激突
『PIIIIIIIII!!』
炎の不死鳥は甲高い鳴き声を上げながら、両の翼を羽ばたかせてその嘴を尖らせる。
以前タッデンが使っていたものもそうだが、生物を模した攻撃魔法はその習得の難易度が極めて高く、その分だけ威力に優れている。
カテーナの最大最強の魔法を迎え撃つため、ロンドもまた魔法発動のために大量の魔力を込めた。
魔法の威力が最も高くなるのは龍毒を使用した時である。
故に龍毒を選択すれば、後は魔法をただ構築するだけでいい。
(ぐうっ……やっぱりこうなったか!)
通常毒魔法は使用の際、自身がどの程度の魔力を込めるかを事前に調整することができる。
けれどあのクリステラとの戦いを経てからというもの、ロンドの切り札であるポイズンドラゴンの性能は通常の毒魔法とはまったく別物になっていた。
今のポイズンドラゴンは、ロンドの完全な制御下にない。
彼がポイズンドラゴンを一度使えば、まるで魔法そのものが生きているかのように、持っている魔力を根こそぎ持っていってしまおうとするのだ。
ロンドとしてもなんとか抗おうとするのだが、それでもかなりの量の魔力を持って行かれてしまうため、以前のように何発か使うことができるような魔法ではなくなってしまっていた。
それだけの魔力を吸い取る分たしかに威力もスピードも上がるが、その燃費の悪さもまたひどいものだ。
だが最後の最後で勝負を決めるためには、やはりこの魔法以外はありえない。
『GAAAAAA!!』
毒の紫龍が全てを飲み込まんとその顎を大きく開く。
そして不死鳥と紫龍が激突し、その頭をぶつかり合わせる。
サイズは毒龍の方が大きいが、魔法としての密度は不死鳥の方が高い。
食い破ろうとポイズンドラゴンは不死鳥の喉元に食いつき、不死鳥はそんなポイズンドラゴンを突き抜けようと勢いをつけてその身体を貫通させようとする。
ポイズンドラゴンは明らかに押し負けていた。
魔法としての格は、ほとんど同等のはうだ。
けれど魔法使いとしての練度の差によって、カテーナの放つファイアフェニックスがポイズンドラゴンを貫こうとしていた。
ドクンッ!
ロンドの背中にある龍の魔力紋が輝きだし、脈動し始めた。
そして……ズズズッ!
まるでまだ足りないとでも言うかのように、更にロンドから魔力を持っていき始めた。
通常魔法は一度発動させてしまえば、あとはその魔法の行く末を見守ることしかできない。
だがポイズンドラゴンを始めとした一部の魔法は、使用後に追加で魔力を込めることで威力を向上させることができる。
「おおおおおっっ!!」
「はああああっっ!!」
ロンドが制御を手放してやると、背中の魔力紋の輝きが強くなり、ポイズンドラゴンは更なる魔力を吸い出していく。
そしてカテーナもまた魔力を追加していくことで、ファイアフェニックスを更に巨大化、高温化させていく。
二人の魔法はどんどんと大きく、そして力強く変わっていく。
だがそのペースは、明らかにポイズンドラゴンの方が強かった。
最初は優勢であったファイアフェニックスは徐々に拮抗していき、そして押され始める。
「う、嘘でしょ!? な、なんで……」
「畜生……全部、持っていきやがれッ!」
発動当初はある程度調節ができていたロンドだったが、既にポイズンドラゴンの制御は完全に自身の手から離れていた。
ロンドのほとんど全ての魔力を持っていき、その残りかすすら搾り取るほどの勢いで魔力を吸い上げるポイズンドラゴンは更に巨大に、そしておどろおどろしく変貌していき、そして……。
『GRAAAAAAA!!』
炎の不死鳥をその顎で食らい尽くし、爆ぜさせてみせた。
そして自身が潰した魔法によってその身体を崩しながらも、その顎は魔法の制御で無防備になっていたカテーナへと向かっていく。
「くっ……ぎゃああああああっっ!!」
そしてカテーナは毒の龍に飲み込まれていき……その光景を確認し、彼女の悲鳴を耳にしたところで、ロンドの意識は闇に飲み込まれていった……。




