11話
腫れぼったい目をしながらフォルクスの妹がコーヒーを注ぐ。その音が響く程鎮まる店内。
依頼完了の打ち上げの筈なのに沈黙が漂う。
だが、フォルクスの一言が、沈黙を打ち消した。
「俺たちこの後冒険者ギルドに行くんだが。 ハーデスさん、俺たちと一緒に行かないかい?」
ペルセポネの前にミートソースっぽいパスタに生クリームと思えるケーキもあるのだが、同じのが載ってたと思える空の皿がもう一枚ずつある。
「あぁ、冒険者ってのに登録しないと依頼受けられないんだろ?」
「そう。 依頼も完了もそこでするんだ」
俺は何も知らないと言う顔をしながらも、平然と会話をするが、異世界物で冒険者になるってやってみたいって思ってたし、再び胸高鳴るけど、平常心。
「それなら、先輩達から教えて貰うか」
「なら、善は急げだな」
フォルクスが、コーヒーを飲み干す。
他のタリアーゼのメンバーもちょうど食事を終えたみたいだ。
そして、ペルセポネも終わったようで口を拭いていたけど、ケーキの皿が五枚ぐらい積み上がっていた。
「あのぉー美味しかったですか?」
「ええ、美味しかったわよ。 ごく普通って感じで安定した味……安心出来る味だわ」
「……うぅ。 そうですか!」
「ええ!」
フォルクスの妹は、ペルセポネの返答でまた目が潤い溢れ出ないよう唇を噛み締めていた。
それを見ていたフォルクスだが、見て見ぬふりなのか「ちょっとギルド行ってくる」と言い残して店を出てしまう。
他のタリアーゼのメンバーも、後ろ髪引かれそうなのを振り切って出ていったので、俺とペルセポネも続いて店を後にフォルクス達に着いていく。
すると、ドアベルがカランコロンっとなると。
「お兄ちゃん!私……おじさんの所に行くわ」
フォルクスの妹が、涙ぐんで駆け寄ってくる。
「わかった。 コベソさんに言っておく」
「うん」
何か気が晴れたのかフォルクスとその妹も笑顔になり、妹は再び店に戻る。
「直ぐ、休店だな。 すまないね妹が……」
「いいぜ、料理の腕が上がるんだろ!」
「でもさ〜。 トンドさんも悪いよな。 あの言い方」
「確かに〜。 あれは酷いな」
フォルクスの礼に、ダナーにマイクそしてマラダイが、愚痴を呟く。その後ろにライカも、うんうんと頷くだけだった。
すると、ペルセポネの声がフォルクスに届く。
「ナタデココっての。 なんでやってないの?」
「あっ」
「流行ってるのに」
「ペルセポネ。 フォルクスが!!」
冷たい目線をフォルクスに向けるペルセポネだが、それにも気付かないフォルクスは、すこし頭を掻き大きく溜息を吐き出した。
「リーダー。 あれは何で作っているかわからんだろ?」
「そうだ。 ヒロックアクツでやっている店じゃないか!」
「いや、ナタデココ。 妹が何を使っているか教えて貰ってて、この前試しで作ってたんだよ」
フォローしていたマイクとマラダイは、フォルクスの言葉に驚き、「なんで言わない?」と突っ込んでいたが、それも拍車にかかり、フォルクスの全身気落ちしたオーラが漂う様に見える。
すると、気落ちしているフォルクスは、ある建物の前で足を止めるとタリアーゼのメンバーも止まるとダナーが、近づいてくる。
「今リーダーのフォルクスが、こんなんだからな。 ハーデスさん、ペルセポネさん、ここが冒険者ギルドだ!」
見立てでは三階建て有りそうで年季の入った白い壁をした中世に見られるホテルの様な建物だが、入口にある扉は、俺の肩から脛あたりまで隠れてしまう、西部劇で出てきそうな酒場の扉ウェスタン扉だ。
入ってみると、酒場と見間違えないが、円形のテーブルと椅子が並べていて、ホテルのロビーと思えるほど広く天井が高かった。
冒険者ギルドに入ったフォルクスの顔色は変わり、笑顔になっていた。
「ハーデスさん、冒険者登録あの左にあるカウンターで、俺たち依頼完了の報告しに行ってくるから」
俺とペルセポネは、フォルクス達のパーティ【タリアーゼ】と別れ、隅の方にあるカウンターへ行く。
カウンターに手を着くと、受付の女の人が、椅子に座っていたが、全く俺たちに気付かずグルグル回転していた。
俺は、カウンターをノックする。
回転途中で俺と目が合って、急に止まろうとして、椅子から転げ落ち床にひれ伏していた。
乱れた髪を整えている受付の人は、幼さが残る顔でニコッと会釈をしてくる。
スカートの丈が短いのか、白い下着が見えたのは黙っておこう。
「あっ、あっ、まさかこんな時に来るなんて……」
「こんな時?」
「すみません。 取り乱し、目が回っています」
「だろうな」
「も、もしかして冒険者登録ですか?」
「そうだ。登録をしたい」
「では、こちらに名前を記入してください」
少し黄ばんだ一枚の紙をカウンターにだし、ペンを渡される。
その紙、本当に名前だけ書く欄しかない。
「書いたぞ」
「あ、ありがとうございます。 それでは……。 血って大丈夫ですか?」
「血?」
「登録に、このここに血を一、二滴垂らして欲しいのですが、稀に拒否する人もいて」
血か……。俺の身体、この世界の住人を真似て作った肉体だから、血なんてあるか?
