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【コミカライズ】毒殺された世界無双の毒魔法使い  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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プレゼント


 一度歩けるようになってからのマリーの回復は早かった。


 リハビリはどんどんと進んでいき、支えがあるところを手の力を借りながら歩いてから二週間が経過する頃には、ゆっくりと歩くことができるようになっていた。

 

 もしかすると歩けなかったのは、筋肉量の減少だけではなく精神的な理由も大きかったのかもしれない。


 以前にも増して、マリーはしっかりと笑うようになった。

 彼女の笑みを見ていると、ロンドの心はほぐれていく。


 自分はマリーに惹かれている。

 ロンドがそれを自覚するまでに、そう時間はかからなかった。


 けれど自分はただの庶子で、おまけに家の人間から疎まれている。

 マリーとはあまりにも身分が違いすぎるし、もし仮に思いを遂げられたとしても、二人とも不幸にしかならない。


 そうわかっているからこそ、ロンドはあくまでも食客兼マリーの相談相手というポジションから一歩も動くことはなかった。


 ロンドが自分の毒魔法の使い方のかなりの部分をマスターできるようになった頃には、彼は魔石を大量に持ち帰る冒険者としてそこそこ有名になっており、いわゆる小金持ちというやつになった。


 そんな時に行われることになったのが、マリーの快気祝いである――。










 マリーはとうとう、松葉杖や車椅子等の補助器具がなくとも、一日中動き回ることができるようになった。


 未だ体力は全快してはいないが、走ることだってできるし、ステップを踏むこともできる。

 しっかりと歩けるようになったマリーは、彼女が本来持っていたのであろう生来の明るさを遺憾なく発揮させていた。


 今日は彼女のパーティー。

 ロンドは今日は訓練を休みにして、一人で街をぶらついていた。

 その目的はもちろん、快気祝いとしてマリーに渡せるような何かがないかという物色である。


(高い物……だとちょいと分が悪い)


 当たり前だが、プレゼントを渡すのはロンドだけではない。

 マリーの両親であるアナスタジア公爵家だけではなく、今回パーティーに参加することになる公爵家の寄子達も皆がプレゼントを渡すはずだ。


 今は少しばかり懐に余裕ができたとはいえ、さすがにプレゼントの値段対決をして、貴族相手に勝てるとは思わない。


 となれば別の方面で勝負する必要がある。


 見栄えでも分が悪いだろうし、実際の有用性も高い物も同様。

 となるとどうするのがよいのか……ロンドが悩んでいると、ふと露店が目に入る。


 マリーが快癒したことで、アナスタジア公爵領は以前のように怪しげな薬師達がうろつくことはなくなった。


 そのため開かれている露店も、野良のものではなく、料金を払うことで許諾を得ている正式なものだ。

 ……もちろん露店も善し悪しなので、真偽を見分ける瞳が必要なのは変わらないのだが。


「おっちゃん、ここは何を売ってるんだい?」

「ん、よぉいらっしゃいおぼっちゃん。ぼっちゃんは魔法石って知ってるかい?」

「魔法石っ!? そんな高価な物、ここで売ってたら危ないだろっ!?」


 魔法石、というのは名前そのまま魔法が込められた石のことだ。

 これにはダンジョンで産出するダンジョン由来のものと、付与術士と呼ばれる者達が作る人工の物がある。


 魔法石とは簡単に言えば、一度の制限付きで誰でも魔法が使えるようになる石だ。

 これも効果の高い低いによって幅はあるが、安い魔法石でもかなりの値段が張り、魔法石ショップと呼ばれる専門店で売り出されていたと記憶している。


 ロンドの様子を見て、露天商が笑った。

 まるでロンドの狼狽は見慣れているとばかりに、人の悪いような笑みを浮かべている。


「ちっちっち、ところがどっこい、ここにある魔法石は全部銀貨一枚ポッキリさ」

「……何か後ろ暗いこととかしてる?」

「バカ言っちゃいけねぇよ! まあなんでこんなに値段が安いかと言うとだな……ぶっちゃけこいつらは、ダンジョンの鑑定で弾かれた魔法石達だからだな」


 説明を受ければ、なるほど納得がいった。

 なんでもダンジョン由来の魔法石達の中には、鑑定士と呼ばれるアイテムの鑑定を生業としている専門家達ですら効果を判定できない物があるらしい。


 鑑定ができない理由は二つ。


 魔法が入っているものの、使えない程度にほんのちょっぴりしか入っていないか。

 もしくは現代の技術では再現できないような超高度な魔法が入っているために、鑑定結果を弾くか。


 どちらの割合が多いかは言うまでもない。

 つまるところここで売っている魔法石というのは、ほとんど全部まともに魔法が出ないクズ石であるということだ。


「ちなみになんだけど、おっちゃんは当たりが入ってるのを見たことあったりする?」

「商売人が顧客の情報を喋っちゃあおしまいよ、そいつぁ言えねぇな」


 普通の商売人ならば、物凄い効果の魔法石がここから出たのなら、それをこれみよがしに喧伝するだろう。

 ということは恐らく、売っている本人ですらまともな魔法の入っているいわゆる当たりの魔法石を見たことがないのだろう。


 言わば当たりの入ってない富くじみたいなもんだな、とロンドは笑う。


 けれどふと冷静になった時に、これは快気祝いになかなか良いんじゃないだろうかと思った。


 価格や有用性で勝負ができないのなら、それこそこんな博打的なプレゼントを送るのはそこまで悪い手ではないように思えたのだ。


「とりあえず買うからよく見せてくれ」

「おっ、まいど! じっくり見てってくんな!」


 露店に並ぶ魔法石達は、見栄えの良い物は一つずつ布の上に乗っかっており、傷がついたりしていて明らかに見栄えの悪い物は十把一絡げに樽の中に入れられていた。


(見栄えよりも、実際に使えそうな物の方がいいよな。むしろこういうプレゼントをあげるなら、傷がついていていかにもって感じのやつの方が喜ばれるだろうし)


 樽の中へガッと手を突っ込んで、いくつか中にあるものを物色してみる。

 あんまり傷付けてくれるなよという店主に言われた通り、とりあえずあまり大きく腕を動かさずに何個か手に取ってみる。


 魔法石の見た目は、宝石の原石に似ている。

 宝石に関して詳しくないロンドからすれば、樽に入っているほとんど全ての魔法石が、磨けば光りそうに見える。


 何個か手に取るが、どうにもピンとこない。


 手に取っては戻して、手に取っては戻して……店主の顔がそろそろ引きつってきた頃に、それはロンドの手に握られた。


 ドクンッ!


 背中に感じる熱。

 いったい何がと思いスッと背に触れた時には、既にそれは消えていた。


 これを選べ。

 自分の背に宿る龍に、そう言われたような気がした。


「おっちゃん、これちょうだい」

「おう、銀貨一枚だ。……へへっ、かなりゴツいやつを選んだねぇ、ぼっちゃん」


 ロンドが手にしていた魔法石は、太陽の光を全て飲み込んでしまうような漆黒の石だった。 石には白い線が張り巡らされていて、まるで歴戦の戦士の身体にある傷痕のように見える。

 なかなか良い物が買えたのではなかろうか。


 ロンドはるんるん気分で、快気祝いのパーティーのための準備を整えるのだった――。


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