何から
ロンドがレア率いる聖女派に所属することを決めた次の日。
隠れ家で一日お世話になったロンドは、朝にやってきたレアに連れられた場所を移動することになった。
聖女派として活動するにあたって色々と必要な情報があるだろうということでやってきたのは、以前一度来たことがあるレアが借りているというホテルの一室へと呼び出されていた。
以前ロンドがこの場所で聖女レアと対面した時にはかなり緊張しながらだったが、自分の立ち位置がなんとなくはっきりしたおかげで、気持ち的には以前よりもずいぶんと楽になった気がする。
「そういえば、何話してたっすか?」
「ロンドの昔の話ですかね」
「なんだ、それなら聞かなくて良かったっす。うちは昔話は興味ないっすからね」
昨日一人だけ蚊帳の外にされて少し寂しそうにしていたメンチだったが、話をしているうちにあっと言う間に機嫌が治った。
相変わらずこれで成人しているとは思えないほどに子供っぽい感情の動き方をしている。
「メンチ、周囲の警戒をお願いします。何かあればすぐに呼んでくださいね」
「了解っす!」
ビシッと似合わない敬礼をしたかと思うと、メンチはとてててっと勢いよく部屋の外へと向かっていった。
昨日の今日でまだロンドを狙う刺客が、彼のことを探している可能性が高い。
メンチは戦闘能力は高くないが、彼女の諜報としての実力は本物だ。
再び二人になり、レアと向かい合う。
相変わらず気付けば視線がそちらに向いてしまう、不思議な魅力を持った女性だ。
カリスマ性というのともまた違う、気付けば気を許してしまいそうになる包容力とでもいうべきものが今の彼女にはあった。
「昨日はありがとうございました」
「いえ、俺としては恩返しになればと思って言っただけですから」
真剣な顔をして頭を下げる彼女に、軽く頭を振って返す。
たしかにロンドの去就としては大きな決断だったが、それだけでレアの現状が何か変わるほどのインパクトがあるわけではない。
ロドゥから聞いたところによれば、彼女はあくまでも実権を持たない聖女なのだから。
「色々と話してもらったこともありますし、良ければ次は私の話を聞いていただこうかと思います」
「願ってもない話です」
「あ、その前に一点お願いしたいのですが、もしそれほど得意でないのであれば、敬語を使わなくても結構ですよ?」
「え゛……そんなに不自然でしたか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……メンチと話している時の方が、活き活きしているように見えたので」
「えっと……そういうことなら」
ロンドとしては聖教会で立場ある、つまりは王国貴族のような存在である彼女に丁寧に閲していたつもりだったのだが、彼女がそう言うのならわざわざ畏まる必要もあるまい。
聖女派に入るのだから、聖女様のお気に召すままに振る舞った方がいいだろう。
「じゃあ改めて、よろしく」
「はいっ、よろしくお願いしますね」
ニコッ。
なぜか昨日ロンドが聖女派に入ると言った時よりも明るい笑みを浮かべているレアが少し不思議だったが、彼女が喜んでくれたのなら構わないかと気を取り直す。
「もしあれならレアも普通にタメ口でいいけど」
「あっ、私は敬語がデフォルトなので……でもせっかくですし、お言葉に甘えさせてもらおうかな? したくなったら、たまに普通に話をするようになるかもしれません」
どうやら彼女は丁寧な話し方が完全に染みこんでしまっているらしい。
さもありなんと、ロンドは彼女の好きなようにやってもらうことにした。
「聖女である私が今、どのような立場に置かれているのか。なぜ私が聖女になったのかなどなど……共有しておいた方がいい情報の取捨選別が難しいですね……むむむ」
ロンドとしてもクリステラの聖職者のことを詳しく聞く機会はあまりない。
純粋な興味というのもあるし、この聖王国の中で特殊な立ち位置を誇っている聖女という立場に対する純粋な興味もあった。
「それでは、えっと……どこから話をしたものでしょうか」
そう言って少し考えてから、レアはゆっくりと語り出した……。




