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連携


 サルートは公爵家寄りの位置にあるため、両者は公爵家側の山脈から順番に攻略をしていくことになっている。

 まずロンド達がやってきたのは五つある山々のうち、最も西側に存在しているマクリーン山だ。


 外から見ているとわからなかったのだが、マクリーン山を登り始めていると突然としてかなり深い霧が立ちこめて来始めた。

 まったく先が見えないというほどではないが、目を凝らさなければ先の景色が見えてこない。


「ずいぶんと霧が濃いな……」


「ロンドさん……は大丈夫かと思いますが、基本的にはあんまり吸わない方がいいと思いますよ」


「……これ、毒か何かなのか?」


「濃密なマナだよ。魔力保有量が少ない者がこれを吸い過ぎると、マナ酔いが起きるんだ」


 ロンドの質問に答えたのは、やけにニコニコと上機嫌なアルブレヒトだった。

 一緒に行動するようになってからというもの、彼はなぜかロンドとの距離が近い。


 彼がハミングしている鼻歌まで聞こえてくるほどの距離にずっといるので、ロンドとしては心が安まらない時間が続いていた。


「マナ……って、なんだっけ?」


「大気中に存在している魔力のことですよ、ロンドさん。これを吸い過ぎると、自身の魔力の許容量を超えて気分が悪くなってしまうのがマナ酔いです」


「といっても、僕やロンド達のような大量の魔力を持つ人間からすれば、むしろ心地良いくらいだけどね。吸えば吸うだけ、魔力回復の速度も上がるし」


「たしかに……なんだか身体が軽いような」


 アルブレヒトの言う通り、ロンドはこの霧を吸ってもまったく体調が変わらない。

 それどころか、感じていた疲れが明らかに軽くなったような気さえしていた。


「これが真のドラゴン……ますます、楽しみになってきたね」


 ぺろりと舌なめずりをするアルブレヒトを見て、ロンドの背筋にぞぞっと寒気が走る。

 なんだか少し怖くなったので、一旦離脱してタッデンとランディに報告をしておく。


 現状人員の中に体調不良を訴える者はいないらしい。身体が若干重いような気がするといいった報告はあるらしいが、その程度であれば問題ないかと当然探索は続行だ。


 気を取り直して警戒を続けていると、前の方から戦闘の音が聞こえてきはじめた。

 何もしないと数メートル程度しか先が見えないためとにかく見通しが悪く様子が掴みづらいのだが、どうやら魔物と会敵したらしい。


 それからしばらくすると、周囲のあちこちから戦闘音が聞こえてくるようになる。

 どうやら音や匂いに釣られて、魔物達がやってきてしまっているようだ。


「よし、キュッテ、アルブレヒト、行くぞ」


「はいっ!」


「雑魚狩りは、あんまり興味ないんだけどな……」


 やる気満々のキュッテと明らかにやる気のないアルブレヒトを連れて、ロンドも戦闘に混ざることにした。


 ここから中央に行くにつれ、出現する魔物も強力になっていく。

 なのでここはまだまだ序盤の前哨戦だ。

 だがそのメインディッシュに待っているのはクリスタルドラゴン。


 体力の温存も必要ではあるが、今後のことを考えると連携を確認しておくのは必須。

 ロンドは今の自分達ができることを確認する意味も込めて、急ぎ音のする方へ向かっていくのであった――。






 一つ目のマクリーン山を無事超えることができた一行は、次の山であるロイロプス山へと向かう。


 ただロイロプス山まで来ると更にマナが濃くなり、とうとうここで脱落する兵士達が出始める。

 というわけでここから先は、事前に決めていた通りに軍を分けていく形を取ることにした。


 魔力が少なく辛そうな者達はマクリーン山での魔物狩りを行う担当にし、残る人員で先へ進むことにしたのだ。


 幸いマクリーン山に出現する魔物の中に、さほど強いものはいなかった。

 残してきた彼らであっても、対処は問題なくできるはずだ。


 ロイロプス山は更に霧が濃く立ちこめるようになってきており、その分進軍速度も落ちる。

 そしてまた、出てくる魔物も強力なものに変わっていた。


 ただマナが濃い場所では魔力の回復速度も上がるため、魔力量に余裕があるものはその継戦能力が大きく上がるようになる。


