闖入
「なる、ほど……」
途中に水飲み休憩を挟みながら行われた、レアの半生から今に至るまでの説明。
ロンドはそれに、なんとかしてそう相づちを返すので精一杯だった。
息を飲む場面が何度もあり、彼女の話はロンドが想像していたよりもはるかに重たく、そして答えに窮するものだった。
何を言うべきなのか、何を言えばいいのか、すぐには答えが出てこない。
ロンドは聖女のことを、実権を持たないただの光魔法のスペシャリストだと思っていた。
けれど事実はそれよりもずっと残酷で。
今こうして話をしているレアは、そんな過酷な運命を背負った聖女なのだ。
「レアはもう、あちこちに出掛けているのか?」
「いえ、まだです。聖女になりたてということもありまして、色々と必要な引き継ぎを行ったり、聖都の中でできることをこなしたりしているような感じですね」
「でも話を聞いていた感じ……そう遠くないうちに、レアもあちこちを飛び回るようになるのか?」
「恐らくは、そうなるでしょうね。といっても先代のニサ様は自分から積極的に仕事を振ってもらうよう動き回ったりもしていたらしいので、彼女と比べれば全然動かない方ということにはなるんでしょうけど」
レアを待ち受ける未来は、決して明るいものとは言えない。
けれどそんなことをおくびにも出さず、彼女は笑う。
その笑みは、ロンドが話に聞いた先代聖女の笑みと同じもののような気がした。
どこかでもう諦めてしまっていて、それでもなお聖女としての役目を全うしようとするはかなさと力強さを合わせたその瞳を見て、ロンドが抱く印象は大きく変わっていた。
彼はそこに、レアの持つある種の覚悟を見た気がした。
「一つ聞きたいんだけど、聖女派っていうのは昔からあったものなのか?」
「いえ、その原型は先代であるニサ様が作り……そして私がなんとか形だけを整えました。もっとも、派閥などとも言えない、小さな寄り合いのようなものですけど……」
そしてそんな派閥の中に、ロンドは入っていくことになる。
聖女の立場を考えれば、今後聖女派がどのような立場に追いやられるかは自明の理だった。
何せそもそもの話、聖王国にいる権力者達は皆聖女に実権を持たせるつもりがない。
そして下手に自己主張でも始めようものなら……恐らく今までにそうしたであろう聖女達のように、力尽くで亡き者にされることも十分に考えられる。
となると現状ロンドが聖女派として取り得る手段は……。
(聖女派の一員として暴れ回る……ダメだ、そんなことをしてレアともども殺されてしまえば意味がない)
聖女派に取れる選択肢というもの自体が、そもそもほとんどないに等しい。
何かをすれば暗殺がちらつく状況では、積極的に動いていくことは難しいからだ。
しばらくの間は動くとしても、聖女派の一員としてではなくロンドとして動いた方が無難かもしれない。
(となると辿るべきはレアじゃなく……こちら側の糸か)
幸いなことに現在、ロンドは聖王国のお偉方――恐らくはマンサル・アフロッド――からなぜか熱視線を浴びている。
カテーナの襲撃も彼が一枚噛んでいるとするのなら、相当強引な実力行使をしに来ている。
襲撃が失敗に終わった現在、また新たな手を打っていてもなんらおかしくない。
「そうだ、マンサル枢機卿について詳しい話を聞かせてもらってもいいですか?」
「ええ、有力者の情報に関してはメンチに収集をお願いしていますから、後で彼女と一緒にまとめてお教えしましょう」
こうしてロンドはその日、このクリステラ聖王国に関する多くの情報を仕入れることに成功する。
そしてさてどう動こうかと考えたその次の日、ロンドの目の前にやってきたのは、まったくと言っていい予想外の人物だった。
「な……なんでお前がッ!?」
「安心なさい、戦うつもりはないわよ……ロンド」
真紅のドレスに、猛禽類を思わせる鋭い瞳。
ああでもないこうでもないと頭を捻らせていた彼の前にやって来たのは……つい二日ほど前に激闘を繰り広げた、カテーナ・フォン・エドゥアールその人だった。




