双子の舞ちゃんと愛ちゃん
舞ちゃんの誕生日
舞ちゃんは雪が大好きな女の子です。
だから、雪の降った日の朝はすぐに分かります。
今日もその気配を感じて、急いでベッドから起きると、カーテンをそっと開けてみました。
やっぱり思ったとおり。
いつもの景色が、真っ白の雪景色になっていました。
「わぁー、やったー
\(^o^)/」
舞ちゃんは嬉しくて、すぐ着替えました。大好きなピンクのジャケットを着て、帽子をかぶり手袋をしました。
胸の高なりを押さえながらそっと玄関のドアを開けました。
まだ皆、眠っているのでしょう。真っ白の世界はとても静かです。舞ちゃんが雪の上を歩く音だけがキュッキュッと響いています。
舞ちゃんは、近くの公園へ行くことにしました。
公園なら広いから大きな雪だるまが作れそうです。
舞ちゃんは嬉しくてたまらず、にこにこしながら歩きまし
公園に着くなり、雪がひらひらと降りだしました。
舞ちゃんは、降り続ける雪を、まばたきせずにじっと見続けました。
こうしていると、自分の体が宙に舞い上がっていくように感じるのです。
まずは、雪だるまを作ろうかな?
葉っぱが目で、小枝が口の可愛い雪だるまが出来ました。
ちょっと疲れた舞ちゃんは、ベンチに積もった雪を手で払い座りました。
すると…、
舞ちゃんの目の前を、大きな大きな雪(?)が、ふわ~りふわ~りと、ゆっくりゆっくり舞い降りてきました。
「うわっ、おっきな雪マシュマロみたい…
(*^_^*)」
おどろく舞ちゃんの目の前を、大きな大きな雪が、あとからあとから舞い降りてきました。
すると、どこからともなく、
「ふふふ…」
笑い声が聞こえます。
「誰?」
舞ちゃんはキョロキョロしながら言いました。
「ふふふ…。私達は雪の妖精よ」
マシュマロみたいな雪の粒が、舞ちゃんの手の平にふわりと乗りました。
よく見ると、大きな雪の粒だと思っていたものには、小さな羽が生えていました。
そして、ゴマ粒みたいに小さな目と小さな口があります。
雪の妖精達は、楽しそうに宙を舞いながら、遊んでいるようです。
「誰?」
舞ちゃんはキョロキョロしながら言いました。
「ふふふ…。私達は雪の妖精よ」
マシュマロみたいな雪の粒が、舞ちゃんの手の平にふわりと乗りました。 よく見ると、大きな雪の粒だと思っていたものには、小さな羽が生えていました。 そして、ゴマ粒みたいに小さな目と小さな口があります。 雪の妖精達は、楽しそうに宙を舞いながら、遊んでいるようです。
『私…、夢を見ているのかしら?』
舞ちゃんは大きな目をパチクリさせました。
「ふふふ…。舞ちゃん、こんにちは」
妖精の1人が言いました。
「どうして私の名前を知ってるの?」
驚く舞ちゃんに、別の妖精が言いました。
「ふふふ…。私達は舞ちゃんのことなら何でも分かっているわ。
ねえ、舞ちゃん。こっちへ来て…」
妖精達の後に着いて行くと、大きなもみの木の前に来ました。
そして、そのもみの木の前には舞ちゃんとそっくりな女の子が立っていました。
「舞ちゃん、私が誰だか分かる?」
女の子は笑顔で言いました。
舞ちゃんはびっくりしてしまい、何も言えませんでした。
「私は妹の愛よ。」
「ええっ、妹の愛ちゃん?」
舞ちゃんは、あまりに驚いて、口をポカンと開けたままで動けませんでした。
「本当に?
本当に愛ちゃんなの?」
そう…。
愛ちゃんには双子の妹がいました。けれども、3才の誕生日の1週間後に病気で亡くなっていました。
病院で入院している愛ちゃんを囲むように、家族で笑顔で撮った写真がリビングに飾ってあります。
「びっくりしたでしょ?
私達は今日みたいに、雪が降った日に生まれたのよ。そして今日は、私達の9回目の誕生日ね」
愛ちゃんは嬉しそうに、舞ちゃんの手をにぎって言いました。
「嬉しい。私、ず~っと愛ちゃんに会いたいと思っていたのよ。
でも、どうして?」
舞ちゃんは、首をかしげました。
「私がいつも、舞ちゃんに会いたいって泣いてばかりいたから、神様が
『そんなに会いたいなら会って来なさい』
って言ってくれたの」
「神様って本当にいたのね、嬉し~い\(^o^)/」 。」
舞ちゃんは、跳びはねています。そんな舞ちゃんを見て、愛ちゃんはクスクス笑っています。
「ねっ、一緒に帰ろう
(*^_^*)」
舞ちゃんが、愛ちゃんの手を握って言いました。
「う…うん (・・;)」
愛ちゃんはモジモジしています。
「パパやママは、驚かないかな? 喜んでくれるかな?」
「嬉しいに決まっているじゃないか!!」
振り向くと、パパとママが立っていました。
「愛ちゃんに会えるなんて…。きっと私達…今夢を見ているのかもしれないわね」
ママは少し涙ぐみながら、パパを見ました。
「夢だって構わないさ。こうして可愛い娘に会えたんだから…。パパは最高に嬉しいよ」
パパは笑顔で言いました。
「子供達の誕生日にこんな奇跡が起こるなんて…、神様に感謝しないといけないわね」
ママは涙ぐんでいます。
パパは、舞ちゃんと愛ちゃんの間に立ち、2人の肩を抱きながら言いました。
「さあ、家に帰ろう」
真っ白い雪が、朝日を浴びてキラキラと輝いていました。
家々も木々も全てが綿帽子をかぶり、とても幻想的です。
4人は真っ白い雪の道を、笑いながら帰って行きました。
そして、家族の後ろを妖精達も、歌いながら舞い躍りながらクスクス笑いながらついて行きます。
「ほ~ら、着いたぞ。
どうぞ、可愛いお姫さま達」
パパがふざけたように言うので、ママはクスッと笑いました。
リビングに行くと、部屋は暖められていて、舞ちゃんと愛ちゃんはソファーに座りました。
パパも満足そうにソファーに座りながら言いました。
「舞を起こして来てって、ママに言われて、部屋を覗いたらもぬけの殻だろ。
はは~ん、ひょっとして…と思って窓の外を見たんだよ。そしたら雪景色だろ、多分公園だなと思ったんだ」
舞ちゃんは、恥ずかしそうに舌を出しました。
愛ちゃんはニヤニヤ笑っています。
そう…愛ちゃんも雪が大好きだったからです。
「さあ、朝ごはんにしましょ」
ママが言いました。
舞ちゃんと愛ちゃんは顔を見合わせると、
「は~い」
と明るく返事をしました。
食事の間じゅう、楽しいおしゃべりは続きました。
「おかわり!」
舞ちゃんが元気に空の茶椀を出しました。
「あれっ、さっきおかわりしなかったか?」
パパは驚いて言いました。
「だって~、楽しくて嬉しいから、ご飯が美味しいんだもん」
「私もおかわり!」
愛ちゃんも、元気におかわりしました。
「だって~、ママの作った料理はすご~く美味しいんだも~ん」
「確かに、ママの作る料理は美味しいからねぇ。パパもついつい食べ過ぎちゃうんだよね」
パパはそう言いながら、お腹をさすりました。
「よし、少し休憩したら、皆でピンポンでもするか」
「賛成」
\(^_^ )( ^_^)/
リビングのソファーをかべ側に寄せて、卓球台を納戸から出すと、家族でピンポンを楽しみました。
負けたと言いながら、パパは嬉しそうです。
ピンポンを終えて、ソファーを元の位置に戻すと、パパはテレビのスイッチを入れました。
テレビではお笑い番組をやっていました。家族で笑いながら見ていました。
パパとママは、幸せな気持ちで一杯でした。
これは夢なのかもしれない。
それでもいい。こんな幸せな夢が見られるなんて…
そう思っていました。
「ええっ」
パパとママは困ったように、顔を見合せました。
愛ちゃんは3才の誕生日を迎えた1週間後に亡くなっています。
だから、それ以降のアルバムは舞ちゃん1人だけしか写っていません。
「うん、いいよ」
舞ちゃんはにっこり笑うと、アルバムを持って来ました。
思い出のアルバム
舞ちゃんがソファーに座り表紙をめくりました。
パパとママは、不安そうに顔を見合わせると…向かい側の席に座りました。
最初のページには、生まれたばかりの舞ちゃんと愛ちゃんの写真がありました。
そして、写真の下にパパとママの喜びの言葉が書かれていました。
《舞ちゃんと愛ちゃん》
パパとママの子供として、生まれてきてくれて有難う。
二人の顔を見ていると、ママは心から幸せだあ~と思います。
これからも一緒に、た~くさん楽しい思い出を作っていこうね(*^_^*)
ママより
こんにちは
パパの大切な宝物の舞と愛へ
パパは君達が可愛くて可愛くてたまりません。
頼りないパパだけど、二人が幸せになる為に、一生懸命頑張ります。
生まれてきてくれて本当にありがとう。
パパは君たちを命がけで守って行くからね。
君たちがいつも笑っていられるように頑張るからね。どうぞよろしく。
パパの可愛い天使たちへ。
パパより
舞ちゃんが、にこにこしながら声を出して読んでいます。
「おいおい、声を出さないで読んでくれよ。パパ恥ずかしいよ」
パパが照れくさそうに言うと、愛ちゃんは愉快そうにケラケラ笑いました。
舞ちゃんはアルバムのページをめくっていきます。
アルバムの中の写真は、どれも楽しそうに笑っているものばかりでした。
愛ちゃんが哺乳類を抱えて笑っている横で舞ちゃんがミルクを飲んでいる写真。
口のまわりにご飯つぶをくっつけながら、美味しそうにおにぎりを頬張っている写真。
1才の誕生日のお祝いをした時は、お爺ちゃんとお婆ちゃんも来ていて、セルフタイマーで皆で一緒に撮りました。
庭にビニールプールを出して、笑顔で水遊びしている写真。
浴衣を来て、お祭りに行った時の写真では、手に綿あめと風船を持ってにこにこ笑っている2人。
遊園地に行った時の写真では、パパやママと一緒にメリーゴーランドに乗ってはしゃいでいる写真。コーヒーカップに乗って、笑いながら手を振っている写真。
動物園に行った時の写真もありました。
サル山の前で、パパが舞ちゃんと愛ちゃんを両腕に抱っこして重たいのを我慢して笑っている写真。
それらの写真を見ていると、パパとママは昨日の事のように感じられるのでした。
ママは涙をこらえながら見ていましたが、2冊目が終わり、舞ちゃんが3冊目のアルバムを開けようとした時、
「ねえ、舞ちゃん。写真はその位にして、外に散歩に出かけない?」
ママは、少しうろたえたように言いました。
3冊めの最初のページは愛ちゃんが入院していて、病院で誕生日をお祝いした写真なのでした。
そして、その後は全て舞ちゃん一人だけしか写っていません。
ママの様子を見て、舞ちゃんもアルバムを広げてはいけないんだと感じました。
「この続きは、また後にしようか」
舞ちゃんはあわてて、3冊目のアルバムを閉じました。
「どうして?
愛はこの続きが見たいわ。ねえ舞ちゃん、一緒に見ようよ」
パパとママは顔を見合せ、うつむいてしまいました。
「う…ん。」
舞ちゃんは両親を見て、困ったように少し考え込んでいましたが、唇をかんで意を決したように言いました。
「うん、一緒に見よう」
舞ちゃんは、3冊目のアルバムをひろげました。
パパとママは、不安げな表情でアルバムを見つめました。
まず、病院のベッドの上にあるテーブルにケーキが乗っていて、愛ちゃんを囲むようにして家族が笑顔で写っている写真が、一番最初のページにありました。
パパとママは、その時の事を昨日の事のように覚えています。
《…これが、恐らく2人そろった誕生日の最後になるだろう。こんな…こんな悲しい誕生会があるだろうか…。
パパとママは、その日の事を思い出していました。
その半年前、夫婦は担当医に呼び出され、
「愛ちゃんは、3才の誕生日を迎えられないだろう」
と言われていました。
それからパパとママは、祈るような思いで、毎日を過ごしたのでした。
そして、愛ちゃんに残された短い人生を、笑顔一杯の楽しい幸せなものにしてあげようと誓い合ったのでした。
医者に告げられた期限は過ぎていたし、愛ちゃんはベッドの上に座っているだけでも辛そうでした。》
医者に告げられた期限は過ぎていたし、愛ちゃんはベッドの上に座っているだけでも辛そうでした。》
ママはトイレに行くと言って病室を出ると、後ろ向きにドアをしめ、声を殺して泣きました。
パパは病室の外に出て、泣いているママを見ると言いました。
「愛が心配するから行こう」
「ごめんなさい。…そうよね。すぐ行くわ」
ママは無理に笑顔を作って言いました。
あの日、パパとママは可笑しいくらいにニコニコ笑ってはしゃいで、想い出に残る楽しいお誕生会にしようと頑張りました。
そういう思い出が、パパとママの脳裏をよぎりました。
あれから6年後の誕生日に、死んだはずの愛ちゃんが現れて…、自分が写っていないアルバムを見たいと言っている。
パパとママは、複雑な心境で、舞ちゃんの手元と愛ちゃんを交互に見つめました。
愛ちゃんが次のページをめくりました。
次の瞬間…、 パパとママは… 目を疑いました。 何とそこには《いないはずの》愛ちゃんが、写っていたのです。 舞ちゃんと一緒にニコニコ笑っていました。 「ええっ、どういうこと?」 ママは思わず声に出してしまいました。
幼稚園の入園式の朝、玄関先で撮った写真に愛ちゃんは写っていました。
舞ちゃんが笑顔でVサインしている横で、嬉しそうに舞ちゃんを見ていました。
海水浴へ行った時の写真、軽井沢に旅行へ行った時の写真、ディズニ〇ランドへ行った時の写真、動物園や水族館へ行った時の写真…。
すべての写真に愛ちゃんは写っていました。
ママはそっと愛ちゃんを見ました。
愛ちゃんは本当に嬉しそうに、にこにこしながら、舞ちゃんと一緒にアルバムを見ていました。
小学校の入学式の朝、家族そろって撮った写真がありました。
『たしかこの時は、隣の山崎さんが写真を撮ってくれたんだわ。』
ママは、その日の事を思い出していました。
「私、よく覚えているわ。この日パパったら寝ぐせのついた髪で出かけようとしたのよ」
愛ちゃんはクスッと笑いました。
「そうだっけ? 私覚えていないわ」
舞ちゃんは首をかしげました。
「愛ちゃんの言うとおりよ。確かに写真を撮った後出かけようとしたら、パパの頭の後ろが寝ぐせになっていたの。
ママがその事を言うと、パパはあわててドライヤーで寝ぐせを直しに戻ったんだもの。
でも、どうして愛ちゃんがその事を?」
ママは驚いたように言いました。
「私その場にいたの。皆には姿は見えなかったと思うけど…。」
愛ちゃんは少しうつむきかげんで言いました。
「そっかぁ。だからこのアルバムに愛ちゃんが写っているのね」
舞ちゃんは無邪気に笑うと、大きくうなづきました。
「…と言うことは、愛ちゃんはいつも私を見守ってくれていたのね」
「私が舞ちゃんの側にいたかっただけ…。」
愛ちゃんはそう言うと、舞ちゃんを見つめ、舞ちゃんの手を両手で握りました。
「そうだ!!
