森
「ん、ここは……?」
先に意識が覚醒したのは、ロンドだった。
彼が目を覚ましたその理由は、瞼の裏に強い光を感じたから。
目を開けて、その原因を確認する。
光の原因は、木漏れ日だった。
強い太陽の光が、差し込んでいる。
「――そうだっ、マリー様はっ!?」
頭の回転が戻ったロンドは跳ね起き、あたりを確認する。
そしてすぐ隣に、横になっているマリーの姿を見つけホッと安堵した。
念のためにと、身体に触れる無礼を承知で心臓に手を当てる。
ドクドクという鼓動が手のひらを通して伝わってきて、ロンドは人心地つくことができた。
周囲の光景を観察してみる。
目の前に広がっているのは、間違いなく森だった。
最初はガンデフの森かと思ったが、その考えを即座に否定する。
ガンデフの森は一通り歩き回ったが、今見えているような下に垂れた葉を持つ樹はなかったはずだ。
(どうやら俺達は、どこか遠くの森に飛ばされてしまったらしい。でもいったい……どうしてだ?)
「ん……」
首を傾げながら思案していたところで、マリーが目を覚ます。
彼女も意識が覚醒すると同時、ロンド同様バッと飛び上がって起きた。
マリーはロンドを見つけると、にこっと笑う。
ロンドの方も少しはずかしかったが、笑い返した。
「ロンド、ここはいったい……? それに私達は、どうしてこんな場所に――っ!?」
マリーは目を見開いて、自分のスカートの中に手を突っ込んだ。
ロンドはまったく予測できなかった彼女の行動に硬直してしまい、もぞもぞと手を動かすマリーの姿を凝視してしまっていた。
けれどマリーの方はロンドの視線に考えを巡らせる余裕もないようだった。
彼女は何かを掴んだ拳を、グイッと持ち上げる。
それを開くと、中にはバラバラの大きさをした黒い石があった。
間違いなく、それはロンドがプレゼントした黒い魔法石だった。
今は見るも無惨な姿になっており、風化したようにさらさらとした砂になって消えていく。
「私、意識を失う前にこの魔法石が光っているのを見たんです」
「そうなると……ここに飛ばされてしまったのは、俺があげた魔法石のせいということになりますね」
「いえ、それは違うと思います。だってもしこれがなければ……」
ロンドが覗いていた窓から、外から襲撃者が自爆特攻をしていた様子はマリーにも見えていた。
もしこの魔法石が発動しなければ、あの襲撃者が発動させていた魔法なり魔法石なりが馬車に乗る二人に襲いかかっていたのは考えるまでもない。
マリーのその理路整然とした説明を聞けば、なるほどとロンドは頷かざるを得なかった。
「でもとなるとこの魔法石は……ちょっと信じられないですけど、転移の魔法が込められたものってことになりますね」
「凄いですね、転移の魔法石はたしかお父様でもありったけを買い占めることがおいそれとできないような価格帯のものだったはずです」
転移の魔法は現代の魔法では再現できないとされている、古代の特殊な魔法だ。
今では使うことができないというその稀少性と、有事の際に逃げることができるというその有用性から、目玉が飛び出るような、それこそロンドが一生かけて働いても工面できないような額で取引がされるらしい。
なぜそんなものがあの露店の魔法石屋に置かれていたのかは謎だが、なんにせよありがたい。
あのままではマリーが怪我をしていなかったかは、正直怪しいところだった。
もちろんそれは、今だって変わらない。
自分達が今どこに居るのかもわからないことを考えれば、むしろ危険度は先ほどよりも高いかもしれない。
けれど……と、ロンドはマリーから見えぬように拳を握る。
出てくるのが魔物であるのなら、それはロンドの独擅場だ。
自分の持てる力を使って、マリーを守る。
以前から決意したことを、そのために鍛えてきた力を、発揮するのは今この瞬間をおいて他にない。
「マリー様、俺が先頭を行きます。魔物との戦闘は俺がやりますので、怪我をしないように後ろから見ていてくださると助かります」
「……わかりました。ロンドに任せます」
こうして二人は、森の中を進んでいくこととなる――。
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