寄り道したっていいじゃない
続きです。
ふっふっふ、私ってば凄くないですか? きのこの群生地を見つけてしまったんですよ。後はウスラモモね。甘くてとっても美味しいの。山の奥でしか手に入らないらしいの。ばあちゃんが一度だけ採ってきたの。がぶってしたらお口の中に果汁が溢れるの。ひょ〜ってなるよ。
そして、森の中で寝ました。いつもの様に簡易結界を張ったんですが、物凄く色んなのが集まってきました。ちょっと怖かったです。
ヴ〜とかグァ〜とかグロロとかジジジとか叫んで、結界に張り付いて様子を伺ってるんです。エサ、ソコ、タベルとか思ってるんです。
でもね、私も成長するんです。やがてばあちゃんも超えるんです。
私は知ってるんです。結界が透明だから、張り付いてるのが怖いんです。なので、結界に色をつけました。そのついでにクサカラ草のエキスを、結界中に行き渡らせました。
ふふふ、痛がるがいい。私を怖がらせた罰だよ。
ただね、強化した結界がどんな結果を齎すのか、この時の私は知りませんでした。
目が覚めて結界の一部を透明に戻しました。いつもなら目を逸らしたくなる光景が広がってるんですが、今朝は少し違いました。別の意味で目を逸らしたくなりました。なぜなら、無数の死骸が殆ど無傷だったんです。
私だって馬鹿じゃ有りませんよ。直ぐにピンと来ましたよ。クサカラ草エキスのせいです。
臭いし痛いから逃げようって思わせるのが目的でした。予想外の効果です。これはかなり危険です。そして私は思い出したんです。村の周りに植えまくってます。
どうしよう。村で死人とか出てないよね。
「大丈夫。おじいちゃんが何とかする」
「何とかって?」
「頭が良いから、対策をするはず」
「そっか。凄いおじいちゃんだもんね」
「そうそう。それより山を超えたら、目的の街だよ」
「うん。それなんだけどね」
ふふふ、昨日の事です。遠くの風さん視点で見回したら、偶然に街を発見したんです。二つもです。
一つは雰囲気が有る街です。原っぱの中にポツンとしてる割に、とても賑わってます。人がいっぱい住んでます。原っぱの中にもいっぱい潜んでます、主にガルムが。
二つ目の街には海が有ります。港に船がいっぱい泊まってます。これだけ見ればもう決まりです。
海産物を手に入れよう!
海産物を馬鹿にしたら駄目なんです。美味しい出汁がとれるんです。それと戦術本に載ってました、『肉を貪るのは野蛮人、肴を楽しむのが知識人』だそうです。意味はわかりません。
「そんな訳で海の街に行こう!」
「え?」
「海産物をいっぱい手に入れよう!」
「はぁ?」
「ん? なんか気が乗らなそうだね」
「だって、ばあちゃんが言ってた街と、違う街に行こうとしてる」
「ふふふ、ミサちゃん。違うんだよ」
「何が?」
「海産物はご飯を豪華にするんです!」
「ん? お、おお?」
「ばあちゃんが喜びます」
「おお!」
「海の街に行く?」
「行く!」
ミサを説得しました。簡単でした。ちゃっちゃと昨夜の残りを食べて、支度をして出発しましょう。
「そういえば、ばあちゃんが言ってたって何?」
「忘れちゃったの?」
「なにがなにやら?」
「もう!」
ミサが言うには、ばあちゃんは『山を超えた街を経由して、首都に向かう』と言ってたらしいです。そのせいで、ミサが私達の目的地を首都にしてたみたいです。
でもさミサってば、ばあちゃんともう一度会えるなんて、本当に信じてたんだね。かわいいね。
なんていうか、希望を持つのは良いと思うの。どうやっても、二度と会えない可能性の方が高いんだし。それでも会えるなら奇跡だよね。ミサと一緒にぎゅ〜ってしよ。
後ね『あんた達は色んな所に行って、色んなものを見て、見識を深めなさい』だって。後半の意味はよくわかんないけど、寄り道は怒られない気がするよ。
ならば行こうじゃないか! そして船に乗って大物を釣り上げようじゃないか! ついでにお魚の乾燥祭りをして、出汁の素を作ろうじゃないか!
だってね、お出汁をとる時に使うあれは、妙に硬い木の欠片じゃなくて、お魚を乾燥させて作るんだって。凄いね、夢が膨らむね!