ねえ、写真を撮らない?」
ちょっと照れくさそうにした後、名案を思いついたように舞ちゃんが言いました。
「そうだね。家族そろっていっぱい撮ろう!」
パパも賛成しました。
「そうね」
ママもにっこり笑って言いました。
舞ちゃんと愛ちゃんは、色々なポーズでたくさん写真を撮りました。もちろんパパやママもたくさん撮りました。
楽しい思い出
「そうだ。愛ちゃん、今から幼稚園と小学校に行かない?」
「行きた~い」
元気いっぱいに言う舞ちゃんに、愛ちゃんも明るく答えます。
「よ~し、皆で一緒に行こう!」
パパは元気よくそう言うと、ママを見ました。ママも
「そうね」
と、笑顔でうなづきました。
雪景色の中を家族4人で歌を歌いながら歩きました。
舞ちゃんが通っていた幼稚園は家から歩いて5、6分の所にあります。
「ここが私の通っていた、ことり幼稚園よ。」
舞ちゃんがにっこり笑って言うと、愛ちゃんは懐かしそうに見ながら言いました。
「私ね。いつも楽しそうに遊んでいる舞ちゃんをここで見ていたのよ」
「そうだったの? ねえ、少しのぞいていかない?」
舞ちゃんは愛ちゃんの手を握ると、パパの方を見ました。
「門が空いているから、先生が来ているのかも知れないね。パパが見学出来るか聞いて来るよ」
「パパ…有難う」
舞ちゃんと愛ちゃんは声をそろえて言いました。
普段は日曜日はしまっているのですが、何故か今日は門が空いていました。
「誰もいないみたいだけど、せっかくだから見せて頂こう」
戻ってくるなりパパは言いました。
「そうね。見せて頂きましょうか」
ママも笑顔で言いました。
すべり台や砂場を通り越して歩いて行くと、教室の入口が開いていました。
「入っちゃおうか」
舞ちゃんと愛ちゃんは、顔を見合わせるとクスッと笑いました。
「わぁ~、ちっちゃいイス!!」
「可愛い!!」
2人はイスに座りながらはしゃいでいます。今度は黒板に落書きしました。
「舞ちゃん、これ…ひょっとしたらパパを描いたの?…変なかお~」
愛ちゃんはゲラゲラ笑っています。
「舞、パパはもうちょっとハンサムだろう~」
不満げなパパを見て、舞ちゃんと愛ちゃんは大爆笑です。ママもクスクス笑っています。
「パパに比べて、ママが美人過ぎないか~」
「だって、ママ美人だもん」
愛ちゃんは、甘えるようにママの腕につかまりました。
「愛ちゃん…、次は小学校に行こう!!」 「うん」 小学校は幼稚園からさらに5、6分歩いた所にあります。 「ここが桜並木小学校よ」 舞ちゃんはそう言うと、空を見上げました。また雪が降ってきたようです。
「あ~、パパずる~い
( ̄□ ̄;)!!」
舞ちゃんは、ほっぺたをプ~ッと膨らませました。
「スキあり~(^o^)」
愛ちゃんが、パパに素早く雪の団子を投げました。
「やったな~( ̄~ ̄;)。ようし、2人一緒にかかってこ~い」
パパはニ~ッと笑いました。
2対1の賑やかな雪合戦をママはニコニコしながら見ていました。
パパと舞ちゃんと愛ちゃんの3人で、騒ぎながら雪合戦をしていると、
「舞ちゃん楽しそうね~
(^o^)」
隣の山崎さんの奥さんが声をかけてきました。山崎さんの奥さんは最近ダイエットのために散歩を始めたようです。
「あら、こんにちは」 ママが挨拶すると、 「星野さんの家族はいつも一緒で、本当に仲が良いのね。…舞ちゃん、またね~」 山崎さんの奥さんは、にっこり笑うと手をふって行ってしまいました。
ママはふぅ~とため息をつくと、愛ちゃんを見ました。 愛ちゃんは一瞬寂しそうな顔をしましたが、すぐににっこり笑って言いました。 「舞ちゃん、ブランコに乗ろう!」 「うん、行こう!」 2人は手をつないでブランコまで行くと、顔を見合せてにっこり笑いました。そして、さっそく揺らし始めました。
2人が楽しそうにブランコで遊ぶ姿を見て、ママはふっと寂しい顔になりました。
パパは、そんなママの肩を抱き寄せ言いました。
「愛の姿は僕たち家族にしか見えないんだね。今、あの子達が楽しんでいる…それだけでいいじゃないか」
「そう…ね」
ママは自分に言い聞かせるようにつぶやくと、パパに笑顔を向けました。
パパとママは、舞ちゃんと愛ちゃんが楽しそうに遊んでいる姿を、愛おしそうに見続けていました。 舞ちゃんと愛ちゃんは、時々顔を見合せては満面の笑みを浮かべます。まるで、ずっと一緒に暮らしてきた双子の姉妹のように…。
ジャングルジム、鉄棒…校庭にある全ての遊具で遊ぶと、2人は手をつないで戻って来ました。 「あ~、疲れた~」 舞ちゃんが息を切らせながら言いました。 「お前たち、はしゃぎ過ぎだぞ!」 パパは笑いながら、子供たちの頭をくしゃくしゃなでました。
「あ~ん、パパ。髪の毛がグチャグチャになっちゃったよ~」 舞ちゃんがパパに文句を言いながら、手で直しています。愛ちゃんはクスッと笑うと言いました。 「ねえ、舞ちゃんの教室が見たい」 「うん、一緒に行こう」 舞ちゃんはそう言うと、愛ちゃんと手を繋ぎ歩き出しました。
「ねえ、教室を見に行ってもいいでしょう?」 パパとママにおねだりするように舞ちゃんが言いました。 「閉まってるんじゃないの?」 ママが言いました。 「でも、幼稚園も開いていたし…。 ねえ、もし開いていたら入っても良いでしょ」
「しょうがないな。パパが職員室に行ってくるから、ここで待っているように」 「はーい」 「はーい」 そう言うと、パパは職員室の方に行きましたが、しばらくして戻って来ました。
「鍵は開いているんだけど先生方は誰もいないようなんだ。別に泥棒するわけじゃないし、入っても構わないよねぇ」 パパがママの方を向いて言いました。 「そうね。入らせて貰いましょうか」 ママの言葉を聞いて、舞ちゃんと愛ちゃんは、 「やった~」 と、飛びはねて喜びました。
教室に入ると、 「あらっ、私の机が無いわ。ここにあるはずなのに…」 舞ちゃんの席は、教室のちょうど真ん中へんなのですが見当たりません。そして、 「あら…こんな所にあったわ」 舞ちゃんの机は、なぜか教室の一番後ろにありました。大好きな『ワンコピース』の下敷きが入っていたので間違いありません。 舞ちゃんは時々下敷きを忘れるので、大好きなアニメの『ワンコピース』の下敷きを、いつも机の中に入れていたのです。
「いたずらっこの佐藤君がやったのかな?」 ふと見ると、舞ちゃんの隣に真新しい机がありました。 「ひょっとして、明日転校生が来るのかな…?」 舞ちゃんは首をかしげました。 「せっかくだから、愛ちゃん座ったらどう?」 ママが言いました。 「うん」 愛ちゃんは、はにかんだようにうなづくと、舞ちゃんの隣に座りました。
「まあ、学校だからパパが先生になって、少し勉強を教えるか!」 パパはそう言うと、黒板の前に立ちました。 「パパ大丈夫? ちゃんと教えられるの?」 ママはクスッと笑いました。 「大丈夫に決まってるだろ。一応大学出てるんだし… でも、やっぱり教科書が無いと教えられないな。3年生ってどんな勉強してるんだ?」
「勉強は良いよ。それよりお話しようよ。パパやママが子供の頃の話聞きたいな。」 愛ちゃんが言いました。 「あ~、舞も聞きた~い」 「そうか、それじゃパパが子供の頃の話をするか…パパは頭がよくてモテモテだったんだぞ」
そう言いながら教壇の所から戻って来ると、パパは愛ちゃんの前の席のイスを後ろ向きにして座りました。 ママも舞ちゃんの前の席に後ろ向きに座りました。 パパは子供の頃はヤンチャで、よく木登りしたり近くの山に探検に行ったり、川に魚釣りに行ったりして暗くなるまで遊んでいたようです。
「夕飯を食べると、疲れちゃってさ…すぐ眠ってたな~。時々宿題するのを忘れて立たされたよ、ハハハ…」 「成績優秀な子が立たされてたの?」 舞ちゃんがニヤニヤしながら言いました。 「まあ…、そのぅ…なんだな~。子供の頃は遊ぶのが仕事みたいなもんだから…」
「パパ! 遊びも大事だけど、勉強も大事でしょ」 ママがわざと怒ったふりをしてパパをたしなめました。 「そうでした。遊びも勉強も大事でした。はい、ママの言う通りです。ハハハ…」 「それじゃ今度はママの子供の頃の話を聞かせて」 愛ちゃんが言いました。
「ママの子供の頃は…ね。漫画家になりたいと思っていたわ」 「へえ、そうだったの? 私も初めて聞いたわ」 舞ちゃんも驚いたように言いました。 」 「小学生の頃は、いつも自由帳にマンガばっかり描いてたのよ。
でも、中学生になる頃には、マンガを読む方が楽しくて…漫画家になるのは止めちゃった。そんな才能が無いと気づいたしね」 「え~、ママのマンガ読みたかったな~」 舞ちゃんと愛ちゃんは同時に言いました。
「とんでもないわ。下手くそなのよ。沙織おばちゃんやひろみおばちゃん(ママの妹)にも読んでもらったけど、面白くないって言われたしね」 ママは恥ずかしそうに言いました。
ママは中学生の時に料理クラブに入っていて、料理を作る楽しさを知ったの。 だから、その頃から家で食べる料理は、殆どママが作っていたのよ」 「ママは料理作るのが早くて美味しいものねぇ」 パパがニンマリしながら言いました。 「パパ、ヨダレ出てるよ」 舞ちゃんがからかうと、 「えっ、ホントに?」 と言って、パパがヨダレを拭くマネをすると大爆笑になりました。
「ねえ、パパとママの出会いは?」 舞ちゃんが興味津々と言う感じで身を乗り出して尋ねました。 「ちょっと照れるな~。ママから話してくれよ」 「あら、あなたから話して下さいよ」 ママに言われ、パパが話始めました。
「パパとママは高校の頃 バス通学をしていたんだ。入学式のシーズンが終わって少したった頃、凄く可愛い女の子が同じバスに乗って来たんだ」 「それがママだったのね」 舞ちゃんがニヤニヤしながら言いました。
「まあ…ね。 1年間同じバスに乗っていたのに、パパは挨拶も出来なかったんだ。 卒業を間近に控えパパは焦っていたよ。卒業したら恐らく会えなくなる…どうしよう。 毎日毎日、パパは神様に祈ったよ。彼女に告白する勇気を下さいと…ね」
パパが遠い昔の事を懐かしむように、話す姿を見ながら、舞ちゃんと愛ちゃんも引き込まれるように聞き入っていました。
「ある時、ママの前に座っていたおばさんが、途中下車したんだ。 それで、そのおばさんの前に立っていたママが座ったんだ。 するとママは、にっこり可愛い笑顔で 『カバン持ちましょうか?」 って言ってくれたんだ。 パパは天にも昇るような気持ちになって、 『有難うございます』 と言って、カバンを渡したんだ」
パパの話を聞きながら、ママも照れくさそうにしていました。 「『こ…高校は、ど…どこですか?』って…パパは、このチャンスを逃したら後が無いと思って、勇気を振り絞って聞いたんだよ。そしたら、夕陽ヶ丘高校だとママが教えてくれたんだ。
でも、それがきっかけで、ママとバスの中で話すようになって、付き合うようになったんだ。 だから、あの時バスを降りてくれたおばさんには今でも感謝しているんだよ」 「へえ、パパとママにはそう言うドラマがあったのね。素敵だわ~(*^_^*)」 舞ちゃんは、パパの話を聞きながらうっとりしています。
「偶然じゃないわ」 愛ちゃんが言いました。 思わずパパとママと舞ちゃんは、愛ちゃんを見ました。 「それは、どういうことなんだい?」 愛ちゃんの言った言葉が理解できなかったので、パパは首を傾げながら尋ねました。
「その時、私はその場にいたの。」 「ええっ] 愛ちゃんの言ってることが良く分からないんだけど…」 ママはとても驚いて言いました。 「あのおばさんは、本当はパパやママよりも先のバス停まで行く予定だったの。 でも私が、『次のバス停で降りる』という暗示をかけたからブザーを鳴らして途中下車したのよ」
「へえ~、そうだったの? でも、そのおばさん。…困ったでしょうね」 「フフフ…。舞ちゃんのいう通り。バスが発車した後、おばさんキョロキョロしていたわ。 でも通学時間帯は5分間隔でバスが走っているから許して貰うことにしたわ」
「そうよね。パパとママが付き合えるかどうかの大切な時ですものね」 舞ちゃんが言うと、パパはママを見つめた後言いました。 「知らなかったよ。愛がパパとママのキューピットになっていたなんて…」 「本当にありがとう…愛ちゃん」 ママが愛ちゃんの手を握りました。
「私、知っていたの。 本当はママもパパの事をずっと好きだった…ってこと」 愛ちゃんの言葉を聞いて、ママは恥ずかしそうに頷きました。 「それ、ほんと?」 パパは嬉しそうです。 「…と言うことは、パパとママは相思相愛だったってことね」 舞ちゃんは、パパとママを交互に見ながら、にっこり笑って言いました。
「舞ちゃんが凄く驚くことを教えてあげましょうか!」 「なあに…?」 「実は、その場に舞ちゃんもいたのよ」 「ええっ…w(゜o゜)w どういうこと? 愛ちゃんの言ってることが分からないわ」 舞ちゃんはキョトンとしています。 「私と舞ちゃんは霊界で、親友だったのよ。だから、今度生まれかわる時も一緒にいたいねって話し合っていたの」 「ええっ、そうだったの? 私、全然覚えていないわ」 舞ちゃんは驚いて言いました。
「覚えていないのは当然よ。人は生まれ変わって来る時に、すべての記憶を失ってしまうんですもの」 パパもママも舞ちゃんも、愛ちゃんの話に耳を傾けています。 「私と舞ちゃんは、自分たちが生まれ変わる時にパパとママになって欲しい人を探していたのよ。
舞ちゃんは、パパを選んで、私はママを選んだわ。 そして、2人がお互いに好きだと言うことも分かったの。 だけど…」 「ママはパパからの告白を待っていたのに、パパがなかなか言い出さなかったのね」 舞ちゃんと愛ちゃんの会話を聞きながら、パパは 「まいったな~」 と、恥ずかしそうに頭をかきました。 それを見て、ママがクスッと笑いました。
「私と舞ちゃんは、どうしたらパパとママが付き合えるようになるかについて、色々話し合ったわ。 そして、あのバスの中で、 「ママの前に座っているおばさんにバスから降りてもらおう」 …と言い出したのは舞ちゃんの方なのよ」
「ええっ((((;゜Д゜)))そ…そうなの?」 舞ちゃんは、ビックリしています。 「いや~、驚いたよ。実の娘たちが、愛のキューピッドだったとはねえ」 パパはとても驚いていましたし、ママは感極まって泣いていました。
窓の外では、雪の妖精達がにこにこしながらこちらを見ています。 「妖精さん達寒くないかしら…」 舞ちゃんが校庭側の窓の引き戸を開けようとすると、 「雪の妖精は寒い方が好きなのよ」 愛ちゃんは笑顔で言いました。 「そうなの?…そうだよね…雪の妖精だものね」 納得したように舞ちゃんは言い、クスッと笑いました。
「パパやママがデートしている時も、側にいたんだね」 パパが言いました。 「舞ちゃんと一緒にね」 愛ちゃんが言うと、舞ちゃんは少しだけ不満そうです。そう…舞ちゃんは全く覚えていないからです。 そんな舞ちゃんを見て愛ちゃんが言いました。 「舞ちゃんは覚えていないんだよね…ごめんね。人は生まれて来る時に、これまでの記憶をすべて忘れてしまうの…」 「……」 舞ちゃんは、黙って愛ちゃんを見つめています。
パパやママも愛ちゃんを見ています。 愛ちゃんは両手を前に出し、手の平を前に立っている舞ちゃんに向けました。 そして、キョトンとしている舞ちゃんに言いました。 「舞ちゃん、私の手に舞ちゃんの手を合わせて…」 舞ちゃんは「うん」と言うと、言われたようにしました。 すると、窓の外の景色が霧に包まれたように、何も見えなくなりました。
でも霧では無いようです。 明るく白っぽい靄の中で、うっすらと虹のような七色の光がゆっくり揺れています。 そして、小さな星のようなものがキラキラ輝き、とても綺麗です。 パパもママも驚いて言葉を無くしました。 このような光景は初めてみるはずなのに…。 何故か懐かしいような気持ちになり、その美しさに涙が出てくるのでした。
しばらくすると、舞ちゃんと愛ちゃんの触れている手の平が眩しいような光で包まれ、その光のシャワーで手の平が、ぬくぬくと温かくなってきました。 舞ちゃんは、大きな瞳をさらに大きく見開いて驚いています。 パパとママも思わず立ち上がり、何事が始まるのかと、息を飲み2人を見つめています。 すると、舞ちゃんが目を閉じて言いました。
「見えるわ」 「見えるって…? 何が見えるの?」 ママが尋ねます。 「若い頃のパパとママが見えるわ」 「ええっ、」 パパとママは同時に驚きの声を出し、お互いの顔を見ました。 「舞にも、生まれる前の記憶が蘇ったというのかい?」 信じられないと言うようにパパは大きな声で言うと、へなへなと椅子に座りました。ママもパパの隣に座りました。
舞ちゃんは、パパとママの前に座ると、目を閉じて言いました。 「2人で大きな公園の…池の前のベンチに座って、サンドイッチを食べているわ。何か楽しそう…」 舞ちゃんが言うと、 「石神田公園か~。 良く行ったな~。ママはその頃から料理が上手でね。彩り良く綺麗に盛り付けるんだ」 パパは懐かしそうに言いました。
「ほんと、懐かしいわ」 ママはそう言うと、笑顔をパパに向けました。 「2人で美術館に行ったり…、水族館に行ったり…動物園にも行ったでしょ」 「確かに行ったな~。ママとは好みが似ていたから、パパが何処かへ行きたいと言うと、ママも行きたいと言うものだから、週末は殆ど出掛けていたよ。 まあ、お金は無かったから遠出は出来なかったけどね。ハハハ…」 パパは照れ臭そうに頭をかきながら笑いました。 家族皆が笑いました。
「パパとママが楽しそうに笑っていると、私達も嬉しかったね」 愛ちゃんが舞ちゃんに笑顔を向けました。 「うん。だからパパとママが結婚した時は、すご~く嬉しかったよね」 舞ちゃんは、パパとママを交互に見ながら言いました。 「結婚式からちょうど1年後にお前達が生まれたんだよな」 「結婚式と2人の誕生日が同じなんて偶然よね。しかも…」 ママは愛ちゃんを見つめて言いました。
「しかも、その記念日に…こうして愛ちゃんに会えるなんて…」 ママは愛ちゃんの頬を両手でそっと包むようにすると、愛おしいようにそっとなでました。 はにかんでいる愛ちゃんを見ながら、舞ちゃんもにこにこしています。 「私達、ママのお腹に入ってからも、時々魂だけ抜け出して散歩したわよね」 愛ちゃんが言いました。
「うん、ママは楽しそうにお花に水をやっていたね。それからスケッチブックでお花を描いたりもしてた」 舞ちゃんが話し出すと、 今度は愛ちゃんが、 「私達が冬に生まれるからって、手袋や靴下も編んでいたでしょ」 と言いました。 「確かに…。お腹の赤ちゃんが女の子って分かってからは、よく編み物をしていたわ。 ママ嬉しいわ。 舞ちゃんと愛ちゃんが、こんなにパパやママのことを思ってくれていたなんて…」 ママは立ち上がると、舞ちゃんと愛ちゃんを後ろから抱きしめました。
「何か運命と言うものを感じるな。舞や愛がいなかったら、パパの愛は、悲しい失恋で終わっていたような気がするからね」 それを聞いて、舞ちゃんと愛ちゃんは大爆笑です。 「パパ…大丈夫よ。 いくら待ってもパパが声をかけてくれなかったら、ママから告白したと思うから…」 愛ちゃんがにこにこしながら言いました。
「ええっ、( ; ゜Д゜)ほ…ホントなの?」 パパが驚いてママを見上げて言いました。 ママは恥ずかしそうに顔を赤らめて頷きました。 「やった~] そんなに前から俺の事が好きだったなんて嬉しいよ。 だって、ずっと片想いだと思っていたからな~」 パパは子供のようにはしゃいでいます。 「さあ、そろそろ家に帰りましょう。お誕生日の準備をしないとね。ママ頑張ってお料理作るわね」 ママが言いました。 すると、急に窓の外の靄が晴れて、外の景色がくっきりと見えるようになりました。
