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第一章 2話

 俺の意識が戻った。

 そこは真っ白な空間で、だだっ広くてどこまで見ても真っ白な世界が続いている。

 あぁ、死んでしまったのか。この非現実的な空間を見てそう思う。でもただ白い世界が続いているだけなので、三途の川は見えない。いや、本当は無いのかも知れないけれど。せめてお花畑とかがあれば、死の実感を出来るんじゃないかなとは、想ったりもした。

 きょろきょろと周りを見渡していると、俺の目の前に光るものを見つけた。俺はその光に導かれて少しずつ近寄ってみた。すると光が収束していき、その形は女性の像を描いた。きっとこれは天使か女神様なのだろう。そして俺の行くところは、もしあるのであれば地獄だろうか。家族を顧みずに過ごした罰が当たったのかも知れない。そんな思惑を巡らせていると、その女性は俺に優しく話しかけてきた。

臼井うすい ひかるさん、ですね。もう、ここはどこだかわかりますか?」

「はい、なんとなく。俺は死んだのでしょうか?」

「いえ、正確には死んではおりません。但し向こうの世界での時間では七日間が貴方の余命になります」

「そう……ですか」

「はい。申し遅れましたが、私は意識を操る女神です。名前は……ステラと名乗りましょう。これから貴方とはまたお話しする機会があるかと思いますから」

「話す……機会? 俺はもう死んでしまったのでは?」

 俺は死んだはず。いや、正確には七日間の余命がある。もしかしてこの余命で何かをしてほしいと言う事なのだろうか? 俺は女神の……ステラの返事を待つ。

「一つお願い事があります。あなたが助けた女の子、高田たかだ 瑞枝みずえさんの事なのです。彼女は本当は今回死ぬ運命にありました。貴方が助けたおかげで、一命はとりとめました。でも今彼女は植物状態にあり、彼女の夢の中を覚ます事によって助かる見込みがあります。彼女を夢から冷ますことが出来れば、命を取り留めることが出来るかも知れません。貴方にそれを託したいのです。いかがでしょうか?」

 この話を聞いて俺は一つ安心した。かばった女の子は生きているんだと。そして女神の望みを叶えると、生き返らせることが出来るのだと。それが出来るのであれば俺からも望みたい。若者の命。私の命の引き換えになるのであればいくらでも。

 勿論、心残りが無いわけではない。家族の事や仕事の仲間、それ以外の友達の事も頭をよぎる。でももう俺には残された命はない。それなら最後に女の子を救ってあげてもいいと考えた。俺は快く返事をする。

「はい、良いですよ。こんな初老の私が手助けできるのであれば、なんだってしますよ。……もう、死の決まった命ですから。具体的にはどうすればいいんですか?」

「ありがとうございます。それはおいおい順序だてて説明していきます。それと数名ですが手助けできる仲間も手配させていただきますね。夢の住人ではなく、昏睡状態にある人になりますが……」

「それって、死ぬ間際の人なのか?」

「いいえ、手助けの人は彼女の近しい人物になります。夜に夢を見る時に呼び寄せますので。そこは安心してください。但し、夢の中で死んでしまうと、本当に死んでしまうのでご注意ください」

 この言葉に俺は、責任を感じた。夢の中とは言え死なせてしまうと取り返しがつかない事になってしまう。いや、待てよ?

「夢の中で死ぬ? どういうことだ? そんなに危ないことなのか?」

「はい、問題は彼女の見ている夢なのです。彼女は小説家志望で、夢の仲はファンタジーの世界になっています。モンスターなども出て来るので、夢の中で死ぬことはあり得ます。だから十分に気を付けてください」

「え? じゃあ、夢の中でも彼女……高田さんに会う前に死んでしまう可能性もあるのでは?」

「いいえ、彼女の夢のなので、自分の夢に殺されることはありません。ただ、実際の体に限界が来てしまったら、そこで夢は終わります。あぁ、もちろん彼女の寿命は貴方よりも数段長いので、彼女の夢の終わりを見ることは貴方には無いでしょう。彼女を目覚めさせるか貴方が死ぬかのどちらかです」

 俺にとっては一度死んだ命。だったら少女を助けるために使ってもいい。久しぶりに心地の良い気分になった。これは誰かを救うための使命を帯びたからだろうか。助けたい気持ちがどんどん膨らんでいく。

「ああ、わかった。俺は彼女、高田さんを助けに行くよ。じゃあ、案内してくれ」

「ありがとうございます。このままでは圧倒的に不利なので、貴方にチート能力を授けます。どのような能力がお望みですか?」

 チート? よくわからない単語が出てきた。能力……それもわからない。

「能力とかってなんだ? 俺の望むもので良いのか?」

「はい、何でも。私の出来る範囲で」

 なるほど……俺の望むもので良いのか。それならただ一つ。これがあれば自信が付くものだから。そして幼少期から望んでいたものだから。

「わかった。俺に髪をくれ」

「……はい?」

「えっと、ふっさふさのやつ。それさえあれば俺は満足だ」

「あのぉ……夢の世界では貴方は18歳前後の姿になりますが……」

「その時も、髪が薄かったんだよ!! それで何度もイジメられたんだ! 俺の苗字は臼井! 名前は輝! この名前と薄毛でどれだけイジメられたかわかるか!? 今の俺はふっさふさの髪の毛が欲しいんだ。そうしてくれれば何でもしてやる!」

 長年の望み。髪が増えるのであれば、なんだってできる。そんな気がする。俺の熱弁に少々ステラはあきれた表情を作る。そんな目で見るな! 俺には死活問題なんだから。

「えっと……攻撃力を増強や、最強の武器の調達と言うのもあるんですけど……」

「そんなのどうだっていい! 俺はふっさふさの髪を長年夢見たんだ! それさえもらえればなんだってできる!」

 ステラはいろんな能力を進めてきたが、全部断った。時間にして二時間くらいだろうか? ステラはついに俺の熱弁に根負けしたらしく、承諾の言葉を少々呆れた声で伝えてきた。

「……貴方の熱意に負けました。では、ふっさふさの髪で、彼女の夢に送ります。準備はよろしいででしょうか?」

「ありがとう。いつでもいいぞ!」

 俺の返事にステラは頷き、両手を前に突き出して念じている。すると手の先が光り、円形の魔法陣が展開さた。出来たのを見計らってステラは俺に話しかける。

「このゲートをくぐると、彼女の夢の世界です。どうかご健闘を」

「わかった! じゃあ、行ってくる!」

 俺はステラが展開した、ゲートとやらを勢いよくくぐった。


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