龍毒
ロンドが使える毒の種類はいくつかあるが、やはり彼が最も使うのは中でも圧倒的に強力な龍毒だった。
龍毒は、接触して発動させることさえできれば、相手に必ずかけることができる。
そして相手を殺すためには、龍毒で仕留めるのが一番早い。
そのためロンドはまず最初に、相手に龍毒をかけることからスタートするやり方をメインの戦法に据えていた。
一番最初はまずは麻痺毒、次に衰弱毒、動きを完全に鈍らせてから龍毒という流れを使っていたが、その流れはレッドティラノによって不完全なものであることが発覚した。
――レッドティラノは麻痺毒と衰弱毒を込めたポイズンボールをどれだけ使っても、毒にかかることがなかったのだ。
この魔物の毒耐性か生命力、そのどちらかが高いせいで、魔法がレジストされてしまったのだろう。
ただしそんなレッドティラノを相手にしても龍毒はには罹った。
なのでロンドは相手に龍毒をかけてからとにかくレッドティラノから逃げ続け、相手のHPを全損させることで無事勝つことができた。
毒は魔物によって効きの善し悪しがあるというのは、道中試したことでわかっている。
例えば麻痺毒を食らっても少し動きが鈍くなるだけで済むものもいれば、まったく動くことができなくなりそのまま心臓の動きすら止めてしまう魔物もいたからだ。
弱い魔物であれば、基本的にはあらゆる毒が効く。
だがある程度強力な魔物になってくると、毒の効きが悪くなり始めた。
それに加えレッドティラノの登場により、まったく効かないものがいることも判明した。
(麻痺毒で動きを止めて、衰弱毒で弱らせ、龍毒で仕留める。これで全部上手くいけばよかったが……さすがにそう上手くはいかないってことか)
ある程度強力な魔物を相手にする場合、ロンドは基本的に龍毒によるHPの削りをメインウェポンとして戦っていく必要がある。
ただ、龍毒を攻撃魔法に込めて放っても、相手に龍毒をかけることができるのはおよそ3割ほど。
また、距離が離れるごとに弱毒化してしまうらしく、HPの減りも大分鈍化してしまう。
ゼロ距離で相手に直接毒をかけるか、ポイズンボールのように攻撃魔法として放ちながら、弱毒化した毒をかけるか。
どちらの方がいいのかは、やはり試していくしかないだろう。
ロンドは形状を変えて色々な形で毒を放ったり、またある時はしっかりと近付いて直接毒魔法をかけたりと、相手のHPを削りながら戦う上手い方法を、実戦の中で模索していくのだった。
(あれは……オーガメイジ、ランクはCだったはずだ)
彼の視線の先にいたのは、オーガメイジ。
筋骨隆々の巨躯をしていながらも、その手には杖を握っている魔物だ。
その後ろには、数匹のオーガが控えていた。
オーガメイジはオーガを従えることができる。
彼ら全体を相手取るのであれば、恐らくその討伐ランクはBに届くだろう。
だがロンドは、大して恐れた様子もなく前に出た。
毒魔法には触れない場合に相手を毒に侵すことが確率になってしまうという欠点がある。
であればとりあえず、全てのオーガ達に当たるように魔法を放つべきだろう。
今回は毒の強さを把握しておきたいので、ポイズンドラゴンのように一発でHPを持っていく魔法は使わない。
込めるのは龍毒、形状は鞭、魔法に威力が出るようしっかりと魔力を込めて発動させる。
「ポイズンウィップ!」
「「「グッギャァァァ!?」」」
毒の鞭がオーガ達へと襲いかかる。
オーガメイジの状態を見てみると、運のいいことに一発で龍毒にかかってくれていた。
オーガメイジ
健康状態 毒(龍毒)
HP 100/130
といった感じになっている。
ロンドは龍毒の大体の毒性の強さは把握し終えている。
龍毒が1秒あたりにもっていくHPの量は最大で100。
ポイズンボールにして飛ばした場合は、距離によって20から50程度の開きがあった。
「グオオオオオォッ!?」
オーガメイジは毒を食らって間もなく、大声を出しながら地面に倒せ伏す。
そしてすぐに絶命した。
HPが100しかないのだから、全損するまでにかかった時間はたったの数秒である。
オーガ達は自分達の棟梁であるオーガメイジが突如として死んだことに動揺している。
その隙に新たな魔法を発動させる。
込める毒は麻痺毒、形状は波。
「ポイズンウェーブ!」
四匹に麻痺毒をかけると、全てレジストされずに通った。
(かかる確率は魔物と毒の相性次第っぽいな……偶然四匹全部に麻痺が当たったとは考えづらい)
ロンドは龍毒を使わずに、四匹全員に猛毒を使用した。
触れてから発動すれば龍毒は100%の確率で罹患するが、どうやら猛毒はそうではないようで一匹だけ弾かれてしまった。
もう一度かけると、今度はしっかりと成功する。
観察しているとオーガ達の体力がみるみるうちに減っていく。
オーガのHPは大体70前後。
猛毒がもっていくHPは大体1秒あたり20前後。
どうやらゼロ距離で猛毒をかけると、これくらいの強さになるらしい。
この猛毒も龍毒と重ねがけが可能なので、ロンドが相手のHPを削れる量は、最大で1秒あたり120ということになる。
数秒もすると、オーガ達の息が絶える。
