公共放送でこれはちょっと……(料理)
出勤前に準備をしながら普段は見ない時間帯の、料理を扱うものを見ていました。
「ほったらかしで時短、食材旨味アップ」という形でとりあげられていた話題のなかに、塩してジップロックして冷蔵庫に何日もいれる、というものがあったのです。朝イチという番組です。
(それ以外の、たとえば肉野菜炒めで、下味をつけた肉に片栗粉をまぶしておく、などはよかったと思います。)
なかには肉についてまでジップロックして入れて酵素の力で旨味をアップというものもありました。
「鶏や豚でしばしば問題になる食中毒原因菌が、塩をしてジップロックに入れて冷蔵庫のなかで放置するなかでどのように増えるのか、科学的な検証はして、(問題にはならない程度だった)というデータはあって放送をしているのか」
という点で、非常に気になりました。
野菜類に関しては、二%の塩と酢と小さじ1の砂糖をしてジップロックで冷蔵庫とのこと。10日以内には使うようにということでしたが、翌日ならともかく何日も置いておいて衛生上問題にならないか。本当に大丈夫なのか、気になります。
味のバランス的には浅漬けに近いだろうなと思いますが、保存という観点では、食材に対して塩分濃度が低い気がします。酢を入れたとしても、どこまで細菌類の繁殖を防げるか、気がかりです。
自宅で漬け物をつけたり、果実酒をつけたり、ジャムなど保存食系を作られるようなかたならイメージが伝わりやすいかな、と思うのですが、塩辛いものにも細菌類の増殖を抑えるなどの意味がありますよね。
塩でも砂糖でも減らすほど、作ったものがビンなどの中で腐ったりカビたりしやすくなるので、器具の洗浄や煮沸(熱湯消毒と煮沸消毒は違います)、あるいはアルコール消毒などが念入りに必要になったりしますよね。
家庭レベルでも本来はそうなんです。
知識があるかたは念入りにするでしょうから、もしかしたら、食中毒を起こすレベルにはなりにくいかもしれないけれど、そうでない人はどうなのでしょう。
もちろん、コンビニとか外食チェーン、あるいは病院など、
「生で使うものは、器具も野菜も専用に消毒をした上で徹底的に管理されている場合」は、まだリスクは低いでしょう。(でもそういうところは、厚生省が出している食中毒防止のためのガイドラインに違反し、マニュアルに反してやって食中毒を起こせば信用問題になり、打撃も大きいため、危ないことはやらないと思います)
でも家庭でそこまでしているでしょうか。大部分の家庭は、せいぜい、「包丁とまな板を使い分けています」「熱湯をかけました」「まな板は塩素系漂白剤でまめに処理しています」程度ではないでしょうか。
そこまでのこともやっていない家庭だって少なくないかもしれないのに。あれを大々的に出していいのか――かなり不安です。
料理研究家とか、いわゆる「プロ」として出演されるかたって いろんな方がいらっしゃると思うのですが なかには、独自理論のかたもいるような気がします。
以前にも「ローストビーフの作り方」で、安全衛生の観点(食中毒予防の視点)からみたとき個人的に不安になるレシピがあったのです(これは朝イチではなかったかもしれませんが、NHKでした。表面焼けばいい、というシンプルレシピです。牛肉だから大丈夫というアバウトなものでしたが、
堀田は海外に住んでいた時期がありましたが、欧米は、中心温度計を突き刺して深部が○度(華氏表示が多いですが摂氏だと ローストビーフみたいな生っぽいものでも58~60℃くらい)とか厳密に記載される料理本が多かった記憶があります)
表面についた菌は時間経過とともに肉の内部に入っていきます。もともと切れていたり割けていたらなおさら。表面焼いたからOKとは限らないんですよね。
熟成○○などというものが、一時期流行りました。これは、正しく行われなければ危険なことです(実際に外食産業の店でも、処理のやり方が問題になっているケースがあったようです。)。
時間に余裕があるときにあらかじめ切って置いておけば確かに楽は楽でしょう。
それでも、前提の処理はおざなりのまま形ばかりが採り入れられれば、食中毒事故に繋がりかねません。場合によっては人の命が奪われる結果に繋がることだってあるのです。
なぜ、毒性があるとわかっているのに、日本より厳格なことも多い国の「加工肉」で、発色剤(亜硝酸ナトリウム)が使われることが推奨されているのかとか、この関連の話は、語り始めると色々あるのですが(とはいえ私は選べるなら“無塩せき”を使いたいほうですが――ボツリヌス菌など、中でじわじわ増えて猛毒を作り出すことがある微生物の増殖を抑制するなど、危険な食中毒を予防するうえでも高い効果を発揮するらしいのです。)
話が脱線しましたのでここまでにしておきます――
今回の内容(今朝の内容なので、ネットに出るのはもう少しかかるかもしれません)はそれどころでないかもと思いました。
安易に採り入れるべきではないことはあります。絶対にダメとは言いませんが、番組として「暮らしに役立つ情報」として紹介する、つまり番組として、そのやり方を視聴者におすすめする以上、
少なくとも公共放送なのですから、安全性が危ぶまれる内容はきちんと検証されること。もし検証しだうえで放送したというのなら、その事実に触れた上で、前提としての衛生環境の確保が必要なことは、視聴者に云う必要があるのではないか、と思うのです。