校庭に出た時には、すっかり靄は晴れて、明るい日差しがさしていました。 家族はにこにこ話しをしながら歩いて行きました。妖精たちも楽しげに笑顔でついて来ます。 「今日はひっそりしているね。こんな時間になっても誰も歩いていないね」 パパが首をかしげました。 「そう言えば…そうね。 山崎さんの奥さんに会ったけど、他には歩いている人もいないし、車も通らないなんて…珍しいわね」 ママも周りを見ながら言いました。
「神様がそうして下さったのだと思うわ」 愛ちゃんが言いました。 「お隣のおばさんは、家族みたいに仲が善すぎるから神様の念力が通じなかったのかも…ね(*^_^*)」 舞ちゃんが笑いました。 パパとママも顔を見合わせると、クスッと笑いました。
家に帰ると、ママはさっそくキッチンに入り、お誕生会の準備にかかりました。 舞ちゃんと愛ちゃんも嬉しそうに手伝いました。そして、テーブルに料理が乗せられていきます。 「うわ~っ!! 旨そうだな~」 パパが嬉しそうに言うと、 「パパ、まだ食べちゃダメだからね~」 舞ちゃんがニッと笑って言いました。
ママはクスッと笑うと、 「はいパパ、これをテーブルに運んでくれる?」 と言って、ケーキの乗った大皿を渡しました。 「うわっ、大きいケーキだ!!」 パパばかりでなく、舞ちゃんや愛ちゃんまでビックリする大きなケーキでした。 「いくらなんでもデカ過ぎだろ。食べきれないよ」 「食べきれなくてもいいの。…楽しいお誕生会にしたかったんですもの」
パパとママの話しているのを聞いて、舞ちゃんや愛ちゃんも嬉しい気持ちでいっぱいになりました。 ママ 「ねえパパ、3日前のこと覚えてる?」 パパ 「3日前? ひょっとして…。ママが見た夢の話?」 ママ 「そうよ。夢の中に愛ちゃんが現れて、家族で楽しいお誕生会をした…夢。 単なる夢だと思ったんだけど…、本当に愛ちゃんに会えるとは思わなかったわ。
でも…その時、4人でも食べきれない位、たくさんご馳走を作ろうって思ったの。 こんな大きなケーキのスポンジはレンジでは出来ないから、ステンレスのお鍋で焼いたのよ。 これだと直径が25㎝あるから、ケーキ屋さんにも売っていない大きなケーキが出来るでしょ。」 パパ 「へえ、お鍋でスポンジが焼けるとは思わなかったよ」
ママ 「コンロで焼くから、焦げないように気を付けなくちゃならないんだけどね。 生クリームも3個、イチゴも3パック買っておいたわ」 パパ 「ママにはまいったよ」 パパとママの楽しそうな会話を聞きながら、愛ちゃんは泣いていました。
「ママ…あり…がとう。私…嬉し…すぎて、どうしていいか…分かんないよ」 愛ちゃんが、溢れる涙を手の甲で拭いながら言いました。 するとママは、優しくその涙を指で拭って、愛ちゃんをそっと抱きしめました。 「当たり前じゃない。ママは愛ちゃんのママなんだもの」 そう言いながら、何度も愛ちゃんの頭をなでました。 「愛…良かった。 ママの子で良かった」 愛ちゃんはしゃくりあげながら、何度も言いました。
ハッピバースディ ツーユー ハッピバースデー ツーユー パパとママが歌を歌いました。舞ちゃんと愛ちゃんは、ケーキを2人で消すと、はにかんだように笑いました。 「舞、愛…誕生日おめでとう」 パパが言いました。 「愛ちゃん、舞ちゃん、お誕生日おめでとう」 ママが言いました。 「有難う」 「有難う」 舞ちゃんと愛ちゃんは、そう言うと、顔を見合せニッコリ笑いました。
「ママの作った料理は彩りも綺麗だけど、味も最高!!」 パパが実感をこめて言うと、 「そう言って貰えると嬉しいわ。ところで、そろそろケーキを食べましょうか。 妖精さん達も食べるかしら…」 ケーキを切り分けながらママが言いました。 雪の妖精は暖かいのが苦手だったので、窓の外からこちらを見ていました。
「少しの時間なら大丈夫だと思うわ」 愛ちゃんが言うと、ママは妖精さん用に小皿に少しずつケーキを盛りつけました。 そして、庭に面したガラス戸を開けました。 「まあ、美味しそう…」 テーブルに乗ったケーキを見て、妖精さん達は歓声をあげました。そして、小さな小さな口でケーキを美味しそうに食べています。
その姿に家族も思わず笑顔になってしまいました。 「愛ちゃん、お誕生日おめでとう」 「愛ちゃん良かったね」 妖精達が口々に言いました。 「妖精さん達…有難う (*^_^*)」 愛ちゃんが答えます。 「もう、お腹いっぱいになったので、私達は外で見守ります」 そう言うと、妖精達は外に出て行きました。 そして、笑顔が絶えない家族を嬉しそうに見ていました。
パパは、舞ちゃんにしかプレゼントを用意していなかったので、出せずにいました。 すると、 「はい、ママからのプレゼントよ」 と言って、可愛い包装紙に包まれた箱を舞ちゃんと愛ちゃんに渡しました。
「ママ…私の分も?…」 愛ちゃんの目からは、涙が溢れました。 「フフフ… 言ったでしょ。 家族4人でお誕生会をした夢を見たって…。 だから、愛ちゃんの分も買っちゃった」 ママはニッコリ笑って言いました。
「さすが母親だね。 さっそくあけてみようよ」 パパは驚きながらも、ママの母性愛の深さに感心し、ママを好きになったことを心から幸せに思ったのでした。 「うん」 「何かな?」 舞ちゃんと愛ちゃんは、興奮を押さえるようにして、丁寧に包装紙のテープを剥がし箱を開けました。
プレゼントは、パジャマとレターセットが入っていました。 パジャマは、ピンクに白い水玉模様があり、大きなうさぎのプリントがありました。 さっそく着てみると、イラストのうさぎは、お互いの顔を見て笑っていました。 「わー素敵] ママ有難う(*^_^*)」 愛ちゃんは、嬉しくてママに抱きつきました。 舞ちゃんはそんな愛ちゃんをニコニコして見ています。
「愛ちゃん…せっかくだから、今日はパジャマのままで過ごそう」 「うん」 舞ちゃんと愛ちゃんは手をつなぐと、にっこり笑い合いました。 楽しい楽しい時間は刻々と過ぎていきました。 窓の外は夕焼けで赤く染まって来ました。 「舞ちゃん、もっともっとたくさんお話聞かせて…」 「うん」 舞ちゃんは、頷くと、学校の友達の話や家族旅行の話などたくさんしました。
愛ちゃんは、そんな舞ちゃんの話を嬉しそうに聞き入っていました。 舞ちゃんの体験したことを、自分も体験しているように頷いたり笑ったり驚いたり……しながら。 自分の知らない6年間の空白の時間を埋めるかのように……。 「ねえ、パパやママも、もっとたくさん私が知らない話を聞かせて…」 懇願するように言う愛ちゃんに、一瞬驚いたパパやママも家族での旅行や舞ちゃんの運動会の話など、話して聞かせました。
愛ちゃんは、それらの話を自分もその場面場面にいたように、自分自身の体験の記憶にしようとするかのように真剣に聞いていました。 「あら大変]、もうこんな時間。カレーを作ったんだけど…暖めてくるわね」 ママは時計を見ると、慌ててキッチンに行きました。そして、テーブルにカレーやサラダなどを並べると、 「食べちゃいましょうか」 と言いました。
「うん」 舞ちゃんと愛ちゃんは同時に返事しました。そしてお互いにはにかんだように微笑みました。 「ママのカレーは絶品だね~」 パパもニンマリ満足そうにほおばりました。 「うん、凄~く美味しい。世界一美味し~い」 愛ちゃんがニコッと笑いました。 「あ~ら、愛ちゃんそれは誉めすぎよ」 ママが言うと、
「そんなことないよ。ママのカレーは世界一だもん」 舞ちゃんもそう言うと、嬉しそうにカレーを食べました。 ママはクスッと笑うと、 「夜は家族団らんの時間を長く取りたかったから、夕食は簡単なものにしたの。 実を言うと、夕べのうちに作っておいたのよ。大きな鍋で3時間煮込んであるわ パパが何杯おかわりしても良いように…たくさんあるわよ」 ママがにっこり笑いました。
「おいおい、そんなにたくさんは食べられないよ…」 パパはそう言いましたが、すぐに「おかわり」しました。 「ほらね」 ママがクスッと笑うと、舞ちゃんと愛ちゃんも顔を見合わせて笑いました。 「ママの作るカレーはお肉が噛まなくても食べられそうな位柔らかいね…」 愛ちゃんはそう言って美味しそうにカレーを食べました。
舞ちゃんが何気なく愛ちゃんの横顔を見ると、愛ちゃんは泣いているようでした。 「あはは…。あんまり美味しいものを食べると涙が出るんだね…」 愛ちゃんは、舞ちゃんの視線を感じたので、慌てて指で涙を拭うと笑って言いました。 「愛ちゃん…」 ママは素早く愛ちゃんの所に行くと、イスの後ろから愛ちゃんを抱き締めました
「愛ちゃんをこのままずっと…、このままずっと…こうして…抱きしめていたい」 ママも泣いていました。 「愛ちゃん…の、笑顔を…これからも…ずっと…見ていたい…」 ママの目からも涙が溢れました。
ママは愛おしいように、愛ちゃんの頭を優しく何度もなでました。 しばらくすると、ママは愛ちゃんの肩に手を置き、顔を覗きこんで言いました。 「さあ、舞ちゃんと一緒にお風呂に入りなさい(^_^)」 「はぁい」 舞ちゃんと愛ちゃんは、一緒にお風呂に入りました。
お風呂場ではお互いの背中を洗いあったり、お湯をかけあってふざけたりしました。 それにいっぱいおしゃべりもしました。鏡を見て、 「私たちって、本当にそっくりだね」 「だって、双子だもん」 …と、お互いに言い合って笑ったりしました。
愛ちゃんがのぼせたと言って、先に脱衣所に行きました。脱衣所には、バスタオルとパンツ、歯ブラシやフェイスタオルが愛ちゃんの分用意されていました。 「ママ有難う(*´∀`*)」 愛ちゃんは小さな声でつぶやきました。
舞ちゃんは、1人残った浴槽で、泣いていました。 愛ちゃんとこれからもずっと一緒に暮らしたいけど、そんなことは無理だと言うことは分かっていました。 神様が私達の家族に、たった一日だけ与えてくれた奇跡のプレゼントだと思っていました。 舞ちゃんは、湯舟のお湯でバシャバシャと顔を洗うと脱衣所に行きました。
2人はパジャマに着替えると、リビングにいるパパとママの所に行きました。 「パパママ、おやすみなさい」 舞ちゃんと愛ちゃんが挨拶しました。 「おやすみ…」 「おやすみなさい」 パパとママは、無理に笑顔を作って(^_^;)言いました。
「愛ちゃん行こう」 舞ちゃんは笑顔で愛ちゃんの手をつなぎました。愛ちゃんはドアをしめるまぎわに、パパとママに何か言いたそうに振り返りましたが、 「うん」 と言って、後ろ髪を引かれるように、子供部屋のある2階に上がって行きました。
「今日は夢のような1日だったなぁ」 パパが2人の後ろ姿を見送ると、しみじみと言いました。 「ほんとに…そうねぇ」 ママも呟くように言いました。 舞ちゃんと愛ちゃんは、興奮してなかなか眠れずに、またおしゃべりを始めました。
舞ちゃんが学校の話をすると、愛ちゃんはまるでその場にいたかのように、ニコニコしながらうなづきました。 「ねえ、明日は何して遊ぶ?」 「う…ん。何して遊ぼうか…」 愛ちゃんは困ったように言いました。 「楽しみだわ~」 舞ちゃんは、愛ちゃんがどこかへ行ってしまわないように、ぎゅっと手をにぎりました。
今の幸せがどこへも行きませんように…。 双子の愛ちゃんにも、舞ちゃんの気持ちが伝わってきて涙がこみあげて来るのでした。 しばらくすると、舞ちゃんは静かな寝息をたて始めました。 愛ちゃんは、そんな舞ちゃんの頭や頬をなでました。 「舞ちゃん、大好きだよ」 そっと呟くと目を閉じました。
それからさらにしばらくすると、静かにドアをあける音がして、パパとママが子供部屋を覗きました。 「二人とも眠ったみたいね」 ママのささやく声がします。 「そうだね」 パパとママは静かに階段を下りていきました。 愛ちゃんは、パパ、ママ、舞ちゃん…有難う。心の中で何度もつぶやきました。
愛ちゃんさよなら
また、会える日まで…
次の朝、舞ちゃんが目を覚ますと隣に眠っていたはずの愛ちゃんがいません。 「ねえ、ママ。 愛ちゃんを見なかった? 家中探したんだけど、どこにもいないの」 ママは何も言わずに、首を横に振りました。そこにパパが来ました。 「愛はきっと、安心して天国へ旅だったんだと思う」 寂しそうにパパは言いました。
「そんなの嫌だよ~。だって、昨日…家族そろってお誕生会したじゃない? お風呂にも一緒に入ったよ。 幼稚園や学校にも行ったし、家族で卓球もしたよ~。 おしゃべりもいっぱいいっぱいしたよ~。 これからもずっと一緒にいたいよ~。 それなのに…それなのに…、何も言わずにいなくなるなんて…ひどいよ~。 ひどいよ、愛ちゃ~ん」 舞ちゃんは、ママにしがみついてワーワー泣き出してしまいました。
「まだまだ一緒に遊びに行ったり、勉強したり、おしゃべりしたかったのに…」 ママは舞ちゃんの涙を指先で拭うと、そっと抱きしめました。 ママも泣いていました。 パパは窓の方を見ていましたが、肩が震えていました。 「舞ちゃん、愛ちゃんからの手紙よ」 そう言ってママが、封筒を渡しました。昨日パジャマと一緒にプレゼントで貰った可愛らしい封筒でした。
《大好きな舞ちゃんへ》 舞ちゃんは、そう書かれた封筒をそっと開けてみました。 『舞ちゃん、ありがとう。とっても楽しいお誕生会だったわ。パパとママが、ずっと愛のことを忘れずにいることが分かって、本当にうれしかった。 舞ちゃんとは、ずっと一緒にくらしていたと思えるくらい、とってもとっても楽しかったよ。
本当は、これからもずっと一緒にいたいけど…。それができたら、どんなに幸せかって思うけど…、それは無理だよね。 だって、私は死んでしまっている人間なんだもの。 舞ちゃんと過ごしたのは、たった1日だったけど、6年分の幸せがぎゅ~っとつまった1日だったよ。 こんな素敵なプレゼントをしてくれた神様に、感謝しないといけないね。 舞ちゃん、ありがとう。 私の分も幸せになってね。 もしも、今度生まれ代わることが出来るなら、私は舞ちゃんの妹として生まれてくるわ。 愛より
舞ちゃんは、涙で顔をクシャクシャにしながら手紙を読みました。 「愛ちゃんはね、パパとママにも手紙を書いてくれているのよ。 舞ちゃんが眠った後に書いたのね」 「パパ、ママ。私…愛ちゃんが…いつ帰って来ても…笑われないように…頑張る」 舞ちゃんは、あふれる涙を手でぬぐいながら言いました。
「よし、パパも愛に笑われないように頑張るよ」 パパは舞ちゃんの肩に手を乗せるとトントンしました。 「そうだ、名案を思いついたぞ」 パパは嬉しそうに言いました。 「名案?」 舞ちゃんは首をかしげました。
パパ「うん、愛と交換日記をするんだ。なっ、名案だろ」 舞「交換日記? 愛ちゃん、私達の日記読んでくれるのかな~?」 パパ「読んでくれるさ。 家族のコミュニケーションにもなるし… 今日は日曜日だから、さっそく今日から始めよう」 ママ「それは名案だわ。ちょうどまだ使っていないノートもあるわよ」 パパ「それじゃ、決まりだね。舞はどうだ?」
舞「舞も交換日記やりたい」 パパ「よし、まずは舞からスタートだ」 舞「うん」 ママ「はい、ノートよ」 ママが大学ノートを舞ちゃんに渡しました。 さっきまでふさぎこんでいた舞ちゃんが、少し元気になりました。 パパとママは顔を見合せると、ホッとしたように笑顔になりました。
「さあ、朝ごはんにしましょうか」 ママに言われて、顔を洗いうがいをしてイスに座ると、テーブルにはご飯が4人分盛り付けられていました。 「なんか…愛ちゃんが、まだどこかにいるような気がして…」 ママは寂しそうに笑いました。 「そうだよな~、昨日は本当に楽しかったものなぁ。 俺もその辺から、ひょっこり…愛が笑顔で出てくるような気がするんだよ」
朝食を終え、パパと舞ちゃんがテレビを見ていると、 《~ピンポーン》 チャイムが鳴りました。 舞ちゃんが出て行くと、親友の沙紀ちゃんでした。 舞ちゃんの顔が、ぱぁ~と明るくなりました。 「あら、沙紀ちゃんこんにちは(^-^)」 ママは玄関に来ると、にっこり笑いました。 「おばさん、こんにちは (⌒‐⌒)」 「いつも沙紀ちゃんは元気がいいわね。上がって遊んでいく?」 ママは笑顔で言いました。 「日曜日なのに…いいんですか?」 「沙紀ちゃんなら大歓迎よ」 「それじゃ、遠慮なく。お邪魔しま~す」 沙紀ちゃんは明るく笑うと、 「舞ちゃん行こう」 と言って、舞ちゃんに笑顔を向けました。
舞ちゃんと沙紀ちゃんが2階に上がって行くと、パパとママはホッとしたように小さなため息をつきました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは2階の舞ちゃんの部屋に行くと、ベッドの上に座りました。 舞「昨日ね、愛ちゃんが来たのよ」 沙紀「愛ちゃんって…。ひょっとしたら…舞ちゃんの…、双子の妹の…愛ちゃんのこと?」
舞「そうよ。 沙紀ちゃん、…信じてくれる?」 沙紀「もちろんよ」 舞「ホントに?」 沙紀「うん、信じる。 だって舞ちゃん、これまでに一度もウソをついたことないもん… それに…」 舞「それに…どうしたの?」 沙紀「それに…昨日、舞ちゃんの家に…何度も電話かけたんだけど…つながらなくて、変だなって思ってたの」
舞「そう言えば、昨日はどこからも電話がかかって来なかったわ」 沙紀「きっと神様が、家族水入らずにしてくれたのね。 ねえ、昨日の話聞かせてくれる?」 沙紀ちゃんは、にっこり笑って言いました。 「うん。昨日の朝ね、早起きして公園に行ったのね…。そしたら…」 舞ちゃんは、昨日起こったことを沙紀ちゃんに話しました。
沙紀ちゃんも舞ちゃんの話を真剣に聞いています。 舞ちゃんは話しているうちに、しだいに家族で過ごした楽しいことを思い出して…涙が出てくるのでした。 「今日の朝起きたら…愛ちゃんがいなくて…家中探したのに…いなくて…」 「うん…うん。悲しいよね。悲しいときは泣いていいんだよ、舞ちゃん」 沙紀ちゃんはそう言うと、舞ちゃんを抱きしめました。
「沙紀ちゃん、ありが…とう」 沙紀ちゃんは、そんな舞ちゃんの背中を優しくなでました。 トントン ドアをノックする音がしてママが部屋に入って来ました。 「ねえ、リビングに来ない?」 ママが笑顔で言いました。 「うん、…行く」 舞ちゃんは言うと、沙紀ちゃんとリビングのある1階に降りていきました。
2人がソファーに座ると、ママが言いました。 「飲み物はジュースでいいかしら?」 「はい、何でもいいです」 沙紀ちゃんは、舞ちゃんを心配そうに気づかいなから言いました。 「舞ちゃんに愛ちゃんのこと聞きました。そんな事ってあるんですね。 愛ちゃんは本当に舞ちゃんの事が好きだったから会いに来たんだと思います。」 沙紀ちゃんは、ジュースを一口飲むと言いました。
「沙紀ちゃん…ごめんね。せっかく来てくれたのに…」 「いいんだよ舞ちゃん。親友なんだから…。私はありのままの舞ちゃんが好きなんだから…」 沙紀ちゃんは、そう言ってにっこり笑いました。 「私…もう泣かないから…。愛ちゃんに今度会った時に笑われないように、頑張るんだ」 舞ちゃんも笑顔になりました。
「これは?」 沙紀ちゃんは透明のテーブルの下にあった物を手に取りました。 「あ~、それはアルバムなの。まだ買ったばかりで何も貼ってないのよ」 ママが言いました。 「そうなんですか?」 沙紀ちゃんは、元あった場所に戻そうとしましたが、何を思ったか表紙をめくりました。 すると、目を大きく見開きポカンと口を明け…、手が震えています。
パパとママと舞ちゃんは、驚いて沙紀ちゃんを見つめました。 「沙紀ちゃん、どうしたの?」 舞ちゃんは、広げられたアルバムをのぞきこんで、 「あっ!!」 と声を出しました。 買ったばかりで、何も貼ってないはずのアルバムに、写真が貼ってあったのです。 その写真は、昨日家族で撮った写真でした。