ロンドからすると、戦闘そのものよりも返り血を浴びながら行わなくてはいけない魔石取りの作業の方がよほど面倒だった。
リュックの中へぽいぽいと魔石を放り込む。
何度も繰り返すうち、そのやり方もどんどんとぞんざいになっていた。
(とりあえず、並の魔物を相手にする分には問題なく勝てる。あとは回復魔法が使える個体と戦ってどうなるかを、考えなくちゃいけないな……)
ロンドが使える龍毒は、彼自身でニュートラライズポイズンの魔法を使わぬ限りは、解毒は不可能である。
そして恐らく龍毒をレジストして弾ける存在は極々一部に限られるはずなので、ロンドは基本的にどんな敵を相手にしても、触れることさえできれば毎秒100ものHPを削ることができるということになる。
その上で考えなくてはならないのは、相手のHPを如何にして削りきるかという問題だった。
そもそも、HPとはなんなのか。
これは簡単に言えば、その生き物が持っている生命力のようなものだ。
これが減っていくごとに元気がなくなっていき、0になると死ぬ。
ロンドはざっくりと、そんな風に理解していた。
HPは必ずしも0まで削る必要はない。
例えば強い酸性となったポイズンボールを頭部にかければそれだけで酸が頭部を溶かし尽くすため、体力云々の前に絶命する。
なのでロンドが敵に勝つためには、
1 相手のHPを0にするまで毒で削る
2 攻撃用の毒魔法を使って相手のHP、もしくは身体そのものを削る
この2つのどちらか、もしくは両方の手段を取る必要がある。
ロンドの龍毒は非常に強力だ。
先ほどのオーガメイジとの戦闘を見ればわかるが、Cランクの魔物を数秒待つだけで殺すことができることができる回避不能の毒など、初見では対応しようがない。
龍毒は遠距離から放っても、今のところ半分以上の確率でかけることができている。
おまけに解毒も不可能なのだから凶悪だ。
けれどロンドは自身の毒魔法が必ずしも無敵ではないことを知っていた。
彼の懸念点は大きく分けると二つある。
一つ目は、あまりにHPが多すぎる敵とぶつかることになった場合に、どうやって戦うのがいいのかという点。
そして二つ目は、回復魔法を使ってHPを回復しながら戦われた場合に、いかにして勝利を収めるかという点だ。
先ほどのレッドティラノは、その巨体に大量の生命力を収めていたからか、そのHPは1000を超えていた。
いかに龍毒と猛毒を重ねがけしたとしても、ロンドはかなりの時間を自力で稼がなくてはならなかったのだ。
Cランクの魔物でも8秒となると、例えばAランクの巨躯を持つ魔物ならどうなるか。
もしそのHPが10000を超え猛毒が効かないということになれば、ロンドは接触して最大効果の毒を叩き込んだ上で、1分半以上の時間を稼がなくてはならなくなる。
あるいはHPがもっと増えて10分20分と時間を稼がなくてはいけない可能性もある。
ロンドの毒魔法は強力だが、その肉体は以前と変わってはいない。
同年代の者達と比べても、恐らく貧弱な部類に入るだろう。
また、まともな家庭教師をつけてもらってもいなかったから、剣術の類もまったく身につけてはいない。
そのためロンドは、魔法使いとして遠距離戦を戦う術を編み出さなければならない。
相手の攻撃をポイズンボールで遠距離攻撃を加えて少しでもHPを削ったり、相手の攻撃をポイズンウォールを使って防いだり……使う属性こそ他の者達とは違えど、相手から離れて攻撃をするために攻撃・防御のための毒魔法にもっと熟達する必要があるのだ。
そして二つ目の懸念点は、相手が回復魔法の使い手であった場合だ。
ロンドの兄弟達は、全員が魔法のプロフェッショナルだった。
彼らは攻撃や防御だけではなく、回復魔法までしっかりと使いこなすことができる。
もし回復魔法によって龍毒の削りの速度を超える速度で回復を行うことが可能であるのなら、ロンドは龍毒だけでは相手を倒すことができなくなる。
ロンドには、一つの実例を知っている。
――長いこと倒れ伏していたマリーである。
マリーは父であるタッデンによって回復魔法を施されることで、死ぬことなく毒に耐え続けていた。
残りHPはたしかにわずかだったが、それでも減るペースは非常にゆるやかだったと考えていいだろう。
タッデンが一流の魔法使いということを念頭に入れれば、恐らく一流の使い手であれば、龍毒が削る量と同等のHPを回復することができるという予測が立つ。
これは例えばの話だが。
もしロンドが父であるエドゥアール辺境伯と戦うことになったとすれば、恐らく彼は自身に回復魔法をかけ続けることで、龍毒を耐えてみせるはずだ。
この二つ目の推測もまた、ロンドに毒による削り以外の手段を探さなければという気にさせるものだった。
そのためロンドは上手い戦い方を見つけなければと、回復魔法の使える魔物を捜し回っている最中なのだ。
結局、その日のうちにお目当ての魔物を探すことは叶わなかった。
しかしその翌日、ロンドはその機会に恵まれることになる――。
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