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プロローグ

 黄昏のうすぼんやりとした光が漂う中、どこからか乾いた風が吹いていた。

 風はどこまでも黒く広がる湖へと吹き抜け、湖の岸、いくつかの建築物が立ち並ぶ街へと流れ込むと、街の中央、一際大きく聳え立つピラミッド状の建物へとぶつかっていく。

 ピラミッドの周りには幾多もの人々が集まり、規則正しく並んだ篝火に灯された火は、風でゆらゆらと揺らめき、その灯でピラミッドを照らしている。


 と、集まった人々が静かに佇む中、透き通るような鈴の音が鳴り響き、ピラミッド上部の壇上に一つの影が現れる。

 登り始めた月の光と、周囲の篝火に照らされ、やがて、その影が一人の少女だと分かった。

 年の頃は十五歳かそこらだろうか、若々しい褐色の肌は炎に照らされ、焼けつく大地の如く赤々と輝き、流れるように伸びた髪は空に浮かぶ月の如く、白銀に輝いている。


 人々が見つめる中、少女は一つ息を吐き、そのあどけなさの残る顔からは意外なほどに、凛々しく、透き通るような声で民衆に語り掛ける。


「血は命なり」


 少女の言葉は、乾いた空気に響き渡り、その場の人々の耳へ吸い込まれる。


「戦士オセロトル」


「はっ!」


 少女の言葉に続き、人々の中からオセロトルと呼ばれた一人の屈強な男が姿を現すと、また別の幾人かの男達に連れられ、ピラミッドの階段を登っていく。

 そして少女の立つ祭壇の前まで辿り着くと足を止め、恭しく膝を突き少女を見上げた。


「勇猛なる戦士オセロトル、汝、神の糧となるか」


「は、喜んで!」


 オセロトルは明るく笑顔を浮かべ、少女の問いに頷くと、立ち上がり、踊り場の中央に置かれた台座へ向かう。


「我こそはアストルコの戦士オセロトル!生贄の儀に従い、いざ!神々に心臓を捧げ奉らん!」


 どこまでも鳴り響くかのような大声を上げ、オセロトルは台座に置かれたナイフを手に取ると、躊躇いなく、それを自らの胸へと突き刺した。

 獣の咆哮の如き唸りを上げながら、オセロトルはそのまま自身の心臓を切り出し―――そして、そのまま膝をつき倒れ込む。


「我が……心臓を……」


 自らの心臓を握りしめながらも、どこか満足したかのような笑みを浮かべ、戦士オセロトルは事切れた。

 周りに控えていた男達が、まだ僅かに動いているその心臓をそっと取り出し、台座へ置く。

 銀髪の少女はそれを見届けると、祈るかのように目を伏せた。

 そして少しの後、再び目を上げると、先程と変わらぬ澄んだ声で人々へと語り掛ける。


「戦士オセロトル、見事なり!汝の血と心臓は神の糧となり、汝の魂は神の戦士となろう!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 女性がオセロトルへの称賛を終え、手を天に掲げると、人々もそれに呼応するかの如く、ワッと一斉に声を上げる。

 それが合図となったのか、思い思いに声を上げ、互いに語り始める人々を見ながら、少女はほう、と息を吐き、ピラミッドの内部へと戻っていく。

 徐々に人々の喧騒が遠ざかっていく、月の光の差し込むピラミッドの中で、少女は一人壁に背を預けると、小さな声で、ポツリと呟いた。


「生贄、きっついなあ……」


 褐色の顔色を青ざめ、正直なとこ今にも吐きそうになっている少女の名はイツァストル。

 生贄の儀式を執り行うこの国――アストルコの王女にして、前世の記憶のある転生者である。

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