救出
「きゃああああああああっ!!」
「マリー様っ!?」
ロンドはまさかと思いながら、急ぎ駆けていく。
マリーが叫んでいるその声は、彼にはとても切迫したものに聞こえていた。
間に合え、間に合え!
あまり鍛えておらず、決して速いとはいえないスピードで、けれど懸命にロンドは走る。
いつでも毒魔法が使えるよう用意してから声の聞こえる方へと近付いていった。
幸い、すぐにマリーの姿は見つかった。
見た限りでは、怪我をしているような様子もない。
どうやら間に合ったらしいとほっと胸をなで下ろしたのも束の間。
開けた場所に出ることのできたロンドの視界に映ったのは、一人また一人と減っていく護衛の男達と、マリーを半包囲するように展開している三人の男達だった。
「はひっ、はあっ、はあっ……」
マリーは後方にいたので、まったく戦闘に参加していない。
けれど今最も荒く息を吐いているのは、残っている護衛達ではなく彼女だった。
瞳孔を開け、全身を震わせる。
かと思えば次の瞬間にはギュッと目を瞑り、自分の身体を掻き抱くような仕草を見せた。
今目の前で戦闘が起こっているものが取るべき態度ではない。
まともに防御魔法を放つこともできないはずだ。
襲撃を受けた貴族の対応としては、落第もいいところだろう。
けれどその様子を見て、ロンドの胸はキュッと締め付けられる。
(間違いない……思い出してるんだ、自分が襲われた時のことを)
マリーはトラウマを抱えている。
自身が最も信じていた侍女に毒を塗ったナイフを突き立てられた記憶は、今も彼女の中に色濃く残り続けているのだ。
長い時間昏睡状態にあったため、体感ではそれほど間を置いていないように感じてしまっているのだろう。
(迷ってる暇はない、やらなくちゃ……マリー様がやられる!)
ロンドは一切の躊躇なく、即座に魔法を放つ。
もちろん使うのは、今の自分が最大の威力を出せる龍毒だ。
マリーを殺そうとする刺客達を、なんとしても殺さなくてはならない。
ロンドの服の隙間から漏れ出すほどに、魔力紋が強く輝いた。
「ポイズン……ドラゴンッ!」
後先など考えず、今の自分にできる魔力をありったけ注ぎ込み、魔法を発動させる。
すると巨大な毒の龍ができあがった。
(一つずつじゃ……間に合わないっ!)
ロンドの意思を汲み、ポイズンドラゴンが三つに割れる。
そしてそれぞれがまるで意思を持っているかのように、高速で飛んでいった。
全力で発動させた彼の毒魔法は、想定以上の効果を発揮させる。
バタン、バタン、バタン。
三人が連続して倒れ込み、そのまま意識を失う。
襲撃者達の状態は一瞬のうちに、三人とも絶命していた。
ダン
健康状態 毒(龍毒)
HP 0/97
スル
健康状態 毒(龍毒)
HP 0/66
テンソル
健康状態 毒(龍毒)
HP 0/105
HPが0になった襲撃者達の健康状態が死亡へと変わり、息絶えたことをしっかりと確認してから、ロンドはマリーのいる方へ歩き出す。
彼は明らかに傷だらけの護衛達に手振りで応えてから、微毒を使う。
彼らは緊張の糸がほどけたからか、その場にくずおれてしまった。
どうやら皆、限界を超えて戦っていたらしい。
彼らがバタバタと倒れると、マリーが身体をビクッとさせる。
ロンドは少し逡巡してから、マリーの手をそっと握る。
「マリー様……」
一気に身体を強張らせたマリーにロンドは声をかける。
ゆっくりと開かれる瞼。
綺麗な碧眼がピントを合わせ、その瞳が自分を捉えてから。
ロンドは心配はないのだとマリーに伝えることができるように、そして彼女を安心させることができるように、笑いかけた。
「大丈夫です、マリー様。あなたのことは、俺が守ります」
「ロンド……」
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