不穏
毒魔法で与えられるダメージや、防げる攻撃の最大値。
色々と試しているうちに日暮れになってしまった。
「おかえりなさい、ロンド」
「はい、ただいま……っと、えっ!?」
帰ってきたロンドを出迎えてくれたのは、こちらに向けて歩いてくるマリーだった。
ロンドがその姿を見て目を見張るのも、無理はない。
つい今朝方まで、マリーはずっと車椅子に座ったままだった。
だが今の彼女は、自分の足でしっかりと大地に立っている。
「と、とうとう……」
「はい、ようやく立てるようになりました。多分そう遠くないうちに、以前と同じように動けるようになると思います」
「そうですか、それはよかった……」
ゆっくりとした足取りではあるが、ちゃんと歩くことのできているマリーを見て、ロンドの心は少しだけ軽くなる。
襲撃の爪痕が消えていけば、マリーの心の傷が癒えるのもその分早くなるはずだ。
ほっと安堵した様子のロンドを見て、なぜかマリーもにこにこと楽しそうにしていた。
「ロンド、お父様がお話をと言っています。一緒に行きましょう」
「え、マリー様もですか?」
「はい。三人で……ということでしたので」
ロンドはゆっくりとしたマリーのペースに合わせながら、彼女のあとをついていく。
いったい何の話だろうかと思いながらも、今日は色々と良いこと尽くめだなぁとご機嫌だった。
「マリーを襲わせた奴の正体がわかった」
「まぁ」
「そうですか……」
恐らく犯人捜しにかなりのリソースを割いたのだろう。
これほど短時間でその正体に辿り着くことができるとは……と、ロンドは公爵の子煩悩っぷりに苦笑した。
「グリニッジ侯爵家だ。家主の発案ではないことを、祈りたいところだな」
「侯爵家、ですか……」
侯爵家が公爵家の人間を襲う。
下手をすれば王国を割ってしまいかねないような、スキャンダラスな事件だ。
でもそもそもの話、向こうはどうしてマリーを襲う必要があるのだろうか。
マリーは公爵令嬢ではあるが、公爵家を継ぐのは長男のダンセルであるはずだ。
御家騒動を狙っているにしては、あまりにも無意味だ。
「ですが、どうしてその話を俺に?」
「なに、有事の際にはマリーを守ってもらおうと思ってな」
「黒幕に見当がついても、まだ戦いが続く可能性があるってことですか?」
貴族同士のやり取りというやつがいったいどんなものなのか、家の事情にほとんど関わったことのないロンドにはわからない。
だがどうやら向こうとこちらのアナスタジア家は、それほど仲がいいわけではないらしいということは教えてもらえた。
「ああ、下手をすれば今度は私にも毒刃が迫るかもしれない。何かあったら、恐らく今うちにいる者で一番強いであろうロンドになんとかしてもらわなくてはならない」
「お父様、そんな縁起でもないことをおっしゃらないでください」
なぜだか公爵はひどく悲観的なようだった。
その理由まではわからないので、ロンドは黙って二人の様子を見つめる。
貴族家の問題にあまり深く首を突っ込むのは良くないだろう。
間違いなく面倒ごとの臭いがするし、下手をすれば実家に自分の存在がバレる危険もある。
だがマリーがまた安心して生活を送るために必要ならば、ロンドはどんなことでもするつもりだった。
――暗殺者達三人を倒したあの日、ロンドはマリーを守ると誓ったのだから。
「詳細な説明はロンドの身を危険に晒すためにも省かせてもらうが……今ユグディアでは、大きな派閥争いが起こっている。簡単に言うと、とある政策に関する方針を巡って、私を含むいくつかの上級貴族が、互いの主張を押しつけ合っているという形だな」
「つまりマリー様は、常に狙われ続けるということでしょうか……?」
「いや、私もそうならないように動く。王に上訴して、なんとか方針を一つに絞ってもらうつもりだ。エネルギーを内に向ける余裕もない現状で、国内で争うというのは、あまりにも無意味だからな」
どうやら今のユグディア王国の国内情勢は、なかなかに不穏なものになっているらしい。
ロンド一人にできることは限られている。
けれど来たるべき時に備えて牙だけは磨いていよう。
彼はそう、心に誓ったのだった――。
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