同級生
冬の海は肌を劈くような冷たい風が吹いている筈なのにわざわざ甲板に出て地元の島の方向を見ていた。「景子ちゃん島に帰るのは何年ぶり?。」「3年ぶりくらいかな。」「都会に行ってしまったお嬢さんには島はなんも無くて面白くないだろ。」本州と島を繋ぐ唯一の船の顔なじみのおじちゃんはニヤつきながら問いかけて来たので私も本心ではない「ホントなんも無くて年末じゃなきゃ態々(わざわざ)来ないよー。」とおじちゃんが求めているのであろう答えを答える。
3年ぶりに降り立った島は大阪と同じ時間の経過をしているとは俄かには信じがたいほど何も変わっていない。普段の帰省であれば母さんの黒のワゴンRが迎えに来ているだろうが周囲を見渡してもどこにも軽自動車は見当たらない。まあ帰ってくることは誰にも伝えてないし迎えが来るはずも無いので仕方なく海沿いを歩き自宅へと向かう事にしよう。「ホントなんもないや。」きっと美香は一生この島に帰ってくるつもりは無かっただろう、私は美香ほど島を離れたいという気持ちも無いし大阪に住んでいるのだって島には仕事も無ければ出会いもない大学が大阪というだけでそのまま就職したというだけでもしこの島がもっと栄えて居て仕事や出会いでもれば母さんのように同級生の父と結婚し退屈な一生を過ごすのだろう、と思うが折角大阪の比較的有名な大学を卒業したというのに就活が面倒というだけで適当な会社の事務員として趣味も無く恋人も作らず会社とアパートを行き来するだけの毎日を過ごしている私のほうが島で一生を過ごす母さんよりよっぽど退屈な人生なのかもしれない。
「ただいま。」少しガタつく引き戸のドアを開けると驚いた表情の母が出迎えてくれる。「どうしたの?連絡もよこさず