まだデジカメの中にメモリが入ったままで、家族さえまだ見ていない写真でした。 「これは…昨日、家族で撮った…写真」 舞ちゃんは頭が混乱しています。 パパやママも覗きこんで、言葉を無くしました。 アルバムの中では、家族が楽しそうに笑っていました。舞ちゃんが嬉しくておどけた顔をしているのもありました。
それは幸せな幸せな…家族の思い出の写真でした。 そのアルバムを見て、舞ちゃんは再び泣き出してしまいました。 沙紀ちゃんは、そんな舞ちゃんと寄り添うように、背中から腕を伸ばして肩を抱きました。 「来年の誕生日も、……きっと来てくれるよ」 沙紀ちゃんは励ますように言いました。
「うん、…そうだね」 舞ちゃんが涙を拭いながら言いました。 「沙紀ちゃん、一緒にお昼ご飯食べていかない?」 ママに言われると、沙紀ちゃんは「うん」と嬉しそうに言い、家に電話しました。 沙紀ちゃんを交えて、一緒にお昼ご飯を食べたり、おしゃべりして楽しいひとときを過ごして、沙紀ちゃんは4時頃帰りました。 「沙紀ちゃん、有難う。また来てね」 ママは笑顔で言いながら、今日は沙紀ちゃんに救われたな…ふっとそう思いました。
家族の交換日記
舞ちゃんは夕食を済ませ、お風呂に入ると、さっそく『家族の交換日記』を書くことにしました。 ………………………… 『愛ちゃんへ 本当のことを言うと、愛ちゃんのこと覚えていなかったの。ごめんね。 でも写真に写っている愛ちゃんを見て、会いたいな~とは思っていたの。 一緒にご飯食べたり、ショッピングしたり、カラオケとかボーリングに行ったり、おしゃべりしたり…。
そんなことが出来たら、どんなに楽しいかなって思ってたの。 そんな夢が少し叶って、昨日はすご~く幸せな1日だったよ。 そんな楽しい日が、これからもずっと続くような気がしていたの。 だけど、朝起きたら愛ちゃんがいなくて、悲しくて悲しくてどうしようもなかったの。 また、来年の誕生日には来てください。きっときっと来てください。 舞より …………………………
舞ちゃんは日記を書き終わると、ママに渡しました。 …………………… 『愛ちゃんがママにくれた手紙に、ママが見た夢は愛ちゃんが見させたものだと書いてありましたね。 愛ちゃんが家族を思う気持ちが、神様に伝わって会うことが出来るようになったのかもしれませんね。 姿は見えないけど、愛ちゃんがすぐそばにいるような…そんな気がしたことが何度かありましたよ。 愛ちゃんにまた会えるように、神様にお願いしようと思います。 ママより …………………………
それから交換ノートはパパが書き始めました。 ………………………… 『今まで3人でも幸せだと思っていたけど、愛が現れて今は心にポッかりと大きな穴が空いてしまったような気がしているよ。 昨日は4人いるこの姿が、本来の姿なんだって思い知らされたよ。 でも愛は天国へ帰ってしまったんだろう? これからは愛の分も頑張って、家族仲良く暮らして行くよ。 でも、愛がまた来年の誕生日にひょっこり来てくれたら、パパは飛び上がって喜んじゃうよ。 神様、どうかもう一度愛に会わせて下さい。 パパより …………………………
パパは日記を書き終わると、リビングのテーブルの上に置いて言いました。 「さあ、今日はもう遅いから寝ようか。パパも明日は仕事があるし、舞も学校があるしな」 「そうだね、おやすみなさい」 舞ちゃんは目をこすりながら言いました。
翌日の月曜日。
学校の帰り道、舞ちゃんは沙紀ちゃんと並んで歩いていました。
舞「昨日から家族の交換日記をはじめたんだ」
沙紀「きっと愛ちゃんも読んでくれるよ」
舞「読んでくれるかな?」 沙紀「読んでくれるに決まってるじゃない」
舞「愛ちゃんもノートに参加してくれるかな?」
沙紀「…それは…、分かんないけど…」
すると、舞ちゃんが寂しそうにうつむいてしまいました。
「舞ちゃん、…愛ちゃんの返事が無かったとしても、…ガッカリしちゃダメだからね。 …返事が無かったとしても、…愛ちゃんが舞ちゃんのそばにいて、見守っていることだけは…間違いないんだから…ね」
沙紀ちゃんは、一生懸命励ますように言いました。
「うん、そうだね。沙紀ちゃん、家に来ない?」 「うん、行く。家にランドセル置いてくるね」 沙紀ちゃんは自宅の玄関のドアを開けると、 「ただいま~。舞ちゃんの家に行ってくる~」 と言い、ランドセルを玄関に置いてすぐに出掛けました。 「お帰りなさい」 と言ってお母さんが玄関に来たときは、すでに沙紀ちゃんはいません。
「おやまあ…本当に仲が良いのね」 お母さんは呆れたようにつぶやくと、ランドセルを子供部屋に置きに行きました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、家も近いこともあり家族ぐるみの付き合いをしています。 ですから沙紀ちゃんのお母さんからみても、舞ちゃんは可愛いと思える存在です。
「おじゃましま~す」 沙紀ちゃんが玄関のドアを開けながら言いました。 沙紀ちゃんが来ると分かっている時は、玄関のカギはかけてありません。 舞ちゃんは玄関に急ぎました。 2人はリビングに入ると、ソファーに並んで座りました。テーブルの上には『家族の交換日記』があります。
舞ちゃんが『交換日記』をそっと広げました。 家族の書いた日記のページをめくりましたが、当然のように愛ちゃんのメッセージは書き込まれていませんでした。 ガッカリする舞ちゃんの肩をポンとたたいて沙紀ちゃんがにっこり笑いました。 「舞ちゃん元気出してね。きっとこの近くに、愛ちゃんがいるはずなんだから…」
「うん。そうだね」 口ではそう言いながら、舞ちゃんは寂しそうでした。
そこにママが来て、交換日記の向きを変え、その上にボールペンを置きました。 そして、沙紀ちゃんの向かい側に座りました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、キョトン(・・?)として、首をかしげました。 しかし、その時不思議な事が起こりました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんはビックリして、目を大きく見開いて、口をポカンとあけて、お互いの顔を見ました。
『家族の交換日記』の上に置いてあったボールペンがかすかに動いたのです。 誰も触っていないし、もちろん地震でもありません。
「今、ボールペン…動いたよね」
沙紀ちゃんが目を丸くして言いました。
「うん、…動いた。確かに動いた」
舞ちゃんはそう言いながらママを見ました。 すると、
ママは両手を組み合わせ、目を閉じて少しうつむき加減で、何かを祈っているようでした。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、ノートとボールペンを見つめました。 ボールペンはまた少し動いた後、ゆっくりと少しだけ宙に浮かびました。 《う…そ》 沙紀ちゃんは自分の頬をつねって、目をパチパチ何度も瞬きしました。
舞ちゃんは前かがみになり、まばたきもせずじっと見つめています。 すると今度は…、 何と字を書いています。
「み…」
沙紀ちゃんが言いました。
「んな」
舞ちゃんが言いました。 2人の声を聞いて、ママは目を開けて、舞ちゃんや沙紀ちゃんと共にボールペンを見つめました。
ママも大きく目を見開き、かたずを飲んで見つめました。 「あ…り…が…と…う」 ママがつぶやきました。 「みんな…ありがとうって…今、ここに愛ちゃんがいるってことよね」 舞ちゃんの顔がパア~ッと明るくなりました。
「いるのよ…ここに、愛ちゃんが…。姿は見えないけど…、舞ちゃんに会いに来たのよ…」
沙紀ちゃんは泣きながら、舞ちゃんの手を握って言いました。 文字はさらに書き続けられました。
『1ねんごに あいましょう』
「1年後って…、 舞ちゃんの今度の誕生日ってことよね。 また来てくれるんだね♪ 私もその時、一緒にいていいのかな」 『さきちゃんもどうぞ』
「さきちゃんもどうぞだって…沙紀ちゃん、良かったね」
舞ちゃんが沙紀ちゃんに笑いかけました。
「うん、嬉しい」
沙紀ちゃんは、少し涙目になって言いました。 ママも本当に嬉しそうです。1年後が楽しみです。
誕生日の翌日に、クラスの友達に愛ちゃんの話をしましたが、誰も信じてはくれませんでした。
「夢でも見たんじゃないの?」
クラスの友達は、そう言って笑いました。 だから愛ちゃんの話をするのは、沙紀ちゃんと2人の時だけです。
「交換日記は、続けているの?」
学校の帰り道、沙紀ちゃんが言いました。
「うん、ほとんど毎日書いているよ」
「愛ちゃんからのメッセージは?」
「……」
しょんぼりしてうつむいてしまった舞ちゃんを見て、
「ゴメン(;>_<;)」
沙紀ちゃんは、慌てたように謝りました。
「ううん、いいの。次の誕生日には来てくれるって分かってるから…。それに…」
舞ちゃんはニッコリ笑って言いました。
「それに…、こうして親友の沙紀ちゃんが、いつもそばにいてくれるから…」
「有難う、そう言ってもらえると嬉しいな(o^-^o)」
沙紀ちゃんは嬉しそうに言いました。
「姿は見えなくても、いつも近くにいるような気がするから、笑顔でいようって思ってるんだ」
「そんな気がするわ。何せ私も…奇跡の瞬間を見ちゃったから」
2人は顔を見合わせると、ニッコリ笑いました。
それからしばらくたったある日、家族が夕食のテーブルに着いた時のことです。
「食事の前に、報告することがあります」
ママが少しはにかみながら言いました。
「報告することって、なあに?」
舞ちゃんは首をかしげました。 パパもキョトン(・・?)としています。
「実は、…赤ちゃんが出来たみたいなの」
それを聞いて、パパと舞ちゃんは大喜びです。
「それはめでたいなぁ。予定日はいつなの?」
パパは笑顔で言いました。
「それが…ね。舞ちゃんの誕生日と一緒なの」
「へえ~。まるで愛の生まれ変わりみたいだね」
「絶対女の子に決まってるわ。ねえ、愛って名前にしましょう?」
舞ちゃんは、嬉しさのあまり興奮してママの手を握り左右に揺すりました。
「女の子なら名前に愛をつけたいよな。…愛花って言うのはどうだ? 愛の花って書くんだ」
「うん、パパそれがいいよ」
「2人とも気が早いわね。まだ男か女かも分からないのに…」
そう言いながらも、ママも嬉しそうでした。
舞ちゃんは学校の帰り道、さっそく沙紀ちゃんにそのことを報告しました。
「(*゜Q゜*)エエッ‼ホントに? 凄いわぁ~素敵‼」
沙紀ちゃんは、ビックリしながらも本当に嬉しそうでした。
「生まれる時、私も一緒に病院に行っていい? だって…、奇跡の一瞬を共にしたいんだもの…」
「沙紀ちゃんも一緒にいてほしいな。だって、愛ちゃんからのメッセージに、沙紀ちゃんもどうぞってあったものね」
「うん、生まれそうになったら…絶対に忘れないで連絡してよ」
「うん、分かった」
それからと言うもの、舞ちゃんばかりか沙紀ちゃんまで遊びに来ると、ママのお腹に話しかけています。
「赤ちゃん、こんにちは。沙紀ちゃんだよ、早くママのお腹から出ておいで~」
それを聞いてママはクスクス笑っています。 沙紀ちゃんにはきょうだい(兄姉)がいますが、2人とも年が離れているので、1人っ子のように皆から可愛がられて育ちました。 だから、舞ちゃんのママから生まれる赤ちゃんなのに、まるで自分のきょうだいが生まれるみたいに楽しみにしているのです。
「絶対女の子だと思うわ」
沙紀ちゃんが言いました。
「沙紀ちゃんも、そう思う? 私もそう思うの」
舞ちゃんは嬉しそうに言いました。
「名前は決めているの?」
「うん、あいかにしたの。愛ちゃんの愛に、花よ」
「うん…それ、凄くいいよ、舞ちゃん」
沙紀ちゃんは、舞ちゃんの手を握ると大きく揺らしました。 そんな2人を見て、ママはクスッと笑って言いました。
「はい、2人ともおやつですよ。手を洗っていらっしゃい」
「はあい」
2人は元気よく洗面所に走っていくのでした。
だんだん寒くなってきて、ママのお腹も大きくなってきました。 お腹の中の赤ちゃんが女の子だと分かると、ママはピンクの毛糸で可愛い手袋と靴下を編み始めました。
「もうすぐ舞ちゃんの誕生日だね。もうすぐ愛ちゃんが生まれるね」
「うん」
舞ちゃんと沙紀ちゃんは (o^-^o)(o^-^o) ニコニコしながら嬉しそうに言いました。
そこにママが来て、
「はい、可愛いお姉ちゃんたちに、愛ちゃんとお揃いの帽子を編んであげましたよ」
ママが笑顔で帽子を渡すと、
「有難うママ(^o^)」
「おばさん、有難う~ (⌒‐⌒) うれし~い」
沙紀ちゃんも、本当に嬉しそうです。さっそく帽子をかぶった2人に、
「まあ…素敵‼ 2人とも似合ってるわ」
ママも嬉しそうです。
こんにちは、赤ちゃん
ついに舞ちゃんの誕生日になりました。 朝ごはんを食べ終わり、キッチンで洗い物をしているママが急にお腹が痛いと言いました。 「それじゃ、急いで病院に行こう」 パパは焦ったように言いました。 「そんなに慌てなくても大丈夫よ。すぐ生まれるわけではないから…。一応両親に電話しておくわ」
「そうだね」
パパは病院に持って行くボストンバックを玄関先に持って来ました。
「ピンポーン」
インターフォンがなりました。 パパが玄関のドアを開けると、沙紀ちゃんと沙紀ちゃんのお母さんでした。
「今日が予定日だから、ちょっとようすを見に来たんだけど…(^_^;)」
沙紀ちゃんのお母さんが言いました。
「今…家内が…、お腹が痛みだしたみたいで…(@_@;)」
パパが落ち着かないように言いました。
「あら、それじゃ…いよいよ生まれるのね。 お隣の山崎さんの奥さんにも教えないと…」
沙紀ちゃんのお母さんは笑顔で言いました。
ママのお腹の痛みの感覚が短くなってきたので、病院に行きました。 ママが分娩室に入ると、皆は分娩室の外側の通路にあるイスに座って、赤ちゃんの誕生を待ちました。 舞ちゃんとパパと、沙紀ちゃん母子、お隣の山崎さんの奥さん。それから少し遅れて病院にかけつけた、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん(ママの両親)が見守るなかで、
「おぎゃ~、おぎゃ~」
元気な産声が聞こえました。
「舞ちゃ~ん、良かったね(^o^)v」
沙紀ちゃんが満面の笑みで言うと、
「うん」
感激でウルウルしながら、舞ちゃんがうなづきました。 新生児室に赤ちゃんを見に行くと、赤ちゃんは生まれたばかりとは思えないくらいに、しっかりとした目鼻立ちの可愛い女の子でした。
「愛ちゃん、可愛いね (⌒‐⌒)」
沙紀ちゃんが愛おしいように言いました。
「ホント可愛い(o^-^o)」
赤ちゃんが生まれて少したった頃、パパ方のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんも来ました。 「まあ、何て可愛い赤ちゃんなのかしら」
皆は口々に言いました。 赤ちゃんはたくさんの人達に見守られたのでした。
しばらくすると、皆は安心して帰って行きました。パパは皆を見送りに行き、その後ママの病室に行きました。 舞ちゃんは、愛ちゃんの所にいるからと、見送りには行きませんでした。 さっきまで大勢の人がいたので、騒がしかったのですが、今この新生児室にいるのは舞ちゃんだけで、とても静かです。
もちろん、赤ちゃんは何人もいましたが、皆眠っているようで…とても静かです。 舞ちゃんは、愛ちゃんが可愛くてたまらず、ずっと愛ちゃんを見ていました。 すると、 「また会えたね」
と言う声が聞こえました。
「えっ」
舞ちゃんは(゜゜;)(。。;)キョロキョロしました。 でも、この部屋には舞ちゃんだけしかいません。
『気のせいね…』
と思っていたら、
「舞ちゃん、私は愛よ」
と、今度はハッキリ聞こえました。 舞ちゃんは驚いて、新生児用のベッドにいる《生まれたばかりの愛ちゃん》を見ました。 愛ちゃんはあどけない表情でニコニコ(o^-^o)していました。
「今、話したのは……」
「ひょっとしたら……」
赤ちゃんの愛ちゃんは大きな目をクリクリさせながらニコニコしていました。
「愛ちゃん…あなたは…愛ちゃんの生まれ変わりなの…ね?」
舞ちゃんはにっこり笑って、愛ちゃんの頭を優しくなでました。 すると、赤ちゃんの愛ちゃんがにっこり笑いました。
「そうよ。これからはずっと一緒にいられるね…舞ちゃん」
赤ちゃんの愛ちゃんから、そんな声が聞こえてきました。
そう、それはテレパシーと言うものでした。口を動かして話すのではなく、愛ちゃんの体全体から感じる…不思議な体験でしたが、確実に舞ちゃんには届いてくるのでした。 「愛ちゃん…」
もう会えないと思っていたけど、またこうして会えるなんて… 舞ちゃんは涙ぐんでいました。
その頃、パパは皆を見送りに行った後、ママの病室に入って行きました。
「ママ、お疲れさま。よく頑張ったね」
パパは笑顔で、ママに話しかけました。
「フフフ…頑張ったわ」
「舞や愛によく似た可愛い女の子だったね」
「ええ、私も赤ちゃんを見せてもらったけど…凄く可愛かったわ…ホント2人に似ていたわね」
ママは素顔だったけれど、幸せに満ち溢れた輝くような笑顔で言いました。
「舞ちゃ~ん」
沙紀ちゃんの声がしたので振り向くと、沙紀ちゃんは舞ちゃんのすぐ後ろに立っていました。
「あ~、(;゜0゜)ビックリしたぁ~」
「舞ちゃんずるいぞ。1人で愛ちゃんを独占するなんて…」
沙紀ちゃんは腕を組んでニヤニヤしています。
「だって~、愛ちゃん可愛いんだもん」
「確かに可愛いよね。いや可愛い過ぎるくらいだよね」
沙紀ちゃんは、笑顔で愛ちゃんの顔を覗きこみました。
「さきちゃん」 その声を聞いて、沙紀ちゃんは(゜゜;)(。。;)キョロキョロしています。
「えっ、空耳かな(・・?) 沙紀ちゃん…って声が聞こえたような…気が…したんだけど…」
沙紀ちゃんは首を傾げました。すると、
「さきちゃん」
また沙紀ちゃんを呼ぶ声がしました。 沙紀ちゃんは、またキョロキョロ(゜゜;)(。。;)して首を傾げながら言いました。
「私、疲れているのかな~(^_^;)。ここには舞ちゃんと私しかいないはず…」
「愛もいるよ」
「((((;゜Д゜)))エエッ 今、赤ちゃんの愛ちゃんの所から聞こえてきた…ような…そんな…まさか…ねぇ舞ちゃん?」
「それが…。 沙紀ちゃん、落ち着いて聞いてね。実は…そのまさか…みたいなの」 「((((;゜Д゜)))エエッ、そのまさか…って…ゆうことは…」
沙紀ちゃんは、ベビーベッドにいる愛ちゃんを見つめました。 愛ちゃんはにっこり笑うと、
「そう言うこと」
とテレパシーで言いました。
「つ…つまり、赤ちゃんの愛ちゃんは、愛ちゃんの生まれ代わりだってことね」
愛ちゃんは嬉しそうにキャッキャッ笑っています。
「こうしていると、ただの赤ちゃんに見えるのに、あなたは愛ちゃんの生まれ変わりなのね」
沙紀ちゃんは、愛ちゃんのほっぺを指先で軽くツンツンしました。
「そう言えば、新生児室って入っちゃいけないんだったよね…。出よう」
「うん」
2人はそっと新生児室を出ると、静かにドアを閉めました。
「舞ちゃんの家に行ってくる♪」
沙紀ちゃんは、玄関にランドセルを置くと、すぐに舞ちゃんの家に行くのが日課になりました。そして、
「おじゃまし~ます」
と元気に言って、舞ちゃんの家のドアを開けると、内側から鍵をかけリビングに行きました。 赤ちゃんの愛ちゃんはママのお乳を飲んでいました。
