14 妖精王の茶会
「──リー、ペリーってば」
「ふぁっ⁈ あ、お、お嬢様……」
恥ずかしすぎる出来事にペリーウィンクルが言葉を失っていると、ローズマリーが軽く揺さぶってきた。
おかしな声を上げて我に返ったペリーウィンクルを、ローズマリーがムッと見上げる。
「その顔は何か知っているのでしょう? 知っているのなら、教えてちょうだい」
「いや、セリ様とシナモン様のことで顔を赤くしていたわけじゃ……」
あせあせと弁解するような言葉を返すペリーウィンクルに、ローズマリーはこれは確実に何かあったに違いないと確信する。
問い詰めるために距離を詰めて、彼女が自分の顔に弱いことを重々承知の上で、至近距離から見つめた。「さぁさぁ、早くお言いなさい。かわいいわたくしがお願いしているのだから」と、心を込めて。
「赤く? いいえ、ペリーの顔は赤くなったりなんてしていないわ。なんだか訳知り顔で頷いていたから、何か知っているのかと思ったのだけれど、違うの?」
ペリーウィンクルは案の定、顔を赤くしてそっぽを向いた。「かわいいが過ぎる。これはもはや暴力」なんて言っているが、いつものことなので気にしない。
「ペリー?」
ローズマリーがおねだりする時に使う、捨てられた子犬のような目で見上げると、ペリーウィンクルは「ぎゅ」と喉を締められたような声を漏らし、観念するように両手を上げて降参のポーズを取った。
「知っているというか……ちょっとお茶会をしただけですよ」
「お茶会? いつ?」
そんなことは初耳である。
聞いてないのだけれど、と責めるようにペリーウィンクルを睨めば、「だから黙っていたんです」と困ったように返された。
「数日前の、三日月の夜に。学校の南にあるガゼボでしました」
ペリーウィンクルの答えに、ローズマリーは不満そうにしていた目を、驚きに見開いた。
「……それは、本当?」
「ええ、そうですけど」
ローズマリーがどうしてそんな反応をするのかわからず、ペリーウィンクルは戸惑いながら答える。
そんな彼女の言葉を聞いたローズマリーは、途端に目をキラキラさせて、感極まったように唇を震わせた。
「うそ……わぁぁぁ! すごいわ、ペリー。あなた、南のガゼボに入れるの?」
「え……?」
「この学校の南にある庭は、妖精王の持ち物なのよ。だから、彼が招待した人でないと入れないの。入れるということは……つまり、そういうことよ」
「妖精王? いやいやまさか、そんなはずはないですよ」
そんな偉い立場の妖精は知らないと言うペリーウィンクルに、ローズマリーは「でも」とキラキラした目で見つめてくる。
「入学の時のオリエンテーションでそう習ったわ。だから、間違いないはずよ」
学校長自ら説明していたと言われても、ペリーウィンクルは本当に、妖精王なんて知らない。
彼女が知っている妖精は、祖父と契約し、育ての親のように思っているヴィアベルだけだ。
(まさか……ヴィアベルが妖精王⁉︎ ……って、それはないか)
この世界において、妖精王は人と契約しない。
それは妖精の女王と契約するためだからとか、古の約束があるからだとか諸説あるが、何があっても人と契約する可能性はないらしい。
だから間違っても、ヴィアベルが妖精王という可能性はないはずだった。
「南のガゼボで不定期に開かれるお茶会は、“妖精王の茶会”と呼ばれているの。招待されることはとても名誉なことで、もしも男女で招待されたら、二人は結ばれるといううわさもあるわ」
「いえ……私は招待されたというか、茶会の手伝いをしただけですよ?」
「妖精王の茶会は、妖精王かその側近たちが認めた人でないと茶会の支度を手伝えないそうよ。つまりあなたは、彼らに認められたからお手伝いできたというわけね」
そこでペリーウィンクルはようやく、なるほどと納得がいった。
ヴィアベルは、妖精の中でも力が強い部類だ。
それは、人の姿にもなれることで証明されている。
ローズマリーの話から考えるに、つまり、ヴィアベルは妖精王の側近なのだろう。
(まさか、そんな偉い人だったとは。しょっちゅう来るから暇人なんだとばかり思ってたわ)
ペリーウィンクルが「知らなかったなぁ」とヴィアベルを見直していると、その傍でローズマリーがクスクスと楽しげに笑い声を漏らす。
何がおかしかったのかと見たペリーウィンクルに、彼女は「それにしても……」と言った。
「ペリー、やるじゃない。妖精王の茶会の手伝いができるなら、今後がやりやすくなるわ」
「え……今後?」
「そうよ。セリ様とシナモン様が無事にくっついた今、わたくしが婚約破棄されるのは、ソレルルートだけ。逆ハーレムルートの可能性は潰えたわ。つまり、これからはリコリス様が他のルートへいかないよう、しらみつぶしに悪役令嬢たちの恋を応援しなくてはならなくなったというわけなの」
「……え」
待て待て待て。一体、どういうことだ。
信じられないことを言われて、ペリーウィンクルは固まった。
そんな彼女に、ローズマリーは桜貝のような小さな唇を歪めて人の悪そうな顔で笑う。
「あらあら。気付いていなかったの? ペリー、あなたって……ちょっと抜けているのねぇ。わたくしがセリ様の恋を応援すると言った時から覚悟を決めていたのだと思っていたのだけれど、ただわかっていなかっただけなのね。もう、かわいいのだから」
つん、とローズマリーの華奢な人差し指が、ペリーウィンクルの鼻をつつく。
持っていたバラをバサバサと落としながら、ペリーウィンクルは「んえぇぇぇ⁉︎」と箱庭中に聞こえる大声を上げた。
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