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一人


 ロンドの食客としての立場は変わらないが、彼の生活環境には変化が訪れた。

 まず第一に、マリーの警備が強化されることになり、ロンドは本来の食客のように基本的には何をしていてもいいという立場になった。


 さすがに二回も暗殺未遂に晒されたとあって、公爵としても本腰を入れたのだろう。

 マリーを殺そうとした人間が手練れを使ったのは、あの二回目のチャンスが乾坤一擲だったのかもしれない。


(公爵は犯人を特定したような口ぶりだったし、俺は何か言われるまでこの屋敷に逗留しておけばいい)


 ロンドよりもよほど強そうな騎士様が護衛についたことで、彼がわざわざ彼女を守る必要はなくなった。

 それにエドゥアール家がロンドを探していないこともわかったため、こそこそ隠れる必要も一緒になくなってくれた。


 屋敷の中に留まらなくてよくなった……のはいいのだが。

 さて、何をすべきだろうかと彼は頭を悩ませることになる。


 そして色々と考えた末、ロンドはとりあえず冒険者ギルドへ向かうことになった。

 ヨハネスブルグから日帰りでいける範囲内で戦闘経験を積み、自分の使える毒魔法にもっと習熟しておく必要があると考えたからだった。


 倒せるかもわからない状態で、やみくもに毒魔法を使う。

 そんなやり方をしていては、自分の力に振り回されるだけで終わってしまう。


 今は追われてはいないとはいえ、ロンドは自分が持つ力の性質上、いずれは兄達と対決をする時がやってくるだろうと考えていた。


 これからすることになるのは、そのための基礎体力作りだ。

 そう考えると、やる気も湧いてきた。


(うしっ、頑張るぞ!)





 ロンドの冒険者としてのランクはEランク。

 ついこないだ入ったばかりなので、当たり前だが一番下である。


 冒険者ランクというのは、簡単に言えば冒険者が無駄に死なないように設定されている足切りのようなものだ。


 依頼のランクと、魔物の討伐難易度である討伐ランク。

 この二つは、冒険者ギルドが冒険者達にこう告げるためのものである。


『自分のランクよりも上の依頼を受けてもいいが、冒険者ギルドは一切の責任を負いません。なんなら依頼失敗したら自己責任だから、めちゃくちゃ借金とか負っても知らんぞ』


 そうやって暗に言われているわけだが、冒険者の中には学がないものも多い。

 そのため本来の自分のランクより高いランクの依頼を受けるものは後を絶たず、結果として破滅する者は後を絶たない。


 繰り返すが、冒険者の基本は自己責任だ。

 自身で責任を負う限りにおいて、何をしても許される。


 それだからこそ……今の自分のランクには見合わぬ魔物と戦っても、問題はないのだ。







「グオオォォッ!!」


 断末魔を上げながら、ドスンと大きな影が倒れる。

 その巨体の正体は赤い体色をした恐竜型の魔物、レッドティラノだ。


 ティラノが死の間際に見つめていたのは、一人の少年。

 顎に手を当てながら、ふむふむと頷いているロンドであった。


「ポイズンボールをヒットさせるだけでも、結構HPは減るが、遠くからだとかなり毒にはかかりにくいな……」


 ロンドは自分の本来の狩り場よりも更に奥にある、ガンデフの森という場所へやって来ている。

 そして色々と試しながら、森の魔物達相手に毒をかけて回っている最中だった。


 片道で半日ほどかかるこの場所には、人の手が入っていない。

 公爵家騎士団によって掃討がなされているヨハネスブルグ近辺とは違い、その森の中には刈り取られていない強力な魔物達が、互いを食らい合いながら日々生存競争を行っている。


 その狩り場は、今の自分の力がどれほどのものなのかを知らぬロンドには、正しくうってつけであった。

 アズサハの別荘はしっかりと人の手の入った場所であるため、どれだけ強くともDランクまでの魔物しか出てこない。


 しかしこのガンテフではCランクの魔物ならゴロゴロと、そして稀にBランクの魔物も現れてくれるという前情報が入っている。


 今倒したレッドティラノは、Cランクの魔物。

 あれだけの巨体ならば毒の回りも遅いと思ったのだが、毒魔法は純粋な毒とは勝手が違うのか、すぐに魔物の体内を駆け巡った。


「これだけデカいと、心臓がどこにあるかもわからないな」


 ロンドは巨体の胸にナイフを突き込んで、思い切り穴を空ける。

 血がある程度流れだしてから身体を切り開き、心臓を探すことにした。


 苦節数分、ようやくロンドの頭ほどもある心臓を見つけ出し、それを更に切り取って中にある魔石を取り出す。


 魔物にはいくつも換金できる部位があるが、あらゆる魔物の金になる部分を持っていては、すぐに手持ちの鞄がパンパンになってしまう。


 またそれらをいちいち覚えるのも面倒なので、基本的に冒険者達はよく狩る獲物以外の素材は、魔石だけを獲ってあとは捨てることが多い。


 この魔石というのは、魔物を魔物たらしめている魔力の籠もった石のことだ。


 魔物は生まれつき心臓の中に魔石を宿している。


 その価値は灰色から白へと、白くなっていくにつれてどんどんと上がっていく。

 もちろん大きければ大きいだけ、値段は高くなる。


 色の違いは、魔石が内側に込めている魔力量の違いによるものらしい。

 強力な魔物は最初から魔石が白い。


 そして元は魔石が灰色の弱い魔物であっても、長く生き延び、強力になっていくほど白く、そして大きくなっていく。


 この魔石は魔力を使って動かす魔道具と呼ばれる道具群を使うために不可欠なものとなっている。


 魔道具は日常生活に使う物から兵器として運用する物まで、実に幅広く、たくさんの種類がある。


 そのため魔石は、常に需要が供給を上回っている。


 冒険者達がならず者や無法者と蔑まれていながらも排斥されていないのは、彼らがこの重要な物資の一大の供給業者であるからに他ならない。


 ざっくり言ってしまえば、細かいことを覚えていなくても、心臓の中にある魔石をほじくり出して持って帰れば、確実に金になるのだ。


 ロンドが取り出したレッドティラノの魔石は、白みがかった灰色だった。

 色味としてはイマイチだが、その分サイズがかなりデカく、ロンドの拳ほどもある。


 今まで獲ってきた魔物の中でも、間違いなく最大級のサイズだ。

 ロンドはにひひと笑いながら、リュックの中に魔石を入れた。


 コツコツと、中に入っている魔石同士がぶつかる音が聞こえてくる。

 既にロンドがこの森に入ってから倒した魔物の数は10を超えている。


 ロンドは全部でいったいいくらくらいになるだろうと考えながら、毒魔法に練達すべく、魔物探しを再開するのだった――。


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