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需要と供給


「よし、薬草採取なら私達に任せて! ここら一帯に生えている薬草なら、大体の分布もわかってるから!」


「それなら任せようかな」


 ロンド達はアランビックの森にやってきた。

 森に詳しいという二人に素直に先導を頼むと、ミルヤとルドゥがすいすいと先へ進んでいく。


「魔物と出会った時はどうするんだ?」


「倒すか、光魔法で追い払うか、逃げるかですね」


「この森はそんなに強い魔物は出ないけど、Dランク以上の魔物が来たら逃げ一択って感じね」


「なるほど……そんなことを言ってるうちに、Dランクの魔物の姿が見えてきたけど」


「「――えっ!?」」


 道中で薬草を採取をしながらスローペースで進んでいると、話し声を聞いたからか一体の魔物が現れた。



マッシュディアー


健康状態 良好

HP 79/84



 やってきたのは鹿型の魔物であるマッシュディアーだった。

 通常の鹿よりも一回り大きな見た目も目を引くが、やはり一番気になるのは本来であれば角が生えているところに代わりに生えている二本のキノコだった。

 ずいぶんとかわいらしい見た目をしているが、あのキノコの胞子には強い幻覚作用があり、突進で相手に胞子をふりかけてから捕食をするという結構エグい魔物である。


「ロンド、逃げるわよっ!」


「結界を張りますッ!」


 二人は鬼気迫る様子で光魔法を使おうとするが、ロンドはまったく緊張感のない様子でスッと彼女達の前に出た。


「大丈夫、こいつは俺が仕留めるよ……ポイズンボール」


 猛毒、球形、魔力はほどほどに。

 ロンドが発動させた毒魔法は、こちら目掛けて駆けてくるマッシュディアーに面白いほど見事に命中する。


 ドスンッ!!


 大きな音を鳴らしながら、頭に角の代わりにキノコを生やした奇怪な見た目をした鹿であるマッシュディアーが地面に倒れ込む。


 毒に身を冒され口から泡を吹き出したマッシュディアーの身体が一際大きくぴくりと跳ねたかと思うと、そのまま全身から力を抜いて横に倒れる。

 ロンドは状態を確認ししっかりと死んでいることを確かめてから、解体に移ることにした。

「す、すごい……」


「Dランクの魔物を、一瞬で……?」


 二人は目の前で起きたことが未だ信じられない様子で、ロンドが背嚢の中に魔石を入れる様子を呆けたように見つめていた。


 ロンドの方は解体を終えて立ち上がり、くるりと後ろを振り返る。

 そして自分の方を見て呆気にとられている二人の方を見て、ニコッと笑いかけた。


「この程度の魔物なら問題なく倒せるから、魔物は気にせずちゃっちゃと薬草採取終わらせようか」









「ロンドって、めちゃくちゃ強かったのね……」


 アランビックの森に入り、薬草採取を始めることしばし。

 この森について詳しいというのは嘘ではないらしく、二人は迷いない足取りで薬草の群生地へと向かい始めた。


 本来ならいくつもの迂回路を使い可能な限り魔物と接触せずに済ませるのだが、今回はロンドがいるおかげで最短距離を突っ走ることができた。


 その結果がロンド達が背負っている背嚢に摘められた薬草と、それ以上にぎっしりと入っている魔物の素材、そして未だ天高くに煌々と光っている太陽だった。


 採取をしながら、襲ってきた魔物達は見敵必殺の勢いで倒し、最もお金になる部分と魔石だけを解体で採取して先へ進む。

 そんなことを繰り返しているうちに、あっという間に荷物が持てないほどに膨れ上がってしまった。


「まあ、これくらいはね」


 ミルヤの賞賛の声に少し気恥ずかしくなり、鼻の頭をかく。

 だがロンドからすればここで出てくる程度の魔物は、片手間でも十分に倒せるものばかり。


 クリステラとの激戦の後では、まったくといっていいほどに脅威を感じていなかった。


 イマイチ緊張感が出ず、あくびをしながら淡々と魔物を屠っていくその様子に、ミルヤとルドゥはおののいていた。


(ルドゥ)


(うん、そうだね)


 ミルヤとルドゥが視線を交差させ、どちらともなく頷き合う。

 彼女達は森に入ってからの短期間で、ロンドがただ者ではないことを理解していた。


 というか、彼がおかしいのは一目見れば明らかなのだ。

 彼が使う魔法は、彼女達が知っているものとは大きく異なっている。

 魔道具を使っている様子もないことから推測すれば、考えられる可能性は一つ。


 ロンドが使っているのは間違いなく――系統外魔法だ。

 ミルヤ達は系統外魔法の使い手を見るのは初めてだった。


 ロンドはあまり派手に森林破壊をしないようなるべく軽い毒魔法だけで倒していたのだが、それでも二人には刺激が強すぎたらしい。


 これほどに強力な魔法使いであるロンドが、新人冒険者として活動をし始めた。

 そこには間違いなく、何か深い理由があるはずだ。

 深く突っ込んでしまえばタダでは済まない可能性も十分に考えられる。


(この縁を逃さないようにしなくちゃ!)


 だがそれはそれ、これはこれ。

 そんなことを気にしていてはこの厳しい世界で生きてはいけない。


 同年代で将来有望という優良物件であるロンドを前に、ミルヤはふんすと鼻息を荒くした。

 これを機に仲良くなっておけば……と心の中でむふふと笑う。


 彼女の心の変化を読み取ったルドゥは内心ではぁとため息を一つ。

 ミルヤと幼なじみである彼女にとって、その内心を推し量ることは難しくなかった。

 だがルドゥもロンドの人柄を気に入っていたので、とりあえず一旦は静観しようと心に決める。


「ん、どうかしたのか、二人とも?」


「なんでもないわ!」


「ええ、なんでもないんです……なんでも」


「……? なんなんだ、一体……」


 ロンドが不思議そうに首を傾げながらも、二人について歩いていく。

 情報が欲しいロンドと彼と仲良くなっておきたいミルヤとルドゥ。

 彼らの需要と供給が完全に一致した瞬間であった。


 それから更にアランビックの森を、魔物を気にせずに大胆に進んでいった一行は薬草の採取をあっという間に終えることに成功。


 余力で狩った魔物の討伐を常設依頼としてこなし更に素材の売却益も入ったことで、その日の報酬はミルヤ達が冒険者になって以降最高額をぶっちぎりで更新するのであった。

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