いっぱい寝て、いっぱい食べるんだよ
一区切りです。
オレタチ、キョウリョク。ウミ、キレイ、シタ。
お〜、そっか。凄いね〜、頑張ったね〜。
カナ、ミサ、タスケル、キメタ。
えへへ、嬉しいな。そうだ、イゴーリさん達は?
カエル、パナケラ、イッテタ。
じゃあ、ドロドロも何とかしちゃったんだ。凄いね。
マチ、モトドオリ、パナケラ、イッテタ。
お姉ちゃん達は?
カナ、ミサ、ハヤク、オキテホシイ、イッテル。
そっか〜、そろそろミサをぎゅ〜ってしたいしね。
オレ、イツデモ、アイニイク。
ありがとう、キュウイ。
キュウイ、ナニ。
あなたのお名前だよ。嫌かな?
イヤ、チガウ。アリガト。オレ、キュウイ。
もしかしてさ。ミサを乗せてくれた子は、ミサに会いに来てくれたのかな?
ソウ。ミサ、ハナシ、シテル。
そっか、ありがとう。それなら、ミサがその子に名前をつけてるかもね。
アトデ、タシカメル。ナマエ、ナカッタラ、モライニイク。
あはは、心配ないよ。
イロイロ、アリガト。
私も、ありがとう。じゃあまたね。
マタ、アウ。
☆ ☆ ☆
「およ? 体が動かない? あれ? 力が入らない?」
そういえぱキュウイに、どのくらい寝てたのか聞いてなかったね。お姉ちゃんが心配してるって言ってたけど、お出かけしてるのかな? お家の中に気配が無いね。
それはともかく久しぶりのミサだよ。隣に寝かせてくれてありがとう、お姉ちゃん。目がショボショボしてよく見えないけど、「ん〜ミサ〜」って感じだよ。なんか、ぎゅお〜ってなるね。
でもさ、体が動かないから、ぎゅ〜が出来ない!
「仕方ない。せめて匂いだけでも」
「カナ。耳がき〜んってするから、うるさくしないで」
「おお、ミサ! 会いたかった!」
「私も会いたかったけど」
「けど何?」
「ぎゅ〜はしない」
「いやいや、ミサさん。そもそも体が動かんぜよ」
「六日も寝っぱなしだったんだから、暫くは無理」
「そんなにか〜。もう少しやれると思ったんだけどな〜」
「今はこれが限界」
「大っきな力を使うには、もっと鍛えなきゃ駄目って事だね」
「今回は無事に戻れただけで良い」
「そう……だね」
私は調子に乗ってたんですね。まだまだ弱っちいのに、出来るって勘違いしてたんですね。それで、お姉ちゃんに心配かけて、私は凄く馬鹿です。
いっぱい反省しよう。ミサにばっかり任せてないで、私もちゃんと考えよう。二人で考えれば、もっと良い方法が見つかるかもしれないし。
それで、もっと力を使える様にしよう。今度はイゴーリさんに置いてかれない様に、ドロドロなんかに負けない様に、お魚さんが化け物になる前に助けられる様に。
「カナ。私もだよ」
「そうなの?」
「失敗ばかりだった。その場しのぎで何とかした。それだけ」
「そっか。今度はもっと上手く」
「ん。それより今は、やらなきゃいけない事が有る」
「何をやるの?」
「歩ける様にする」
「お〜、そうだね。なんかお腹が減ってきたかも」
「私も」
「そういえば、ミサはどんな名前をつけたの?」
「シャチ?」
「そう」
「クゥール」
「そっか〜、可愛いね」
ミサとお話ししてたら、外からドドドって音が聞こえてきます。段々と近付いてきます。この足音は、お姉ちゃんです。きっとお姉ちゃんは、走るのが速いです。足音がドドドだし。
ばんって扉が開きます。おじさんにそっくりです。それから、またドドドってして、お部屋の扉がガンって音を立てて開きます。その内、家中の扉が壊れると思います。
「カナちゃん! ミサちゃん! 目が覚めたの?」
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよ」
「よかった、本当によかった」
お姉ちゃんは私達の顔を見ると、部屋の入り口で崩れるように座り込みました。それから、ゆっくりと私達の側まで来ます。まだ体を動かせない私達を、お姉ちゃんは優しく撫でてくれます。何だか温かいです。頑張って良かったと、心から思います。
それから、お姉ちゃんはお粥を食べさせてくれました。お腹がじんわりと温かくなります。それと、お姉ちゃんは私達が倒れてる間の事を、いっぱい教えてくれました。
漁師さん達が港に戻って来る頃には、イゴーリさんは首都へ帰ったそうです。パナケラさんは私達の治療の為に街へ残って、今朝ようやく首都へ帰ったそうです。
私達が倒れた次の日には、首都から武器を持った人達が来て、街の見回りをしてくれる様になったみたいです。
武器を持ってるけど、街のみんなには優しくしてくれて、仲良く出来そうだって言ってました。