「もう道に迷わないんだよ」
「突然なに?」
「だって、遠くと近くの両方が見えるし」
「それでも、私が何処に居るか把握しといてね」
「わかった。それで海はこっちだね!」
「違う、こっち。そっちは山を登らなきゃ駄目」
「登ればいいんじゃない?」
「ここから下りて迂回するの。その方が早い」
向こう見ずだから、途中で迷子になる。カナはその典型。でも、カナの場合は誰も考えない方法で解決しそう。
例えば森の中で迷子になったら、余計な木々を薙ぎ倒しながら真っ直ぐに進むとか。
そんな事したって解決にならないし、目的地とは遠ざかる。それでもカナは呑気にしてそう。
「変な事を考えてる?」
「ん? カナを馬鹿にしてた」
「いけないんだよ」
「いいの。変な事をしそうなカナがいけない」
「そうなの?」
「ん。緊張感を持って」
「金鳥缶?」
「なんか違う」
「そうなの?」
「そう」
私達には経験が足りない。本当はカナを馬鹿に出来るほど、私は凄くない。だから、カナの提案は良かったのかもしれない。
海沿いの街に何が有るのか、大体の予想はつく。でも、実際に行かないと、わからない事も有ると思う。もしかすると、知らない事の方が多いかもしれない。
本当は、ばあちゃんと合流するのが一番安全。但し、それは一時的な安全。もっと経験を積んで強くならないと、私達は全てを失う。これまで存在した異端の様に。
「また頭の中で、私を馬鹿にしてるの?」
「違う。今度は自分を馬鹿にしてる」
「ミサは凄いんだよ。頭が良くて色んな事が出来て、と〜っても可愛いの!」
「最後のは余計」
「凄いのは認めるの?」
「カナが褒めてくれたから。でも慢心はしない」
「そっか〜、やっぱりミサは凄いね」
支度が終わったら、なだらかな坂を下っていきます。そして私は、凄い事に気が付いちゃいました。
遠くの風さんとお友達になるより、近くの風さん、少し遠くの風さんって、少しずつ距離を伸ばした方が、ムニョムニョで疲れなくて済みます。
お友達になった場所を増やせば、それだけ視点が増えるので、死角が少なくなります。その代わり、視点が増えるほど頭が痛くなります。
それと見るだけじゃなくて、嗅ぐのも同時に出来ます。聞くことも出来ます。但し、感覚を増やすほど疲れます。
試しに遠くの風さんの場所で、見る聞く嗅ぐを同時にやりました。五分も経たずにヘニョリってなりました。
「無理しないで、少しずつ慣れた方がいい」
「そっか〜」
「最初にしては上出来」
「わ〜い!」
「ほら、ウスラモモを食べて。疲れがとれるよ」
それから私達は、歩きながら猛特訓をしました。だって『やる気になった時が伸び盛りだ』と錬金書に書いて有りましたし。ようやく麓に辿り着いたのは、薄暗くなってからでした。
時間がかかったのは、途中で何度も休憩をしたからです。だって、直ぐに歩けなくなるほどヘロヘロになりますし。でも特訓の成果は有ったみたいです。麓に近付く頃には、ヘロヘロし辛くなってました。
森の中はかなり怖かったけど、麓まで下りたから安全って訳でもないです。そこらじゅうにガルムが潜んで獲物を探してるので怖いです。
クサカラ草のエキスを風さんに乗せて広げれば、ガルム位なら簡単にやっつけちゃいます。でも、その後を考えると流石にやる気はしないです。
「うっ、やべぇ! 逃げるぞ! ってなんないかな?」
「ガルムが?」
「そうそう。ガルムだけじゃないんだけどね」
「何だか好戦的?」
「うん、そんな気がする。ガルムなんて特に鼻が利くんだし、一番最初に逃げても良さそうじゃない?」
「そうだね」
「それなのに、逃げないで襲って来るの」
「細切れ量産」
「ガルムとグーロのお肉は食べたくないね。コカトリスもだけど」
「コカトリスの肉は美味しいらしい」
「そうなの?」
森の中に入って二日目から襲われる事が増えた。初めのうちは、何匹か倒せば恐れをなして逃げていくと思ってた。実際には死骸に引き寄せられるのか、ひっきりなしに襲ってきた。
私はカナと違って慣れてるから、倒れる事がなかった。なので襲ってきた大半の肉食動物は私が倒した。三分の一位は、ヘロヘロのカナが倒した。流石に疲れた。確かにカナの言う通り何かおかしい。
海沿い街で何も無ければ良いけど。多分、無理なんだろうね。きっとアレは今の私達を見て、楽しんでるんだろうし。
次回もお楽しみに。