問い
大司教よりも上の立場とされている聖女ともなれば、面会が叶うまでにはずいぶんと時間がかかるかと思ったのだが、ロンドが予想していたよりはるかにスムーズに、なんと当日のうちに面会が叶うことになった。
どうやらメンチは、進言がすぐに聞き入れられるくらいには聖女に近い立場の人間らしい。
「うちはレア様の側近っすからね!」
「そ、そうか……」
口が軽かったりすぐにロンドのことを信じたりしている彼女が側近という時点で、深刻な人材不足なのは間違いない。
もしかすると最初に話を聞く相手を間違えたかもしれない……とは思いつつも、そんな態度はおくびにも出さずに待ち合わせ場所へとやってくる。
その場所は聖女が宿泊しているというホテルの一室だった。
ロンドが泊まっている宿と比べても数段は格が高く、おまけに指定された場所はその中でも特に格調高いスイートルーム。
公爵家の屋敷に慣れていなければ、間違いなく萎縮してしまっていただろう。
スイートルームに入り、シスターに誘導されて中を進んでいくと……
「あら、あなたは、あの時の……」
「……やっぱり、そうでしたか」
ホテルのスイートルームでロンドを待っていたのは、先日図書館で出会ったあの青髪の少女だった。
青の髪に青の瞳、清流を連想させる澄んだ雰囲気を持つ彼女が、やはり聖女だったらしい。
どこか浮世離れした美しさがあると評したロンドの感覚は間違っていなかったようだ。
「では改めまして……私が第百二代目の聖女、レアです」
「……どうも、訳あって聖王国にお世話になっているロンドと申します」
「うちはメンチっす!」
「いや、お前のことは知ってるから自己紹介いらないって……」
メンチの言葉に、げっそりとするロンド。
そんな様子を見て、聖女レアが口に手を当てながら小さく笑う。
「あらあら、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったんですか?」
「ロンドはうちの舎弟っすからね!」
「誰が舎弟だよ、誰が……」
メンチは明らかに距離感がバグっており、数時間ほど話しただけでなぜかロンドにめちゃくちゃよく懐いた。
彼女は胸襟を開き、『本当にそれ言って良いの?』と思うような機密っぽいことから本当に何にもならなそうな情報まで、実に色んなことを教えてくれた。
なのでロンドは聖女派の面子も名前だけはある程度覚えることができたし、先ほどロンドのことを先導してくれた子がルルゥという名前で、好きな食べ物がテールスープだということまで知っている。
聖女の側近ということだし、本当ならメンチともある程度しっかりとした態度で臨む必要があるとは思うのだが……彼女を相手にすると、なぜかそんな風にかしこまるのが馬鹿らしくなってしまうのだ。なのでロンドも彼女には普通に友人に対するような態度で接してしまっている。
これもメンチの人徳(?)のなせる技なのかもしれない。
「でもメンチから話を聞いた時には驚きましたよ。まさかロンドさんの方から私にコンタクトを取りに来るなんて」
「ああ……いや、レアさんの評判は良く耳にしていましたからね」
「あら、ありがとうございます」
お世辞を言っても、レアの表情はまったくといっていいほどに動かない。
浮かべているのは柔和な微笑なのだが、それはどこか人形めいていて、まるでセメントを作って固めた仮面のように、どこか無機質だった。
「それに……レアさんには、聞きたいことがありましたから」
「聞きたいこと……ですか?」
ロンドはレアの方を見ながら、自分がここにやってきた理由――彼が最も気になっていることについて口にする。
「自分がここに呼ばれた理由……知っているのなら、それを教えて欲しいんです」
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