果実
ロンドの毒魔法は、対象の名前等の情報を可視化する。
そのためロンドはここがどこなのかはわからなくとも、魔物達の名前を知ることだけはできている。
「――マリー様、もう大丈夫ですよ」
樹の裏に隠れていたマリーが、ひょこっと顔を出す。
ロンドは彼女に対して、努めてにこやかに笑いかけた。
「相変わらず、一瞬ですね」
「まあ、魔物相手なら、相手が回復魔法が使えなければ基本的にはなんとかなりますので」
ロンドの側には、横になっている樹木がある。
その樹皮は、よく見るとおどろおどろしい人の顔のような模様が刻まれている。
樹に紛れて隠れながら、自分の攻撃範囲に近付いてから一息に獲物を仕留める魔物は、その名をトレント。
森の暗殺者などと言われるその魔物の討伐ランクは、今まで散々倒してきたオーガメイジなどと同じくC。
風魔法と土魔法を使いこなし、物理的な耐性がかなり高い。
樹の身体の中にある核と呼ばれる、トレントにとっての臓器。
そこを傷つけられぬ限りなかなか弱らないために、一般的に人型魔物であるオーガなどと比べてもタフネスに優れているとされている。
ただし火に弱いため、火魔法使いさえいればしっかりとダメージを通すことができるようになるため、一気に討伐が楽になる。
ロンドに火魔法の才能はない。
だが彼は毒魔法を使えば、難なくトレントを倒すことができた。
トレントも生き物である以上、毒というものから逃れることはできないからだ。
ちなみにトレントのHPはどれも100以下だったため、龍毒を使いさえすれば体力を削りきること自体は一瞬で可能だった。
「森で出てくる魔物の討伐ランクはCまで……今のところなんとかなっていますが、油断は禁物です」
「ええ、それはもちろんです」
当初はひとまず人心地つける、というか魔物から見つかりにくいような場所を探すことを目的としていた。
もしものことがあると考えれば、マリーが森の中を自分と共に歩くのは危険すぎるように思えたからだ。
マリーに危害が加わることがないような洞穴を見つけてから、ロンドが単独行動して森の中を探索しようとしていたのである。
けれどマリーはそれを拒否した。
行くなら自分も力になるからと、ロンドの元を離れることを嫌がったのだ。
ロンドは少し悩んだ結果、彼女の意志を尊重することにした。
それに彼はガンデフの森にいる魔物が、どれもこれも餌を求めてアクティブに動き回ることを知っている。
マリーに隠れてもらうよりも自分がやってくる危機を払いのけた方が結果的に安全と思い直し、二人は共に森の中を歩んでいた。
魔物が現れるペースは、幸いそれほど高くない。
「とりあえずここが森で助かりました」
「それは、本当にそうかもしれませんね」
群れをなすようなタイプの魔物がいないため、ロンドの毒魔法の弱点である一対多の戦闘の機会を減らすことができる。
そして視線を遮ることのできるものがたくさんあるおかげで、魔物のグループに遭遇した場合でも、相手の目を簡単にくらますことができる。
更に魔物達も森の中で暮らすものたちばかりなため、毒が効きづらいゴーレム系の魔物もいない。
ロンドは歩きながら周囲に目を配らせる。
すると探索してからどれほどの時間が経ってきてからのことだろうか、ようやく食べ物を発見することに成功した。
森の中に、果実のなっている樹の群生した場所を見つけることができたのだ。
太陽を浴びたからか上の部分が赤く、そして下の方が黄色くなっている。
色が二層に分かれている果実は細長く、その見た目は一見するとバナナによく似ていた。
ロンドはその内の一つを無造作にもぎ取ると、護身用に持っていたナイフを、その果皮に差し込む。
そのままペロリと皮を剥いていく。
どうやら皮が厚めなようで、皮を裂く時の抵抗が思っていたよりも少し強かった。
内側から紫色の果肉が現れた。
瑞々しい果肉から、オレンジ色の果汁が溢れ出す。
紫色をしている時点でかなりデンジャラスな見た目をしているが――ロンドはなんの躊躇もなく、果実をパクリと口にした。
「あぐあぐ……うん、毒はありますけど美味しいです」
ロンドのサバイバル能力は非常に高い。
森において最も重要になってくるのは、水と食料の確保である。
ロンドはその二点に関してまったく問題がないのだ。
まず龍毒を使いこなせるロンドには、この世界にあるあらゆる毒が効かない。
そのため彼は文字通り、どんなものでも毒味を行い、それを無毒化して口にすることができる。
毒があるものでも無毒化することができるし、例えばそれを口に入れたことで食中毒になったりした場合でも、微毒を使って治すこともできる。
そのため果実さえ見つかればそれを口にして水分補給を行うことができるし、魔物の死骸も倫理的なところに目をつむれば食料にしてしまうこともできる。
そしてそれは、何もロンドの生存能力の高さだけを意味しない。
「マリー様、どうぞ。甘くて美味しいですよ」
「あ、ありがとうございます……」
マリーは恐る恐る、ロンドが手渡した果実を受け取る。
彼女はまじまじと果実を見つめていた。
既に皮は剥かれているので、果実は真ん中のあたりからぱっくりと二つに裂けている。
「大丈夫です。俺がすぐに治しますから」
ロンドは毒魔法が使えるため、解毒を行うことができる。
そのため同行者の彼と同様、摂取した食物の中に入っている毒を気にせずに食べることができる。
ただそもそも毒が効かないというのと、一度かかった毒をロンドに治してもらうというのはやはり違う。
マリーは心理的な抵抗があるのか眉間に皺を寄せ――そして覚悟を決めてから、小さく果実をかじった。
「ニュートラライズポイズン」
マリーの状態が毒に変わった瞬間に即座に解毒を行い、無毒化に成功させる。
それに安心したのか、マリーは二口目三口目とどんどん食べる量を増やしていった。
毎回解毒を行っている状態をなんとかできないかと考えてから、一つアイデアが閃いたので試してみることにした。
微毒を使い、毒の上書きのようなことができないかと考えたのだ。
結果、ロンドのアイデアは上手くハマってくれた。
マリーは微毒が効いている間、毒を気にせず果実を食べることができるようになったのだ。
あっという間に果実を食べきり、次のものに手を出し、二人で合わせて三つほどペロリと平らげてしまった。
無事に腹を満たして水分補給もできたことで、二人に少しだけ心理的な余裕が生まれる。
二人は笑みすらこぼしながら、森の中を更に探検していく――。
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