1.お隣さんの襲来は突然に
新連載開始します。1話短めの短期連載予定です。
「一人暮らしで自宅警備員とか、俺、終わってるよな」
独り言ではそんなことをいいつつ、しかし現状をどうにかしようとはあまり思っていない。自分でもダメだとは思うが、変えるだけのエネルギーが無い。
「次は、ショートにしてみるか。」
テレビに向かい、ゲームのコントローラを操作する。画面に映るキャラクターの髪型を切り替えていく。何度目かのキャラクタークリエイト。
ピンポーン
インターホンが鳴った……。
そうだな、身長はちょっと低く──
ピンポーン
2回目か。
アクセサリーは何がいいかな。
ピンポーン
意外と粘るな。どうせ大した用事じゃないだろ。
ネコ耳とか狙いすぎかな、メガネも捨てがたいが──
ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピンポーンピンポーンピンポーン
ピポピポピンポーンピポピンポーン
ピピピ、ピピピ、ピピピピピピンポーン
「うるさいよ!! 最後の337拍子とかどうやって鳴らしてるんだよっ!!」
「あらぁ、はじめましてー」
我慢できずに突っ込みを入れた俺が扉の外で見たのは、まぶしいほどの美女だった。
俺より少し低いだけの位置にパッチリとした目。少し視線を落とせばふっくらと柔らかそうな唇。肌は不健康すぎない程度には白く、髪は肩にかかる程度の長さ。前髪をピンで留めているため、少し幼く見えるが、雰囲気としては年上だろうか。
足首に向かってゆったりと広がったブラウンのワイドパンツに、黒い上着、その上からベージュのシャツワンピースを羽織っている。全体にゆったりとした服装だが、主張激しい胸は隠しきれないらしい。
「あ、そ、は、はじまして」
やばい、あまりの美人具合に急激な緊張が襲う。
「隣に引っ越してきた一瀬 優希ですー。よろしくおねがいしますね」
一瀬さんは、ゆったりと腰を折り、挨拶をしてくる。きれいなツムジが目の前を上下する。よく見ると、少しだけ髪の毛に茶色味があるんだなぁ、なんて感想が湧いてきた。
「?」
体を起こした一瀬さんと目が合ってしまった。しまった、俺自己紹介してない。
「か、加無木 零次です。よろしゴニョゴニョ」
最後の方、上手く言葉が出てこない。
「私、大学3年生なんですよー、加無木さんも、大学生ですかぁ?」
ぐ、答え辛い質問を……。
「い、一応、大学1年です、去年から……。」
出席が足りず、二回目の1年生だけどな。現在進行系で毎日自主休校中だけどな。
「そうなんですねー、私もおととしから大学生なんですよー。」
「え、あ、そう、ですね……。」
そりゃ3年生ならそうだろう……。え、今のはボケなのか? それともボケなのか?
「あ、そうだ。」
一瀬さんは何かを思い出したように胸の前で手を合わせる。
「これなんですけどー。」
彼女は箱を1つ取り出した。どこから出した? 疑問が浮かびつつも箱を受け取る。特に飾りも無い。普通の厚紙製の箱だ。ずいぶん簡素だが、もしかして引越し挨拶の品とかなのか? 箱の蓋を開くと、中身は全く同じサイズの木製の箱だった。
木製の箱を取り出してみてわかった。これは貯金箱だ。お金を入れる穴が開いている。そして寄木細工らしい。よくあるからくり箱のようだ。挨拶の品としはずいぶん珍しい。
「!?」
さらに重大な問題があった。この貯金箱……、中身が入っている!! 箱を回すとジャラジャラと音がする。それも結構な量が入ってるぞ。
「私、どうしてもコレを開けられなくて……」
「挨拶の品ぢゃないのかよっ!! 初対面にいきなり持ってくる物かよっ!!」
俺は貯金箱を返す。もちろん開錠した状態で。
「まぁ、すごいっ!」
感動したのか、一瀬さんはぴょんと軽くジャンプした。たゆんと揺れる……。うん、ご馳走様です。
「すぐに開けられるなんて、加無木さんってすごいんですね。あのぉ、また、困ったときは、ご相談しても、いいですか?」
一瀬さんが、上目遣いで俺に聞いてくる。
「はい! よろこんでっ!」