万策
良いムードというやつにはなったが、ロンドにそれ以上何かをするだけの勇気があるはずもない。
特に何かが起こることもなく二人は別れ、少しだけ寝付きの悪さを感じながら眠りについた。
そしてマリーの快気祝いが行われてからしばらくして。
ロンドはアナスタジア公爵へ呼び出され、彼の私室へとやって来ていた。
「そろそろ大詰めに入る」
「大詰め、ですか」
「ああ、簡単に言えばグリニッジ侯爵を追い詰めるための駒と札が揃った。あとは最終局面を残すのみだ」
ロンドはアナスタジア公爵陣営とグリニッジ侯爵陣営が、何を原因で争っているのかは知らない。
だがどうやらその勝負は、アナスタジア公爵陣営に有利なまま続いてくれているらしい。
どうやらアナスタジア公爵は、相手を追い詰めるための証拠や資料を集めきったらしい。
このままいけばそう遠くないうちに、グリニッジ侯爵に痛打を与えることができるということだった。
上級貴族同士の戦いは、正しく魔境だ。
ロンドにはどんなことが起こっているかはまったくわからないが、マリーが狙われていることから考えても、相当に闇の深い暗闘が繰り広げられているのだろう。
「それを俺に言うということは……」
「ああ、相手はかなり追い詰められている。なりふり構わず手を出してくる可能性が高い」
どうやら目的はマリーを殺すこと……ではなく、彼女を誘拐することらしい。
そのままなし崩し的に逗留させ、グリニッジの派閥の者と結婚させることで、相手に再起の芽が出てしまうらしいのだ。
その場合、恐らくマリーが結婚させられると聞いた名前を聞いて、ロンドはハッとする。
公爵が上げた名前は、ランディ・フォン・シンフォニア。
あの時ロンドのことをバカにしていた、嫌みったらしい男だ。
どうやら公爵も、既にランディとマリーを結婚させる気は毛頭無いらしい。
彼はマリーに何かが起これば即座に対応してくれと、しきりにロンドに念押ししてきた。
誘拐の可能性が最も高いが、殺害の目も十分にあると続ける。
もろもろ込みで、最も危険になる可能性のある期間はあと一ヶ月ほどということらしい。
「その間はなんとしてでもマリー様のことを守りきってみせます」
ロンドは食客としての役目を果たしましょうと、マリーを守るべく気を引き締め直した。
それからのマリーの警護は更に厳重になる旨が告げられる。
ロンドが側にいるのはもちろんのこと、側には常に一人の騎士が仕えることになった。
「ロンドさん、私はアマンダと言います。よろしくお願いします」
丁寧な言葉遣いでそう告げてくるのは、栗色の髪の毛をカールさせている女剣士だ。
護衛ということもあってゴテゴテとした金属鎧を身につけていて、それが彼女の整った顔立ちと妙なアンバランスさを感じさせる。
そうは見えないが、彼女は公爵が抱える騎士の中で一二を争うほどに強いらしい。
彼女が基本的に常にマリーの近くに居て、そこにロンドが加わるような形だ。
ロンドが居れば毒殺等について心配する必要はなく、アマンダがいれば物理的な誘拐について心配する必要がなくなる。
結果としてマリーの守りは盤石になり、さすがの政敵達も彼女に対して打つ手は万事尽きた――かに、思われた。
「――ロンドッ!」
「マリー様!」
ロンドの手が、マリーに届く。
二人がお互いの手を握り合い、視線を交わし合う。
そして彼らは――光に、包まれた。
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