20件のクエスト
やっと冒険的なのを開始します。
「はい、到着」
「わっ! すごい、本当に一瞬ですね」
リリー情報によるとここ“タイラット平原”は、気候も安定していて魔物もさほど強くない。
駆け出しの冒険者が魔物との戦い方を覚えたり、最低限の活動資金を稼ぐのによく使われている。言わばチュートリアルマップのような所らしい。
つまりリリーはチュートリアルで既に詰んでいたのか、それはちょっと弱すぎないか?
「この辺りで採れる“ソコ蘭”と“マシュマシュ草”と“ヒデリタケ”をそれぞれ10個ずつです。こんな見た目ですから、これと同じようなやつを採ってください」
広げられた分厚い本の絵を見てみる。“ソコ蘭”は蘭の花に型は似ているが、連なってはいないのが特徴か。
“ヒデリタケ”は傘の部分が絵に描いた太陽のような形をしていて、ぼんやりと発光しているらしい。
俺は目を閉じ、千里眼で視界を上空に引き上げ平原全体を見渡した。上空から見ると意外にもあちこちに薬草が生えているのが見える。
見た目似ているものも含め次々とアポートで取り寄せていくと、僅か数秒で60個ほど集まった。
「こんなものか? 一応似ているやつをかき集めてみたが」
「早っ! 選別しますからちょっと待っててください」
そう言って山盛りの草花を次々と手際良く仕分けていくリリー。
ぱっと見た程度で判別するあたり、本当に脳内にしっかり焼き付いているのが分かる。
「はい! コレで依頼3つ。ついでに“ミドリタケ”と“ポップ草”、“オイ蘭”の依頼も達成ですね!」
「適当に集めたらもう6つか、楽勝だな。次はなんだ?」
「次は少し場所移動した方がいいかもですね、地図みてください」
指したのはタイラット南部にあるミドリ山の麓付近、距離はざっと1キロ程度か。
「残念だがこの辺はまだ見たことないからな、物理テレポートしかできないぞ」
「……加減してくださいね」
依頼されていた薬草達がリリーの大きな肩掛け鞄に押し込められる。
そういえば適当に20件も依頼を引き受けたが、リリーの負担を少し配慮していなかったかもしれないな。
「ここからはお前はずっと背中に乗ってろ、鞄抱えて立ってるのもしんどいだろ」
「えぇ! いやいや悪いですよそんな!」
「でもここからだんだん量も増えるだろ? それにどうせテレポート多用するし、乗ったままの方がありがたい」
「う~ん……わかりました、でも重たかったら降ろしてくださいね?」
流石に女相手に重いなんて言うほどデリカシーに欠けてはいないつもりだけどな。まぁ俺が重いと感じるラインは5トンくらいからだから関係ないんだけど。
***
物理テレポートを繰り返し、15分ほど経った。
依頼されていたものは大抵集めきり、リリーの鞄は既に束ねた花や薬草でパンパンに膨れ上がっている。
「イズハさん、私は大丈夫なのでもっとスピード上げてもいいですよ」
「高速移動にも慣れたみたいだな、依頼はあといくつだ?」
「はい、あと2つですね。あれ? これは……」
2枚の依頼書を見ていたリリーの表情が少し曇る。
「どうした? 採り損ねか?」
「いえ、ただその……この2つは採取というより討伐依頼なんです」
「確かに俺は植物関連の依頼しか受けてないはずだが、どういうことだ?」
「あー、この2体は植物系の魔物ですね」
適当に植物関連の依頼を引き受けたら、まさか討伐依頼が混ざっていたとは。まぁやってやれないものでもないだろうし、とりあえず内容次第だな。
「討伐対象は何だ?」
「うわ、これは……」
聞くとリリーが何やら青い顔で説明する。
「“ドラゴンドラゴラ”と“デカヒデリモドキ”です。“ドラゴンドラゴラ”は魔物“マンドラゴラ”の突然変異。叫びの森と呼ばれる森の地中に生息していて、夜遅くに地上に出現。体長はおよそ1メートル、その叫び声はドラゴンですら苦しみでのたうち回るほど強烈。極めて臆病な性格で他の生物を見るだけで叫び声をあげる迷惑な魔物。“デカヒデリモドキ”はその名の通り“ヒデリタケ”によく似た姿の魔物“ヒデリモドキ”が更に巨大化した魔物で体長約2メートル、夜中の焼け石の洞窟に出現し激しい光と燃える胞子を振りまくんだそうです」
いや長いな、絶対読み飛ばされるやつじゃないか。
なんてツッコミは置いといて。マンドラゴラなんかは元いた世界でも少し聞いたことがあるな。引っこ抜くと叫び声をあげるやつだったか。
「そいつらを倒せばいいのか? 倒した証明はどうするんだ?」
「この手の魔物は非常に高い生命力を有していて、高い生命力を持つ魔物には決まって核が存在します。その核が欲しいという依頼なので、早い話が核の採取依頼ですね」
ふと最初の森での出来事を思い出す。やたらデカい魔物が落としたビー玉のようなものをいくつか学生服のポケットにしまっておいたんだが、そうかあれは核だったのか。
「生命力が高いということは強いのか? こいつら」
「はい、かなり強いはずなんですが……」
(おかしいなぁ、普通Eランクの冒険者はこんな依頼受けられないはずなんだけど)
受けられない? どういう事だ?