――――この体作った時、俺自身、手を出していないからな。ヘカテーに任せっきりにしたのが失敗か?
そう悩んでまご着いていると、横からペルセポネが口を挟む。
「魔力呪判で!」
「魔力呪判?」
「あっ、分かりました。道具持ってくるので、お待ちを〜」
『お待ちを〜』と言いながら受付の人は、席を外れる。
『魔力呪判』と言うのを何故ペルセポネは、知っているのか気になるのだが、そもそも魔力呪判とはなんだ?
「魔力呪判って?」
「あの受付、説明してないけど、冒険者登録の規約の同意と能力や形跡の登録の為に、血を使うんだけど」
「そうなのか」
「そう、でも受付がさっき言ってたけど、血出したくない時に魔力で登録するの。 血も魔力も変わらないわ」
「で、どうしてそれを知っている?」
「――――ほら、ヘカテーの報告に」
「無――――」
「すみません、お待たせしました」
表面に子供のような手の印があり、平べったい円形の石を俺の前に合った登録用の紙の上に出して笑顔で「こちらで」と手を差し伸べてくる。
この受付の人、少し説明が足りなさそうと思い、その石を俺は睨んで悩む。
「石に手を置いて神力を注ぐだけ」
ペルセポネが、俺の後ろから囁くが、何かインスタントラーメンの謳い文句かのような、口調でふと、冥府で頼んだインスタントラーメンを思い出してしまった。
俺は、石に手を置き、神力を注ぐように流す。
異世界物で、能力を測る時に魔力を流すと道具が壊れると言う話が、頭を過ぎったので俺は、そおっと流す事にした。
平べったい石が、緑色に発光すると直ぐに消える、それを見ていた受付の人が、俺を見て「ありがとうございます」と石を退け、紙を凝視する。
「と、とっ、……。 ありがとうございましゅっ。 ありがとうございます。 これでとうりょく、登録が終わりました」
「こっちに何か書類とか無いのか?」
「えっ?」
冒険者登録したら良くカードとか貰えると思って、楽しみしていたのだが貰えないと思うと、俺は若干気落ちしている。
「いえ、登録終われば大丈夫です。 今登録した魔力で判断出来るので、依頼受ける時はあちらの受付で依頼書持参の上再び魔力を」
受付の人が、指すカウンターを見ると年齢層がバラバラなパーティが、平べったい石に手を当ている。
つまり、依頼受ける時、石で受託と完了の登録をしているのだろう、そして、依頼書は壁に貼ってあるのも見えて、そこには数名、壁を眺めている者もいたし、ペルセポネもいた。
「お、終わりました。 何かありますか?」
「いや、無い」
「でっ、ではっ!!」
紙を大切に抱え、何か追われているような顔と速さでカウンターから離れ裏に行く受付の人。
よく分からないが、受付の人バタバタし過ぎだな。
壁に貼られた依頼書を見ているペルセポネに近づき「終わったぞ」と声を掛けるが、軽い相槌されて、真剣に依頼書を探している。
「所で、ペルセポネは登録しないのか?」
「私、しているから大丈夫」
ペルセポネは、冒険者登録しているのは、分かっていた。この世界に俺よりも前から来ているのも分かるし、コベソとの会話で冒険者と旅人の違いも分かっている。
フォルクス達タリアーゼもまだ、報告が終わってないのかカウンターで何やらやっている。
ペルセポネの追求は、おいおいする事として異世界物の風物詩である冒険者ギルドを堪能しておくか。
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