「沙紀ちゃん、こんにちは」
ママは笑顔で言いました。愛ちゃんが美味しそうにお乳を飲む姿を舞ちゃんと沙紀ちゃんは嬉しそうに見ています。
「はい、今度はオムツを取り替えましょうねぇ」
ママが言いました。すると、
『…恥ずかしいから見ないでね(//∀//)』
愛ちゃんから聞こえて来ました。 『ママに聞こえちゃうよ』舞ちゃんと沙紀ちゃんは、焦ってママの方を見ましたが、ママは平気な顔をしています。
すると、
『大丈夫よ。ママには私の声は聞こえないから…』
愛ちゃんは(o^-^o)にっこり笑っています。それを聞いて、舞ちゃんと沙紀ちゃんはホッとして、お互いの顔を見て笑顔になりました。
=『愛ちゃんは赤ちゃんなんだから、恥ずかしがることはないんだよ』
沙紀ちゃんが心の中で言いました。
『見た目は赤ちゃんでも…私…心は10才なのよ。やっぱり恥ずかしいわ』
愛ちゃんから聞こえて来ました。
『分かったわ。なるべくオムツを替えているときは見ないようにするから』
舞ちゃんは愛ちゃんの頭をなでると後ろを向きました。
「さて、後は2人のお姉ちゃんに遊んでもらってね」
オムツ替えが終わると、ママが言いました。
「「任せてくださ~い」」
舞ちゃんと沙紀ちゃんは声を揃えて言いました。 愛ちゃんが生まれてから、舞ちゃんと沙紀ちゃん以外の人がいる時は、声に出さずテレパシーで話をしています。 ……と言っても別に難しいことではなく、心に思うだけで、会話が出来るのでした。
でも3人だけの時は、舞ちゃんと沙紀ちゃんは声に出してしまうこともあります。 心で伝えるよりも、口に出して言ってしまう方が慣れているから楽だからです。 そうして、こんな奇妙な生活が続いていくのでした。
頑張り屋の愛ちゃん
いつものように沙紀ちゃんは、舞ちゃんの家に来ています。
「可愛いね」
そう言って、沙紀ちゃんはベビーベッドにいる愛ちゃんの頭をなでました。
「は~い、今日のおやつはチーズケーキよ。 飲み物はミルクティーでいいかしら?」 ママは笑顔で言うと、テーブルの上に乗せました。
「わーい‼ 嬉しいなぁ。 (⌒‐⌒)✌ おばさんの作るおやつは最高⤴⤴に美味しいんだよね」 「あら、誉めてもらって嬉しいわ。手を洗うのを忘れないでね」 「はぁい」 「はぁい」 2人は元気よく返事をすると、洗面所で手を洗い、 「いただきま~す」 と言って食べ始めました。
「うわ~っ、美味しい」
うっとり(*´-`)する沙紀ちゃん。
「ママの作るケーキってケーキ屋さんで売ってるのと変わらない位美味しいよね」
「うん、美味しい。あ~幸せ+。(*′∇`)。+゜」
沙紀ちゃんは一口食べるたびににんまり(^ー^)しています。
「あ~ん、いいなぁ。私も食べたいな」
ベビーベッドの方から聞こえてきました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは顔を見合せ、次にママの方をそっと見ました。 でもママは気づいていないようです。
「あらっ、どうかしたの?」
ママはキョトン(・_・)?としています。どうやら愛ちゃんの声は、舞ちゃんと沙紀ちゃんにしか聞こえていないようです。
『愛ちゃん…ゴメンね。ケーキはもっと大きくなってからね』
沙紀ちゃんがベッドの愛ちゃんに心の中で言いました。 愛ちゃんは、仕方ないと言うようにうなづきました。
すると、
「う~ん、う~ん」
突然愛ちゃんが苦しそうにもがき始めました。 ママはビックリ(*゜Q゜*)して、ベビーベッドにかけよると、
「あ~、どうしちゃったのかしら…びょ、病院はっと…ええと…」
オロオロしています。 ママは昔のことを思い出しパニックになっていました。 舞ちゃんと双子で生まれた愛ちゃんが、重い病にかかり死んでしまった辛い過去が脳裏をよぎったのでした
しばらくすると、愛ちゃんは『ふぅ~』と大きくため息をつくと、ケラケラ笑いだしました。
「あ~、良かったわ」
ママは愛ちゃんの元気な顔を見て、安心してヘナヘナとその場に座り込んでしまいました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、笑っている愛ちゃんを覗きこむと、
『さっきはどうしたの? 心配したのよ』
と、心で聞きました。
『心配かけちゃった?』
愛ちゃんは上目ずかいに、舞ちゃんと沙紀ちゃんを見ています。
『当たり前でしょ、あんなに苦しそうにするんだもの…』
『ごめんなさい。心配させるつもりじゃなかったのよ。 早く大きくなって、舞ちゃんや沙紀ちゃんと遊びたかったの。 それでね…寝返りの練習をしていたの』
「エエッ‼ ((((;゜Д゜)))寝返りの練習?」
沙紀ちゃんは思わず大声を出してしまい、慌てて自分の口を押さえました。
「沙紀ちゃん、…声が大きい…もっと小さい声で」
舞ちゃんは、沙紀ちゃんのTシャツの裾を引っ張りながら、囁くような小さな声で言いました。
「寝返りの練習って…いったい何のことなの?」
ママは、事情が飲み込めず(・_・)? 首を傾げながら言いました。
「ママ…気にしないで (^o^;)」
「そうそう、これは……。 …んと…(^o^;) 昨日見た夢の…、そうそう…昨日見た夢の話なのよ。ハハハ…」
舞ちゃんは、(^_^;)焦って言いました。
「ずいぶん変な夢を見たのね。」
ママはクスクス笑いました。
《危なかった~(^o^;)》
舞ちゃんと沙紀ちゃんは、胸をなでおろしました。
『それにしても、舞ちゃんのママが素直な人で助かったわ』
沙紀ちゃんはニンマリしました。
『ごめんなさい』
愛ちゃんは謝りました。もちろんその声はママには聞こえません。
それから愛ちゃんはウンウン 唸りながら、2ヶ月で寝返りが出来るようになりました。 「舞ちゃんも早い方だったけど、寝返りが出来るようになったのは3ヶ月になってからだったわ。 歩き出すのも相当早いかもね。でも、ママはそんなの遅くてもいいから、いつも笑顔でいてほしいわ。 苦しそうにもがきながら、早く覚えなくても、誰もいつかは歩けるようになるんだもの」
ママはため息をつきました。
「親なら誰だってそう思うのよ。可愛い我が子にはいつも笑顔でいてほしいって」
ママはそう言って舞ちゃんの髪をそっとなでました。
「だけどママ言ってたよね。私達の9ヶ月検診に行った時に、8ヶ月の終わりごろから歩き出した話をしたら、お医者さんがビックリして椅子から落ちたって。
あの時ママ嬉しそうに話してたよ」
舞ちゃんが話すと、ママはバツ悪そうに、
「そ…そうだったかしら?(;^_^A」 と、焦って言いました。
「「こりゃ、驚いた‼ 長いことこういう仕事をしてきたけど、9ヶ月になる前に歩いた話は初めて聞いた」
と言ってビックリしたお医者さんを見て、ちょっと自慢だったって言ってたよ」
「まあ、よく覚えているのね。その話をしたのは随分前よ。舞ちゃんが1年生の頃じゃなかったかしら」
「うん、1年生になったばかりの時だったわ。 愛ちゃんもランドセルを背負って学校に行きたかったでしょうね……って、ママが話し出して、それから小さい頃の思い出話になって…。
その時に、ママが9ヶ月検診の話をしたの。 それから10ヶ月に入った頃、私達に靴を履かせておばあちゃんと一緒に手を繋いで公園に行ったら、ママさん逹が驚いてたっていう話も嬉しそうにしていたわ」
「そりゃ~、親と言うのは、子供の成長は嬉しいものなのよ。舞ちゃんもお母さんになれば分かると思うけど……」
そう言った後、ママは夕食の準備をするためにキッチンに行ったので、舞ちゃんは愛ちゃんの所に行きました。
沙紀ちゃんは、最近では学校帰りに直接舞ちゃんの家に寄るようになりました。
「ただいま~」
「ただいま~」
元気よく言うと、ママは
「2人ともお帰り」
と笑顔で言います。 2人が真っ先に向かうのは愛ちゃんのベビーベッドです
沙紀ちゃんは、愛ちゃんの顔を覗きこみながら言いました。
「不思議なのよね~。私そんなに子供が好きなわけじゃないのに…どうして愛ちゃんが、こんなに可愛いって思うのかしら。 まるで、自分の妹みたいに可愛いの。愛おしいって言うか…」
沙紀ちゃんは、愛ちゃんの頭を撫でました。
「フフフ…それはね。私達が昔、姉妹だったからよ」
愛ちゃんはテレパシーで話します。 「エエッ((((;゜Д゜)))きょ、きょうだい‼」
沙紀ちゃんが大きな声を出したので、キッチンにいたママが、チラッとこちらを見ました。 慌てて舞ちゃんが沙紀ちゃんの口を手でふさぎました。
「ごめん(^_^;)…つい」
沙紀ちゃんは小さな声で謝りました。
「それより…私達が姉妹だったって…どういうことなの?」
舞ちゃんが小さな声で尋ねました。
「ずっと昔のことよ。明治時代の半ば頃くらいかしら。私達は三つ子で生まれたの。あの当時はとても珍しかったのよ」
「そうよね。人口受精とかもなかったはずだし…」
沙紀ちゃんは小さな声で言いました。
「私達の家はそんなに貧しいわけではなかったんだけど、上には姉や兄が5人もいたので、子供のいない親戚に養女に出されたの」
「「全員とも?」」
「ううん、その時は私と沙紀ちゃんの2人が同じ家に貰われて行ったの。1人じゃ可哀想だからって」
「残った舞ちゃんには、きょうだい(兄姉)がいるわけだからね……(^_^;)。 ところで、昔…三つ子として生まれた私達が、またこうして運命的に出会ったってことよね。 これって凄いことじゃない( ; ゜Д゜)⤴⤴」
沙紀ちゃんは大きな目を、さらに大きくして言いました。
「ホントよねぇ。 愛ちゃんが前世の記憶を持ったままで…生まれてきたからこそ…分かったことだものね」
舞ちゃんも生命の神秘にしばし感動しているようでした。
「ホットケーキ作ったけど食べる?」
キッチンの方からママの声がしました。
「はーい、今行きま~す」
「はーい、有難うございま~す(o^-^o)」
舞ちゃんと沙紀ちゃんは、興奮が冷めやらぬ面持ちで言いました。 いつものように、手を洗いホットケーキを食べていると、
「さっきは2人で何を話していたの?」
ママが2人の顔を覗きこむように言いました。 小声でひそひそ話していたので、気になっているようです。
「そんなたいした…ことは、話してません(^_^;)…よぅ。…ねっ、舞ちゃん?(*^□^*)」
沙紀ちゃんが、困ったように言いました。
「そっ…そうなの(^_^;)。愛ちゃんがあんまり…可愛いから、…こんな可愛い妹が欲しいって…沙紀ちゃんが…言うから、あの…沙紀ちゃんも沙紀ちゃんのママに生んでもらえば……って、ハハハ…」
「うん、そ…そうなの。……だけど、私のお母さんはもう48才になるから…無理って…ハハハ…(;^_^」
「そんな話をしているようには見えなかったけど…」
ママは首をかしげて言いました。
「舞ちゃんのママは若くて綺麗だから羨ましいわ (^o^;)」
「ママは32才だけど、でも沙紀ちゃんの所は、社会人のお兄さんもいるんだもん仕方がないわよ(*^_^*)」
舞ちゃんは、最後の1切れを口に入れると、
「ごちそうさま」
と言って、流し台に皿とフォークを持って行きました。 沙紀ちゃんも、慌ててホットケーキを口に入れると、
「ごちそうさま」
と言って、皿とフォークを持って行きました。 2人が愛ちゃんのベッドに行くと、
「危なかったわね。ひやひやしちゃったわ」
愛ちゃんがテレパシーで言いました。
沙紀ちゃんは、前世で姉妹だと分かると、さらに積極的に育児に協力的になりました。 愛ちゃんは精神年齢は舞ちゃんや沙紀ちゃんと同じでも、まだ体は赤ちゃんなので、ハイハイの練習や歩く練習はしなくてはなりません。 愛ちゃんは、2人の協力があり、その後も頑張って成長を続け、4ヶ月には『はいはい』が出来るようになり、7ヶ月には歩けるようになっていました。
「しっかし凄いなぁ~。7ヶ月で歩いた話なんて聞いたことないぞ」
パパは会社から帰ると、ネクタイをはずしながら言いました。
「ホント私も驚いているの。1才の誕生日には2語を話すんじゃないかしら?」
ママも笑顔でパパの背広をハンガーにかけました。
「こうして見ていると、普通の赤ん坊に見えるんだけどなぁ」
パパはベビーベッドに行くと、愛ちゃんを抱き上げました。愛ちゃんはキャッキャッと言って喜んでいます。
「君は天才赤ん坊だ‼」
パパはニコッと笑いました。愛ちゃんは大好きなパパに遊んでもらって本当に嬉しそうです。
お隣りの山崎さんと安藤さん(沙紀ちゃんのお母さん)が遊びに来ています。
「しかし、愛ちゃんには驚いたわ。まさか7ヶ月で歩くなんてねぇ」
山崎さんの奥さんが話すと、
「本当にビックリよね。そんなの聞いたことが無いわよね」
安藤さんも続けます。
「家の子供達が歩き出したのは、お誕生を少し過ぎてからだったわよ」
「山崎さん、それが普通よ。ウチも沙紀は9ヶ月で歩き出したけど、お兄ちゃんやお姉ちゃん達は皆お誕生前後だったもの」
「ねえ、マスコミに言ったら取り上げてもらえるんじゃない?」
安藤さんが、声を弾ませて言いました。
「テレビにも出演依頼が来るんじゃない?」
山崎さんも乗り気です。
「ちょっと2人とも待ってくださいよ。私マスコミに言うつもりはありませんよ」
ママはため息をつきました。
「マスコミが頻繁に来ていたら…、愛が疲れてしまうわ…」
「確かにそうね。愛ちゃんが可哀想よね(^o^;)。 でも…、私達は黙っていても、近所の他の奥さんがマスコミに言うかも知れないわよ」
安藤さんが言いました。
「確かにそれは言えるけど…(^_^;) ねえ、それよりスイートポテトを作ったの。今持って来るわ(^_^;)」
ママは不安そうにしていましたが、そんな思いを振り切るように明るく言いました。 「待ってました~ 実はこれが楽しみでね……フフフ…」
「まあ、安藤さん。調子いいわね~。 そういう私も実はこれが楽しみなのよね……フフフ」
山崎さんは笑顔で言いました。
「だって、有名店の味よね、これは。 ほっぺがとろけちゃうって、まさにこのことよね」
「そうそう。ほっぺもとろける幸せ゜+。(*′∇`)。+゜の味って感じ」
「ねえ(n‘∀‘)ηケーキ屋さん始めちゃえば? 私毎日買いに行くわよ」
「ちょっと安藤さん…増々太っちゃうわよ(^_^;)」
そう…沙紀ちゃんのお母さんはぽっちゃり体型です。
「大丈夫よ。その時は運動するから」
「ええっ、出来るの ( ; ゜Д゜)?」
「まあまあまあ…(^_^;)。今の所はお店を出すつもりは無いですから……。 私の作るお菓子には、砂糖はあまり使っていないから、…ウチで食べる分にはそんなにカロリーの心配いらないわ」
ママがにっこり笑って言いました。
「砂糖が控え目の割には甘くて美味しいわ」
「体に影響がない人工甘味料や天然の素材を利用して甘味を出したりと工夫して作っているから…。 だから、あまり大量には作れないのよ。 家族やご近所の人達に喜んで食べてもらえるだけで十分よ」
「私達、星野さんのご近所で良かったわね(*^_^*)」
「ホントホント(o^-^o)」
山崎さんと安藤さん(沙紀ちゃんのお母さん)が顔を見合って笑っていたら、突然愛ちゃんが泣き出しました。
「はいはい、起きたのね。ちょっと待ってね」
ママが愛ちゃんをベビーベッドから抱き上げ、ソファーに連れて来ました。
「可愛いわね(^-^)」
山崎さんはそう言って愛ちゃんをあやしました。 愛ちゃんは仕方なく嬉しそうに笑ってあげました。 (^○^)
「愛ちゃんって、沙紀ちゃんにも似ているような気がするんだけど… 舞ちゃんと沙紀ちゃんも似ているものね」
山崎さんが首を何度も傾げながら言いました。
「山崎さんもそう思う? 実は私も前からそう思っていたの。実のきょうだい(兄姉)より舞ちゃんや愛ちゃんに似ているなと思っていたの」
安藤さんは頷きながら言いました。
「母親が言うんだから…やっぱり3人は似ているのねぇ」
山崎さんは頷きました。
「でも沙紀は間違いなく、私がお腹を痛めて生んだのよ」
「世の中には、理屈では割りきれないことがたくさんあるんでしょうね きっと、私達が驚くようなことがたくさんあるのかも知れないわね」
ママがにっこり笑いました。
「ママ、スイート…ポテ…」
愛ちゃんはママの言葉に少し焦りながら、抱っこしているママの顔を見上げて言いました。
「はいはい、愛ちゃんも食べたいのね。今持って来るから、ちょっと待っててね」
ママは愛ちゃんをソファーに座らせるとキッチンに向かいました。
「こんにちは(^_^;)」 沙紀ちゃんのお母さんが愛ちゃんに笑いかけました。
「こん……にち…は」
愛ちゃんも挨拶しました。
山崎さんと沙紀ちゃんのお母さんは驚いて、 ( ; ゜Д゜)(*゜Q゜*) お互いの顔を見ると、愛ちゃんの顔をじっ~と見ました。 愛ちゃんは首を傾げながらキョトン(・_・?)としました。
《挨拶したのはまずかったのかな?》
ママがスイートポテトを持って戻って来ると、
「愛ちゃん、やっぱり天才よ。だってね」
「私達にこんにちは…って。こんにちはって言ったのよ」
「あ~ら、愛ちゃん。お利口さんね。ちゃんとご挨拶出来たの? 偉かったわね」
ママは愛ちゃんの頭をなでました。
「そう言うことじゃなくて…(^_^;)。普通……7ヶ月の赤ちゃんが挨拶なんかしないでしょ」
山崎さんの奥さんが言いました。
《マズイ、そうなの? 知らなかったわ(-_-;)。 一般の赤ちゃんの成長がどの位なのか分からないもの…。今度ママが出掛けている時、育児書読んでおこう」
愛ちゃんはそう思いました。
「そうだったかしら? 何せ10年目の育児なんで、舞の時どうだったか忘れているのよ。 愛は歩き出すのも他の子より早かったしね(*^_^*)」
ママがのんきな人で良かった。 愛ちゃんはニコッと(^ー^)笑いました。
「ママ、スイート…ポテ…ト」
愛ちゃんが催促して、
「あ~ん(^○^)」
と口を開けました。 2語を話している愛ちゃんを見て、山崎さんと沙紀ちゃんのお母さんは目がテン(・・?)になって固まっています。
そんなことは全く気づかないママは、少しずつスイートポテトを愛ちゃんに食べさせています。
「おいちい」
愛ちゃんは赤ちゃん言葉で言うと、にっこり笑いました。 山崎さんと沙紀ちゃんのお母さんも、いつしか愛ちゃんが美味しそうに食べている姿を笑顔で眺めていました。
そこへ、舞ちゃんと沙紀ちゃんが帰って来ました。
「ただいま~」
「ただいま~。あれ、お母さんも来てたの(^_^;)?」
沙紀ちゃんがバツ悪そうに言いました。
「沙紀…、ただいま~じゃないでしょ。自分の家みたいに…(^o^;)。 せめて、ランドセルをお家に置いて来なさい」
「は~い(´Д`)」
「この子ったら、いつも返事ばかり…。 いつも夕飯の時間にならないと帰って来ないんだから…ご迷惑でしょ(^_^;)」
「だって~……。 家にいてもつまんないんだも~ん(-_-;)。帰っても誰もいないし、いたとしても遊んでくれないし(-.-)」
沙紀ちゃんが口を尖らせて言いました。
「あら、ウチならいつでも大歓迎ですよ。沙紀ちゃんは愛の事を本当の妹のように可愛がってくれるんですよ」
ママはにっこり笑いました。
「ホントにいつもすみませんねぇ(^_^;) きょうだい(兄姉)はいても、お兄ちゃんやお姉ちゃんとは年が離れているから遊び相手にはならないみたいで……」
沙紀ちゃんは愛ちゃんの隣に座ると、
「ただいま」
と言って頭を撫でました。 愛ちゃんは嬉しそうにはしゃぎながら、反対側に座っているママの方を向いて口を開けました。
ママがクスッと笑って、スイートポテトを愛ちゃんの口に入れました。 「あ~っ、今日のおやつはスイートポテトね。嬉しい(^ー^)。 沙紀ちゃんの分も持って来るわね」 舞ちゃんがキッチンに行くと、 「ありがとう」 沙紀ちゃんは、そう言いながら、おやつを食べている愛ちゃんを見ています。