「なにか問題があるのか?」
「イズハさん、受付嬢の人に説明されなかったんですか?」
「あいつがなんか『されたことにしといて!』とか言ってたのはそれか……」
あの清純気取った受付嬢のムカつく笑みが頭に浮かぶ。リリーが呆れながら説明した。
「まずギルドカード、茶色いやつを見てください。なんて書いてありますか?」
「イズハ・フカシギ、無職、ランクE」
「そのランクはスタートライン、つまり最低ランクってことです。いいですか? ランクには“G ,S ,A ,B ,C ,D ,E”の7段階があって、依頼を達成したりするとそれに応じてギルドからポイントが加算されます。そしてポイントが一定までたまるとランクが一つ上がる、というシステムになっています」
何故俺は今平原のど真ん中で体操座りでギルドの説明を受けているのだろう、町に戻ったらあいつに一言言ってやらないと気が済まないぞ。
「ここまでは分かりますね? じゃあ次に受けられる依頼について。依頼にはそれぞれ推奨ランクというものがあって、そのランク以上にならないと普通は受けられないんです。そして今回受けたこの2つの討伐依頼の推奨ランクをみてください!」
リリーは半ばヤケクソのように鞄から依頼書を引っ張り出して俺の目の前に突きつけた。
ドラゴンドラゴラの核:ランクA:報酬金貨5枚
デカヒデリモドキの核:ランクA:報酬金貨6枚
「なるほど、結構高いな」
「「結構高いな」じゃないですよ! 今のランクでこんな奴に挑むなんてただの自殺行為ですよ! ていうか何で受けられたんですか! 受付の人は何してるんですか!」
「いやあいつと別れる時に「ついでに何か受けられる依頼とかないか? 出来れば植物採取系の」って聞いたらポイポイって渡されたもんだから、比較的簡単そうなやつを選んだんだが……」
「簡単なんてもんじゃないですよコレ、まずこの2体はちゃんと装備整えないと近づくことすら出来ませんし」
「そんなに強いのか? 見た目弱そうだけど」
ドラゴンドラゴラは大根もしくはカブに手足を生やしたような感じで、デカヒデリモドキもただの大きいキノコにしか見えないが。
「ドラゴンドラゴラの叫び声は50メートル離れていていても失神する程の威力があり、飛び道具や魔法も声の衝撃波にかき消されます。勘が鋭いのでまず近づくことは自殺行為ですね」
音を使った攻撃は初体験だが、まぁ100メートルほど離れてサイコキネシスでも使えばなんとかなるだろう。
「デカヒデリモドキは常に300度の高熱を帯びていて近づくだけで呼吸すら困難になり、通った後は完全に焼け石になっていてこんな靴では火傷は確実ですね」
「昔ふざけて溶岩で泳いだことならあるが、それでもダメか?」
「……本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ、溶岩って水と違って目開けても何も見えないなーって……」
「いやそれ凄いですけどその話じゃなくて、依頼!」
「依頼? 達成するに決まってるだろう、引き受けたんだから」
「一応キャンセルも出来るんですよ?」
これだけ大丈夫アピールをしたのに、何がそんなに心配なのか全然分からん。
しかし心配をかけたまま一人で行くのも忍びない。
「そう心配せずに見守ってろ、俺は大丈夫だから」
「……分かりました、でも無茶はしないでくださいね」
「これくらい無茶の内に入らん、それにいざという時はお前の回復魔法に頼るから」
そういうと少しだけリリーの表情が明るくなった。
「でも日没までに時間はありますし、一旦町に戻りませんか?」
「そうするか、鞄もパンパンだしな」
「じゃあ今度こそ私のオススメのお店に行きましょう! きっと気に入ってくれると思いますよ!」
昼を済ませてから2時間程度しか経っておらず、肉を食うほど腹は減っていないんだが……。
「それよりもお前のあのスープが飲みたいかな」
「私のはまた作ってあげますから! 行きましょうよ~」
「お前さては自分が行きたいだけだろ」
少しでも腹ごなしする為に帰り道は普通に歩いて帰った。
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