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2.炭水化物と缶詰しか出てこない話

本日更新2話目です

 赤茶色の大地。雲一つない青空。ただその二つしか無い景色。俺はそこに茫然と立っている。ここはどこだ? なぜか見た覚えがあるような……。

『発見しました』

 ──え?

 背後で何かの落下音。そこには全身真っ白な女性が──





「あ……」

 目を開くと、いつもの天井だ。ひどく暑い。寝汗で体がジットリしている。俺は体を起こし周囲を見渡す。いつも通りのワンルームアパートの一室。時間は既に午前10時過ぎ。ずいぶんと朝寝坊してしまった……。

「だから変な夢を……、なんだっけ?」

 なんか変な夢を見ていた気がするが……。うーん、まあ、夢なんて思い出しても仕方ないか。



 俺はのそりとベッドから起き出し、頭と腹を掻きながらキッチンへ向かう。さすがに腹が減った。

「今日はそーめんにするかな、暑い日は食欲も低下するよね」

 外は暑そうだ。室内は冷房で快適だが……。



 カリカリ



「薬味がないけど、そーめん汁はあるから、薬味無しでいいか」



 カリカリ



「使いかけのそーめんは無いか、んじゃ、新しいの開けるか」



 ガリガリ



「半分くらいでちょうどいいかなぁ」



 ガコン



「なんだよさっきから!!」

 扉を開けると、ガツンと何かにぶつかる。

「え?」

 地面にはパーカーの女子が倒れている。

「……ぁ、ぅ」

 え、なにしてんの? 普通に怖いんだけど。




「こうぇわふぉーめむ、ふぁびめふぇふぁべまふぃふぁ(これがそーめん! 初めて食べました)」

「いや、食べてる最中にしゃべらないでいいから。」

 二村は感涙を流しながら、そーめんをすする。実に幸せそうにそーめんを食べる二村を眺めながら、俺もそーめんを食べた。この様子だけを見れば、間違いなく美少女なんだが……。



「それで、なんであんなところに倒れてたんだ?」

 ある程度そーめんを食べ終えたころを見計らい、俺は倒れていた理由を聞いてみた。

「空腹7日目は未知の領域でした。」

「空腹でぶっ倒れてたのかよ! っていうか、この間のスパゲッティと桃缶はどうしたんだよ!!」

「スパゲッティは最後の食料です。アレが無くなると、もう何も食べる物がありません。桃缶は……、祭ってあります」

「1回のセリフで複数のボケぶっこんでくるな! えーっと、とりあえず缶詰祭るな!!」



「やれやれ、たしか……」

 まだ缶詰あったよなぁ。あった、みかんの缶詰だ。これなら桃缶よりはインパクト薄いだろう、たぶん。俺はみかん缶を開栓し、透明の器に移し替えていく。やっぱ、ガラスの器が涼し気でいいよな。


「ほれ、デザートだ」

「なっ!!」

 みかん缶を盛った器を見た二村の反応は劇的だった。

「いや、拝むな!!」

「こんなご神体にも匹敵するものが……」

「ついにご神体にまでなったのか、桃缶……。まあ、いいから食べろって。」

 俺に促され、二村は恐る恐るみかんを口に運ぶ。

 そう、その顔は神々しさすら漂う、自身の人生はおそらくこのためにあったのだと理解した者のみがたどり着く境地。"満足できる死"それを体現したかのような安らかな──

「いや! このくらいで昇天すんな!! 戻ってこい!!」



「ごちそうさまでした」

 しっかりと手を合わせての"ごちそうさま"。変な奴だが、マナーはしっかりしているんだよな。実家はそれなりの家なんじゃなかろうか。本人が異常に貧困しているのが気になるが、そこはあまり突っ込まないほうがいいかもなぁ……。

「加無木は良い主夫になれそうです」

「いや、薬味も無いそーめんとみかん缶でその判断されるのはどうかと思う!」

「私の嫁にきませんか?」

「俺が嫁になるのかよ! お前が嫁じゃないのかよ!!」

「え、私を嫁にほしいですか?」

 二村は顎に手を当て、何かを考え始めた。

 ──嫁になれば一方的に扶養されることに? 体を使って虜にしてしまえば…… 

「思考が口から洩れてるよ! つか、考えてることが怖い!」

「わかりました、養ってくれるなら愛してあげます」

「上からだなっ!!」




「ところで、先ほどから気になっていたのですが」

「あ?」

 俺の中でだんだんと二村の扱いが邪険になっていくのを感じる。これは仕方ないよね。うん、仕方ない。

「あれは、伝説の"テレビ"という物ですか?」

 二村は液晶テレビを指差し、恐る恐るといった様子で聞いてくる。

「いや、どこに伝わる伝説か知らないけども、テレビには間違いないぞ。」

「あの薄っぺらい箱で、遠くの景色が見えたり、活劇が見えたりするという……」

「なに、お前アレなの? 江戸時代あたりからタイムスリップしてきたの!?」



「おぉぉぉぉ……」

 テレビを見る二村の表情は、きらきらと輝いていた。まあ、悪い奴ではないんだよなぁ、変な奴だけど。

 このあと、二村は夜10時を過ぎるまで俺のテレビを占有し続け、俺はゲームが一切できなかった。

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