舞ちゃんがトレイにスイートポテトと牛乳をコップに入れて持って来ました。
「ありがとう、舞ちゃん」
「うん」
舞ちゃんは沙紀ちゃんの向かい側に座りました。2人は
「いただきま~す」
と元気に言うと美味しそうに食べました。
おやつを食べ終わると舞ちゃんは、食器を流し台に持って行きました。そして、
「ママ、愛ちゃんも私の部屋に連れて行ってもいい?」
と言いました。
「構わないけど、階段は気を付けるのよ」
ママが言うと、
「は~い」
2人は元気に返事して2階に上がって行きました
「上の子達も、沙紀が小さい頃はああやって面倒を見ていたんだけどねぇ。 今は友達といる方が楽しいみたいで…(^_^;)」
「そりゃ~そうよ。年の離れた妹といるより、同世代の友達といる方が楽しいに決まってるわ」
山崎さんが当然と言うように言いました。
「確かに…ね(^_^;)。 それじゃ私が年の離れたお姉さんになってあげようかしら…」 「安藤さん、ちょっと無理があり過ぎよ(;^_^A。 星野さんもこう言ってくれているんだから、夕飯までに家に帰るならいいんじゃない?」
山崎さんが話すと、ママはにっこり笑って頷きました。
「それじゃ、甘えさせてもらいます」
沙紀ちゃんのお母さんはペコリと頭を下げると、ホッとしたような笑顔になりました。
2階の舞ちゃんの部屋に行くと、
「まずは宿題を先に済ませちゃおうか」
沙紀ちゃんが言いました。
「そうだね。愛ちゃん…少し待っててね」
舞ちゃんに言われ、愛ちゃんは本でも読もうと本棚の前に来ました。 パパもママも本好きなので、絵本や童話はたくさんあります。
どれにしようかな? 愛ちゃんは読む本を選び、本棚から童話を取り出しました。そして表紙をめくると、沙紀ちゃんが笑いながら愛ちゃんの隣に座りました。 「愛ちゃんには、まだこの本は早いわねぇ。……はい、これがいいかな?」 そう言って、沙紀ちゃんが持って来たのは動物と乗り物の絵本です。
すると、愛ちゃんは口を尖らせて不満げに言いました。 《赤ちゃん扱いしないで‼》 その声で、舞ちゃんも驚いて愛ちゃんの方を見ました。 《私…、字読めるの…。 姿は見せなかったけど、いつも舞ちゃんたちの教室で、私も一緒に勉強していたから…》
「そうだったの、……ゴメンね」
沙紀ちゃんは謝りました。
《ううん、いいの。赤ちゃんの姿だもん…仕方ないよ》
そう言って愛ちゃんは、本棚から絵画集と花の図鑑を取り出そうとしました。『 あれっ、取れない(-_-;)』
すると沙紀ちゃんが取ってくれました。
《ありがとう》
愛ちゃんはお礼を言いました。
舞ちゃんと沙紀ちゃんが宿題を終わらせると、愛ちゃんの所に来ました。
「さあて…、まずは、いつもの発声練習をしましょ」
《( ; ゜Д゜)ええっ、まだやるの? テレパシーだけで会話できるんだからいいでしょう?》 愛ちゃんは不満顔(-_-;)。
「ダメよ。一緒に遊びたいんでしょ?」
「うん」
「だったら、やっぱり練習しましょ。声に出した方が聞き取りやすいし、私たち以外の人ともお話しできるわよ」
沙紀ちゃんは、なかなか厳しいようです。
「愛ちゃんが2語を話しているのを聞いて、山崎さんと沙紀ちゃんのママがビックリしていたでしょ。 その時、どんな感じがした?」
《凄く嬉しかった(o^-^o)》
「でしょう? それじゃ、今日は発声練習の後に、3つの単語をつなげて話す練習よ」
「ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ~」
「はい、愛ちゃんどうぞ」
「ア、エ、イ、ウ……」
負けず嫌いの愛ちゃんは、頑張ります *****
「子供たち2階で、いったい何をやっているのかしら?」
沙紀ちゃんのお母さんが言いました。
「さあ? 何をやっているのかしらね」 ママは首をかしげました。
「まあ、舞ちゃんも沙紀ちゃんも子煩悩でいい子だから任せましょう。 それより…、もう、こんな時間だわ。夕飯の準備をしなくちゃ」
山崎さんが言うと、沙紀ちゃんのお母さんも慌てて、
「ホントだわ。長居しちゃってごめんなさい」
と言いながら、お皿をキッチンに運ぼうとしました。
「良いですよ。これは私がしますから…」
ママが言うと、2人は
「すみません」
と言って、帰って行きました。
「はい、今日のレッスンはここまでにしましょう」
沙紀ちゃんがにっこり笑って言いました。 愛ちゃんは《フゥ~》と、大きなため息をつきました。
「愛ちゃん、ごめんね。疲れたでしょう?」
舞ちゃんが肩にそっと手を乗せて言いました。
《ううん、平気よ。だって…1日でも早く舞ちゃんや沙紀ちゃんと、テレパシーじゃなく普通に話せるようになりたいもん》
「よし、よく言ったぞ、愛ちゃん。でも……」
沙紀ちゃんはそこまで言ってから、
「でも、このレッスンの事は私達だけの秘密ね」
人差し指を立てて口に当て、小さな声で言いました。
「そうね。天才赤ちゃんなんて騒がれて、マスコミが押し寄せてきたら嫌だもんね」 舞ちゃんも小声で言いました。
《うん、分かった。 でも……マスコミに囲まれるのも悪い気がしないな……》
愛ちゃんが上目使いに、少し残念そうに言うと、
「「愛ちゃ~ん」」 (-_-;)(-_-)
舞ちゃんと沙紀ちゃんが、同時に愛ちゃんの顔に近づけて言いました。
《ご…ごめんなさい。 ただ言っただけ……です》 (^_^;)
それから数ヶ月が過ぎて、今日は舞ちゃんと愛ちゃんの誕生日です。舞ちゃんは11才に、愛ちゃんは1才になりました。 沙紀ちゃん母子と山崎さんの他に、ママやパパのおじいちゃんやおばあちゃんまで来るようなので、賑やかになりそうです。
ピンポーン
「あら、おじいちゃんとおばあちゃんが来たみたいね」
ママが言うと、愛ちゃんは走って玄関に行きました。
ママはクスッと笑って玄関を開けると、パパのおじいちゃんとおばあちゃんがにこにこしながら立っていました。
「愛ちゃん、しばらく見ないうちに大きくなったわね」
おばあちゃんが言いました。
「いらっちゃい」
愛ちゃんは、ペコリと頭を下げました
「まあ何てお利口さんなのかしら」
おばあちゃんは、そう言うと、嬉しそうに愛ちゃんの頭を撫でました
パパのおじいちゃんとおばあちゃんがソファーに腰を下ろしてくつろぎ始めた時、またしても
「ピンポーン」
チャイムがなりました。 今度はママのおじいちゃんとおばあちゃんでした。
「いらっちゃい」
愛ちゃんは先程と同じように、ペコリと頭を下げて挨拶しました。
「愛、大きくなったな~」
おじいちゃんは、愛ちゃんを抱き上げると、高い高いをしました。
301
「キヤッ キヤッ」 愛ちゃんは声を出して喜びました。すると、おじいちゃんは嬉しそうに目を細めながら、 「愛は本当に可愛いな~」 と言って、愛ちゃんの頭をポンポンしました。 テーブルは普段は6人掛けで、両側にバタフライ式に引き出せるようになっているので10人までは座れます。舞ちゃんが自分の部屋から椅子を持って来たので、何とか全員椅子に座ることが出来ました。
302
「パパのこだわりで大工さんに作ってもらったテーブルが役立ちますね」 ママがにっこり笑いました。 「そう言えば、普通の家庭のテーブルって大きくても6人掛けですものね。ウチもそうですけど…」 沙紀ちゃんのお母さんが言いました。
303
「ウチは4人家族なんで4人掛けなんですけど、お客様が来た時に困りましたよ。 子供達にはリビングで食べさせたりしていましたよ。 もっとも今は子供達も成人していて、一緒に食事することすら少なくなりましたけど……」 山崎さんはしんみりと言いました。 「こんなテーブルがあったら、安心していくらでもお友達を呼べますよね」 沙紀ちゃんのお母さんがにこやかに言いました。
304
「まあ…、そう度々広げて使うことはないですけどね…ハハハ」 パパがそう言って頭をかきました。 「さて、そろそろ始めましょうか」 ママが言い、愛ちゃんのお誕生会が始まりました。 ハッピバースディ、ツーユー ハッピバースディ、ツーユー ハッピバースディ、ディア愛ちゃん ハッピバースディ、ツーユー ケーキのロウソクが消されると、皆は一斉におめでとうと言いました。
305
「はい、愛ちゃんにプレゼント」 パパのおじいちゃんとおばあちゃんからのプレゼントはお風呂で見る絵本です。お風呂にいれると隠れている動物たちが現れると言うものでした。 「わーい(*^▽^*)」 愛ちゃんは大喜びしました。 「次は何かな?」 と言いながら、ママが次の箱を開けると、胸のボタンを押すとおしゃべりする人形でした。
306
「わ~い」 愛ちゃんは飛びはねて喜びました。パパのおじいちゃんとおばあちゃんは、本当に嬉しそうです。 ママのおじいちゃんとおばあちゃんからのプレゼントは、ピンクの可愛い洋服を来たクマさんのぬいぐるみです。 愛ちゃんはにこにこ (=^ェ^=)しながら、クマのぬいぐるみをだっこして、ホッペにチュウをしました。
307
ママのおばあちゃんは嬉しそうにしながら、 「愛ちゃんに喜んで貰えて良かったですね(^-^)」 と、おじいちゃんに笑いかけています。おじいちゃんも満足そうに 「そうだな(^_^)」 と言いました。 沙紀ちゃんのお母さんと山崎さんの奥さんは、可愛らしい洋服をプレゼントしてくれました。 「ありが…と」 愛ちゃんはおじきをしました。
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「まあ、お利口さんだこと」 「ホントにね」 皆は口々に誉めました。そして、だっこしたがりました。 「さあ、皆さん。食事も食べて下さいね」 ママが言うと、 「奥さん料理上手だから、いつも楽しみなんですよ。…フフフ」 「私も…」 沙紀ちゃんのお母さんと山崎さんがにこやかに言いました。
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ご馳走を食べながら皆で楽しいおしゃべりが始まりました。パパやママのおじいちゃんとおばあちゃんは本当に嬉しそうです。 それに反して愛ちゃんはだんだん疲れていく様子です。 「あのぅ、盛り上がっているところ悪いんだけど…。 実は愛ちゃん…少し風邪気味なんで、舞ちゃんのベッドで休ませてきても良いでしょうか」 沙紀ちゃんが言いました。
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「それなら、リビングにもベビーベッドがあるから、そこに寝かせたら良いんじゃないか?(^_^;)」 パパが言いました。 「いや、私達が愛ちゃんを見ていてあげるから、大人同士盛り上がって下さい」(^_^;) 「子供達もああ言ってくれているし、愛の事は任せましょう」 (*^_^*) ママが言うと、
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「そうだな。皆がそろったのも、愛が生まれて以来だから…久しぶりだし…」 パパの言葉を聞いて、舞ちゃんと沙紀ちゃんは、顔を見合せニンマリしました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんと愛ちゃんの3人は、舞ちゃんの部屋に入りドアを閉めると、大きくため息をつきました。 (-_-;)(-.-)(^_^;) 「愛ちゃん…疲れたでしょう?」 沙紀ちゃんが言いました。
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「うん、さすがにあれだけの人を相手にするのは疲れるわ」 愛ちゃんはため息をつきました。 今では、舞ちゃんと沙紀ちゃんの特訓のお陰で、愛ちゃんは普通に声に出して話が出来るようになっていました。 それなのに、皆の前では1才の赤ちゃんを演じなければならないのですから疲れます。
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「愛ちゃん…、ごめん」 舞ちゃんが言いました。 「どうして謝るの?」 「だって…。 私達が言葉を話せるような特訓をしなかったら、こんなに疲れることも無かったかな…って」 「舞ちゃん、それは違うよ。私、こうして2人と話が出来るようになって凄く嬉しいもん」 「ほんとうに?」 沙紀ちゃんがにっこり笑って言いました。
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「うん、本当だよ。 前に、私達は昔三つ子で生まれた話をしたでしょ。 私、きょうだい(姉妹)が離ればなれになって凄く悲しかったの。もしまた生まれ変わって出会ったら絶対に離れたくないって思ったのよ」 「愛ちゃん…」 舞ちゃんが目にいっぱい涙をためて、愛ちゃんを抱きしめました。すると、沙紀ちゃんも泣きながら二人を抱きしめました。
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「これからも、辛いことがあるかもしれないけど、3人で協力して乗り越えていこうね」 沙紀ちゃんが言いました。 「うん」 「うん」 舞ちゃんと愛ちゃんがうなづきました。 そこへ、トントンとドアをノックする音がしました。 「は~い」 「開けてもらってもいいかしら…」
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ママの声です。3人は慌てて涙をふくと、舞ちゃんがドアを開けました。 「ケーキを持って来たのよ」 ママは部屋に入って、机の上にケーキの乗ったトレイを置くと、 「愛ちゃん、体の調子はどうかな?」 「うん、少し良くなったみたいです」 沙紀ちゃんが言いました。 「そう、良かった」 ママはにっこり笑いました。
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「今日は久しぶりに両方のおじいちゃんとおばあちゃんが来たんだもの、疲れるわよね。…ねっ、愛ちゃん」 ママはしゃがみこみ愛ちゃんの顔を間近に見て言いました。 愛ちゃんはドキッとして、目をパチパチ瞬きしながらママを見つめました。 「ひょっとしたら……」 ママは愛ちゃんを抱き上げ抱っこしました。そして、愛ちゃんをじっと見ながら言いました。
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「ひょっとしたら…愛ちゃんは、パパやママの話していることが……、全部分かっているんじゃないの?」 愛ちゃんの目が一瞬まんまるく大きく見開かれ困った表情になりました。 ( ; ゜Д゜) 「やっぱり、そうだったのね」 (⌒‐⌒) ママはやっぱりというように、にっこり笑いました。 「どうして分かっちゃったの?」(^o^;) 舞ちゃんが不思議そうに言いました。
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「やっぱりなのね(^_^;)」 「やっぱりって事は、半信半疑だったってこと?」 沙紀ちゃんはマズイ(-_-;)という顔をしました。 「どうも前々から3人の行動がおかしいと思っていたのよ。 いつも舞ちゃんの部屋で発声練習なんかしていたし…。 愛ちゃんの成長が、他の子に比べてかなり早かったから…もしかしてと思ったの。 恐らく普通に聞いても本当の事は言わないだろうからカマをかけてみたの。フフフ…」 (^_^;)
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3人はこの事は誰にも秘密にしようと思っていたのでガクンとうなだれています。 「この事は誰にも言わないから、ママにだけ本当の事を話してくれない?」 舞ちゃんと沙紀ちゃんは目配せしながら、仕方がないから話そうかと頷き合いました。 「それじゃ、愛ちゃんから話して…。まだ、私達が知らないこともあるかもしれないから…」 舞ちゃんはそう言いながら愛ちゃんを見ました。
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愛ちゃんの秘密
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ママは愛ちゃんをベッドの上に降ろすと、愛ちゃんの前に座りました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、愛ちゃんの両側に座りました。 愛ちゃんは、目を閉じると深呼吸をしてゆっくり目を開けました。 「それじゃ、これまでの事を全部話します」 ママは初めて愛ちゃんが話す声を聞き、( ; ゜Д゜)ビックリして大きく目を見開き、何度も瞬きしました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんもゴクンと唾を飲み込みました。
323
「それじゃ、話します。 私は難病にかかり3才でこの世を去らなければならなくなり…とても悲しかった」 そう話しだした愛ちゃんの目から涙が溢れました。 ママは慌ててエプロンのポケットに入っていたハンカチで、愛ちゃんの涙を拭ってあげました。そんなママの目にも涙が溢れていました。 「ママがトイレに行くと行って、ドアの外で泣いていたのも知っていたわ。 死期が近づくと、体から魂だけ抜け出して…短い距離なら移動できたから…」
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舞ちゃんと沙紀ちゃんも泣きながら、机の上からティッシュを取り涙を拭っています。 「私はね、皆と離れていくのが寂しくて寂しくてたまらなかったけど、怖くは無かったの。 なぜかと言えば、人は死んでも消えて無くなるわけじゃないと分かっているから…」 愛ちゃんはママと舞ちゃんと沙紀ちゃんを1人ずつ見ました。 そして、にっこり笑って言いました。
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「また、皆にこうして会えると分かっていたから…。 人は何度も生まれ変わるのよ。ママも舞ちゃんも沙紀ちゃんも、何度も生まれ変わってここにいるの。 ここに来る前は、私達3人は三つ子だったことは話したよね」 舞ちゃんと沙紀ちゃんは大きく頷きました。 「へえ~、そうだったの?」 ママは(・_・)キョトンとしながら言いました。 「でも、離れ離れになってしまい、こうしてまた出会ったの」
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私の体がが死んでしまった後、私は苦しみから解放されたわ。そしてその体からそっと抜け出してみたの。 ママもパパも、おじいちゃんやおばあちゃんも泣いていたわ。私はその姿を天井から見ていたの。 お葬式を見届けた後、私は天に召されていったの。 そこは地上にいる人達が天国と読んでいる所よ。明るくて楽しくてとても居心地が良かったわ。
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「地上で辛い苦しい思いをした人の中には、もうこれ以上苦しい思いをするのは嫌だと言って、ずっと天国にいる人もいたけど、もっと成長したいからとあえて困難な状況の中に飛び込んでいく人もいたわ。 どうするかは自分で決めるのよ。 神様は言われたわ。君はどうしたいんだね…と」 皆は愛ちゃんの話に聞き入っています。
