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vsクリスタルドラゴン 4


 流れ出す血液が透明な身体を伝うことで、まるで水晶の中に赤い液体を流したオブジェのようになっているクリスタルドラゴンは、至る所に傷こそあるもののまだまだ元気が有り余っているのが一目見てわかるほどだった。


 ふんっと鼻から大きく息を吐き出しながら、目の前にいるアルブレヒト目掛けて攻撃をかけようとする。


「ポイズン……ぐうっ!?」


 そこに放とうとするのは、またしても機を窺っていたロンドの放つ最大の一撃であるポイズンドラゴンだ。

 今まで通りに魔法を使おうとしていたロンドは、発動の直前に違和感に気付く。


(なんだ、これ……っ!?)


 ぐんぐんと、まるで自分の中の魔力を制御する弁が外れたかのように、ものすごいスピードで魔力が減っていく。

 ロンドの毒魔法は燃費の良く、その継戦能力の高さが強みの一つだ。

 それ故に彼は毒魔法が使えるようになってから一度も、魔力欠乏症に陥ったことがない。


 だが現在発動させようとしているポイズンドラゴンは、まるでロンドの持つ魔力の全てを食らいつくすかと思うほどに大量の魔力を、どんどんと吸い取っている。

 ロンドの顔からは血の気が引き、全身からは汗が噴き出す。


 己の体内に宿るというヴァナルガンドのことを聞いたからか、それともかつての旧友と出会いヴァナルガンドが昂ぶってでもいるのか、明らかに魔法それ自体が変質している。


 そんなロンドの推測を裏付けるかのように、背中が輝き出したかと思うと、ドクンと強く脈打ち始める。

 そして己の存在そのものを魔法の中に溶け出させたかのように、ロンドの魔力の込められた魔法が発動する。


「ポイズン……ドラゴンッ!」


 己の魔力と気力を振り絞る勢いでロンドが放ったポイズンドラゴンは、本当に同じ魔法なのかと思ってしまうほどに別物に変わっていた。


「BAOOOOOOO!!」


 まずすぐにわかるのは、その大きさ。今までに放ってきたものよりもはるかに大きくなっているその魔法は、クリスタルドラゴンに比肩するほどの巨大さを誇っていた。


 次にその見た目。

 毒々しい紫色をしていたはずのポイズンドラゴンは真っ黒に変色し、龍を形取っていた液体状だったその姿はシャープに、より龍を想起させるものに変わっていた。


 ポイズンウォールソリッドのように毒自体も硬質化しており、まるで本物の龍と見間違うほどに精巧に細部まで作り込まれている。

 今までに放たれたどの魔法よりも強大なその毒龍が、雄叫びを上げながらクリスタルドラゴンを噛みちぎらんとその顎を大きく広げる。


「ぐっ……」


 全身から力が抜け思わず倒れ込みそうになるのをなんとかして抑え、膝立ちで意識だけは保とうとするロンド。

 そんな彼の眼前で、龍同士が激突する。


 そしてその結果を待たずに、残る者達もまた、勝負に打って出始めた。


「ここが勝負所だ、全員気張れ!」


「「「「はいっ!」」」」


 騎士達は全員が剣を構えながら突貫する。

 その手に握る剣には己の得意な属性の魔法を宿し、魔法剣を発動させる。


 炎が渦を巻く赤い大剣が、透明な風の刃によって伸びたレイピアが、水の勢いを得て跳ね上げるように放たれる流水の剣が現れる。



 その間にロンドのポイズンドラゴンとクリスタルドラゴンが激突。

 ポイズンドラゴンは先ほどアルブレヒトが放った雷龍とは異なり、クリスタルドラゴンとがぷりよっつになりながらお互いの命を食らわんとぶつかり合う。


「GAAAAA!!」


「ぬううううっっ!?」


 純粋な勢いだけで言えばポイズンドラゴンの方が高いらしく、クリスタルドラゴンがわずかに押される。

 その隙を見逃さず、ポイズンドラゴンが首筋を食い破るように噛みつき攻撃を放った。


 びっしりと生えそろった黒光りする牙は、クリスタルドラゴンの鱗を突き破りその肉体に毒を浸食させる。

 無色透明であったクリスタルドラゴンの肉体がわずかに青みがかり、それだけ強力な毒に冒されていることが一目でわかった。


 このまま押し切れるか……とも思うロンドだったが、クリスタルドラゴンの声耳にすることで、それがあまりにも甘い考えであったことを知る。

 クリスタルドラゴンは攻撃を受けながら……笑っていたのだ。


「がははっ……うむ、今の人間にしては悪くない! ――実に悪くないぞ!」


 いくつもの傷をつけられ全身を毒に冒され、ポイズンドラゴンから未だに攻撃を受け続けながらも、クリスタルドラゴンには未だ余裕があった。


 戦いの余波を食らわぬよう、待機していたマクレガー達が、防戦一方になりつつあったクリスタルドラゴンの背面へと向かっていく。

 そしてその後ろ足へと攻撃を加えようとするが……


「――喝ッ!」


 クリスタルドラゴンが出したのは、放った先ほどより二回りも大きな咆哮。

 その声自体が魔法になっているのか、破壊力と衝撃を伴ったそれは迫ろうとしていたマクレガー達を勢いよく吹き飛ばしていく。


「ぬううんっ!」


 クリスタルドラゴンの背面が輝いたかと思うと、次の瞬間には飛翔していた。

 そして空中な一つの巨大な魔法陣が現れる。

 強烈な光を発したそれが一瞬のうちに消え去ると、次の瞬間には薄紙を切り裂いた音を何百倍にも増幅させたかのような、不思議な音が聞こえ始める。


 次に見えるようになったのは、はるか高空に現れた米粒のような小さな影。

 みるみるうちに大きくなっていくそれは、巨大な水晶であった。


 はるか高空から落とされた水晶はあっという間にロンドの背丈を超えるほどのサイズになっていき、既にクリスタルドラゴンを超えるほどの大きさになってロンド達の眼前へと迫ってくる。


星堕メテオストライク


 魔法名を口にした刹那、着弾。

 ポイズンドラゴンはそのまま勢いよく噛みつかんとするが、己の体躯を超えるほどの巨大な水晶の前にはなすすべもなく、数秒の膠着の末にバリバリと音を立てながらその身体を崩れさせた。


 ポイズンドラゴンを貫通しても尚、その水晶の隕石は止まらない。

 だがそれと同時に、クリスタルドラゴンが更なる魔法を発動させる。


「はははっ、防げるものなら防いでみるがいい!」


 その背に現れるのは、夥しいほどの魔法陣。

 高空を見上げるロンド達の視界いっぱいに、色とりどりの光を発している、数えるのも馬鹿らしくなるほどに大量の魔法陣が映った。


 そこから現れたのは、迫り来る巨大な隕石と比べれば小ぶりな水晶群。

 けれどその数が、とにかく多い。

 見ているだけで呆気にとられるような、圧倒的な物量。

 あれだけの数があれば、正確な狙いなどつける必要もなくこちらを質量だけで圧殺することができるだろう。


 そして……ドドドドドドド、ドゴォッ!!


 小さな巨大な水晶が大量に降り注ぎ、仕上げとばかりに巨大な水晶の隕石がドラグライト山そのものを押しつぶすほどの勢いで落ちてくる。

 その瞬間、世界は光に包まれ……。

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