40話
後方から迫ってくるブラウンとフューリーのワイルドボアを倒し、後方の馬車に乗っていた二人から言伝を頼まれ乗っていた馬車に戻る。
キョロキョロと辺りを見渡して、ソワソワする【青銀の戦乙女】でエルフのリフィーナと目が合う。
その近くにはリフィーナの仲間、二又とんがり帽子のミミンと群青色の髪をしたフェルトが、俺の姿をみて安心した様に肩を下ろす。
その状況を見た後にリフィーナの顎を少しあげ下に見るような目付きで俺を睨む。
「ふん、あんた生きてたんだ」
「生きてるぞ」
「ちっ違うわよ」
「何が違うんだ?」
「私が心配してあげてるの? わかる?」
「わからん、俺はコベソに要がある」
「ちょっ……」
『リフィーナっ!心配してたならそれなりの言葉っ』『そうよ』とミミンとフェルトの声に、一瞬見えたのがリフィーナの表情が変わり、寂しそうな顔をしていたが、それに気にもせず扉を開け外から中で待つコベソとトンドに先程の伝える。
「おおハーデスさん。 速いな」
「まぁ、最後尾の御者から言伝がある」
「言伝?」
「魔物、イノシシだったんだが」
「イノシシ……。 ワイルドボアか?」
「あぁ、なんだかブラウン、フューリーとか言ってたな」
「ブラウン? フューリー!!」
目を見開くコベソとトンドだが、何か後ろの方でざわめいている。
「向こうの御者だっけかな。 その肉、今日のオカズにしたいから、血抜きしていくっとか」
「そうしたら、待たんとな」
「アイツらなら持っているんじゃないか?」
「アレか?」
トンドが分かったらしくコベソが頷いていると、俺もあの二人が言っていた言葉が脳裏に蘇る。
「そうだ。 秘密道具があるとか」
「ハーデスさん。 それなら安心だ。血抜きならバッチしだな」
「俺は、向こうに行ってみる」
そう残し、馬車から離れて見るとリフィーナの声がする。
「ふん、あんた達生きてたんだ」
「はいはい、こっちは勇者がいるからねぇー」
笑顔でリフィーナの横を通り過ぎるペルセポネとユカリに少し涙目になり少し鼻を啜るリフィーナにミミンとフェルトは更に身震いし始めたリフィーナの肩を抱き締めたり軽く叩いたりして落ち着かせていた。
「戻ってきたのか?」
「ハーデス。 そっちはどうだった?」
「ワイルドボアか。 そいつらが五匹でブラウンとフューリーとか言ってたな」
『五匹』と言う言葉の所で【青銀の戦乙女】達が小声で何か話し合っている。
「ブラウンに、フューリーなのね。 こっちは最悪だわ」
「ええ、最悪でした」
「それなら〜、私に『助けてぇ』って呼んだら……」
口を挟むリフィーナを無視し、声を消すようにペルセポネが少し大きめな声を出す。
「コボルトよっ。コボルトっ!! ブラウンと一匹だけ明るめの……」
「あれ、イエローでしたよ。 コボルトイエロー」
「そう、色ついてるから魔法使えるのかと思ったら――――」
「キャッ!!」
ペルセポネが近くにいた二又のとんがり帽子のミミンの手を引っ張り俺の目の前で、後ろから抱きつく。
咄嗟の事でリフィーナとフェルトが、唖然となり動けないでいるが、ミミンの頬が赤く染まり、瞳が輝き出している。
そのミミンを後ろから抱き締めているペルセポネは、ミミンのコートを開き胸元が開いたローブが顕になり、そんな事お構い無しにペルセポネは、自分の手の平をミミンの白い肌をした胸元に当てる。
「――――でね。 そうしたらぁ魔石無いのよ! 胸の中グリグリって突っ込んで引っ掻き回しのに無いの」
「あぁあ……お、お・ねぇ・さ・まぁ……」
吐息に混じって呟くミミンから離れて、ミミンが元の場所へ戻され、スっと手を離なすペルセポネに後ろ髪引かれて手を伸ばしペルセポネを求めるミミン。
「ユカリが、見てくれたら使える魔法無いんだってよ」
「ええ、そのイエロー。 電撃耐性だけあったぐらいで、周りにいたブラウンと同じでした」
「早めって言うから、これは強いって思ったのにぃ」
