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第一話 大好きな幼馴染は俺のことが大嫌い


「……」

「……」


 ――自宅のリビング。

 今日はせっかくの休日で、普段であればそれはもう昼間まで馬鹿みたいに眠っていたことだろう。

 だが、今日ばかりはそうしてはいられなかった。


 リビングには今、同じクラスの泉山いずみやま夏希なつきがいた。

 綺麗に整った黒髪は腰ほどにまで伸びている。少し目つきは鋭く、切れ長の瞳は人によっては冷たい印象を抱くかもしれない。

 誰もが憧れるような整った顔立ちは、可愛くもあり美人でもあるという大変注目を集めるものだ。


 そんな夏希は、俺の通う高校ではいつも一番の話題になる美少女だった。

 ……なぜそんな子が俺の家のリビングにいるのかというと、彼女が俺の幼馴染だからだ。


「……」

「……」


 お互いに沈黙するしかない。

 ……幼馴染だからといって部屋にいるとは限らない。というか世の幼馴染の大半が、良くて小学校程度までの関係でしかないだろう。


 知らないうちに関係は薄くなり、いつかはほとんど関わらなくなる。道ですれ違ったときに挨拶をかわせばいい程度、そんなものだろう。


 ……だが、俺の場合は少し事情が違った。

 とにかく、俺の両親と夏希の両親は仲が良かった。両親同士が、同じ会社で仕事をしているのも一つの理由だろう。


 家族ぐるみの関係もあって、俺は彼女とこうして今も関わる機会に恵まれていた。超ラッキーだ。学校じゃぼっちの陰キャみたいなやつなんだからな、俺は。

 

 ……問題はそこからだ。

 俺たちの両親の会社は海外展開をしていて、俺の両親にも白羽の矢が立ったのだ。

 それがつい数か月前の話。もともと海外で仕事がしたかった両親は、俺が高校生になったこともあってその夢を叶えたというわけだ。


 ……それは、夏希の家の両親も同じだった。

 ただ、ここで一つ問題が出て、夏希の家の両親はさすがに女子高校生の一人暮らしを少し心配した。


 そうしたら、俺の親父が『ならうちの息子と一緒に暮らせばいい!』とか言ったらしい。それにノリノリだったのが、向こうの両親。

 いやおまえら男子高校生なめんなよ。むしろ、その息子のほうが危険だよ……いや下ネタとかじゃなくて。


 ……とにかく、そんな理由で向こうの両親が夏希に話し、夏希もとりあえず了承した結果が今だ。

 

 さすがに、このまま黙っているわけにはいかない。

 一応男の俺が何か話題を振ったほうがいいだろう。

 ……ただ、なんと声をかければいいんだ? 幼馴染とはいえ、関係はその程度だ。両親は仲が良いが、俺は中学に進級してから彼女とはあまり話をできないでいた。

 ……なんか気恥ずかしさがあったしな。


 俺は部屋の時計の針を見る。よ、良し。秒針が十二のところを差したら声をかけようっ!

 一秒ずつずれていく秒針……かちっと目的の時間になったので、口を開いた。


「なぁ……」

「あの……」


 お互いに話しだしたのは同時だった。

 なんて間が悪いんだ!


 その後を続けるような余裕はない。というか、譲るつもりで必死に口を閉ざしたね。

 なんなら、さっきの声は実は心の中の声で外に漏れていないことを祈ってもいた。

 だが、現実は悲しかった。


 夏希は相変わらずの厳しい視線をこちらへと向けてくる。……なんでこいつはいつも俺にだけはこんな厳しいんだ。

 ……俺が夏希に声をかけづらくなったのは、この目もある。


 彼女は他の人とはニコニコ……とまではいかなくとも微笑を浮かべる程度の表情を浮かべるのに、俺が視界に入るといつもむすっとするのである。

 そんな顔をされたら、こっちとしては気圧されて声をかけづらい。

 

「何か、あるのか?」


 ……緊張が顔に出ないよう、俺は表情を引き締めながら問いかける。


「そちらこそ、何かあれば先に話してください。私のは些細な話ですので」


 こわ! なにこの冷たい返答!


「……俺も別に、何かあるわけじゃないから」

「本当ですか?」

「ああ。別に、なんでもねぇよ」

「それなら私もありませんから」


 会話終了だ。

 き、気まずいっ!

 彼女はやはり俺のことが大嫌いだ。


 ……あー、クソ。

 俺は小さい頃から夏希のことが好きで、好きでたまらなかった。

 なのに、彼女は気づけば俺のことを嫌っていた。視界に入ればいつもにらまれ、声をかければさっきのように冷たくあしらわれる。


 これから本当に一緒に暮らすのかよ?


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