それと街の人達は、臨時報酬っていうお金を貰ったみたいです。みんなはそのお金で、港の外れに慰霊碑っていうのが建てらしいです。
お姉ちゃんのお母さんとか、病気で亡くなった人達がいます。助けられなかった命は多いです。こんな事を繰り返さない為にって意味が有るそうです。
因みに、パナケラさんは慰霊碑を触媒の代わりにして、私が強化した結界を更に強化してくれたみたいです。「相乗的に効果が発揮する様に整理したから、ちゃんと見て学ぶ様に」だそうです。
もう一つ、お姉ちゃんのお仕事が決まったみたいです。国のお偉いさんの下で働くそうです。
「一応ね、内務局特別駐在員って肩書なの」
「なんだか難しい言葉ばっかりだよ」
「カナ、諦めちゃ駄目」
「ふふ。派遣された兵士を管理したり、街に異変が有ったら報告するのが主な仕事ね」
「お〜、凄いね」
「頑張って、お姉ちゃん」
「それとね、パナケラさんに名前を貰ったの」
「なんて名前?」
「エラ・リエルよ」
「エラお姉ちゃんだ」
「おじさん達は?」
「大きい兄さんはジーク・リエル、小さい兄さんはライト・リエル」
「他の人達も名前を貰ったの?」
「そうよ。不思議ね、名前を貰って実感したわ。私はもう人形じゃない」
意味がよくわかりませんでしたけど、エラお姉ちゃんが嬉しそうなので良かったです。
それから私達は頑張りました。やたらと街をウロウロしました。色んな人に声をかけられて、沢山のお友達が出来ました。私達と同じ歳の子とも、お友達になりました。みんな私達より大っきかったです。偶然です、私達がちっこいんじゃないです。
同じ歳の子達は、いつも家の手伝いをしてるそうです。でも、私達がちゃんと動ける様になるまで、遊んでくれました。最初の内はお家の中で遊んでましたけど、外に出れる様になる頃には、街中を使って追いかけっこをしました。
訓練ですから、ミサは足を速くする魔法を使ってません。私はエラお姉ちゃんから貰った、普通の靴を履いてます。それでも、私達が勝っちゃいます。「普通の子供とは、鍛え方が違うのだ」って言ったら、「ちっこいくせに」って言われました。そんな事ないです。
思ったより早く動ける様になったのは、パナケラさんの治療とエラお姉ちゃんのご飯のおかげです。特にエラお姉ちゃんのご飯は最高です。お料理もいっぱい教わりました。
夜はエラお姉ちゃんに抱きついて寝ます。ミサとは違う抱き心地です。でも、凄く安心します。エラお姉ちゃん、大好きです。
何日かは、遊んだりお手伝いしたりして過ごしました。でも、そろそろ行かなきゃ駄目です。大好きな人達がずっと幸せで過ごせる様にしなきゃ駄目なんです。
ジークおじさんは、「近くの街まで馬車で連れてっやる」って言ってくれました。近くの街は、多分『ばあちゃんが言ってた街』です。でも、私達は断りました。歩いていかないとね。
お別れの日が近付くと、街のみんなが集まってくれました。お祭りになりました。みんなで美味しいご飯を持ち寄って、騒いでガハハです。
みんなが私達に「ありがとう」って言ってくれます。私達こそ『ありがとう』なんです。
お祭りの間は、みんな楽しそうにしてますけど、お祭りの終わりが近付くと少し寂しそうです。
子供達は「遊びに来てね」って言いながら泣いてました。私達もつられて泣いちゃいました。ジークおじさんもこっそり泣いてました。ライトお兄さんは優しそうな目で、ジークおじさんを眺めてました。その夜はエラお姉ちゃんが、ぎゅ〜ってしてくれました。
それとね、エラお姉ちゃんから昆布を沢山貰いました。旅のご飯が充実します。そういえば昆布が欲しくて、この街に来たんだったね。色々と有ったから忘れちゃってたよ。
お祭りの翌日、私達は街を出ます。ばあちゃんとお別れした時の何とも言えない気持ちが、私の中に溢れています。寂しいけど、また会えるから。大丈夫なんです。
「元気でね」
「エラお姉ちゃんもね」
「ん」
出発は朝早くです。でも、みんな集まってくれました。最後にみんなにお別れを言います。
「カナ、ミサ。お前達と出会えて良かった」
「私もだよ、ジークおじさん」
「ん」
私達が歩き出すと、みんなが声をかけてくれます。それまで無口だったミサが、大声で「またね〜」って返してます。それは、街のみんなが小さくなるまで続いてました。また来るねって言えるのは、幸せな事かもしれません。
悔しい気持ちになりました。自分が情けないとも思いました。それ以上に、沢山の優しさを貰いました。だから、一歩を踏み出せます。
ありがとう。
『壊れた希望のセカイ』の十七話に話が移ります。
次回もお楽しみに!




