第一章 6話
目を覚ますと。いや、意識がほんの少し戻ったというのだろうか。
薬品のような香り。
一定間隔でなるピッと言う音。
きっとここは病室。本来の肉体に戻ったのだろうか。さっきまで見ていたのは夢なのだろうか?
いや。あれは夢そのものだ。これが私の現実。女子高生をかばってトラックに轢かれたなれの姿。
目は……開かない。
声は……出ない。
体は……動かない。
「脳波が戻りました! 今なら声だけなら聞こえるはずです! 奥様、早く!」
「あなた……こんな姿になってしまって……。あなたらしいわね……誰かを救うなんて。その子も今は昏睡状態なの。けど、あなたが庇わなかったら、即死だっただろうって……。……もうすぐ定年だっていうのに、無茶して……。でも、私はそういうあなたが好きよ。だから……戻ってきて! お願い……」
「父さん。俺に親孝行させてくれよ! このままだと、恩返しも出来ないじゃないか!」
「脳波、乱れ始めました……。また眠りにつくでしょう……言葉、届いたと思いますよ。だから……」
俺の意識は遠のいていく。俺の家族……そうだな、俺はあと六日程で死ぬんだ。その期待に乗ってやれなくてゴメンな……。
さよなら位は言いたかったな。
ありがとうも言いたかったな。
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