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守る


 倒した襲撃者達の身体を隅々まで調べていく。

 こんなところまで決死隊としてやってきているから当たり前のことではあるのだが、証拠らしい証拠は何一つとして持ってはいなかった。


 残された手がかりは、ヒントになりそうにない得物と服だけだ。


 使っている刃物は、黒く刃渡りの短い短剣。

 暗闇で相手に距離感を誤認させるためか、刀身も柄も全てが真っ黒になっている。


 着ている服は口許まで隠れる黒い装束。

 フードと一体になっていて、これ一着で全身を隠すことができるようになっている。

 生地は綿布で、額や胸部など急所にあたる部分には鉄板が縫い付けられている。


 明らかに暗殺者ルックな、暗部とかを担当していそうな見た目だ。


 そして決して弱くはないはずの公爵家の護衛を、自身達の方が数が少ないにもかかわらず追い詰めていたということは、間違いなく手練れ……暗殺首謀者の手持ちの札の中でも精鋭だろう。


 ロンドがいなければ……危ないところだった。

 白昼堂々こんなことをされるとは、さすがの公爵も思ってはいなかったはずだ。


(どうやらマリー様の敵は、相当に焦っているらしいな)


 対人の初戦闘は、問題点や改善策の多く残るものだった。

 けれど得られたものもそれ以上に多い。


 自分の力がしっかりと通用するとわかったことは大きい。

 中でも龍毒さえ使えば、たとえ相手が手練れであっても一瞬で絶命させることができるということがわかったのは、大きな収穫だろう。


 そして相手の状態を可視化できる毒魔法の力により、ロンドは襲撃者達の名前を三人共知ることができた。

 恐らく公爵であれば、彼らの名前からでも手に入れられる情報の幅がぐぐっと増えるはずだ。

 とりあえず公爵から命じられた、自分としての役目はある程度果たしたかな……と、精神的にクタクタになっていたロンドはなんとか別荘へ戻った。


 ロンドの隣には、襲撃以降何故かずっと服の裾を掴んで離さないマリーの姿がある。


 無理もないことだ。

 侍女に襲われたと思えば、その次には別荘での襲撃。

 こうも立て続けに襲われれば、気が滅入るのも当然のことだ。


 マリーを守るといったロンドの言葉は嘘ではない。


(彼女を襲おうとする敵をどうにかできない限りは、公爵家の食客でいさせてもらうことにしよう。今の彼女にはきっと……側にいてくれる誰かが、必要だ)





 二人は基本的に同じ卓で食事を取ることにしていた。


 本来であれば庶子のロンドがマリーと同じテーブルについていい道理はないのだが、彼はあくまでも食客――つまりはマリーの父であるアナスタジア公爵が直々に呼び込んだ賓客という扱いになっている。


 若干の不躾な視線を気にしなければ問題はなく……そしてロンドはそういうものを気にするタイプの人間ではない。


 そのためロンドは現在マリーが気兼ねなく話すことのできる、唯一と言っていい同年代の人間だった。


「ほらロンド、お魚を食べる時はまずこうやって外から切り分けてですね……」

「は、はあ……」


 ロンドにとって食事と言えば、素材そのままを食べるせいで味気ないものか、保存のために塩漬けにするせいで味の濃すぎるものだった。

 そんな貧乏舌を極めている彼にとって、この公爵家に来てからの料理は驚きの連続だった。

 塩辛くない繊細な味付けというものを食べて最初は物足りなく感じていたものだが、今は完璧とはいかずとも素材の味を活かす妙味というのを理解し始めている。

 ここを出てから元の食生活に戻れるか、不安になってくるほどだった。


 慣れていない川魚を言われたとおりに切り分けるのは、正直面倒だった。

 それだけではない。

 テーブルマナーというのは非常に多岐に渡っていて、やれスープが出たときは飲み干してはいけないだとか、やれナイフとフォークを使う順番はこうでなくてはいけないだとか覚えなくてはいけないことは非常に多い。


 そのため以前は、料理自体は楽しみではあったがあれこれ言われるのは面倒だったのだが……今日はどういうわけか、様子がいつもと違った。


「まあ、ロンドはロンドですよね。料理は美味しく味わうのが第一ですから、好きに食べていいですよ」

「そうですか……それじゃあ遠慮なく」


 マリーはロンドの食事の作法を正すことはせず、ロンドの顔をにこにこと見つめていた。

 少しだけ戸惑ったが、向こうがそう言ってくれているのだからと、ロンドも今まで自分がやってきたやり方で食事を行うことにした。


 半分ほど言われた通りに切り分けて、皮を取り除いた魚の右半身。

 それをフォークでブスリと刺し、そのまままるっと口の中に入れた。


 内臓は苦く、骨は口の中で暴れ回り、皮はカリッと揚げられていてサクサクとした食感だ。 繊細な味はするが、色んな物が混ざっているせいで大分ジャンキーというか、混沌とした味わいになっている。


 だがやはりそもそもあまり上品な食い方が得意ではないロンドからすると、こうやってバクバク遠慮なく食べる方がずっと性に合っていて、美味しく感じられた。


「美味しいです」

「そうですか……それはよかったです」


 ロンドが襲撃を斥けてから、マリーの距離は襲撃以前よりもずっと近くなった気がしていた。


(恐らく気のせいでは……ないと思う)


 柔和で人当たりがいいのはそのまま、距離感がなんだか前より近い気がするのだ。

 普段ははす向かいの席で食べることが多いのに、なぜか今回はマリーが隣にやってきている。


 そのせいで心なしか、使用人達の目つきがキツい。

 基本的に他人の機微に疎いロンドであっても気付くのだから、他の者達も皆気付いているのだろう。


 けれど別に、自分にやましいことは何一つない。

 ロンドはとりあえず周囲の目を無視しながら、食事に勤しむことにした。


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