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向かう先


 幸いなことに、次の日の朝になってもロンドに官憲の手が伸びてくるようなことはなかった。

 気になったので昨日戦った路地裏に再度向かってみたのだが、既に遺体はその場から消えていた。


 そして恐ろしいことに、ロンドがつけた破壊の痕も全てが元通りに修復されていた。

 昨日襲われたのか自信がなくなるほどに完璧な修繕だ。


(となると昨日の暗殺者……ファンデルとかいったっけ。あいつも、間違いなくある程度権力のあるやつから派遣された刺客なんだろう)


 だがそうなると、ただ観察するに留まって何もしてこなかったあの監視者の存在が気になる。

 ひょっとすると聖王国自体、完全に一枚岩というわけではないのかもしれない。


 詳しい話を聞かせてもらえるかと思いリバーディン大司教の下へ行ったが、今すぐに会うのは難しいという返答が返ってくる。


 だが少し考えてみれば、それも当然の話と言えた。

 大司教というのは、王国で言えば上級貴族である伯爵にあたるほどに高い地位の人間だ。やらなければならないことなども多く、そう時間に余裕があるわけではない。

 公爵であるタッデンと話すことができていたのが異常なだけで、これが普通の対応なのだ。

 それならばとバークシャーと話をしようと思い立ったが、既に彼はアランを後にしたまま再び布教の旅へと戻ってしまったという。

 その情報を聞き、ロンドは途方に暮れてしまう。


(誰が味方で誰が敵なのかがわからないのがキツすぎるな……)


 このアランで過ごすようになりロンドが感じたのは、とにかくこの場所にいるのが疲れる、ということだった。


 今も感じている監視者の存在。

 そして突如として襲ってきた襲撃者。

 いつまた襲われるかと考えると、安眠することも難しい。


 まず最初に考えたのはリバーディン大司教を頼ることだったが、よくよく考えてみると自分をここに呼び込んだ大司教が本当に味方なのかもわからない。

 いきなり襲われたことから考えると、敵の可能性の方が高いように思える。



 誰かにこの聖王国の政情に関して詳しい話を教えてもらいたいが、そもそもそれを聞く人物が信用できるかがわからない。

 今のロンドに必要なのは、信用のおける聖王国の人間であった。


 だがそんなもの、探そうとしてすぐに見つけられるものでもない。

 ここに来て日が浅いロンドには頼れる伝手もない。


 考えた結果、ロンドは早速行動に移してみることにした。

 彼がその足で向かった先とは――



「はい、それではこれで冒険者登録は完了になります」


 ――冒険者ギルドであった。


 ロンドの気が休まらない原因の一つが、自分を観察している何者かの存在だ。

 友好的でもなければ敵対的でもないそいつの視線を振り切るためには、やはりアランの外に出るのが一番手っ取り早い。

 もしついてこようものなら、アランの通用口を守る衛兵に聞いて情報を手に入れることもできるだろう。


 それに色々と考えて煮詰まり始めていたので、身体を動かしてストレスを発散したいというのもある。

 更にここであれば、同業者から色々と情報を収集することもできるのではないかという期待もある。

 複数の意味を持たせた、一石三鳥を狙う作戦だった。


「何か質問はありますか、ロンドさん?」


「いえ、特にありません」


 大司教の勧めには従わず、ロンドは実名そのままで登録を行うことにした。


 今回ロンドは冒険者として活動をするにあたって、一つ決めていることがある。

 それは己の毒魔法を隠すことなく活動を行う、というものだ。


 毒魔法は系統外魔法ということもあり、とにかく目立つ。

 けれど今後聖王国で活動していくにあたり、この力を隠して戦い続けるのは難しい。

 昨日の暗殺者程度なら使わなくともなんとかなるが、あの観察者と戦うとなれば力を出し惜しみしている余裕などないだろう。


 となればこの国で毒魔法を隠す意味はあまりない。

 もし自分の存在を大切に思っているのなら、こちらを誘ってきた時の言葉通りに、ロンドのことをエドゥアール家と反目することになろうとも守ってくれるはずだ。


 もう既に、聖王国には迷惑をかけられている。

 それならばこの程度のことは構わないだろう。


 それにこれには副二次的な狙いもある。

 自分が聖王国で活動を始めれば遅かれ早かれ、その情報は生家であるエドゥアール家へと届くはずだからだ。

 そうなれば彼らの目はアナスタジア家ではなくクリステラ聖王国の方へと向かってくれるはずだ。


 エドゥアール家の人間がこちらを狙う可能性はより高まるが、その程度のリスクはマリーに迷惑をかけずに済むのなら十分許容できる。


(俺も最初と比べれば、ずいぶん強くなったしな……)


 成人前、屋敷の中で軟禁されていた頃の記憶を思い出す。

 ロンドが見つめる窓の外で、自分の兄と姉が魔法を使って家庭教師と模擬戦をしていたあの頃の姿を。


 次いで思い出すのは、衰弱毒を使って仮死状態になっていたロンドにフィリックスが魔法を使ったあの時のことだった。

 あの時の繊細な魔法の出力の調整は、今思い出しても見事の一言に尽きる。


 だが自分も成人してから、色々な経験を積んできた。

 エルフ達との共闘やラースドラゴンとの戦い、アルブレヒトとの激戦にクリスタルドラゴン……短期間でこれほどの激闘を繰り返した人間は、他にいないのではあるまいか。


 フィリックス達兄姉と戦った時、自分は勝利を収めることができるだろうか。

 わからないがまず間違いなく、善戦することはできるだろう。


『この汚れた血の落ちこぼれが……二度と私の前に、顔を見せないでよね』


(もし戦うことがあったら……俺が落ちこぼれのままじゃないって教えてやるさ)


 軽く笑いながら、ロンドは再び冒険者としての門戸を叩く。

 何段も上を見つめていては、足下を掬われる。

 まずはこのアランの地でしっかりと地固めをして、冒険者の輪の中に溶け込むことにしようと、彼は新天地での一歩目を踏み出した――。

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