれかけていた二人の身体を正常に戻してくれた。
ありがたかったのは、マリーが最も得意なのが風魔法ではあっても、火魔法も使えることができた点だ。
食あたりに対しても解毒が使用可能なために最悪食べるのが生肉であっても問題はないのだが、やはり焼けた肉を食べることができるようになったのはデカい。
こうして果物と葉っぱ、それに魔物肉を食べることができるようになり、食生活は大分豊かになった。
ソルジャービーのように徒党を組むわけではなく単独で行動する個体が多いため、ロンド達からするとそれもありがたかった。
進むにしても、指針が必要だ。
腹は満たされ慣れてきたとはいっても、長いこと続く森暮らしでロンドとマリーの精神は確実に削られている。
人がいる地域を目指すため、ロンド達は戻らずに進むことにした。
本来なら脅威度判定が高いクイーンビーが野放しになっている時点で、恐らくソルジャービーのいた地域には人の手が入っていない。
それならばそこから距離を稼いだ方が人里が近くなる可能性が高かろうという、多分に希望的な話だった。
ロンド達は更に森深くへと進んでいく。
その先に自分達がこの探索から抜け出すための何かがあると信じて――。
それは少しだけ魔物が弱くなり、ただ少しだけ皮膚が硬いだけの熊型魔物のモータルベアを龍毒で殺した時のことだった。
「――マリー様、何か声が聞こえませんか?」
「声……ですか?」
先に気付いたのは、サバイバル生活が続くせいか以前よりもずっと感覚の鋭敏になったロンドの方だった。
何か悲鳴のような音が、聞こえたような気がしたのだ。
熊達が出す腹に響くような声と違う、甲高い女の子の叫び声のような音が。
「……本当に聞こえてきますね」
声のする方へと二人で近付いていくと、その音はどんどんと大きくなっていた。
距離は着実に近付いていて、マリーにも聞こえるほどの音量になっている。
「相手が友好的か、はわかりませんが……」
「なんにせよ、何週間かぶりの人との接触です。これを逃す手はないですよね」
マリーの目を見れば、ここ数日で一番キラキラと輝いていた。
着ているドレスは利便性を重視するために既に裾をかなり短く切っており、水洗いしかできないために汚れが目立つ。
髪の毛は櫛で整えてこそいるが、明らかに枝毛が目立っている。
(マリー様はかなり限界に近そうだ。ここは多少のリスクを負ってでも、人との関わりを持つべき)
ロンドはそう判断し、ついてきたがるマリーを説得してから音のする方へと向かっていく。
そこにいたのは――人を襲おうとしている鎧熊と、今にも覆い被さられようとしている一人の少女だった。
それを見てロンドの思考が一瞬だけ止まる。
少女の耳が――今までに見たことがないほどに長かったのだ。
だがそれは、彼女を助けない理由にはならない。
ロンドは手慣れた動作で魔物に龍毒をかけ、そして少女の方へ声をかけた。
「おい君、大丈夫か!? 魔物は倒した、安心してくれ!」
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