 そのためロンドとキュッテ、アルブレヒトにタッデンの四人は、ある程度大物が出てきた場合、積極的に対処を行うようにしていた。

 その方が味方の被害と消耗を抑えられるし、彼ら自身今の自分達がどこまでやれるのかをしっかりと把握しておきたい、という目的もある。


「GUMOOOOOO!!」


「ふぅん、ギガントトプスか……少しだけどマシにはなったね」


 アルブレヒトが見つめる先にいるのは、後ろ足を上げながら突進の準備をしている、巨大な恐竜の姿があった。恐竜型魔物、ギガントトプス。


 Bランクに位置しており、熟練の冒険者が数パーティーで組まなければ倒せないほどの強靱な肉体とタフネスを持つ。

 鼻の辺りに生えている角は翡翠に似た緑色をしており、その体色は保護色になっているからか緑と茶のマーブル模様をしていた。


「かかっておいで」


「GUMOOOOOO!!」


 アルブレヒトが軽く雷を使って挑発してやると、ギガントトプスはそのままアルブレヒト目掛けて勢いよく突進を開始する。

 あっという間にトップスピードに到達したその速度は、あと数秒もすればアルブレヒトへとその鋭い角を押し込んでみせるだろう。

 だが……


「大地よ!」


「GUMOOO!?」


 キュッテが使用した土魔法により、ギガントトプスの足下にへこみが生じる。

 全力で直進することに集中していたギガントトプスは足を取られ、そのままズザザザザッと勢いよく音を立てながら転んでいく。


 スピードがつきすぎていたせいで何回転もゴロゴロと転がっていくが、その動きが突然ピタリと止まる。

 足下の凹凸を作ると同時に作成していた土の壁に、思い切り衝突したためだ。


 このように使った土を別に流用する形で魔法を発動させることで、消費する魔力を抑えることができる。


 複数の魔法を同時に行使するため難易度の高い技法ではあるが、今のキュッテであればこの程度は造作もない。


「GABO!?」


 壁に激突し、衝撃から立ち直り立ち上がろうとしたギガントトプスの頭上に突如として現れたのは、角の生えた巨大な頭をすっぽりと覆えるほどの水球だった。

 水球がギガントトプスの顔を包みこむ。


 ギガントトプスは当然ながらそれを振り払おうとするが、既にロンドとアルブレヒトがそれを許さない。


「ポイズンボール」


「サンダーボール」


 死に至る病(モータル・デスベッド)ロンドの毒とアルブレヒトの麻痺を同時に食らうことで、ギガントトプスの動きが更に鈍くなる。

 そこにキュッテの土魔法による拘束が入れば、もはやギガントトプスにそれから逃れる術はなかった。


「GUA……」


 数分の後、ギガントトプスはそのまま音を立てて地面に倒れ込む。

 何度か剣でつついて絶命していることを確認してから、四人は警戒を解いた。


「やはりこれくらいの強さの魔物なら、これが一番魔力の消費が少なくて済むな」


「そうですね、全員自然回復できる程度の消費量で済みますし」


 キュッテが体勢を崩しながら拘束を行い、ロンドとアルブレヒトが弱体化させ、タッデンが水魔法で窒息死させる。


 この戦法を確立してからは、濃くなったマナを取り込み早くなった自然回復だけでまかなえるほどの魔力消費だけで魔物を倒すことができるようになった。


「猟をしてるみたいで、楽しくない」


 血湧き肉躍る戦いがしたいらしいアルブレヒトは、ぶすっとつまならそうな顔をしている。

 だがドラゴンとの対決前に消耗するつもりはないからか、今のところ独断専行もあまりしていない。


 アルブレヒトは流石に戦闘経験の桁が違うからか、まるで息を吸うように自然にロンド達に戦いの波長を合わせることができていた。


 タッデンの方も集団戦にかなり慣れているからか、無理ないタイミングでしっかりと攻撃を合わせてくれている。


 各員の役目がしっかりと分担できているおかげで、自分の仕事に集中していればいいというのも大きいのかもしれない。

 なんにせよ急造のパーティーにしては、なかなかどうして悪くない連携だった。


 こうしてロンド達は積極的に戦闘を行いながら、ロイロプス山も無事に踏破。

 本丸であるドラグライト山へと足を踏み入れるための準備を整えるのであった……。

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