「でも私は、強い魔物で経験になりましたよ」
俺達は、話しながら馬車に乗り込むとミミンもペルセポネの後を追うようにササッと乗り込む。
馬車の外でリフィーナの鼻を啜る音にフェルトがリフィーナに声掛けている。
「なんで、お疲れ様とか言えないの?」
「だだだって。 私……」
「その気高さ直そ」
「うん」
フェルトは、リフィーナの肩を抱きながら馬車に乗り込むと、俺達の顔を見るなりリフィーナの声がこの幌馬車に響く。
「ふん、私に助けて欲しいって早く言う事ね。 アテルレナスに着くまで無償で助けてあげるわよ」
直ぐに発せられるリフィーナの言葉に頭を抱えるミミンとフェルトだが、コベソとトンドも抱えて、先に進むようコベソは、御者に伝えていた。
沈黙の中、新たな街に着く前野営となる。
勿論野営の料理は俺が狩ったブラウンとフューリーのワイルドボア。
御者と従業員の言葉通り、少し高級品の豚肉のような味わいで味付けもよく、何故か【青銀の戦乙女】三人はガッツリと食べていてリフィーナは、お代わりを要求していた。
そして、この馬車エビナの街に向かっているのだが時折、付近の村に向かってはヒロックアクツ商事の従業員達が、商いをして進んでいる。
なんでも、コベソの言う事だとカツオフィレに点在していた支店の在庫を減らす為だとか。
――――あんな物あるのか?
農具を売っていたのを見て、「基本行商は村だからな。農業の道具は必須だ」とドヤ顔するコベソ。
ランドベルクの移動の際にも村が合ったのだが、その時は立ち寄らずそのまま真っ直ぐカツオフィレに向かっていた事に今さら気づく。
転々と商いを進めているコベソとトンドは、「武器よりも農具や」「農薬や肥料だな」と笑っていた。
トンド側は何故か直ぐに人集りが出来ていた。
その答えにトンドは、真面目な目付きになり答える。
「痛み止めを販売していた」
「それ、薬じゃない!?」
「リフィーナ。 それは違う」
「何が違うの? 痛み止めって……」
「俺のは、痛みを止める飲み物だっ」
「それ、薬」
「飲み物!!」
「なんで薬じゃいけないんだ?」
トンドとリフィーナの睨み合いの中、言葉を挟む。
「あぁ、薬は国か冒険者ギルドを通してしか販売してはいけないんだ。 認可が必要なんだよ」
「あんたっ! そんな事も知らないの? コベソ、やっぱり私が……」
手を出しリフィーナの言葉を止めると、ピタリと止む。
――――『やっぱり私が……』のリフィーナの言葉、続き何を言おうとしてた?
「勝手に売ると捕まっちゃうんですよ」
「国に寄って違うが、重い罰則もある」
「そう。包み紙や瓶に国や冒険者ギルドの刻印がある物のみ販売可能って事だ」
【青銀の戦乙女】のミミンとフェルトも加わり教えてくれるとトンドもリフィーナを無視して話に入る。
――――この世界の薬事情は、分かったが……もしかしたら、薬の認可取るための賄賂とか、そんな悪事な事があるとか?
「そういえば、この前魔王バスダトの時――――」
「「「魔王っ!?」」」
ユカリの『魔王』発言に驚く【青銀の戦乙女】三人は、目をひん剥き、体を捩れそうな程ユカリを見つめる。
「――――あの時貰ったのは」
「あ〜ぁ。 あれは……うーん。 回復するく……飲み物だ」
「トンドっ!! 今【薬】と言おうとしたでしょっ!?」
「うっ、うるさい。 飲み物だっ! 飲み物しか言ってないぞ、ポーションなんて絶対言ってないし」
「ポーション……って『液状した薬』の事でしょ」
「断じて薬ではないっ! あれは【ポション】とした飲み物だ」
「なななっ【ポション】ってぇっ、何だい?」
言い争っているリフィーナとトンドの騒ぎに、二人を除いたこの場にいる全員は、そのまま目を閉じ、ゆっくりと体を休める事にした。
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