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「私は前の家族が大好きだったから、もう一度ママの子供として生まれたいと言いました。 すると、神様はその前に…その家族に数年間寄り添ってみて、気持ちが変わらなければあなたの望むようにしなさい、と言われたの」 「そうか…それで6年間寄り添って、舞ちゃんの9才の誕生日に姿を現したわけね」 沙紀ちゃんが言いました。愛ちゃんはコクりと頷きました。
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「2年前、初めて家族の前に姿を現す時は…凄く緊張したのよ。でもパパもママも舞ちゃんも温かく迎えてくれて…嬉しかった… それで、やっぱりパパやママの子供として生まれたいと思ったの」 「そうだったの…。 もう一度パパとママの子供に生まれてきて有難う」 ママは、そう言って愛ちゃんを抱きしめました。 「でも、この事はおじいちゃんやおばあちゃんには内緒にしておきましょうね。ビックリして腰を抜かしてしまうかもしれないでしょ」 「はい」 「はい」 「はい」 返事は愛ちゃんと舞ちゃんと沙紀ちゃんの3人が同時にしました。
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「それから…」 ママはそう言ってリボンをかけた箱を出しました。 「1才のプレゼントよ。開けてみて…」 リボンは舞ちゃんがほどいてあげました。 愛ちゃんは蓋を開けると、「あっ」と言って、涙をこぼしました。 それは2年前に舞ちゃんと一緒にいた妖精そっくりの小さな人形でした。 「ママ、有難う…」 愛ちゃんは人形を抱きしめて泣いています。
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そこへ、ドアをノックする音がしました。 「愛の具合はどうだ。皆心配しているぞ」 入るなりパパは、この場の異様な空気に困惑しているようでした。 愛ちゃんを囲むように全員が座っていて、妖精の人形を抱いて泣いている1才の娘。 「(・・?) 愛はひょっとして…。 死んだ愛の生まれ代わりだとずっと思っていたけど、まさか前世の記憶も残っているのか…?」 パパは、愛ちゃんの前に座ると、愛ちゃんの顔を見つめながら言いました。 愛ちゃんはコクりと頷きました。
332
「パパにも聞かせてくれないか」 そう言った時、(パパ方の)おばあちゃんがノックして部屋に入ってきました。 「愛ちゃんの体の容態はどうなの? あんまり遅いから心配で…。 でも元気になったみたいで安心したわ。 下で待ってるわね」 おばあちゃんは愛ちゃんの笑顔を見て、安心して1階に降りて行きました。 「パパにもこれまでの事を話します」
333
ママ以上にパパはとてもビックリしていました。 見た目はどうみても赤ちゃんの愛ちゃんが、普通に話すのを見て、目をパチクリさせたり、ゴシゴシ擦ったり、首を傾げたり、信じられないものを見たような驚きようです。 「う……、うん。話してくれ」 愛ちゃんはニッコリ(o^-^o)笑うと、ベッドの上にあった本を取り両親に見せました。 本のタイトルは、 『赤ちゃんの育て方』 です。
334
パパとママは (?・_・)(・_・?) キョトンとして、顔を見合わせると…、 「これは育児書だけど…?」 ママは首を傾げながら言いました。 「この本は、私の愛読書なの。ママが読んでいないみたいだから、私が読んでるの」 愛ちゃんはニッコリ笑いました。 「だって、愛ちゃんの成長は育児書と全然違うから見ても参考にならなくて… (^_^;)」 ママが言いました。
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「赤ん坊の愛が、育児書を読んでる姿を想像すると笑えるね」 パパはニヤニヤしながら言いました。 「だって、赤ちゃんの事がよく分からないから、勉強しないといけないと思って…。 この月齢の子供はどの位の成長なのかを知っておかなくちゃ、これから生活していけない気がして…」 「愛ちゃんは頑張っているんだよね」 舞ちゃんと沙紀ちゃんが、愛ちゃんに笑いかけました。 「詳しい話は、皆が帰った後にします。おじいちゃん達が心配するから降りて行きましょう」 「うん、そうだな」 パパが言うと、皆は1階に降りて行きました。
336
「おお、愛…元気になったか? こっちにおいで」 (ママ方の)おじいちゃんが嬉しそうに両手を出しました。 「ジイジ、すき」 愛ちゃんは笑顔でおじいちゃんに抱っこしました。おじいちゃんは「愛は本当に可愛いな」と言って、頬ずりしてホッペにチュウしました。 それから2時間位しておじいちゃん達は帰って行きました。 そして山崎さんも帰ると、沙紀ちゃんのお母さんは、 「さあ、沙紀私達も帰りましょう」 と言いました。
337
「沙紀ちゃんは、もう少しゆっくりしていっても…ねっ、あなた」 ママが言うと、 「そ、そうだね。 子供達はまだ遊び足りないみたいだから…。もう少し遊ばせてあげたいな」 パパが言いました。 「そうですか? それじゃ、お母さんは先に帰るけど、沙紀も遅くならないうちに帰って来るんですよ」 「はあい」 沙紀ちゃんが返事をすると、愛ちゃんも「バイバイ」と手をふりました。 沙紀ちゃんのお母さんは嬉しそうに愛ちゃんの頭を撫でると帰って行きました。 ドアが閉まった瞬間、皆はホッとため息をつきました。
338
皆が帰った後、愛ちゃんはパパやママと向かい合うようにソファーに座りました。そして、愛ちゃんの両側に舞ちゃんと沙紀ちゃんが座りました。 「雪の妖精さん達は、私が天国にいた頃仲良しだったの」 愛ちゃんは、ママの手作りの人形を嬉しそうに見つめながら言いました。 「天国には花がたくさん咲いている所があって、そこには花の妖精さんが住んでいるの。 私は雪景色が好きだったから、いつも雪の妖精さん達と遊んでいたのよ。 でも、天国の雪はちっとも冷たく無かったから、こちらに来た時はビックリしちゃった」
339
愛ちゃんはクスッと笑いました。パパとママは、にっこり微笑んで頷きながら愛ちゃんを見ています。 「妖精さん達は、私が一人では不安だろうと言って、ここまで一緒に来てくれたんだけど…。 会えなくなってしまったから寂しかったの。ママ…有難う( 〃▽〃)」 「愛ちゃんに喜んで貰えてママも嬉しいわ(*^_^*)」 愛ちゃんは、これまでのことをパパに話した後、こんなことを言いました。
340
「私の心は舞ちゃんや沙紀ちゃんと同じ11才なんだけど、明らかに外見は赤ちゃんでしょ。 育児書を見て勉強はしているけど分からないこともたくさんあって…。それで皆にサポートしてほしいの。 間違っても『天才赤ちゃん』とマスコミに騒がれて、テレビに引っ張り回されたりされたくないのよ。 私は平和に穏やかに暮らしていきたいの」
341
「うん、愛の気持ちはよく分かった。パパも出来るだけ協力するよ」 そう言って、パパは愛ちゃんの頭をなでました。 「分かった(*^_^*)。 私達も愛ちゃんが普通の赤ちゃんとして、明るく楽しく暮らせるように協力するよ。 ねっ、沙紀ちゃん」 「もちのロンロンよ。 だって私達、3姉妹だもん (o^-^o)✌」 「ママも頑張るわ」 舞ちゃんと沙紀ちゃんを見た後、ママはそう言って右手でガッツポーズを取りました。
342
「そろそろ夕御飯の準備をするわね。あまり時間がないから簡単なものしか作れないけど、沙紀ちゃんも食べていってね」 「はい。(o^-^o)」 沙紀ちゃんの家にはパパが電話をしました。 近所ですが、 「お宅まで送り届けます」と言いました。これで安心です。 「いただきま~す」 家族5人(?)で言いました。
343
「何か不思議だね。 死語の世界はあると思ってはいたけど、まさかそれを娘から聞かされるなんてさ」 「本当ね。 私達は前世からの強い絆で結ばれていたのね」 パパとママは感慨深そうに呟きました。 「もっともっと色々な事が知りたいわ」 沙紀ちゃんが笑顔で言うと、 「食事が終わったら、これまでの事をテレパシーで教えてあげるわ(^_-)」 愛ちゃんがそう言ってウインクしました。
344
「「テレパシーで?」」 (*゜Q゜*)‼ ( ; ゜Д゜) パパ、ママ、舞ちゃん、沙紀ちゃんの全員が、驚いて愛ちゃんを見ました。 「だって、話し出したら何日もかかってしまうんですもの。全員の手を重ねて私がテレパシーで念を送れば、一瞬で私が見て来たことを伝えられるから…」 「そんな事が出来るの? すご~い」 舞ちゃんは驚いて言いました。 食事が終わると、さっそく5人はソファーに座りました。 パパが一番先にテーブルの上に手を乗せました。続いてママ、舞ちゃん、沙紀ちゃんとテーブルの上で手を重ねていきました。
345
「それじゃ…行くわよ」 最後に愛ちゃんの小さな手が一番上に乗せられました。 愛ちゃんは目を閉じると、手を強く押しました。 しばらくすると、手が温かくなってきました。 そして重ねた手の回りを、プリズムのような優しい光が包み、さらにその光が広がっていき、全員を包み込んでしまいました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、これから何が始まるんだろうとドキドキしました。 そしてまた、それはパパとママも同じでした。
346
パパとママは、3人が前世で姉妹だったことを聞き、沙紀ちゃんに対しても自分の娘のような感情を持つようになっていました。 「沙紀ちゃん、いっそのことうちの子になっちゃうか?」 「もう、パパったら…。冗談言うのは止めてください。ちゃんとご両親がいらっしゃるんですからね」 ママは呆れたように言いました。 「舞も一緒に暮らせたらいいな」 「もう、舞ちゃんまで…。すぐ近所に住んでいて、毎日会っているでしょ」 「確かに…」 と言って、舞ちゃんは舌を出しました
347
それから数日後。 愛ちゃんはいつものように、ママと近所の公園に行きました。 最初の頃は、公園に通うことに抵抗がありましたが、最近では慣れてきました。 おやっ、見慣れない子がいる。近所に引っ越して来たのかな? 愛ちゃんがそんなことを考えていたら、その子のお母さんが笑顔で話しかけてきました。 「こんにちは(*^_^*)。引っ越して来たばかりなの。仲良くしてね」
348
「うん」 愛ちゃんがうなづくと、 「まあ、お利口さんね。 花音って言うの。よろしくね」 花音ちゃんのママが笑顔で言いました。花音ちゃんはニコニコしています。 愛ちゃんは、仲良くなれそう…と嬉しくなりました。 「花音ちゃんって言うのね。家の子は愛って言うの、仲良くしてね」 ママが花音ちゃんと同じ目線で話しかけると、 「はい、こちらこそ」 花音ちゃんが小さな声で、言いました。
349
「えっ」 愛ちゃんとほぼ同じ体型の花音ちゃんが2語を話していたので、ママはビックリして花音ちゃんを見つめました。 花音ちゃんは一瞬気まずそうにしましたが、愛ちゃんの手を握ると、 「行こう」 と言って、公園の外れに連れて行きました。 「( ; ゜Д゜)あ…あの」 愛ちゃんはもうビックリです。 「花音ったら、愛ちゃんが気に入ったみたい」 花音ちゃんのお母さんは嬉しそうです。
350
花音ちゃんの秘密
351
「そ、そうみたい(^_^;)…ですね」 ママの笑顔はひきつっています。 「ちょっ…ちょっと~」 愛ちゃんは自分の言葉にビックリして、慌てて手で口を押さえました。 すると、 「ごめんね、愛ちゃん」 「えっ、花音ちゃん… (@ ̄□ ̄@;)!!」 ひょ、ひょっとしたら…」 愛ちゃんは、大きな目をさらに大きく見開いて、花音ちゃんの顔をマジマジと見つめました。
352
「良かったわ、仲間が出来て。愛ちゃんも前世の記憶を持っているんでしょ」 花音ちゃんは嬉しそうにニッコリ笑いました。 「( ; ゜Д゜) う、うん」 「愛ちゃんの両親はそのことを知っているの?」 「うん、…知ってる」 愛ちゃんはママ達の方を振り返って返事しました。 「そうなんだぁ~。いいな。…私の両親は知らないから、毎日ストレスで大変なの。」
353
「家の中でまで赤ちゃんを演じるのは疲れるよね。 私も最近まで育児書を見ながら、赤ちゃんのこと勉強してたから大変なの分かるわ」 「ええっ、愛ちゃんもそうだったの? でも、今は家でのびのび出来るようになったからいいね」 花音ちゃんはしょんぼりしています。 「そうか、花音ちゃんは今でも続いているんだものね」 「そうよ。 本当のことを言ったら、ママは気絶するよ。ハア~」 花音ちゃんは、そう言うと、ため息をつきました。
354
「それじゃ、息抜きに家に遊びにおいでよ」 「うん、舞ちゃんの部屋に行けば、好きなだけおしゃべり出来るよ」 「舞ちゃんって、お姉さん?」 「うん、今は…ね」 「今はって、何か事情がありそうね。後で教えてね」 「うん」 花音ちゃんのお母さんと愛ちゃんのママはベンチに座りながらおしゃべりをしていました。 「あの2人、会ったばかりなのに、もう意気投合したみたいね。良かったわ。」 花音ちゃんのお母さんは本当に嬉しそうです。
355
「もし良かったら、家に寄っていきませんか? すぐ近くなんで…」 ママが言うと、 「嬉しい(^-^)‼ でも…いいんですか?」 花音ちゃんのお母さんは飛び上がらんばかりに喜んでいます。 「それじゃ、お昼を食べた後、午後から遊びに行っても良いですか?」
356
「良かったら、お昼もご一緒にいかがですか? たいしたものは作れませんけど…」 「ええっ、でも…ほんの少し前に出会ったばかりなのに…そんなの悪いわ」 「気にしないで(^ー^)、皆で食べた方が楽しいですもの」 「そ、そうですか? それじゃ、遠慮なくお邪魔させて頂きます」 「花音ちゃ~ん」 花音ちゃんのお母さんが、名前を呼びながら子供たちの方へ歩いて行きました。 愛ちゃんと花音ちゃんは、ウインク(^_-)(^_-)し合いながら、 「なあに~」 と言って、親達の方に歩いて行きました。
357
花音ちゃん親子が遊びに来ました。 「どうぞ、お掛けになって…」 ママは花音ちゃん親子をソファーに誘いました。 愛ちゃんは大喜びで、花音ちゃんを子供部屋に誘いました。 愛ちゃんも花音ちゃんも体は赤ちゃんなので、階段を上るのも大変です。 「ここが私と舞ちゃんの部屋よ」 愛ちゃんがドアを開けました。
358
「大きなベッドね」 花音ちゃんはにっこり笑うとベッドに乗ろうとしましたが、無理だと分かりあきらめて床にペタンと座りました。 愛ちゃんは花音ちゃんの隣に座ると、これまでの事を話しました。 「そうだったの。 辛い思いもしたんだね」 花音ちゃんは、大粒の涙を流しながら、愛ちゃんの手を握りしめて言いました。 「うん…悲しいこともあったけど、今は幸せよ。今度は花音ちゃんの話を聞かせて」 「うん」 花音ちゃんはうなづきました。
359
愛ちゃんと花音ちゃんが2階への階段を上って行くのを心配そうに見ていた花音ちゃんのお母さんは、リビングに戻ると、すまなそうに言いました。 「本当にすみません。 ずうずうしく上がり込んでしまって…。 あのぅ、私も一緒に料理を作るのを手伝わせて下さい」 「そんなぁ、気を使わないで下さいね。 でも…一緒に作った方が楽しそうだから、お願いしようかな。 カレーで良いかしら?」 「はい、大好物です」 花音ちゃんのママは嬉しそうにうなづきました。
360
「野菜サラダと…、デザートはフルーツにヨーグルトをかけたものでいいかしら」 ママはそう言って、にっこり笑いました。 2人は楽しくおしゃべりしながら料理を作りました。 「さあて、昼食の準備は出来たから、子供達を呼んで来るわね」 「あの、私が呼んできます」 花音ちゃんのお母さんがドアを開けようとしたので、ママは慌ててかけよりました。 「ゆっくりソファーに座って待っていて下さい。私が呼んできますから…子供部屋散らかっているから…」 ママはそう言うと、階段を上って行きました。
361
「野菜サラダと…、デザートはフルーツにヨーグルトをかけたものでいいかしら」 ママはそう言って、にっこり笑いました。 2人は楽しくおしゃべりしながら料理を作りました。 「さあて、昼食の準備は出来たから、子供達を呼んで来るわね」 「あの、私が呼んできます」 花音ちゃんのお母さんがドアを開けようとしたので、ママは慌ててかけよりました。 「ゆっくりソファーに座って待っていて下さい。私が呼んできますから…子供部屋散らかっているから…」 ママはそう言うと、階段を上って行きました。
362
「でも私達はそれぞれ遠い所へお嫁に行って…結局…それっきりになってしまったわ(-_-;)」 「でもね、天国にいる時に神様がこう言ったの。 『今度生まれ変わる時は、この女性のお腹に入りなさい。そしたら会いたかった人に会えるよ』 ってね」 「それが花音ちゃんのママね」 花音ちゃんは、コクりとうなづきました。 「それで、おりんちゃんには会えたの?」 花音ちゃんは首を横に降りました。
363
その時、ドアをノックする音がしました。愛ちゃんと花音ちゃんはビクッ ( ; ゜Д゜)(*゜Q゜*)としました。 「ママだけど…入るわよ」 ママは部屋に入るなり、ベッドの方を見て、 「あっ、人形が… ( ̄□ ̄;)!!」 驚いたように言いました。 「人形がどうしたの?」 愛ちゃんが驚いて、ベッドの上に置いてあった雪の妖精の人形を見ました。
364
これはママが愛ちゃんの1才の誕生日のプレゼントに作ってくれたものです。 その雪の妖精の人形がピカリと光りました。 その人形を愛ちゃんがそっと手のひらに乗せると、花音ちゃんも人形に触れました。 すると、次の瞬間、人形がまたピカッと光りました。そして、人形は七色の光に包まれていき、七色の光が消えた時、そこにいたのは人形ではなく、雪の妖精そのものでした。
365
雪の妖精は、ふぁ~っと大きくアクビをすると、キョトン (・_・)として3人の顔を代わる代わるに見ていました。 「これはいったいどういうことなの( ; ゜Д゜)?」 ママが言いました。愛ちゃんと花音ちゃんは口をポカンと開けたまま、ただ雪の妖精を見つめるだけでした。 雪の妖精は、小さな目をパチクリさせると、にっこり笑いました。
366
「こんにちは」 雪の妖精はペコリと頭を下げました。 「あ~、こ…こんにちは」 愛ちゃんと花音ちゃんは、ビックリしながらも挨拶しました。 「ママが器用な人で良かったわ。こうして人形の中に魂が入り込めて、妖精の体で話が出来るようになったから…」 3人は驚いて黙りこんでしまいました。 その時、ドアを叩く音がしました。
367
「ちょっと、待って…下さいね(^_^;)。 今、開けますから」 ママはオロオロしています。 愛ちゃんはとっさに、雪の妖精を乗せた手を後ろに隠しました。 「入るわよ」 花音ちゃんのお母さんは、言葉と同時にドアを開けました。 「ごめんなさい。あんまり遅かったから……。せっかくのカレーが冷めちゃうから……」
368
「そ…、そうね。それじゃ、行きましょうか(^_^;)」 ママは言いながら、愛ちゃんと花音ちゃんを見て小さくうなづきました。 花音ちゃんのお母さんに続き花音ちゃんが階段を降りて行きました。 「妖精さん、少しの間離れてしまうけど…ごめんね」 最後に部屋を出た愛ちゃんが、小さな頭を優しく撫でると、雪の妖精はニッコリしながら、 「ごゆっくり」 と言いました。
369
「いただきま~す」 皆で挨拶すると、楽しく食べ始めました。 「おいちい~」 花音ちゃんが、満足そうにニッコリ笑いました。 「嬉しいわ。お代わりもしてね」 ママは嬉しそうに言いました。 「ホント美味しいわ。 でも、子供達にはもっと甘い方が良かったんじゃないかしら。 家ではいつも大人用とは別に、花音の分としてお子さま用のカレールウで作っているんだけど…(^_^;)」 花音ちゃんのママが言いました。
