マリーの気持ち 1
【side マリー・フォン・アナスタジア】
「それじゃあ行ってきますので、またあとで!」
「はい、私達はここにいますから。ロンドは道に迷わないように気を付けて下さいね」
手を振りながら去っていくロンドを見て、私は少しだけ寂しい気持ちに襲われる。
まだ会ってからそれほど時間も経っていないはずなのに、なぜ私はこんなにロンドのことを信じることができているんだろう。
ロンド。
彼の本当の名前は、ロンド・フォン・エドゥアール。
エドゥアール辺境伯家お父様と同じこのユグディア王国の上級貴族の生まれ……にもかかわらず、彼には気取ったところがない。
庶子として育ってきたことによる部分が大きいんだろう。
彼は貴族的なマナーを全然知らないし、食事の作法もとてもお上品とはいえない。
彼は本名で呼ばれることを嫌がる。
自分はもう、ただのロンドなのだからと。
私はお父様から、ロンドがどうしてうちにやってくることになったのかという理由を聞いていた。
なんでも実家の方では、相当にひどい扱いを受けてきたらしい。
私は彼が魔法を使えるようになった理由を知って、激怒した。
エドゥアール家は才能がないからという、たったそれだけの理由で――ロンドに毒を飲んで自決するよう、彼を拘禁したというのだ!
そんなことが許されるというのか。
たとえ母方の血が平民のものだとしても、残る半には、しっかりとエドゥアール家の連綿と続く血が流れているというのに。
けれど彼は――神様はロンドを見離さなかった。
なんとそのまま毒を飲んで、自身が系統外魔法である毒魔法であることに土壇場で気付くことができたのだ。
彼はなんとかして家を脱出し、エドゥアールの影響下にない土地を目指して放浪し……そして我らがアナスタジア公爵領までやってきた。
そして話を聞きつけた彼は……自分の中に毒を取り込んでまで、私のことを治してくれたのだ!
その時のことを思い出すだけで……私の頬は赤くなる。
お父様の向こうにいた、ロンドの顔。
格好よくて……精悍で……あの時のインパクトが強すぎたせいで、今でも目を瞑れば、彼の顔を思い出すことができるくらいだ。
私のことを治してくれた彼は、未だに公爵家の屋敷に留まってくれている。
エドゥアールの人間に自分が生きていることがバレていれば、下手をすれば殺されるかもしれない。
彼は私を助け恩を作ったお父様に手伝ってもらい、エドゥアールの動きを探っている最中なのだ。
もし、エドゥアールの人間がロンドは死んだと確信しており、なんにも変化のない毎日を送っていたとしたら……その時彼は、それでも屋敷に留まってくれるのだろうか。
私は彼に、まだ何一つお礼をすることができていない。
感謝の言葉を伝えることはあっても、感謝の気持ちを形にすることが一度もできていないのだ。
(この別荘に来たのだって、半ば私のわがままみたいなものですし……できればこの小旅行中に、何かできたらいいんですが……)
それがなんなのかは思いつかなかった。
なので一旦脇に置き、私は本来の目的である魔法の練習を始めることにした。
ロンドは毒魔法という、今まで見たことも聞いたこともなかったような系統外魔法を使いこなす。
特にさっき見た、あのドラゴンのような魔法……あれは本当にすごい威力だった。
彼に置いていかれないように……私も、頑張らなくっちゃ。
私だって――アナスタジアの血を引く、由緒正しき貴族家の娘なんですから!
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