頼りになるのはお姉さんでした
新キャラです。
私達は、おじさんの後について歩いています。おじさんはゆっくり歩いてくれるんですが、たまにミサが追い抜きそうになります。おじさんがびっくりして「おうっ」ってなります。
「お前達は歩くのも早いのか? 子供なのに凄いな」
「お前達じゃないよ。私はカナだよ」
「ミサ」
「そうか、よろしくな。俺は……、ん? まぁいいか」
「それで、おじさんの家は何処なの?」
「白い壁の家が見えるか?」
「どうしようミサ、ほとんど白いよ」
「おじさんは役立たず」
「何だよ、最後まで聞けって」
「おじさんに言われたく無い」
「そんな事ないよ〜。おじさんはね、昂ってるんだよ〜」
「襲う気? 殺られる前に殺る」
「ミサ、怖いよ」
「やっぱりお前達、変わってるな」
変わってるのは、おじさんです。優しくて、とても熱くて、何か足りなそうです。
「とても可愛いを足したら、カナになる」
「お〜。私はおじさんだったか」
「そんな訳ないだろ! そろそろ着くぞ!」
そうして辿り着いたのは、真っ白い壁の家でした。周りの家も同じでした。ずらって並んでると綺麗です。でも壁が白いから、おひさまの光を反射して凄く眩しいです。
ここに住んでる人達は、よく自分の家がわかるね。凄いね。私なら家に帰れないよ。だって、真っ白な迷路だもん。
疲れて座り込んだら、「ふっ。やるな、お前。熱いぜ、俺の魂を燃やし尽くす程に」って言いながら、反射した光でドロドロに溶けちゃうんだよ。
まぁ、お家の影に座れば、それほど暑くはなさそうだけどね。
流石におじさんは落ち着いたのか、静かに玄関の戸に手をかけます。バーンといかないです。
さっきまでのおじさんは『ぐおおおぉっ』て感じだったから、そこらじゅうの玄関を壊しまくるのかと思いました。そりゃあ、子供も目を覚ますよね。
でも、やっぱりおじさんはおじさんでした。扉を少し開けた所で、お家の中から音がします。おじさんは、慌てた様に中へ入ります。
扉はガンって音を立てて壁にぶつかり、跳ね返った勢いでバタンと閉まりました。そして私達は、外に取り残されました。
「ふっ、予想外だぜ!」
「カナ、何それ?」
「ケイロン先生っぽくない?」
「ケイロン先生はそんな事を言わない」
「そう?」
「ん」
そんな訳で待ちぼうけです。お家の中から「うおぉぉぉ!」って猛獣の雄叫びみたいな声が聞こえます。おじさんは、また昂ってるみたいです。
暫くすると静かになって、扉がゆっくり開きます。そしてヒョコッと顔を出したのは、なんと美人のお姉さんでした。
「ごめんなさい。兄が失礼をしたみたいで」
「大丈夫。待ったのは少しだけ」
「そうだよ〜。それでお姉さんは誰さん?」
「あのおじさんの妹よ。それより、あなた達がみんなの病気を治してくれたのね?」
「治したのはカナ」
「ミサが協力してくれたからだよ」
「そう。二人共ありがとう。さぁ入って、ご馳走を作るわ」
お姉さんは腰を曲げて、私達の目線に合わせる様にして喋ってくれます。優しい人です。
何よりニッコリとした時の表情が素敵です。何だか照れてしまいます。ミサの次に美しいです。
私がモジモジしてると、お姉さんは優しく手を引っ張ってくれました。お姉さんが好きになりそうです。
お家に入ると、おじさんがウロウロしてました。そして、お姉さんを見つけると駆け寄って来ます。
「おい! 歩き回って大丈夫なのか?」
「ええ。それより兄さん、恩人を外で待たせちゃ駄目じゃない!」
「あぁ、済まないな。カナ、ミサ」
「カナちゃと、ミサちゃんね。そこに座って待っててね」
「おい! そういうのは俺がやる」
「兄さんは用があるでしょ?」
お姉さんは私達を見ると、ニコっと笑いました。素敵です、おまけにわかってらっしゃいます。焦らされたミサが、苛つき始めてるんです。
そしておじさんが、おずおずとこっちを見ます。ミサがギロッと睨みます。
「す、済まない。妹も病気になって寝込んでたんだ」
「お姉さんには罪が無い」
「うんうん。綺麗な人だね」
「でも、おじさんには罰が必要」
「そうなの?」
「腕立て伏せをしながら、腹筋運動をする事」
「無茶だよ、ミサ」
「おじさんなら出来る」
「軟体動物じゃあるまいし、無理だ! 閉め出すつもりは無かった。反省してる、許してくれ」
「今回だけは許す」
「そう言いつつ、ミサはそんなに怒って無いよ」
「そうなのか?」
「ミサは優しいからね〜」