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「あらそうなの?(^_^;) 家では最近はいつも同じものを食べさせているわ」 ママは言いました。 その時、花音ちゃんが 「おかわり」 と言いました。 「まあ、今までおかわりなんてしたことないのに… (^_^;)お子さまカレーより美味しいみたいね」 「韓国では赤ちゃんの時からキムチを食べさせていると聞いたことがあるわ。 こんなに喜んで食べているんだから、これからは花音ちゃんの分も大人用のカレーにしてみては?」 「フフフ…そうね。時短にもなるしね」
371
「ごちそうさま」 愛ちゃんと花音ちゃんが食べ終わって挨拶しました。 「2人で子供部屋で遊んできたら?」 ママが言いました。 「そうね。子供は子供同士、大人は大人同士で楽しみましょ」 花音ちゃんのお母さんも笑顔で言いました。 愛ちゃんと花音ちゃんはニッコリ笑って頷くと、ヨイショヨイショと階段を上って行きました。
372
「雪の妖精さん、お待たせ~」 愛ちゃんが顔を近づけて笑顔を向けました。 雪の妖精は、ちょこんと愛ちゃんの手のひらに乗りました。 愛ちゃんがベッドに寄りかかるように、床にぺたんと座ると、花音ちゃんも隣に座りました。
373
「ねえ、雪の妖精さん。 私達の知らないことを知っているんでしょう? 教えてくれる?」 雪の妖精は愛ちゃんと花音ちゃんが、あまりに顔を近づけて話すので、少しはにかみながら言いました。 「分かったわ。 私…、元々その話をするために、ここに来たんですもの。それじゃ、お話しするわね」
374
「実はね、花音ちゃんの会いたがっていた『おりんちゃん』と言うのは、舞ちゃんなの」 「((((;゜Д゜)))エエッ」 雪の妖精の言葉を聞くと、花音ちゃんはとてもビックリして、ぺたんと尻餅をついてしまいました。 「((((;゜Д゜)))エエッ、ホント…なの?」 花音ちゃんは驚いて、信じられないという表情をしました。 「ホントに…ホントに…ホントなの?」
375
「ええ、本当よ。 愛ちゃんと沙紀ちゃんが親戚に養女に出された後、花音ちゃんと舞ちゃんの2人は、何をするのも一緒で大の仲良しだったのよね」 「そうよ」 花音ちゃんの目から涙が流れました。 「舞ちゃんが先に16才でお嫁に行った後、花音ちゃんも親戚のいいなずけの男性と結婚したんですよね。 2人の家は離れていて…、生きているうちには会えなかったのよね」 花音ちゃんは黙ってうなづきました。
376
「でも、2人ともお互いに会いたいとずっと思っていたの。 舞ちゃんは生まれ変わる時に前世の記憶を忘れてしまったんだけど、花音ちゃんはずっとおりんちゃん(舞ちゃん)のことを思っていたのよね」 「うん」 花音ちゃんは、泣きながら頷くと、手の甲で涙を拭いました。 「私も3姉妹だったのは覚えているんだけど…。そこまでは知らなかったわ」 愛ちゃんがポツリと言いました。
377
「私と沙紀ちゃんは比較的近くにお嫁に行ったから、時々は会うことが出来たんだけど…。 でも、やっとおりんちゃんの生まれ変わりの舞ちゃんに会えるのね」 愛ちゃんがにっこり笑って、花音ちゃんの肩に手を置きました。 「うん。嬉しいけど…、でも…、ちょっと照れくさいわ」 「もうすぐ帰って来るわよ」 「あ~ドキドキしてきたぁ~」 花音ちゃんは、胸の所で両手を握っています。
378
その時、ドアをノックする音がしました。 「ママだけど、入っていいかしら?」 花音ちゃんは舞ちゃんが来たと思い、ドキッとしたようです。 「どうぞ」 愛ちゃんは、そんな花音ちゃんを見て笑顔で言いました。 「おやつを持って来たんだけど……。花音ちゃん、何かあったの?」
379
花音ちゃんの焦っている様子を見てママが言いました。 「実はね…。花音ちゃんの前世の親友が舞ちゃんだと言うことが分かったの。 それで、舞ちゃんが帰って来たと思って…、焦っちゃったのよね」 愛ちゃんの話を聞いて、ママは目を丸くしました。 「本当なの? それって、凄いことよね」 花音ちゃんは恥ずかしそうに少しうつむきながらも、「はい、夢のようです」 と言いました。
380
《ピンポーン》 「今度こそ舞ちゃんよ」 「多分そうね」 愛ちゃんとママの言葉に、花音ちゃんは両手を絡めて胸に押し当てながら、落ち着かないようです。 「あ~、どうしよう。ドキドキして…心臓が破裂しそうよ」 今度は両手を頬に当て、嬉しくてどうしていいかの分からないように、ソワソワしています。 「リビングに行きましょうか?」 そんな様子を見て、ママがニッコリ笑って言いました。
381
「は…い」 はにかみながら言う花音ちゃん。ママは階段を下りるのは慣れないと危ないからと、花音ちゃんをおぶって下りました。 「すいません。待たせてしまって…」 リビングに行くと、ママが言いました。 「気にしないで下さい。テレビ見てましたから…」 花音ちゃんのお母さんは笑顔で言うと、ママの背中にいる花音ちゃんを降ろしました。
382
「ただいま~」 「ただいま~」 ちょうど舞ちゃんと沙紀ちゃんがリビングに入って来ました。 「あっ、いらっしゃい」 舞ちゃんが花音ちゃん親子に気づき挨拶しました。 「こんにちは。お邪魔しています。」 花音ちゃんのお母さんは笑顔で言うと、けげんな表情をして花音ちゃんを見ています。 花音ちゃんは舞ちゃんをまばたきもせずに、じっと見つめています。
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「(・_・)? 私の顔に何か付いてる?」 舞ちゃんは沙紀ちゃんに自分の顔を向けました。 「別に何も付いてないけど…」 沙紀ちゃんも首をかしげて言うと、しゃがみこんで花音ちゃんに話しかけました。 「舞ちゃんとそっくりのお友達がいるのかな?」 花音ちゃんはコクリとうなづきました。目にはいっぱい涙を浮かべています。
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「ひょっとしたら、その子はいじめっこなのかな?」 沙紀ちゃんはニヤケながら言うと、チラッと舞ちゃんを見ました。 「ちょっと待ってよ~。こんなに可愛いのに、いじめっ子のハズが無いでしょう?」 「ハハハ…(⌒‐⌒)。 ゴメンゴメン(^_^;)」 「ん…(・・?)」 「はれ?…(・・?) 舞ちゃんと沙紀ちゃんは花音ちゃんが泣きそうな顔をしていたので、何か気にさわることを言っちゃったかな? と思い、お互いの顔を見て首をかしげました。
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「そうじゃ…ないの。そう…じゃ…。ただ、うれしいの」 花音ちゃんは泣きながら、言いました。 「えっ(;゜∇゜)」 「あの…まさか(°Д°)」 花音ちゃんが話すのを聞いて、舞ちゃんと沙紀ちゃんはビックリしています。 「ウチの子、近所の子より成長が早いでしょ。あまり人前では話さないんだけど…」 花音ちゃんのお母さんは、少し自慢げに言いました。
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舞ちゃんと沙紀ちゃんは、しゃがみこんで、花音ちゃんに小さな声で尋ねました。 「ひょっとしたら、前世の記憶があるの?」 花音ちゃんは頷きました。 舞ちゃんと沙紀ちゃんは目を丸くしてお互いの顔を見つめました。 《そ…そう…だったの ( ; ゜Д゜)》 舞ちゃんはあまりに驚いて言葉がありません。
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「まあ、子供は子供同士で遊んでね」 ママが言いました。 「大人は大人同士でお話しましょ」 花音ちゃんのお母さんは嬉しそうに言いました。 「うん、分かった。2階に行ってるね」 舞ちゃんが言い、子供達は2階に行きました。
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さっきの話だけど、花音ちゃんは本当に前世の記憶があるの?」 子供部屋のドアを閉めるなり、舞ちゃんが花音ちゃんをベッドに座らせて聞きました。 「はい、3人が三つ子だったことも知っています。それと…」 「それと…何なの?」 「それと…、舞ちゃんが私の親友のおりんちゃんだということも…分かったの」 「私の名前がおりんだったの?」 「はい…」 そう言うと花音ちゃんは涙ぐんでいます。
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その時愛ちゃんが、雪の妖精を手のひらに乗せて皆の前に来ました。 「それはママが作った人形…」 舞ちゃんが言いました。 「花音ちゃんの言う通りよ」 雪の妖精が言いました。 「ママが作った人形がしゃべってる(・_・)」 「うそ~( ; ゜Д゜)」 舞ちゃんと沙紀ちゃんは、ビックリしています。 「舞ちゃんも沙紀ちゃんも妖精さんの話を聞いてね」 愛ちゃんが言うと、2人は黙ってうなづきました。
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「明治時代の中頃、舞ちゃんと愛ちゃんと沙紀ちゃんは、三つ子で生まれたの。 今でも珍しいけど、当時の人達は何かの祟りだと恐がったわ。 それで、おりんちゃん…つまり舞ちゃんの事だけど、おりんちゃんだけを残して、他の2人を子供に恵まれなかった遠くの親戚に養女に出したのよ」 皆は黙って聞いていました。
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「おりんちゃんにはたくさん兄弟がいたんだけど、すぐ上のお兄さんとも10才以上年が離れていたから、一緒に遊んで貰えなかったの。 だから、おりんちゃんはいつも隣に住んでいたおまつさんと一緒に遊んでいたの。そのおまつさんって言うのが花音ちゃんよ」 舞ちゃんは初めて聞いた話に驚きながら花音ちゃんを見ると、花音ちゃんは目にいっぱい涙をためていました。
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「そうだったの。ちっとも知らなかったわ」 「二人は大の仲良しで大親友だったんだけど、お互いに結婚して離れ離れになってしまい、再会することは無かったの。 でも、花音ちゃんはそれからも長い間おりんちゃんを探し続けていたのよ。
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天国にいる時に、今のお母さんの子供として生まれたら、生き別れたおりんちゃんに会えると言われて、お母さんのお腹に入ったのよ …ねえ、花音ちゃん」 妖精が花音ちゃんにウインクしました。
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「その通りよ。私ずっとおりんちゃんを探していたの」 そう言うと、花音ちゃんは舞ちゃんの手を握りました。ずっと握り続けました。 愛ちゃんと沙紀ちゃんは、その様子を笑顔で見守りました。 しばらくすると、2人の握った手の回りにキラキラ小さな星のようなものが現れました。そして、そのキラキラ光るものが2人の体全体に広がり、明るい霧のような光に包まれました。 すると、花音ちゃんと舞ちゃんの姿が消えました。
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その様子を見て、愛ちゃんは嬉しそうにしていましたが、沙紀ちゃんはビックリして顔をひきつらせていました。 キラキラと美しい光が、全く別の場所で輝き出しました。 その場所とは… そう… 明治時代のおまつさんとおりんちゃんの別れた場所です。 花音ちゃんと舞ちゃんの別れた場所です。
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キラキラ…、キラキラ…。 輝く光がそこに現れました。そして、その明るい光が薄れていくと、2人の姿が現れました。 舞ちゃんは驚いて、キョロキョロ(゜゜;)(。。;)しています。 「ここは何処なの?」 首を傾げながら、舞ちゃんがつぶやきました。
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「ここは、明治時代の中頃よ。そしてそこにいるのは、その当時の舞ちゃんと私なの」 2人の前には、当時の着物を来たおまつさんとおりんちゃんが手を握りながら涙ぐんでいました。 おまつさん(花音ちゃん)は白無垢の花嫁衣装を来ていました。 今から、遠くにお嫁にいく所でした。
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「おまつさん、幸せになってね」 おりんちゃんが言いました。 「私、これっきりおりんちゃんに会えなくなりそうで辛いの。私のこと忘れないでね」 「絶対に忘れないわ。遠くにお嫁に行っても、私…、おまつさんのこと…絶対に忘れないわ」 そう言いながら2人は固く手を握り合っていました。 花音ちゃんがトコトコとおまつさんの側に行くと、着物に手を触れました。 すると、花音ちゃんが消えました。
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「花音ちゃん!! 何処に行ってしまったの? (@ ̄□ ̄@;)!!?」 舞ちゃんはビックリして、必死でいなくなった花音ちゃんを探しました。 「舞ちゃん、私はここよ」 花音ちゃんの声は聞こえますが、何処にも姿が見えません。 「舞ちゃん…、 私はここよ。おまつの中に同化しているの。 舞ちゃんも、おりんちゃんの体に触れてみて」 舞ちゃんは、おりんちゃんの腕に触れました。 すると、舞ちゃんの姿も消えました。舞ちゃんもおりんちゃんの中に入ったのです。
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舞ちゃんは忘れていた100年以上前の記憶が鮮明に甦ってくるのを感じました。 いつも一緒に遊んだ記憶、かけがえの無い大切な存在だった『おまつさん』のことが、溢れる泉のように思い出されるのでした。 舞ちゃん(おりんちゃん)は、嬉しくてこらえきれずに花音ちゃん(おまつさん)を抱きしめました。 「思い出したわ。何もかも…」 舞ちゃんが泣いていると、花音ちゃんは花嫁衣装の袖で、舞ちゃんの涙を拭ってくれました。 2人は満足そうに微笑みました。
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「おまつ、もういいかい? そろそろ出掛けるよ」 おまつさんのお母さんが迎えに来ました。 「はい、今行きます」 「おまつさん、幸せになってね。未来でまた会いましょう」 舞ちゃんが言いました。 「そうね。また会いましょう」 おまつさんが歩き出そうとしたした瞬間、花音ちゃんはすっとその体から抜け出しました。 舞ちゃんもおりんちゃんの体から抜け出しました。
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「良かったね、花音ちゃん。おりんちゃんにもう一度会えて」 そう言ったのは、沙紀ちゃんに抱っこされた愛ちゃんでした。 いつの間にか、そこに沙紀ちゃんと愛ちゃんも来ていました。 沙紀ちゃんが2人の様子を見たいと言うので、愛ちゃんが時空を越えてここに沙紀ちゃんを連れて来たのです。 「うん、…嬉しい」 花音ちゃんはにっこり笑いました。
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「花音ちゃん、私…おまつさんのこと、忘れてた。ごめんなさいね」 舞ちゃんが謝りました。 「良いのよ。舞ちゃんは悪くないわ。前世の記憶を覚えている人なんて殆どいないんだから…。 3才前の幼児だと、ごくまれに生まれる前の記憶を覚えている子がいるみたいだけど、それだって、せいせいお母さんのお腹の中にいた記憶だけ。 前世の記憶を覚えている人なんて、何百万人に1人いるかどうかよ」
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おりんちゃんは晴れやかな表情をしながら、おまつさんの後ろ姿を見ていました。 その姿を花音ちゃんと舞ちゃんはしばらく見ていました。 「私達も現在の時代に帰りましょうか。 …舞ちゃん…抱っこ」 花音ちゃんは舞ちゃんに両手を差し出しました。 舞ちゃんはクスッと笑うと、「はいはい」と言って花音ちゃんを抱っこしました。
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沙紀ちゃんに抱っこした愛ちゃんと舞ちゃんに抱っこした花音ちゃんが手をつなぐと、キラキラの星がまばたき、虹色の明るい霧に包まれました。 そして、その霧が消えた時、4人の姿が消え次に姿を現したのは、舞ちゃんの部屋でした。
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「あら大変、もうこんな時間。ずいぶん長居しちゃったみたいで…すみません」 花音ちゃんのお母さんが、ペコリと頭を下げました。 「そんなぁ、気にしないで下さい。まだゆっくりしていてください」 ママがにっこり笑いながら言いましたが、 「ご迷惑をおかけしますから…。あの、花音を呼んで来ます」 花音ちゃんのお母さんは、階段をかけあがって行きました。
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「花音ちゃん、帰るわよ」 そう言うなりドアを開けた花音ちゃんのお母さんは、キラキラ小さな星のようなものが部屋にたちこめていたので、しばし驚いてポカンとしました。 「はい、ママ」 花音ちゃんは、お母さんにかけよるとだっこをせがむように両手をあげました。 「はいはい。甘えん坊さんね」 花音ちゃんのお母さんは、笑顔でだっこすると、舞ちゃんや沙紀ちゃんにお礼を言いました。
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「今日は本当にありがとう。楽しかったわ。これからもよろしくお願いしますね」 「と…とんでもありません。こちらこそ楽しかったです。また遊びに来てください」 (^_^;) 舞ちゃんが言いました。 「そうですよ。花音ちゃんみたいなお利口さんなら毎日でも一緒に遊びたいです」 (^o^;) 沙紀ちゃんが言いました。 「かのんたん、だいちゅき バイバイ(^ー^)」 愛ちゃんが手を振りました。 花音ちゃんのお母さんが階段を降りていくと、皆はホッと胸を撫で下ろしました。
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もし前世に行っている時に花音ちゃんのお母さんが来たら、それこそ大変でしたから…。 でも、この日をきっかけに花音ちゃん親子が度々来るようになりました。 沙紀ちゃんのお母さんや山崎さんと共におしゃべりの花を咲かせるのでした。
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それから2年の時が流れました。 今日は舞ちゃんと愛ちゃんと花音ちゃんの誕生日で