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建国神話



 戦うつもりがなくなったらしいクリスタルドラゴンに、一旦全員が臨戦態勢を解く。

 他の者達がいると明らかに機嫌が悪くなったので、とりあえず当初の予定通りロンド一人で話をしていくことになった。

 そんなロンドの背中をジッと見つめる影があった。


「ロンドさん……」


 そのうちの一つは今回の案を献策したキュッテだった。

 彼女はロンドが精霊に愛されていることを知っている。

 エルフの里のような自然豊かな場所へ行けば、ロンドは必ずといっていいほどに精霊に囲まれているからだ。


 故にその存在自体が精霊に近いドラゴンとの交渉の余地があるとすれば、彼しかないとは思っていた。

 だがこの展開は、流石の彼女も想像していなかった。


 彼女としては適当にドラゴンを怒らせぬようロンドに取りなしてもらい、上手いことこの場を切り抜けて帰るための理由付けをしてもらうつもりだったのだ。


「ヴァナルガンド……」


 もう一つの影は、彼女の隣に立っているタッデンである。

 歴戦の戦士でもある彼は、先ほどのクリスタルドラゴンから発されたプレッシャーを感じた瞬間に、彼我の正確な力量差を悟っていた。


 もし戦いになれば間違いなく、鎧袖一触でやられることになるだろう。

 それがわかっているからこそ、彼は冷や汗を掻きながらロンドの交渉の行く末を見守ることしかできなかった。


「帝国とロンドに、何か関係があるのか……?」


「恐らく建国神話だよ」


 そういって笑うのは、この場では唯一帝国と関わりのある人間であるアルブレヒトであった。

 彼はロンドの背にある龍型紋章を見つめながら、ぺろりと舌で唇を舐める。


「貴様、タッデン様にそのような口をっ!」


「いい、アルブレヒト。建国神話とは帝国のもの、で合っているか?」


「その通り。帝国を建国した初代皇帝はそりゃあもう強かったらしいけど、どうやら彼はその背後にある黒龍の加護を受けていたらしい。その龍の名が、ヴァナルガンド。それにあやかる形で、帝国の名はつけられたのさ」


 ヴァナルガンド帝国初代皇帝であるドゥブラ一世。

 その名や功績以外をほとんど知られていない神秘のヴェールの一端を聞かされる。


「もっとも、あの紋章を見て龍が目の色を変えた理由はわからないけどね。まさかあれがヴァナルカンド、だなんて馬鹿な話があるわけもないし」


「……」


 その言葉にキュッテは何も言わず、ジッと今までのロンドのことを思い返していた。

 今思えば、彼の精霊に対する親和性はあまりにも異常だった。

 人間であそこまで精霊に愛される人間をキュッテは見たことがなかった。

 精霊を目で見ることができるエルフであっても、あそこまで精霊に愛されている人は存在していない。


 だがもしロンドの身体の中に、龍が宿っているのだとしたら。

 あそこまで精霊との親和性が高いのにも納得がいく。


(ロンドさん、あなたは、一体……?)


 ただでさえ遠く見えていたロンドの背が、更に遠く見えた気がした。

 くらくらとめまいを起こしそうになるのをなんとかこらえながら、キュッテはドラゴンと身振り手振りを交えて話をしているロンドのことを、ジッと見つめている。


(うーん、悩ましい……このままドラゴンを挑発して戦うのも悪くないけど、それをしたらロンドに嫌われちゃうしなぁ……公爵の目もあるし、上手い落とし所を探しながら戦いに持ち込みたいところだよねぇ)


 こうして皆が別々の思惑を抱えながら、ロンドとクリスタルドラゴンの対話が終わるのを固唾を飲んで待つのであった。

 問題の渦中にあるロンドはというと……彼はクリスタルドラゴンから、この世界の、そして己の根幹に関わるある事実を聞き及んでいた――。

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