食材を扱う上での注意点も何も示されてはいませんでした(キノコ類は傷むとか、生で食べない根菜類はやめたほうがいいとかそういうレベルの注意はありましたが)。洗うポイントや器具についても「衛生のためにこうしたものを使ってください」とも示されないまま、伝えるだけ伝えて終了というものでした。
(そりゃ時短を売りにしているのだから、そういうことを言ってしまうと(え、全然時短じゃない、メンドクサイ)ってイメージになるかもしれません。でも、もし、あまり衛生のための工夫を普段からしていないご家庭でやったらどうなるのでしょう。
作ってすぐに出すのなら、多少不衛生でも食中毒は起こりにくいんですよ。
その人の状態によりますが、食中毒を起こすには「細菌や、それが産み出した毒素」の量がある程度以上に増えていること が前提となるんです。
置いておく「時間」が短ければ、すぐ作ってすぐ食べるなら、よっぽど不衛生な環境でないなら健康な人はそんなにお腹を壊しはしません。
でも、置いておけば、そこで菌は増えます。冷蔵庫でも、増殖スピードがゆっくりになるというだけで、増えないわけではありません。
だからこそ、仮に、あのやり方でも大丈夫であった場合であっても、包丁やまな板がまめに洗われ、消毒されているものであることや、当たり前だと思われるかもしれませんが(家庭によっては使いまわしをしていることを知っているので、あえて記載しています)、ジップロックを使いまわししていないことなどは前提だと思うんです。
手でべたべたと触れているのも気になります。
その都度、使い捨てタイプの衛生的な手袋を使っているとか、事前に手洗いをした上でアルコール消毒をしているなどであればいいのですが――
あのやり方は、食中毒予防のために国が出しているガイドラインからみたらアウトじゃないかなと思うのですよ。もしクリアしている、細菌類はそれほど増えないときちんと検証しています、というなら、ちゃんとコメントしてほしい。
細かいと思われるかもしれませんが、
特に幼い子どもがいる家庭、超高齢社会で高齢者世帯が増えるなか(高齢者層のNHK視聴率はほかの世代よりも高いと考えられます)
適当にして良い話じゃないと思うんです。
健康な大人は、ちょっとお腹痛くなる、何回かお腹を下しましたという程度ですむかもしれないけど、子どもやお年寄りはそれでは済まないかもしれません。在宅介護とかしているような場合はなおさらです。
幼い子どもさんの育児や介護などの労働に追われてくたくたになっている人が「ほったらかし」に惹かれて実行したら それを小さな子どもさんや、寝たきりに近い状況のかたに食べさせたら?と想像してみてほしいんです。
健康な大人が食べることが前提だ、小さな子どもさんや体が弱い人や病気療養中のかた、などには控えてください、というなら番組中に、分かりやすくきっちりと、主張すべきです。
視聴者のためだけではなく、
医療者のためにも(そういうことが引き金になって、心臓や脳血管系の基礎疾患があるかたの状態が悪くなることもある。自衛できることでは急患を増やさないでほしい)」
社会全体のためにも(防げるものは不正だほうが
税金という面でも、余計な支出は抑えたいではありませんか 人が動かされれば莫大な費用が嵩むんです。日本だと社会的な支出って。あんまり意識されないかもしれないけど、病院かかるにしろ救急車などを呼ぶにしろ、全額個人負担ってことのほうがマレ(すごい額が飛びます)ですよね。)
インターネットなどは仕方ないと思います。
でも、法律作って家族から離れて独り暮らしを送っている学生からでも無理やり料金徴収しようとしている公共放送です。
若者離れで、“魅力ある番組作り”のため、色々改編しようと躍起になるのは分からなくもない(でも、“ガッテン!”シリーズ打ち切りは、残念でした。問題もゼロではなかったけれど、データをふまえる、間違いはきちんと訂正する、批判的な内容も報道する、そういう意味ではNHKにしかできないことをやってくれる番組だったと思って、あれだけはたまに録画してでも見ようと思うこともあったのですが)
ともかく、報道する上で責任感はもってほしいんですよね。
どうなのかな……と、不安になりました。
余談
ローストビーフ58℃は安全か
できればもう少し上げたいですが、レアステーキでもローストビーフでもこれ以上上げると
焼いた肉になるんですよね。
上記で、色は生でもない焼けてもいない“ロゼ色”におさまります。
おすすめは、表面を焼きつけてからジップロックに入れて氷水で急冷して表面温度を下げる(熱の伝わりをすぐに遮断する。そうしないと以下のやりかたでは、小さい塊肉は余熱で焼きすぎになるので)
↓
冷やしたものを、ジップロックのまま再び70℃くらいの湯にひたすら浸けて中心温度が60℃くらいになるまでひたすら加熱
です。絶対に安全とは言えません
それでも58℃くらいでもその温度帯で長時間おくとある程度細菌類を弱らせる(死滅はさせられなくても、増殖する元気を弱らせられる、というイメージに近いです)ことは見込めます。
テレビの報道でしばしば気になることはあります。
ネットはそういうもの(もとより玉石混淆、情報の信頼性は低い、なかにはガセが混じっていて当たり前)なので仕方ないと諦めていますが、
公共放送でそれはまずいだろう なんのための公共放送だと思ってしまうんですよね。放送内容についての責任感が民放と変わらないレベルなら法律作って徴収するのはやめてほしいし、
やるなら徹底してほしい気がします。