私は色々と勘違いしていた。おじさんは優しいし正義感が強い。だけど、何だか空回り気味だ。この調子だと、私が簡単に予想出来る事しか言わなそう。
そんな訳で、私は頭の中で整理しつつ、今後の作戦を立てる事にした。
今わかってる限り『魚が持つ毒と大きな怪物』が対処すべき問題だ。そして、この二つは関連してると思う。そうじゃ無ければ、妙な事が立て続けに起こらない。どちらにしても、二つとも厄介な問題だ。
毒に関しては、広い範囲に影響が広がってる可能性が有る。仮に、自然の浄化作用に頼るとして、毒が完全に消え去るのにどの位の時間がかかるか。その期間次第では、漁が出来ない街は貧乏一直線になる。
つまり、具体的な解決策を探さなければならない。
但し、結界の範囲内であれば、魚にも効果は現れてるはず。だから、既に獲った分と入り江で泳いでる魚に関しては、毒を気にする必要は無いと思う。
これは、実際に魚の内臓を見れば、直ぐに確かめる事が出来る。お姉さんが料理をするはずだから、見せて貰おう。
次に怪物だけど、これも難問だ。私とカナでは倒せない。おじさん以外に漁師の人が何人いるか知らないけど、全員集めて戦っても無駄死にするだけ。
入り江に誘き寄せるのは、愚策中の愚策だ。街を一飲みにするほど大きいんだから、誘き寄せてる間に高波に襲われる。その波と一緒に、大量の魚が降ってくる可能性が高い。そうなったら攻撃する余裕が無くなるだろう。
唯一の可能性は、海の生き物達に戦って貰う事。これについては、『私と意思疎通出来て、他の魚に指示が出せる、賢い海の生き物』の存在が必要になる。
こうなってくると、私の知識だけでは作戦が立てられない。なので私は、おじさんの相手をカナに押し付けて、台所へ向かった。
「お姉さん。海について教えて」
「あら? 私で良いの?」
「お姉さんがいい」
「あっちのおじさんじゃ無くて?」
「ん」
お姉さんは、海の事や海で暮らす生き物の事を教えてくれた。私の思った通り、お姉さんの説明はわかりやすい。
因みに、長い菱形をしてるのが、カナの言う『お魚さん』らしい。
菱形の長い方、口と尾びれが各頂点についていて、各頂点を結ぶ先の中間辺りに胸びれがついてる。
それと菱形の短い方、この頂点には背びれや胸びれなんてのがついてる。この特徴は、私の知ってる魚と一致する。おじさんが釣ったのもこれ。
それとお姉さんは、魚を捌いて腹わたを見せてくれた。あの時おじさんに見せられた様なドス黒さは無い。
これも私の予想が当たった。結界内の魚からは毒が消えている。これなら、入り江で密集している魚も大丈夫そう。
「それで、このウネウネしてるのは何?」
「ナコっていうの。これは魚じゃないのよ」
「食べられるの?」
「美味しいのよ。生でも焼いても揚げても美味しいの」
「どこを食べるの? ウネウネ?」
「ウネウネって足の事よね。そこだけじゃなくて、全部食べられるわよ」
「所で、賢い魚はいるの?」
「う〜ん、そうね。いないわね。でも、魚じゃなければ賢い海の生き物はいるわよ」
「それは何? どこにいる?」
「遠くの海で泳いでるわよ。シャチっていうの」
「それはどうすれば会える?」
「船が出せれば会えるかも。でも今は無理ね」
「そっか」
「船と言えばだけど。入江の中に集まり過ぎてるのは、魚にとっても大問題だと思うわ」
「どうして?」
「ほら、狭くて空気が通りの悪い部屋に沢山の人を押し込めたら、息苦しくなるでしょ?」
「確かに」
「それと似た様なものよ」
「そういえば、プカプカ浮いてるのを見た」
「それは死んじゃった魚ね」
「それなら早く入り江から出さないと」
「そうね。でも、原因を取り除かなければ、出ていかないでしょうね」
そうか。結局は、あの化物を倒すのが一番の解決策なのか。そして手掛かりは、シャチっていう生物だ。
どの辺で泳いでるのかな? それさえわかれば、後は海を経由して私の意識を繋げれば話せるはずだ。
☆ ☆ ☆
「あのよぉ、カナ」
「なぁに、おじさん」
「俺はミサに嫌われてるのか?」
「そんな事は無いよ」
「だってよ。俺より会ったばかりの妹に懐いてんだぞ」
「私だって、お姉さんの方が好きだよ」
「お、お前もなのか? 俺はやっぱりイカれた馬鹿なのか?」
「そんな事は無いよ。おじさんは同士だね」
「同士って何がだ?」
「それは、熱く燃える魂の同士だよ」
お姉さんの登場でした。
名前が出て来ないのには秘密が有ります。
面倒だからじゃ無いです。
次回もお楽しみに。




