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さらば!


「ご、ごほっ……」


 全身土埃まみれになりながらもなんとか防御に成功していたロンドだった。


 ただポイズンドラゴンを使った状態で更に幾重にも防御魔法を構築し、最終的に咄嗟の思いつきで自身の身体を毒の鎧で包み込んで、なんとか耐えきることができたといった状態だ。


 胸元にしまっていた回復の魔法石を使ったからなんとかなったように見えているが、既に体力も魔力もからっけつで、実質死に体のような状態である。


「ふむ、流石ヴァナルガンドが選んだだけのことはあるな」


 ばさりと翼を羽ばたかせながらロンドの近くに降り立つクリスタルドラゴン。

 すわ戦闘再開かと思わず身構えるロンドだったが、まったくといっていいほどに敵意を感じず、上げかけた手を振り下ろす。

 どうやら戦闘自体は終わった、と見て良さそうだ。


「合格、という認識で間違いないでしょうか?」


「及第点、といったところじゃな。まだまだ修行が足りん、もっと精進するように」


 クリスタルドラゴンがスッと前足の指を上げる。

 そこから現れたのは、先ほどまでと比べても明らかに透明度が上がっている、後ろの景色がそのまま見えるほどに美しく質の高い水晶球だった。


 前足の指をぴんっと動かすと、弾かれたように球が飛び、そのまま弓なりの軌道を描いて飛んでいく。

 その先にいたのは、


「ぐうっ……!?」


 倒れたふりをしながら反撃のチャンスを窺っていたアルブレヒトだった。

 用意していた雷魔法を使い咄嗟に防御しようとするが、水晶球はその防御魔法を貫通してみせる。

 攻撃を避けたアルブレヒトだったが、その時不自然に水晶球の軌道が変わる。


「……追尾能力まで!」


 避けきれず激突したアルブレヒトがそのまま衝撃を受け、その場に倒れ込む。

 どうやら今度こそしっかりと意識を失ったらしく、完全に伸びた状態になっていた。


「あやつもなかなかに見所がある。人間は早く死ぬ、あれくらい生き急いでちょうどええくらいじゃ」


 アルブレヒトのようにはまったくなりたくはなかったが、とりあえず頷いておくロンド。

 彼の視線の先に広がっているのは、変わり果てたドラグライト山の光景であった。

 生み出された巨大な水晶が中央に突き立ち、巨大なクレーターができあがっている。


 そしてその周囲には大量の水晶球が散らばっており、どこか幻想的な光景が出来上がっている。試しに一つ手に取ってみると、かなり硬度があるらしく、指の関節で叩いても硬質な音を返すばかりでヒビの一つも入ることがない。


 神龍が生み出したものなのだし、間違いなくただの水晶ではないだろう。

 色々と使い道がありそうだ、と考えているとあちこちからうめき声が上がり始める。


 水晶と舞い上がった土に埋もれていたタッデンやキュッテ達が、ゆっくりと立ち上がってきていたのだ。

 咆哮を間近で食らい吹っ飛んだ直後に攻撃を受けたためか、騎士達の傷の具合が特にひどかった。


 何人かは腕が逆に曲がっているし、回復の魔法石を使っていても今にも死にそうなほど顔が青白い者もいた。

 アルブレヒトは意識を失ったままだったが、胸は上下しているのが離れた場所からでもわかる。


 ドラゴンと戦い、誰一人死んではいない。

 その事実が、じんわりと胸にこみ上げる。


「わしも久しぶりに戦えて、少しだけ満足したぞ」


 対するクリスタルドラゴンの方はというと、ロンド達とは正反対であった。


 あれだけの魔法を連発していたというのにまったく息切れした様子もなく、先ほどあったはずの怪我もほとんど癒えてしまっている。


 見ると近くにふよふよと浮かび上がっている水晶球の一つから発される光が照射された患部の傷がみるみるうちに治っていく。

 どうやらまだまだクリスタルドラゴンは見せていない手の内を持っているらしい。


 実力の全てを出し切ってなお、背中にすら手が届かぬほどの圧倒的な実力差。

 これが神獣なのかと、自分達との格の違いを感じずにはいられなかった。


「次があれば、その時は全力で戦おうぞ! ひねり潰してくれるわい」


「その時は……絶対にその翼をへし折ってあげるよ」


 気がつけば意識を回復させていたアルブレヒトが、瞳に強い光を宿しながら挑戦的に笑っていた。


 ロンドも同じ思いだった。

 もし次があるのなら、その時は、必ず……。


 風魔法を使い、クリスタルドラゴンがその巨体を浮かび上がらせる。

 そして翼を使い制動を行いながら、どんどんと高度を上げていった。


「ロンド、お前も精進しておくようにな!」


「は……はいっ!」


 名前を覚えられていたことが意外で思わず素の反応をしてしまったロンドを見て、クリスタルドラゴンがこくりと首を縦に振る。

 その様子は孫を見る好々爺のようで、どこか人間くさく見えた。


「それでは……さらばだ!」


 瞬間、クリスタルドラゴンが一際大きく翼を動かした。

 すると突風が発生し、目を明けていられなくなったロンドが咄嗟に腕を前に出す。

 彼がもう一度顔を上げた時、既にそこにクリスタルドラゴンの姿はなくなっていた。


 こうして無事ミスリル鉱山の問題は解決し、後には戦闘の余波で内側の坑道がまともに使えなくなった鉱山と、大量の水晶だけがその場に残されたのであった……。

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